第34話 突撃!!
「まず、君達の内数人で、城の前で大きな騒ぎを起こすんだ。城を破壊する──とか」
「適当だな……」
「そして、君と……あと、ユルンさんも一緒に教会の地下に向かってもらう」
「まて、なんでユルンの名前を知ってんだ?」
唐突に彼女の名前が出てきて驚いた俺はその疑問を口にする。彼女と、エルナは会ったことはあるが、何も話しておらず、名前すら伝えていない関係。こいつが知っているはずがないのだ。
「……さて、どうでしようね」
「……チッ」
また言葉を濁された。これで何度目だ? 話したくないこと多過ぎるだろ……
「…んで? 決行はいつだ?」
「今日の深夜です」
「はあっ?! 今日?!」
そんないきなりできるはずがないだろ!! という顔をして、彼女に訴えるが彼女は知らぬ顔で話を進めていく。
「ええ、今日じゃないと、予定が狂うので」
「は、はぁ?」
「じゃあ、そういうことで。無事成功したらオーサーについての情報を提供しますよ」
「……なんか冷たくない?」
最初会った時との温度差が酷すぎて風邪ひいちゃいそう。あの時はちっちゃい子供みたいな感覚だったのに、今じゃ女鬼。───いや、鬼エルフか? ともあれ泣きたいね。
「さ、早く行かないと夜が更けちゃいますよ」
「え? 今って夜なの?!」
「はい。丁度20:00ですね」
「まてまて、やばいじゃんかよ?!」
そう言って俺は一目散に洞穴を抜け出して、森の中へと駆け出していくのだった。
「……」
その後ろ姿を、エルナは無言で見つめているのだった。
◇◆◇
「あ! いた! カイン!!」
森をマジ走りで駆け抜けて街に飛び出すと、俺の眼前に飛び込んできたのはユルンだった。汗をかいていて、かなり疲弊している様子だ。だが、そんな心配をしていては時間が惜しい。すぐさまあの件を伝えなければならない。
「お! ユルンか!」
「どこ行ってたのよ?! 皆であんたを───」
「頼むっ! 時間が無いんだ! 協力してくれないかっ?!」
そんな必死な声で彼女の声を遮ってでも助けを求めた。それは時間に間に合わない焦りよりも、奴の情報を早く欲しい方の焦りだったのかもしれない。
「……わかったわ! 何をすればいい?」
「とりあえず、兄貴達と合流しよう。話はそれからだ」
「了解よ!」
ユルンは俺の言葉に異を唱えず、直ぐに呑み込んでくれた。本当にありがたい。兄貴だったらいや、リアでもここで何か言葉を挟んでいたはずだ。それなのに彼女は何も言わずに協力してくれる。
……毎回俺は仲間に恵まれているな。俺はそれを再実感したのだった。
「はぁっ?! 今から城の前で騒ぎを起こせって?!」
「頼むって!」
「オーサーの情報も本当に信用していいのか?」
「ぐっ……、でも……何かそう信じれる勘みたいなもんが働いてんだよっ!!」
「俺にそれを信じろと?!」
当然のように、兄貴と口論になってしまった。確かに、エルナの言葉には信用できる証拠のようなものが殆ど無かった。でも、俺はあの涙は本物だと確信していた。
それは……昔、同じような涙を誰かに流されたからなのかもしれないと、魂が言っていた。おそらく失われた記憶にあった物だろう。
「……駄目か?」
「……ちっ、ああ、分かったよ。やりゃあいいんだろ? やりゃあ!!」
何故か直ぐに納得してくれた。もう少し時間がかかると思ったのだが、好都合だ。ザインは当たり前のように、リアはちょっと逡巡していたが、「ザインがそー言うなら」と言って納得してくれた。僅かに頬を赤らめたのは気のせいだろうか?
彼───カインはカールが納得してくれたことを、兄が弟を想う気持ちだとは気付かないのだった。
◇◆◇
「むっ?! なんだ、そこのお前? 夜中にフラフラしていたら危ないぞ?」
と、槍を握る城の門番が総髪の男に向けて注意する。酔っ払いとでも思っているのだろう。
実際は酒豪ではなく、剣豪なのだが。
「確かにな。こんな夜中だ。ぐっすり眠れよ」
「はにゃぁ?!」
大の大人の男が気持ち悪い言葉を放ち、床に倒れた。死んではいないが、気絶しているようだ。そして、カールは咆哮をあげる。
「さあ! 砕けやがれっ!!」
「開花、『赤』! 交わる閃緋ィ!!!!」
ドガァァァァン!! と、城壁が絶叫を上げて砕け散る。まるで竜が突進してきたかのような大穴が城壁に出来上がり、直ぐに大勢の騎士が城前に集まった。
カールはその穴へと入り、城の庭園へと侵入する。立派な犯罪だが、多分大丈夫だろと、楽観的な思考でゆっくりと城の方へと進んでいく。
当然、王国騎士達は黙って見てるわけもなく……
「か、かかれぇっっつ!!!!」
騎士の上官のような者が命令を下して、侵入者へと襲いかかるのであった。そんな光景をカールは。
「はぁ……マジでねみぃ…、今何時だよ……」
嘆息しながら、キィィィィン! と、金属が擦れる音を鳴らして、二本の剣───聖剣、『魔壊』を引き抜くのであった。
兄貴が気を引いている内に、俺、ユルン、ザイン、リアはこっそりと突撃して、城内を走っていた。
当初の予定はザインとリアも兄貴と一緒の予定だったが、兄貴に
「あん? 俺一人で充分だろ? それとも何か? 俺が弱いってか?」
「いやいやいや、そんなわけないじゃないですかぁ~」
そんなことを言われて彼等は俺達と一緒に行動することになった。
確か、城の中心に教会がある筈なので、俺達は敵兵の目を掻い潜って、少しずつ、真ん中へと近づいていく。
だが、戦闘は必ずしも避けられるものじゃない。これまでに計8回もの戦闘があった。それはどれも末端騎士だったので良かったが、もし副団長や、団長が来たら、足止めどころじゃ済まない。
そんな不安は───現実となってしまう。
「あ゛? ザインじゃねぇか? おめぇだったのか侵入者ってのは!」
「ッ……! 親父っ!」
俺達の目の前に現れたのは、ザインとそっくりな毛色。だが、雰囲気はまるで違い、鋭い眼光に、ゴツゴツとした掌。まるで、荒くれ者のようだ。
名は───ガルム・ヴァウスト。神聖国家王国騎士団副団長の肩書きを持つ、この国の最強の一角だ。
「よぉ、そこの黒毛の兄ちゃん」
「……なんだ?」
「ザインを置いてけや。そうすりゃこの先を通してやるよ」
それは、俺達にとって本来は魅力的な条件だが、こいつはザインにトラウマを植え付けた存在。出来れば渡したくない。
「……そうしなければ?」
「団長が来るまでに時間稼ぎくらいなら出来るぜ?」
このままこいつを最速で倒すしか無いか……? 俺がそう考えていると、ザインが俺の前に仁王立ちをした。
「いいよ、カイン。先に行け」
「ザイン?! ……大丈夫なのか?」
「任しとけよっ! ……親子喧嘩ってのをやってくるぜ!」
その言葉に俺は安堵して、彼女達と進もうとするが、リアが急に立ち止まり、
「ごめん、カイン。私は残る」
「リアっ?!」
「副団長を1人にしておけないっ!!」
「分かった。あの馬鹿を頼むぜ」
「あ゛あ゛っ?!」
俺はとりあえずザインを馬鹿にして、ユルンと共にその場を去ったのだった。
◇◆◇
「なぁ、ザイン。分かってるよなぁ? 俺に楯突くって事がどれだけ恐ろしいか」
「……ッ…。ああ、分かってるよ。分かっててこうしてんだ。とりまそこをどいてくれると助かるんだが」
「へっ、ガキが」
次の瞬間、その巨体ではありえないほどの神速でザインへと剣を振りかぶる。だがザインもそう簡単にやられる程弱いわけがなく、軽く斧で剣を流して、ガルムを自分の後方へと飛ばす。
「ッ?! ……受け入れるだけの奴だと思ってたが……ちったあ変わったってわけか」
そう関心して、ガルムは剣を投げ捨てた。それに驚いた俺は僅かだが、咄嗟に隙が出来てしまう。長年の猛者はソレを見逃さない。
どこからか、取り出した光の戦鎚で、ザインを城の壁へと吹き飛ばした。彼は「ゴブッ……」っと吐血しながらも立ち上がる。
「……なぁ、親父。なんで母さんの姓を捨てたんだ?」
「……」
「あんた達に何があったん───」
次の言葉を発しようとしたその瞬間、俺の眼前に戦鎚が振り下ろされる! なんとか、咄嗟にガードしたが、少しずつ押し負けていく。
「……うっせぇ。ガキは黙って寝てろや」
「っ……」
親父の瞳は憤怒のオーラを感じさせるほどの噛み付くような眼光だった。その怒りに比例するように、俺の斧も押されていく。
だが、ここには俺だけでは無く、彼女がいるのだ。
「『貴方を支える癒し』!!」
次の瞬間、身体能力が増強したと感じた俺は、全力の力をもって、親父の戦鎚を弾き返した。
「ちぃッ」
「なぁ……親父」
そしてザインは咆哮をあげる。
「よくもまあ、いつもいつもサンドバッグにしてくれたよなぁ?! 今度は俺があんたをサンドバッグにしてやるよっ!!」
そう力強い言葉を解き放った息子の姿がガルムの目にはそれがとてもっ……とてもっ……
「ッ……!!!!! やってみろやぁっっっ!!!! こんのクソガキィィィィ!!!!!!」
過ぎ去った日々に愛した妻にしか見えなかった。
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