第46話 斬れ
(カイン……? なんだか変わった……?)
ユルンの目にはカインが急激に変わったように感じた。
特に力。今の彼からは自分以上の魔力すら感じる。
「さて、この力でもせいぜい6割か……」
この力は恐らくあの時───オーウェンと戦った時と同等か、それ以上と感じていた。
今ならなんでもできるような気もするが……力だけあっても技術が無ければどうも出来ない。
俺の最大の技、『ポンス・イリディス』で6割なのだ。後の4割まで一人で削らなければならないとなると……無理じゃね?
恐らく全身全霊の『覇断』でも半分くらいしか削れない。
「チッ……考えてる途中だってのに!!」
思考している最中に、龍の鱗が突起して浮かび上がり、俺達に襲いかかってくる。
「ぐっ……」
「っ……」
俺は出来る限り切り刻んでいるが、ユルンは魔力障壁で防御することしか出来ない。ヒュンヒュンと、風を切る音を鳴らしながら、黒の礫が俺達を襲う。
次第にユルンの魔力障壁にはヒビが入っていき────
「───っ!!」
遂にカシャアン!! と割れる音を響かせた。
ユルンは目の前に迫る黒を避ける手立ては無い。
俺は必死に彼女の元へ駆け寄るが───
間に合わないっ……!!
そのまま彼女は黒によって、心臓と脳を同時に穿たれた。
「させねぇよ!!!」
そんな悪夢を打ち砕いたのは黒い総髪を血で染める男。
カール・ディペンダーであった。
「兄貴!!」
「俺がこれをどうにかする!! お前らは気にせず先に進め!!!」
無茶だ。と口を開こうとしたが、辞めた。
兄貴は本気で言っているのだ。自分なら道を切り開けると。
そんな覚悟を無駄にするのは、弟としては最低だ。
進むしかない!!
「行くぞ!! ユルン!」
「ええ!!」
俺達は魔石があると思われる胴体の中心部の真上へと向かって行く。
道中、黒の暴風や、礫に晒されるが、全て兄貴が切り裂いていく。
そのお陰で俺達は傷一つない。
だが、その分兄貴の体は傷だらけで、顔面は血に濡れていた。
神速とも言える速度で切り刻んでいくその姿は圧巻で、俺が目指す技術の最高点でもあった。
この速さに正確さ。本来の兄貴ならここまでは動けない。
恐らくあれを使っているのだろう。
兄貴───カール・ディペンダーのスキル『自己暗示』は、自分の事を強いと信じれば信じる程、威力や、速度、動体視力が増加していく。
更に副次効果で、精神攻撃を弾く能力まで持つ。
うん、つおい。さっすが兄貴。
そんな無駄なことを考えてるならさっさと行け。と言わんばかりの視線を食らったので、全速力で駆け抜けていく。
兄貴は緑で覆われた二振りの剣を握り締め、俺達の道を切り開いていく。
……? 緑で覆われた……?
…………………………。
◇◆◇
「ここか……?」
「えぇ、恐らくここよ」
ここだという確信はあった。ていうか、見れば分かる。
だってなんかここだけ光ってるんだもん。
そう、今までの黒い鱗で覆われているのはいつも通りだが、うっすらと円形にピンク色が輝いていたのだ。
多分ここだろう。
「カイン、言ったのは私だけど、本当にできるの? この巨体全部消し去らないといけないのよ?」
ユルンは不安そうに聞いてきた。
嵐の話によれば、自分の体を完全に消されても、脳からどんどん再生していくらしい。
これはあくまで仮説だが、スキルは脳に根付くのだろうか……?
まぁ、一旦その話は置いておいて。
マルクが言うには魔石にスキルを複製したという。なら、魔石だけを残さないといけない。
そんなことは不可能だ。でも恐らく大丈夫だろう。何せ、スキルがある部位から再生するのだから。
つまり、全て消し去った後、一番最初に再生するのは魔石。
そこをユルンが触れてスキルを消せばいいのだ。
まぁ、それをやる為にはこの巨大な龍を一撃で消し飛ばさないといけない。
あまりに遅いと再生しちゃうしね。
だが、俺の『奥義』では、恐らくこいつを削りきれない。
『覇断』でも無理だろう。
だから考えた。
考えて考えて、兄貴からヒントを貰った。
兄貴はいつも剣に異力を纏わせて戦っているのだ。
つまり、『技』を使う時も、そうしている。
だが、それは最小限の異力。
大量に異力を消費するのは本気の『覇断』を使用する時のみ。
……じゃあ、その二つを合わせれば?
最強の剣技に、最大の異力。
この二つを掛け合わせれば?
答えは、セルフィナのみぞ知る事だ。
やってみなければわからない。
もし、これで全て斬り刻めなければ、俺は異力枯渇で倒れてゲームオーバー。
でも、『不可能を可能にする』と言ったのは俺だ。
嵐とザインは、今もこいつのヘイトを買ってくれている。
リアは、俺に強化魔術を。
エイナは、嵐達のサポートを。
兄貴は道を切り開いてくれた。
ユルンは、奴に必殺の一撃を準備している。
剣は力を貸してくれた。
俺だけ、俺だけなのだ。何もできていないのは。
仲間に手伝ってもらって、何も返せてない。
そんな言葉を発したら全員から『それは違う』と言葉が飛ぶだろうが、カインには分かっていない。
だから─────斬ろう。
皆の信頼に応えるためにも。斬ろう。
これは、来るべき再戦の前座────否、最初の一歩。
オーウェン、オーサーを殺す為には、こんなただのデカブツにひよってちゃいけない。
「『剣に想いを馳せろ』」
「カイン……?」
「『さすれば、それは─────』」
カインは、剣に緑を伝わせていく。
自然に、当たり前のように。
「『【剣神】への道標であり、鍵となる』」
見つめるのはただの黒。
デカイだけの唯の龍だ。
こんなもの、あの時に比べれば恐ろしくも何ともない。
斬るんだ。
斬って進めるんだ。
未来へ紡ぐ頁を!!!!
カインは天高く飛び上がり、白銀の切っ先を龍へと向ける。
そのまま落下し、速度をどんどんと高めていく─────!!!
「───ディペンダー流……」
静かに技名を呟き、緑は虹へと昇華する────!!!
「『覇奥義』、『ポンス・イリディス』」
それは美しい虹の舞い。
緑を散らし、剣技を振るう者を祝福する。
『ォォォオオォォオオオオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ──────────』
黒い龍は絶叫を最期まで上げられずに、頭を失い、足を失い、尾を失い──────全てを失う。
「再生した!! 魔石!!」
カインは気絶して落下する中、ユルンは大きさが2メートル程ある大きい魔石を見つける。
だが、あるのは空中。
足場など無いかに思われたが─────
「【聖剣ユグドラシルよ。我が願いに応えよ】!!!」
彼女が簡単な詠唱を詠うと同時に、落下が止まった。
落ちていくカールも、カインも、空中で静止している。
ユルンはそのまま、上昇して行き、魔石の前へとたどり着く。
『聖剣ユグドラシル』の効果は───重力魔術の使用権限。
重力魔術はこの世では名は知れ渡っているが、魔力量が多すぎて誰も使うことが出来なかった。
だが、『ユグドラシル』は願いを込めて、自分の9割の魔力を消費すれば重力魔術を使用可能なのだ。
まぁ、彼女は先の戦闘で殆ど魔力が残っていなかったのでいい使い道だと言える。
「さて、一生使う気は無かったんだけど─────しょうがないわね」
彼女の赤毛が際立ち、異力が掌一点に集まっていく。
ユルンは魔石に手を触れ───発動させる。
「『異能破壊』」
その言葉と同時に魔石は砕け散る。
紫の破片がどんどんと落下していき、再生する様子は─────無かった。
そのまま自分を含む空中の全員を地面へと降ろして、座り込む。
「はぁぁぁ……疲れたぁ……」
横をチラリと見ると、カインは目をつぶり、気絶している。
その美しい顔にユルンはどんどんと顔を近づけていき─────
「ユルン! 助かったぜ! 危うく落下死するところだった───」
「きゃあああああ?!?!?!?!」
魔力も異力も殆ど無いはずなのにカールを見た瞬間、ユルンはカインから離れて走り去ってしまった。
「……? どうしたんだ?」
感謝を述べようとしたカールの心には疑問しか残らなかったのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




