第35話 ガルム・ヴァウスト
俺は昔『狂犬』と呼ばれ、恐れられながらも、民衆から尊敬されていた。
「おっ! 俺達の英雄、『狂犬』じゃねぇか!!」
「『狂犬』さん。次の仕事も頑張ってーー!!!」
等々、俺が道を通ると歓声があがり始める。
俺──ガルム・ヴァウストは、この国に襲いかかってきた古龍を討伐して一躍有名となり、民衆たちの間では【英雄】と、そう呼ばれていたほどだ。
龍は4種類存在するが、今回襲ってきたのはその中の1番下『劣龍』。平均ランクは10だが、おそらく今回の個体はランク9の中位程度の実力だった為、俺でも討伐できた。これでも一応ランク8だしな。
俺は冒険者達の間では『狂犬』と言われるほどの暴君で、戦い方はいつも荒々しく、時に味方まで傷つけた事があった。それが評判となり、俺は誰ともパーティを組むことは無かった。
そろそろ俺も20後半。結婚でもするか? ……いや、俺を選ぶやつなんていないな。
確かにガルムは【英雄】と祭りたてられているが、それは【英雄】としての彼。『狂犬』としてのガルムを好いてくれる者はいなかった。
今日も冒険者ギルドから星5のクエストを受注し、とある辺境の村へと来ていた。依頼内容によると、近隣を彷徨いている土竜を討伐して欲しいらしい。それも10体。
土竜のランクは6。まあ10体くらいなら行けるか、と高を括っていたのが間違いだった。
『ギャオーース!!』
『グルォーー!!』
「……チッ、何が10体だよっ……!」
俺の目の前には50を超える土竜が俺に殺気を込めた目線をぶつけていた。流石にランク6とはいえ、この数は死にに行くようなものだ。何よりも奴等は硬いのだ。俺が本気で戦鎚を振るってやっと一体討伐できるぐらいに。
普通に戦うと5発くらいは入れないといけない。そんな奴が50体以上。いくらなんでも体力が持たない。ただでさえ俺の戦鎚は出しているだけで体力を消耗するのに。
俺のスキル『光の戦鎚』は、異力で光の戦鎚を召喚できる。わざわざ重い戦鎚を常に持ち歩かなくても良いのだ。更に戦鎚には効果として、自分の攻撃力を上げてくれる。
だが、当然デメリットもある。それは時間でどんどんと体力が削られていくのだ。
そのせいで、このスキルは長期戦闘は不向き。本来は短期戦闘で終わらせないといけないのだが……流石に数が多い。
「ぐっ?!」
俺は前に注意を向けすぎていて、後ろから突進してくる土竜に気づけなかった。奴の衝撃で俺は、近くの大木へと吹き飛ばされ、その場に倒れ込む。
(もう……終わりなのかよ。こんなところで……綺麗な嫁さんすら得られずに……)
そんな後悔の念を並べながら、目の前に迫る土竜達に対して為す術もなくただ死ぬことを待つ。
俺は目を瞑り、死ぬのを待っていたのだが────いつまで経ってもそれはやってくることはなかった。
おかしいと思い、目を開くとそこでは俺の前で必死に戦ってくれている、女騎士がいたのだ。
彼女が大剣を振るうその怪力から直ぐに俺の同族──ドワーフだと分かった。俺が目を開けた事に気づいた彼女は──
「おっ?! 起きたのかい?! なら早く立ちなっ! それとも死にたいのかっ?! 『狂犬』っ!!」
と、大声で叫び、俺を奮い立たせた。俺はその声に釣られて立ち上がり、光の戦鎚を呼び出して、奴等に飛びかかった。
俺は古龍と戦った時────否、それ以上の本気を出して奴等をどんどんと蹴散らしていった。彼女は最初少し俺を見て呆然としながらも、その後は次々に蹴散らしていく。
俺達2人は奴等の返り血にまみれ、2人で拳を合わせて笑いあった。
「『狂犬』があそこまで強いとは驚いた! 流石の狂犬ぶりに思わず見とれちまったよ!」
「いやいや、あんたも十分強かった。名前を教えてくれよ」
「ん? あたいかい? あたいの名はザメル・カーディフ。神聖国家セーラの王国騎士副団長だ」
「そうか、ザメル……よければ……その……また、俺と一緒に戦ってくれないか?」
俺は初めて狂犬としての俺の事を褒めてくれる人を見つけて驚いた。他の奴らは【英雄】としての俺しか見ていなかったのに、こいつは──こいつだけは俺を見てくれたのだ。
それが何よりも嬉しかった俺は咄嗟に彼女を誘った。彼女となら、一緒に戦いたいと思ったからだ。そんな俺の問いかけに彼女は──
「いいねっ! あんたの狂犬ぶりをもっと見てみたいし! また機会があればやろう!!」
その言葉を最後に彼女は去っていった。どうやらこの辺りの調査に来ていたそうで、たまたま殺られそうになっている俺を見つけて、駆けつけてきてくれたらしい。
俺は彼女の背中を見つめて───心が彼女で埋め尽くされていた。
その後も俺達はたまにだが、一緒に戦って親睦を深めていった。それを見て他の冒険者達は【英雄】と『副団長』がイチャイチャしてるぞぉぉぉーーー!!! と、盛り上がっていたが、俺達は気にせずお互いの戦闘を見合っていた。
そして、俺は見に秘めていた彼女に想いを伝えて───彼女はそれを受け入れてくれた。
どっちの姓にするかは殴り合いで決めることになったが、恋人の顔を殴れる訳もなく、俺は大敗し、『カーディフ』の姓を名乗ることとなった。
俺はいつしか、『狂犬』ではなく、ただの彼女に従う『犬』と化してしまい、平穏な日常を暮らしていた(個人の感想です)
数年後、俺達は結婚して、子供を授かった。
街の奴らはそれを祝福してくれ、俺もその事を初めて知った時は泣きそうになった。いや、実際に泣いた。
そして迎えた出産当日────俺達は前々から決めていた『ザイン』という名を、赤ん坊に名付けた。
その後、俺達はザインと共に幸せな日々を送っていたのだが──
「ザメル・カーディフ。お前に、『北の戦線』への出動命令を言い渡す」
というこの国の王の言葉によって全てが変わってしまった。
『魔人』という名を誰もが聞いた事があるだろう。【魔国ベネム】に住んでいる人類だ。
奴らは他の人類よりも圧倒的に戦闘能力が高く、1人だけでランク7に匹敵する。中にはもっと強いのもいるそうだ。
魔人以外が住んでいる国【迷宮国ランズ】、【神聖国家セーラ】、【ガナムンド大帝国】を滅ぼす為に今も尚進行を続けている。
それでも今こちらが平和で戦争のせの字も見えないのには理由がある。
それは、【北部山地】があるからだ。北部山地は大陸の端から端まで連なっており、北半分が魔国、南半分がそれ以外と境界線のようになっている。更にそこには、竜等の強力な魔物が数多く存在しており、稀に龍にも出くわすらしい。
俺達冒険者は、『クラン』に在籍している者が殆ど。そんなクランにもギルドや、国から直にクエストが発注されたりする。ギルドはともかく、国からの依頼となるとあの最強クラン『天頂の円卓』ですら無下にすることは出来ない。
そして、今現在いくつかのクランに同時に発注されたクエストが存在する。それは───
難易度:星8
クエスト内容
『北部山地での魔人族の侵略阻止』
これは様々なクランが請け負っており、名が知れ渡っているクランにのみ、発注されている。
だが、流石にずっと戦い続ける訳にはいかないので、クラン達は数年単位で交代交代で魔人を殺しているのだ。
そんな北部山地のことを、彼等は【北の戦線】と呼んでいる。
それはもはや戦争と言っても過言では無いだろう。
それほどまでに血と肉が飛び散っている戦いなのだ。
普段はクランが行う仕事の筈なのだが……何故か彼女に出動命令が出されたのだ。それには俺も怒り狂い、直談判しに行ったのだが、
「ならばお前達の赤子……確かザインと言ったか? あいつがどうなってもいいと?」
「ッ……!!!」
この国のクソみたいな王はザインを盾にしてきたのだ。内心は憤怒が止まらなかったが、ザインの為にも必死に抑えて、その場を去るしか無かった。
「大丈夫だよ。直ぐに戻ってくるさ」
「でも……まだ、ザインを産んだばかりのその身体で……」
「大丈夫、大丈夫。あんたの愛しの妻は直ぐに帰ってくるさ」
その言葉を最期に彼女は家を去り───戻って来なかった。
その時代の団長が俺の家へと来て彼女の大剣を俺に渡して、受け取った俺は───泣き崩れた。
団長は必死に慰めの言葉伝えていたが、俺の耳に入らず、ただ彼女を失った虚しさだけが心を埋め尽くしていた。
ザメルを失った俺は、王から王国騎士副団長に任命された。俺は当然拒もうとしたが、奴等の視線がザインに向けられていると察した俺は嫌々その称号を受け取った。
その後俺は少しずつ壊れていき、酒を飲む量が増えていった。
終いには、ザインを恨むようにまで堕ちてしまった。
「こいつさえ……こいつさえいなければっ……」
全て悪いのは王国や、魔人なのだが、そんなことを考える余裕は彼には無かった。
数年経つと、いつしか俺はザインに暴力を加えていた。
「痛い、痛いよっ……お父さんっ……」
「黙れっ!! お前がいなければッッ!!」
ドゴッ! ドゴッ! と、毎日のように殴る音を鳴らし、ザインの悲鳴を聴いていた。気持ちは一向に晴れなかった。
ある日ザインが、家を飛び出した時は嫌々国に頼み、大急ぎで探したが、既に【迷宮国】へ向かったと聞いた俺は、もう追わなくていいと、命令を撤回した。
その後は無心で国の命に従い、魔物を狩るだけの道具と化していた。
そんなある日、目の前に───ザインが現れた。背丈や、体つきは最後に見た時よりも遥かに変わっていた。それが俺は─────。
……どう思っていたんだろうな。
少なくとも、直ぐにザインに手をあげたのは事実だ。防がれたが。
そして、また目の前にザインが現れた。今回は国側として戦わなければ、俺が処刑されちまう。
……あれ?
俺が副団長になった理由って……なんだったんだ?
最後まで読んでいただきありがとうございます!




