第43話 再誕を祝え
『ォォォオオオオオオオオオオオ!!!』
「うっせぇつってんだろ!!」
緋い閃光が光るが、直ぐに消え失せてしまう。
カールは龍の近場で倒れている騎士達を次々と運びながら、奴の相手をしていた。
「おらぁッ!!」
龍のヘイトをできるだけ集めているのはガルム。光の戦鎚を緑と共に輝かせながら、龍の目線を釘付けにしていた。
「ゼェ……、ゼェ……、『剣豪』…! そろそろキツイぞ……!」
「後20人くらいいる! もうちと頑張れッ!!」
「チィ……」
龍の黒鱗には傷一つ出来ておらず、疲れた様子もない。
以前こいつがただの『劣龍』の時は上空2000メートルを飛んでいたため、俺も跳んで、空中で片翼を落とした。
その後落下中に『光の戦鎚』の威力魔力で高めて地上に降り立つ瞬間に撃って倒したんだが……
こいつはあの時の威力を出しても多少損傷を与えるだけで、即座に再生してしまった。
「勝ち目ねぇだろッ?!」
『オオオオオオオオ!!!』
「ぐぅッ……」
龍は自らの尾を振り下ろし、ガルムへと叩きつける。それは憤怒。あるいは執念。
かつて自分を破った者に対する敬意とも言える。
(ぐっ……重い……いや、それ以上に熱い…!!)
『ォォォ……』
「マジかよっ……」
龍は全てを食いちぎる歯を閉じ、その内にナニかを秘めた。
それがナニか、ガルムにはわかる。そもそも誰の目から見ても明らかだ。歯と歯の隙間から溢れ出る『熱気』と、『灯火』。
ソレらは昇華して、熱気は『灼熱』へと、灯火は『獄炎』へと変わり果てる。
「『狂犬』避けろッ!! 死ぬぞッ?!」
「今避けたらそこら辺の雑魚共は死んじまうだろうよ。任しとけ」
そう言いながらガルムは後方で気を失っている男女───息子とリアを一瞥して、直ぐに前方を向き直す。
「こいよ、龍!! 全部受け止めてやらぁッ!!!」
『───ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
たった一瞬。ほんの僅かな時間で、灼熱を孕む地獄が形成された。
◇◆◇
「うっ……何が……」
ザインが目を覚ますと、そこは地獄としか言いようがない程の最悪の光景だった。城はほぼ全壊、街は見る影もない。
「リアッ?!」
横には血溜まりの池に浸されるリアの姿があった。急いでザインは体を起こし、彼女の元に駆け寄るが───
「リアの血じゃない……? じゃあ誰の────」
ザインはそう呟き、後ろを振り向いてしまった。
そこには人型のナニか。ただそれだけが佇んでいた。
鎧は下半身だけ装着しており、上半身は鍛え抜かれた肉体が灼かれた姿を露わにしていた。
だが、ザインには────ザインだけには。
それが誰か分かってしまう。
「親……父……?」
ソレは父であり、ガルム・ヴァウストであった。
流れる血は乾き、鮮やかな血は地に飛び散っていた。
両手と両足を広げて庇うようにしながら、立ち続けていた。
「なん……で……?」
死体は喋らない。喋る事などない。権利すら与えられないのだ。この世に存在していないのだから。
でも『魂』は違う。『魂』は死しても輝き続ける。
ほんの僅かに、誰も気づかない───否、幻覚かもしれないが
父が……微笑んだ気がした。
「なんで……だよ……? まだ俺達……ちゃんと話し合って……」
「んぅ? ザイン……?」
リアの美しい金色の瞳には大量に涙を零すザインが写っていた。
「ほい、転移完了しましたよー」
「「?!?!」」
そんな空気を完璧にぶち破るかの如く飛んできた4人の人影が見えた。
その中にはユルンと……親友────カインの姿も見えた。
「カイン……?」
「おぉ、ザインか。生きててくれてよかったよ」
「俺は大丈夫だったんだ……でも、でも……親父が……」
「親父がって……もしかして、あそこにある焼死体が……?」
「俺達を庇って……」
ボロボロと涙を零すザインを尻目に、エイナはどんどんとザインの父へと近づいていく。
「おいっ!! 俺の親父に何を……」
「いいから、黙っててください。使うの久々なんですから」
非常に面倒くさそうにしながらエイナは焼死体の上半身に右手を当てた。
「んじゃ、俺あいつの相手してくるわ。カインも一緒に来いよ」
「やだ!」
「口答えすんじゃねぇ!」
「ぁぁぁあああああああ?!?!?!」
そう言いながら嵐はカインの首をおもいっきり掴んで、今も尚暴れている龍の元へと向かった。
「あんた、何を……?」
「……黙れって言ってんでしょ?」
「ハイッ」
目をつぶりながらエイナはイライラをザインにぶつけて、魔力の密度をどんどんと高めていく───
「じゃあ、始めますか」
「?」
「───【月は沈み、日は昇る。月夜に照らされ生者は哭く。暗夜の中で亡者は嘆く。一条の光を解き放ち、かの者に意志を授けよう。月夜に照らされる者達へ再誕の祝福を授けよう。赤く染まる月は、やがて金色へと還る。人の身を縛る禁忌を今犯そう】」
彼女と、彼女が握る杖から金色の魔力が光り輝き、天へと昇っていく。その膨大な魔力はどれ程のものなのか。ザインには測れない。測る土俵にすら立てない。
「【森羅万象よ、赦せ。我は呪縛を祓う。天使ミカエル、赦せ。我は正義を破ろう。そこに立つ権利を寄越せ】」
金色の魔力はピタリと止まり、エイナは緑の髪を揺らしながら、ゆっくりと瞼を開き、銀で焼死体を見据える。
「────【再誕の祝福】」
瞬間、金色が一気に拡がったかと思えば直ぐにガルム・ヴァウストへと向かって行く。
金に染まる親父はみるみると灼けた傷が治っていきながら、生気を取り戻していく。
「はい、おしまい。条件が色々とあるんですから二度と死なないでくださいよ?」
「え? え?」
そう言いながら親父を俺の前に転移させて、彼女の足元に魔法陣が展開され、消えてしまった。
いや、そもそも『転移魔術』ってできる人マジで極極少数って聞くんだけど?!?!
ふと、自分の近くで瞼を閉じている父を見つめると、腹は上下に動き、ちゃんと息をしている事がわかった。
横にいるリアは信じられない者を見たという目で固まっている。
蘇生って、できるんだ。
そんな感想を抱きながらもう数分、彼等は戦場にも関わらず呆けるのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
詠唱は【】で囲う事にしますね。
これまでの話であった詠唱も【】を付け加えます。




