第39話 祝福と暴威
「いくぜ?」
「ああ、こいよっ!!」
今度はラウルが先制を始める。
流石に片手というだけあって、先程のような猛攻を出すことはできない。的確に体力管理を行って、決め手の技を放つ。この作戦だ。
「ハッ! バケモンがよッ……!」
「ひでぇなぁ! 俺はニンゲンだぜ?」
互角。
そう言っても過言ではなかった。いや、まず片手で自分よりも巨大な剣を振り回しているラウルがおかしいのだが。しかも利き手ではないときた。
対するカインは速度は最初よりもかなり落ちているが、きちんと相手がどこを狙って、どこで攻めてくるかを観察している。
威力も相手を越そうとせず、最小限だ。
それに彼にはとっておきの作戦がある。
「『覇断』ッ!!」
「マジか、『覇断』!」
猛攻が続く中、遂にカインが仕掛け始める。少しの異力を乗せて覇断をぶつけるが、ラウルはカインよりもちょっと多い異力を乗せて覇断をぶつけた。
当然押し負けるのはカイン。だが、そんなのは既に想定済み。
本番はここからなのだ。
「がっ?!」
「おいおい、『覇断』は先に出した方の負けなんだぜ?」
協会まで吹き飛ばされ、粉々に散ったガラスがカインの素肌にくい込んでいく。その痛みに喘ぎながらも、彼は立ち上がり────
「……なぁ、ラウル。知ってるか、【剣神】の【叙事詩】について」
「ん? あぁ、子供の時に見たことがあるな。なんだっけ? 魔人達をたった1人で相手して生き残ったり、山を斬ったりした人間の話だったか?」
…? なんかどこかで聞いたことがあるような言葉の羅列にカインはちょっと考え込むが、すぐに辞め、話を続ける。
「あぁ、多分。んで、その【剣神】がいつも言っていた名言とかって知ってるか?」
「そんなのがあんのか? 聞いたことねぇな」
「そうか、じゃあ教えてやるよ」
そう言って、俺は1歩ずつラウルへと接近していく。
ゆっくりと。ゆっくりと。
「『どんな方法でも勝ったもん勝ちなんだよ』」
「ッ?!」
ラウルが気づいた時には既に遅かった。
足元が崩れたのだ。地面が泥化し、辺りに煙が立ち込めていた。
「剣士の誇りも糞もねぇな! だが、それがいい!!」
周囲を警戒し、どこからカインが飛び出して来るか予測する。
とりあえず、泥化した床から抜け出して気配を極限まで薄くし、濃霧中を進んでいく。
(嬢ちゃんの方は心配しなくていい。この霧の中だ、迂闊に魔術を放ったらカインに当てかねない)
(問題はそのカインだ。あいつがこの霧の中気配を消されると、いくらこの俺でも探知できない)
そうやって自分の事を上にあげながら考える辺り、彼も余程の自信家だと窺える。
一歩一歩、泥に染まった靴で進んでいく。
(来るとしたら……)
彼は歴戦の猛者。
10歳から冒険者となって、20歳で、騎士団へと入団。そして、たったの数年で団長の座へと至った。
そこらの冒険者の考えていることなど、手に取るように分かってしまう。
「上ッ!!」
「ぐっ?!」
ギィィィィィインッ!!! と金属が削れるような音を響かせる。
カインが振り下ろした刃は、奴の左腕を掠め、対するカインは左腕を深く斬られる。
鮮血が飛び散って霧へと混ざり、辺りを赤黒く染めた。
「残念だな。もうちょい頑張れると思ったんだが……」
「─────────、─────」
床に這い蹲り、何かを呟き続けるカインを見下ろして、奴───ラウルは残念そうに嘆息する。
「最期に言い残すことは?」
そして、大剣をカインの首に振り下ろす。
彼は痛みに悶えて動くことができていない。
俺の勝ちだ。
俺の言葉に対して、彼は──
「『泥操作』」
「なっ?!」
こいつ…さっきから何か喋っているかと思ったら詠唱をっ!!
奴が操ったのは────泥。
泥は俺の足と、床を固定して行動をさせない。
どこから来た泥なのか俺は探った。先程の泥床ではなかった。
流石に彼に水と土の複合はできないと思い(複合魔術を使える人は極小数の為)、泥の源流はどこだと思ったが……
あったのだ。元から。
俺が泥から抜け出す際、靴に泥が大量に付着していた。彼はそれを利用して、俺と地面を固定したのだ。
だが、そんなものでは俺の腕は止まらない───筈だった。
「?!?!?!」
腕が動かないのだ。
これは─────毒? いや、魔力の奔流か?!
カインが先程、上から放った技は『紫』ヴェネナム・ニヒラム。
魔力がラウルの左腕を蝕んでいく。
「だが、相性は最悪だ!!」
そう言うと共に、ラウルの腕を侵食する毒は綺麗さっぱり消えていた。
スキル『解毒』
自分の身体に起きている毒ならどんな毒でも解毒できるという、対毒特化のスキル。
動けるようになった!
そう思い、今やっと振り下ろそうとするが、彼は既にそこにはいなかった。
泥の出処を探る事と、解毒の2つが合わさった僅かな時間。
普通の冒険者なら痛みに悶えて何も出来ない時間。だが、俊敏力が高い男には充分な時間だった。
「後ろかッ?!」
「残念、今度も上だ。『緑』! 『トゥルボ』!!」」
カインが放つ旋風が辺りの濃霧を霧散させ、奴に剣をぶつける。
だが、『緑』は非常に威力が弱い技であり、簡単にいなされ、俺は床に倒れそうになる。
「残念だったなッ!」
その隙を見逃すわけがなく、奴は俺に大剣を振り下ろす。
その隙を見逃すわけがなく、ユルンは今の今までに貯めていた魔術を解き放つ。
「『六種混合魔術』───」
「何ッ?! 女神セルフィナよ。我に蹂躙の暴徒の称号を授けろ──!!」
本能が最大の警鐘を鳴らし、瞬時に危険を察知したラウルは今までにない高速詠唱を行い───技を放つ
「『女神の祝福』──!!!」
あのアルバートが一撃でオーウェンを屠った最強の技。
流石にこれなら防ぎ切れると確信したのは相手の魔術が眼前に迫る前まで。
ユルンはしっかりと目標を定め、荒れ狂う魔力を抑えつけて、魔術を発動する────!!!
「『魔女の暴威』────!!!!」
次の瞬間、辺りに先程の光の濁流よりも恐ろしい、漆黒の閃光が迸った。
教会は既に全壊し、辺りの緑葉は消失し、城の半分以上が消えた。
神龍から教わった最強最悪の奥義。
六種混合という、あのヴェルすら上回る圧倒的な魔力制御。
◇◆◇
「あっぶねぇ、マジで当たったら死んでたぞ?」
「当てないようにしたの!」
左腕を抑えるが、血をぽたぽたと垂らすカインはユルンの元へと寄り、顛末を見ようとした。奴───ラウルは倒せたのか。
そして土煙が消え去ったとき、床に倒れる人影が見えた。
ラウルだ。
奴の鎧は全て砕け散り、右腕どころか、左腕までボロボロだった。
奴は口を開いて驚きを顕にする。
「マジかよ。お前、嬢ちゃんに注意を向けさせないように立ち回ってたのか」
「ああ、ユルンに隠れさせて詠唱をしてもらいたかったからな」
「嬢ちゃんはできるだけ特急魔術を使わないようにして、自分を脅威だと思わせなくなかったってわけか」
「ええ、そうよ」
「こりゃ、参った」
そうやって、奴は笑いながら俺達に語りかける。
既に身体は悲鳴を上げており、重症。動けるわけもない。
俺達は奴を後にして、教会へと向かおうとした。
「なぁ、カイン」
「なんだよ」
「……この国を救ってくれ」
「あ゛?!」
思いもよらない言葉を発した事に驚き、振り返る。
「俺も、ガルム…副団長も、国には怒りが募ってるんだ。当然騎士団の奴らもな。でも逆らうと、自分の大切な奴を人質に取られちまう」
「ひどい…」
「ここはそんなクソみたいな国なのかよ…」
ユルンと俺も怒りが溜まっていく。
だが、アラシって奴を人体実験している国がまともなわけがないなと俺は納得してしまった
「あぁ。だから」
「この国を─────俺達を救ってくれ【英雄】」
「……だから俺はそんなんじゃないっての」
そう言い残して去る青年の背中を見届け、和かに笑って、俺は意識を闇に落とすのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




