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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第二章  『神聖国家セーラ』

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第36話  魂



 目の前で、親父は激高して俺に飛びかかってくる。それはまるで『狂犬』のように見えるほどの速度と、目つき、殺気。どれもがそんじょそこらの魔物よりも段違いで恐ろしい。


 「っ……、流石に怖ぇなあ……」


 一番キツイのはリアを守りながら戦わなければいけないこと。彼女の身体能力は一般人よりもちょっと上くらいな為、この戦いにはついていけない。

 できる限り、遮蔽物に隠れているようだがいつまで守れるか、だな……


 「よそ向いてんじゃねぇよっ!!」


 「ちぃっ!!」


 リアに視線を向けていることに気づいた親父は俺に襲いかかる。

 その戦鎚を避け、床に叩きつけられると、大穴が空いていた。多分まともに食らったら終わるな。


 だが、あまりに激高して力任せ過ぎるため、躱したり、受け流すのは容易だ。


 「ぬうんっ!!」


 「くっ……!」


 戦鎚が俺に真正面から潰しにかかるが、それを俺の斧で受け止める。本来だったら躱せばいいだけの話なのだが……


 俺は、親父と話がしたかった。


 「親父っ……、なんで…、なんで俺の母さんは死んだんだ?」


 その疑問を口にした途端、更に戦鎚の重量が増していった。


 「ふざけるなよっ?! お前のせいでっ……、お前のせいで、ザメルは死んだんだよッ!!」


 大激怒。昔、酒を飲んでいて怒った時すらここまでではなかった。多分、()()()親父の逆鱗なのだと察した俺は、ある事を思いつき、実行する。


 「へっ、そうかよ。じゃあ、天国の母さんは喜ぶだろうなぁ? 自分の仇である息子を殺してくれて!」


 「っ……、黙れっ!!」


 「がッ?!」


 戦鎚では押し切れないと考えた親父は俺のみぞおちに膝蹴りをかまして、吹き飛ばす。俺の肺からは絶叫が上がり、どこか既視感を覚えた。


 (あんのクソカインめ……。この痛みを慣れさせやがって……)


 そうだ、自分がカインとやりあった時にあいつの剣の柄で強打されたのだ、と。なんか思い出したら無性に腹が立ってきた。

 その怒り? を原動力に俺は親父に向かって飛び出し、猛攻撃を繰り出す。


 斧で連続攻撃を仕掛けたのだ。流石の親父でも、自分に近しい身体能力を持つ俺の猛攻を無視できず、戦鎚で迎撃していく。


 重量系の武器がぶつかり合い、火花が飛び散る。

 それは美しいとは程遠い、荒々しい火花だった。


 「おおおおおおッッッ!!」


 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」


 俺と親父の咆哮が城内に轟かせる。それは蛮族(ドワーフ)の怪力に、戦闘技術を組み合わせた蛮族とは思えない争い。だが、リアにはそれが争いと言うより、親子喧嘩にしか見えなかった。


 「……! なぁ……、親父っ…。本当に、俺が嫌いだったのか?!」


 「?! ああ?! 当たり前だろうが?! おめぇのせいで、あいつは死んじまったんだよっ!!!」



 そして、俺は今だと思い()()()()()()()()()()を親父に伝える。



 「じゃあなんで殺さなかったんだよッッ!!」




 「……! ……、…。」


 「憎いなら殺せばいいじゃねえか?! あん?! 俺のせいで、母さんは死んだんだろ?! だったら殺せよッ!!」


 そんな俺の叫びに対して、親父は何も答えずにただ俺を見つめている。


 「今だって、俺を殺す気でやってねぇ!! 本気出せば俺なんか片付けられるはずなのによ!!」


 そう、ガルムはいつだってザインを殺すことが出来たのだ。それほどまでに2人の能力差は大きかった。それなのに、ザインが生きているのは、偶然……ではなく、ガルムがザインに対して手加減していたからだ。


 「……」


 「なぁ……なんで母さんは死んだんだよ…? なんで、親父はそんなになっちまったんだよ…?」


 「…………」


 俺は本当はこの言葉を言った後に、親父に仕掛けるつもりだった。そうすれば必ず多少なりとも隙が生まれるからだ。


 でも───できなかった。


 親子としてその答えを聞きたかったから、構えも解いてただ、親父の返答を待っていた。




 彼───ガルムは迷っていた。もちろん今なら一瞬でザインを殺れる。そこまでの隙がある、いや、あいつが隙をわざと作っているのだ。

 俺の答えを──待っているから。



 それが分かると、()()()戦鎚を下ろしていた。それは思考がそうしたのでは無い。()がそうしたのだ。




 昔、ある魔女は言った。


 『"魂"はね、"不変"なんだよ。変えられるとすれば自分だけ。それ以外の何物にも作用されないのさ』


 『例え、自分がそうだと思い込んでいても、魂は分かっているんだよ。いや、()()()()()()()()()


 

 『自らの身に秘めた本当を……ね』





 なぜ忘れていたのだろうか。ザメルは、ザインを───()()を護る為に死んだんだ。


 俺も同じ。ザイン(息子)を護る為に副団長になったんだ。



 それなのになんで今、俺はあいつと戦っているんだ?

 護るべきものを見失って、逆に傷つけて……


 俺、どうしちまったんだ?



 目の前の息子は俺にちゃんと向き合っているのに。



 俺は目を背けて、恨み言しか言ってなかった。



 …………あんだけ真摯に向き合われたのに、断ったらドワーフの血が泣くよな。



 ザメル。




 「……お前の母さん、ザメル・カーディフは王命によって北の戦線で死亡した」


 「……!!」


 「……でも、それはお前を護るためにだ。王は行かなければ息子(お前)を殺すと俺達を脅したんだよ……」


 「……なんで、そんな事を……」


 「……わかんねぇ、この座だってお前を護るために得たモンだ……」



 ザインには、それが本当なのか確かめる術はない。だが、信じようと思った。

 どれだけ殴られたとしても、父は父なのだ。

 かなり幼い時は、まだ優しく接してくれた記憶だってある。



 そう、ザインも魂で分かっているのだ。

 昔だって分かっていた。父には優しい心がまだ残っていると。

 ()()()あの日まで我慢できたのだ。本来の彼なら、暴力を振るわれて数日で抜け出していた。



 「……そう、だったのか……」


 「だとしても、俺が今までお前にしてきた事は間違っている。本当にすまなかった!!!!」


 そう言って、親父は目の前で土下座してきた。一瞬驚いたが、直ぐに声をかけようとして───静止させられる。


 「許してもらおうなんて思っちゃいねぇっ!! ただ、今まで自分が大切にしていたものを忘れた自分が許せねぇし、お前に申し訳ないんだよっ……!」



 親父は───号泣していた。

 ふと、ザインは思った。こんな人が、息子を護るという使命を忘れるのだろうか……と。


 そして、()()()()()()()()()()()()()()


 「まさか……!」


 これが真実かは分からない。でも俺は、目の前で土下座までしてくれている人が大切な事を忘れるとは思えなかった。



 「ッ……!! オーーサァーーーー!!!!!! てめぇはどこまで人を弄ぶんだよッッッ!!!!!」




 遠く離れた場所、殆どの人が知らない異境。そこに、()()()()()を並べながら、彼の瞳が輝いていた。


 「あーらら、残念。完全な悪にしたかったのにね」


 そこまで本心じゃなさそうなことを呟きながら手を動かしていく。


 「それにしても、"魂"か……君達にも魂ってまだ残ってるのかな?」


 そう言いながら、()()()()()()()()()()を舐めまわすように見つめるのだった。




 「……親父…、今まであんたがしてきたことを俺は許すつもりはない」


 「あぁ、それでいい……」


 「……でも、あんたを『親父』としては見ていたいんだ」


 「っ……!! ……お前はほんっとうに、母さん似だよ……」



 親子喧嘩となった試合は幕を閉じるのであった。






◇◆◇






 教会まで、後数百メートルの地点でカイン達は敵にバレないように、ゆっくりと走るという芸当をこなしていた。


 「てか、これでアラシを連れ帰ったとしてもあいつ絶望しないか? こんなスキルいらないって」


 「…………」


 「ユルン?」


 「ううん、なんでもないわ。早く行きましょ」


 ユルンの目は覚悟に染まっていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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