第33話 アラシ・サクマ
注意喚起:かなり残酷な描写あり。
「だろ? あの女めっちゃ可愛かったよな?!」
「それな! マジで最高だった!! お前もそう思うよな? 俊也!! あ……」
荒木 直介が呼びかけた先に彼───俊也はどこにもいなかった。彼はとある龍との戦いで死亡し、この世から去ってしまった。
悔しいよりも先に、俺達には実感が無かった。だって当たり前じゃねぇか。今まで普通の学校生活を送っていたのに急に異世界に転移させられて。そりゃあ最初はちょっと楽しみだった。他の奴らよりも全然つえーんだから。…………でも、あの事件があって……殆どの奴は心を折られた。死んだ奴だっている。……俊也のように。
「……直介、俊也はもう…いねぇんだよ……」
「……うっ…おえっ…」
直介はあの光景を思い出して、吐いてしまった。無残にも友が殺されていく様を目の前で見せられたのだ。そりゃあトラウマにもなる。俺だって思い出したくもない。
「なぁ……嵐」
「あん? なんだ?」
「俺達……このまま魔王を倒して、地球に戻っても……報われるのかな?」
「っ……!」
そんな魂の叫びを直介は俺にぶつける。そうだ、例え戻ったとしても、いつも俺達の横にいた俊也はいない。それに俺達のどっちかが、その前や、魔王戦で命を落とすかもしれない。彼はそんな弱さを吐き出した。
「……報われると……信じようぜ?」
「……うん…」
その会話を最後に、彼は城の部屋へと帰って行った。……多分今頃ベッドを涙で一杯にしているだろう。あいつはそういう奴だ。
龍──あいつは謎の人物が倒したとされているが、俺には分かる。
あれは───神楽坂 隼人がやったことだと。
あいつはあの後何気なく俺達と共に行動したが、力を隠していたのか? ……まあ、あいつに助けを求めたって、意味無いだろうな。
だって。
散々いじめてきたのは、自分なのだから。
◇◆◇
俺は暇なので、城からかなり離れた【エデンの園】というエルフ達の住処へとやってきた。この場所が、俺達の始まりの場所だからな。
周りの木は全て10m程あり、とても大きかった。
そんな風に辺りの絶景に目を取られていると───
『グラウッ!!』
「ッ?!」
遠くの方で魔物がナニかに吠えていた。恐らくエルフだろう。普段ならどうもしないが、何故か俺は走り出していた。
もう、血を見たくなかったからなのかもしれないし、いつも通りチヤホヤされたいだけなのかもしれない。それは自分にも分からなかった。
「た、たすけてください!! 誰かっ!!」
目の前で襲われていたのは小さな緑髪のエルフ。彼女の前には上位狼一体。今にも食べそうに彼女にゆっくりと近づいていく。そんな奴を──
キンッ!!!
「……え?」
一刀。それだけで、奴の首が飛び身体が床に倒れた。そこには血の池が出来ており、俺はそこを見ないようにした。彼女はその死体を前に怖がることは無く、ただ一点に俺だけを見つめていた。
「大丈夫か?」
「あっ、はいっ! 助けていただき、ありがとうございます!!」
彼女は、とても礼儀正しくお礼を述べた。清廉と言われているエルフだから、こういうのは当たり前なのだろうか。彼女は俺にキラキラした目を向けてきた。その目がなんだか───俊也のようにも見えた。だから俺は──
「なあ、名前はなんて言うんだ?」
「? 名前ですか?」
「ああ、知りてぇ」
「私の名はエルナ・サルフェン。14のエルフです!!」
「そうか、俺は佐久───アラシ・サクマだ」
「アラシさんですね! よろしくお願いします!!」
彼女は元気そうにその真名を答えた。頬が赤いのは気のせいだろうか?
兎にも角にも、俺は彼女になぜだか話したくなった。彼女が友に見えたからかもしれないな。
「……なぁ、エルナ。俺の話をちょっと聞いてくれねぇか?」
「? 当たり前じゃないですか! 貴方は私の命の恩人なんですよ?! なんでもします!!」
「そうか、ありがとう。今から話す話は今も尚生き続けている屑の話だ」
そう言って、俺は語り出した。元々そいつはどんな奴だったのか。そいつに何が起こったのか。最終的にそいつはどうなったのか。
最初の方は彼女は誰の話だろう、という顔をしていたが、次第に俺の顔を見つめ、理解したように無言で聞いていたのだった。
◇◆◇
「どうだ? 聞いていてどう思った。そいつの人生について」
俺は軽蔑されると思いながらも、彼女の返答を待つ。────いや、軽蔑されたいのかもしれないな。自分に罰を与えて欲しいのかもしれない。
「…………確かに、その男の方はどうしようもない方なのかもしれません。……でも、貴方はその人とは違います」
「はぁ?! 何言ってんだよ?! 意味わかってなかったのか?! その、クズが俺なんだよっっ?! 優越感に浸りたいからって、他人をいじめて、あたかも自分が偉いかの様に振る舞う! そんな、クズは、俺なんだよッッッ!!!!」
アラシは激昂し、彼女にイライラをぶつける。彼女が何も理解してなかったからでは無い。報われたくなかった。ただそれだけ。
報われる資格が無いと自分に分かっているからだ。
「? 分かってますよ? その人が貴方だって」
「だったら!!!」
「でも、貴方が話した事に私を助けた事は含まれてませんでした」
「っ……」
あっけからんと答える彼女に更に激昂しようとするが、もう一言で思考が止まる。俺は彼女に出会う前の事しか話さなかった。人を助けたなんてクズに似合わないからだ。
「多分貴方の話の中に埋もれていた話はたくさんあります。だって、そうじゃなきゃあの場で私を助けたりなんかしないっ!!」
「……」
「……貴方は罰を受けたいんですよね? 今までしてきたことの。完全な悪を断罪してほしかった」
「……」
「でも、貴方はその完全な悪になりきれなかったんですよね。心に優しさが残っていたから」
……俺が優越感に浸りたかったのはいつからだったか。もう思い出せない。高校に入ってからか、それもとも中学、小学校に入ってからか。
それとも、親父に────
「貴方が自分の事を罰して欲しいなら、そんなことよりももっと私のような人を助けて欲しいです! その方が、もっと、貴方にとっての罰でしょう?」
「……意外と性格悪いんだな」
「そうですかね?」
ニヤッと笑う彼女を見て、少しだけ心が和らぐ。
今まで散々人をいじめてきた俺が、急に人を助ける。そんなの今までの自分を完全否定している事と同義だ。だから、彼女は俺にそうしろという。「罪悪感を抱き続けろ。それが貴方の罰だ」と。
本当に、性格が悪いな。
俺はその後、彼女と共に行動した。とはいっても一応魔王を討伐しないといけないので、他の皆とも一緒に行動する。
俺はエルナの事を皆に紹介したのだ。そして彼女は俺達と共に、魔王討伐までの道を進んでくれた。
道中様々な事があったが、どれも乗り越えた。人助けだってたくさんした。それが罰になるのだから。それで、感謝を伝えられると、今まで俺は何をしていたんだと、胸を苦しめられるようになった。
でも、しばらくするうちにそれは受け入れなければいけないモノだと、自覚し始め、胸の苦しみがあるからといって、人助けを減らしたりは無かった。
逆にどんどんと増えていったほどだ。
「本当にありがとうごさいます!!」
「お兄ちゃんありがとぉ」
「よう、兄弟、さっきはマジで助かった! ありがとよっ!」
感謝も増え始めてきて、そんな冒険をしていくうちに俺達は───
「エルナ。お前が好きだ」
「はいっ! 私もです!」
恋人となった。まあ今までの関係とそこまで変わらないのだが。強いて言えばスキンシップが増えたくらい?
そして、俺達は魔王の元へ辿り着き──────────
俺とエルナ以外の全員が死んだ。とある一人によって。
そいつは人間なのかすらも分からない。でも、その瞳に映るのは───虚無だった。
俺はなんとかエルナを逃がして、やつを相手にしたが、まるで歯が立たず、そのまま俺を殺せないと踏んだ奴は俺を封印した。
目を覚ますと、俺の手足、首には鎖が装飾されており、暗い檻に幽閉されていた。脱出手段は───無かった。
しばらくすると、白衣を着た男達がぞろぞろとやってきて、何かを準備していた。俺は気になり、何をしているのか覗いて見た。
それが間違いだった。
彼等が手に持っていたのは、様々な解剖道具。注射器、メス、毒薬……そんな物が無数にあった。ここまで見れば何をされるか分かる。いや、分かりなくなかった。見なければ分からなかったのに。
そして、一人の男が俺に近づいてくる。右手にメスを持ちながら。
「じゃあ、始めますね」
「い、いやだ」
情けない声をだし、抵抗するが…………そんな言葉奴らには響かない。
目の前の男は、メスを構え、俺の腸を───裂いた。
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!! いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいぃぃぃぃぃ!!!!!!」
絶叫─────否、怪叫が空間に響くが、誰一人それに反応しない。興味が無いかのように。
腸を裂かれ、その後も内蔵や、骨を無理矢理引っ張られたり、開いた腹に直で何かをぶち込まれたりもした。
ドシャドシャと、臓器や、骨が捨てられていく。
身体が空っぽになっていく感覚よりも痛みしか脳は受け取らなかった。
ドロドロと大量に血が流れているが、誰も気にしない。
鮮血が、飛び、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り、飛び散り飛び散り飛び散り飛び散り飛び散り飛び散り、とめどなく溢れる。
だが、誰も気にしない。だって、すぐに再生するんだから。
何をしても大丈夫なのだ。
既に彼の下には血の泉が出来ていた。
「ごべん゛……だざい゛……。お゛でが……わ゛る゛が……………だ……でず……。も゛う゛…………ゆ゛どぅ゛じでっ……」
誰もがその啼血に耳をかさず、手を動かしていく。
この生き地獄から解放されたいのにスキル『不老不死』のせいで死ぬことすら許されない。
ああ、これが今まで俺がしてきた事の罰なんだ。
俺が報われるなんて……ダメだったんだ。
ごめんな、エルナ。ダメなんだよ。やっぱり。俺は報われちゃいけないんだ。
ごめん
ごべん゛
ごべん゛だざい゛っ、!!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
前回や、今回の話は『叙事詩0』を読んでいただければ分かることがいっぱいあるので、是非読んでみてください!!




