第44話 異能破壊
「ぐっ?!」
「危ねッ!!」
目の前に巨大な鉤爪が現れ、自分を血に染めようとしたところを嵐が庇い、脇腹を穿たれて血を流す。
「嵐さん?!」
「っ……。大丈夫だ、それよりさん付けやめろ。嵐でいい」
その言葉を言い終える頃には脇腹は完全に治っていた。
これが『不老不死』……
すごいとは思っても、決して欲しいとは思わなかった。痛みはあるし、無限の命という人が得てはいけない、耐えられない力を手にしてしまうのだから。
「……わかった。それでどうすればいいんだ? 斬っても直ぐに再生するぞ?」
「……作戦は全部エイナが考えてる…………ハズ」
「ハズ?!」
『オオオオオオオオ!!』
振り払ってくる尾を神がかっている手捌きで回避しながら、俺達はできるだけヘイトを集めていた。
でも、そろそろ……
「助かった!! 全員避難させられた!」
「えーと、すまん、名前を教えてくれ」
「こいつはカール・ディペンダー。俺の兄貴だよ」
「へぇ……お前より全然強いな」
「うっせぇ!!」
軽口を叩く余裕を見せながら、三人は龍と相対する。
そういえばユルンはどこへいったのだろうかと考えながら、剣に異力を伝わせていく。
「んー、ま、とりあえず攻撃は俺が受けるからお前らはあいつを斬りまくってくれ」
「……大丈夫なのか?」
「あぁ、心配いらねーよ」
兄貴の心配を優しく振り払いながら、槍の切っ先を奴へと向ける。
「前の龍よりかは怖くないな」
じゃあ、と口を綻ばせ
「行くぜ?」
跳んだ。
およそ人間とは思えない脚力で天高く飛び上がった。
龍の目線は嵐のみを捉えた。
「今だ!!」
兄貴の言葉と同時に、走り出す。
俺達は龍の巨大な足を掻い潜っていき、内へ内へと潜り込む。
「『赤』!! ルーケンス・アフェクトゥス!!」
「開花『赤』! 『交わる閃緋』!!」
俺達は同時に技を奴の腹に当てる。
俺が今出せる全身全霊の一撃。
兄貴も恐らく相当疲弊している為、『赤』までしか使えないのだろう。
『ォォォオオオオ!!!!』
俺達の攻撃は確かに入った。入ったのだ。
奴の腹を4割程斬り飛ばして、緑の鮮血が俺達に飛び散る。
だが、瞬きをしたその一瞬。
その一瞬で傷は無くなっていた。
「なっ?!」
『オオオオオオオオ!!!!』
「まずいっ!!」
「くっ……!」
「がっ?!」
奴は翼を思いっきり動かして、暴風を周囲に作り出した。それは特級魔術にも匹敵する威力。
俺と兄貴は体のあちこちを風に裂かれ、吹き飛ばされた。
だが、暴風を巻き起こす前に嵐が目の前に立ち塞がってくれた。
それが無ければ、腕や足の1、2本は消し飛んでいただろう。
「アラシ……大丈夫か?」
「まじで痛い……だが、まぁ、あの地獄よりはマシだな」
兄貴は更に後方に吹き飛んで、どこにいるか分からなくなってしまった。嵐をふと見てみると、全身が赤い血で染まっていた。
それは、奴の血ではなく、自分の血。どれ程の苦痛か、想像もできない。
「いっとくが、俺の心配はすんなよ。起こしたのはお前なんだからな?」
「……あぁ」
目の前の龍は俺達に殺気を振り撒き、ギロリとした眼で睨んでくる。
だが、次の瞬間。待ちわびていた援軍がたどり着いた。
付近の地面に青い魔法陣が展開されて、そこから数名の人影が見えたのだ。
「よっと。間に合いましたか?」
「エイナ! ……いや、間に合ってない。俺はこんなにも傷を──」
「間に合いましたか」
「……」
この状況で軽口を叩けるのかと思いながら俺も立ち上がり、剣を握り直す。
俺は勝たないといけない。
勝って───奴の元へ……!
全てを見据える白銀の剣が、微かに熱をもったような気がした。
◇◆◇
「んー、削れませんね。どうしましょうかー」
俺達と作戦会議しながら、上級魔術を当て続けるエイナの様子に唖然としていた。
嵐は槍を握りながら、エイナと話し合い、リアは会話をきちんと聞き、ザインはお手上げという感じで話半分に聞いているだろう。
ユルンは────赤い髪の毛で目が隠れて見えないが……何かあったのだろうか?
「多分アレは全部消失させても復活するぜ。ソースは俺」
「そーす?」
「あぁ、わかんねぇか。根拠ってことだよ」
嵐の言葉に反応したリアが疑問を口にする。恐らく別の世界の言葉なんだろう。
嵐が言うには全部消し飛ばしても、それこそ、魔石を砕いても再生するだろうと言う話だ。何やら『げんし』? が残っているからだそうだ。よく分からないが。
「んー、どうしましょうかねー」
何故か少しわざとらしい声を出しながら、エイナは頭を捻っていた。
だがそこに、一人の女性が割り込んでくる。
「ちょっといいかしら」
そうやって悩む俺達の前にユルンが割り込んできた。
先程までずっと黙っていたが……作でもあるのだろうか?
「…………どうしましたか? ユルンさん」
「私が……私なら、奴の『不老不死』を撃ち破れるわ」
衝撃の一言と共に出てきた彼女に全員が唖然とする。
「何言ってんだ? 話しただろ? この力は何をしても即座に再生して────」
「違うわ。その元を絶つのよ。スキル『不老不死』を」
「「「「?????」」」」
「……」
エイナを除く皆の頭が? になる中、ユルンは覚悟をしたような表情をしていた。
「私のスキルは『異能破壊』。スキルを破壊する能力よ」
「「「「……は?」」」」
ふざけた声が 4方向から飛び出てくる。
そういえば、ずっと彼女のスキルは聞いていなかったと、カインは思い出す。
「それがあれば……『不老不死』を消せるのか……?」
「えぇ、というか貴方の力も消せるわ」
「俺の力を……? 本当に? 本当にか?!?!?!」
「え、えぇ。本当よ」
「そうか……そうか……」
その言葉の直後、アラシの顔がみるみると嬉しそうな表情から、泣きそうな顔へと変化していく。
スキルを消せるスキル……あまりに強すぎないか? 何かデメリットが……
「ちなみにこの力を、『3回』使うと私は死ぬわ。そこだけ覚えておいてね」
「は?」
死ぬ……? ユルンが……?
今回、龍のスキルを消して1回、その後アラシのスキルを消して1回。
その後の戦闘でもし、彼女がその力を使う時があったら────
いや、考えないでおこう。
「……わかった。どうすればスキルが使える?」
「使ったことないからあんまり分かんないけど、……多分魔石に触れないと駄目だと思うわ」
「なんで?」
「マルクの奴に言われたのよ。『あいつの魔石にスキルを複製したからそこに触れないと無理だ』ってね」
だから先程マルクを拷問してたのかと俺は納得した。
それ以外にも、奴は炎のブレスしか吐けない事、機動力は非常に低い事、追い詰められると、翼を使って羽ばたくこと。
どれも有益な情報だった。
「じゃあ、嵐さんと、ザインさんで、カインさんと、ユルンさんの援護。リアさんは私と共に後衛からサポート。こん感じで大丈夫ですか?」
「いやいや、まてまて、俺あいつの身体全部は壊せねぇぞ?!」
「いけます」
「いけないって……」
「リアさんが強化魔術をかけてくれますし……大丈夫です」
「いや、無理だって……」
さっきは兄貴と一緒だったから4割も削れたわけで、俺一人だと1割削れるかも怪しい。
そんな不安げな俺に、ユルンは近づいてきた。
「ねぇ、カイン」
「ん?」
「『不可能を可能にする』んじゃなかったの?」
「…………」
そうだ。そうだった。忘れてはいけない、大切な誓い。
これじゃああの時のあいつらを笑えねぇな……
「……分かった。俺が道を切り開く」
「うん、お願いするわ」
「……」
エイナはこちらをチラリと一瞥したが、直ぐに視線を戻した。
「カールさんは……どこにいるかわからないですしね。私たちだけで決めましょう」
『おう!!』
『はいっ!!』
全員は龍にも負けぬ咆哮を響かせて、武器を構えるのであった。
◇◆◇
「なぜだ?! なぜ操作出来ぬ?! 支配は出来ている筈だろう?!」
「っ……、無理です……抵抗が激しすぎて……ッ!!」
そう言ってパタリと水色の子供───リルカは倒れてしまった。
ここは城の地下深くの細い通り道。王や、貴族に何かあった時のための隠しルートとして使われていた。
「クソッ……使えない……。奴を使って帝国を滅ぼそうと考えておったのに……。そもそも、ラウルはどうしておるのだ!!」
こんな状況でも豪奢な服装を来ている王は意地汚い欲望を顕にしながら、地下に留まっていた。
執事は外の様子を見に行くと言って、今はいない。
暗い暗い道。王は不安になる中、微かな足音を耳にした。
「メルクス、遅いぞ! 早く飯を作れ!!」
執事が来たと確信していた王は、そう言ったが……
「───────────」
何かおかしい。普通なら呼び掛けにも答える筈だ。
それにガシャガシャと、聞きなれない音も近づいてくる。
「メルクス?! 何をしておる?! 早くしろ!!」
キィーン! と、甲高い金属の音が聞こえた瞬間、王はたじろいだ。
そして、確信した。近づいてくる奴は執事───メルクスでは無いと。
「ッ……、何者だ!! 我が誰かわかっておるのか?!?!」
「────────────」
何者かは無言を貫き通しながら、ゆっくりと近づいてくる。
「クソッ……、おい、ガキ!! さっさと起きて、我を護れっ!!」
だがその声に、リルカが反応することはなかった。
当然だ。彼女は今魔力枯渇に陥っているのだから。
彼女の魔力量では『月詠』を扱いきれなかったのだ。
「お、おいっ!! そこのお前!! 我に何かすれば、お前の家族の命は無いぞ!!!」
「…………いつも聞いていますよ」
「ッ?!」
初めての発言。それにどこか聞き覚えがあった。リルカの横に落ちているランタンがだんだんと、その暗い人影を照らしていく───
「?! お前は───ラウルではないか?! 安心したわい!!」
そう、現れたのは王国騎士団、団長、ラウル・ブルムドア。この国最強とも呼ばれる男だ。
彼だと気づいた瞬間、我は安堵した。
こいつさえいれば安全だと。
「……王よ。この度の事件は、王の仕業ですね?」
「人聞きが悪いのう。……そうだ、あの龍を帝国にけしかけて、あの国を滅ぼそうと思ってな」
ニコニコとしながら王は話していく。
その表情を、騎士はじっと冷たい目で見つめていた。
「……ほう、今龍が私達の街を滅ぼしていますが?」
「そんなもの些細なモノだ。最悪の場合、迷宮国に助けてもらえばよいだろう?」
「……人々が亡くなっているんですよ?」
「お前だって龍を手に入れれば、充分な犠牲だったと言えるだろう?」
王のその言葉の後、騎士は黙った。
黙って剣を握り返した。
「お前ならあんなやつすぐにでも飼い慣らせるであろう? さぁ、行くがよい! 我が騎─────」
言葉を言い終える前に、鮮血が舞い、頭だけが転がった。
あっけない最後。だが、それがこの屑にはお似合いだ。
ラウルはそれしか思わず、最後まで冷たい視線を屑へと向けていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




