第31話 え、もしかして訴えられる?!
「おら、さっさと起きやがれ」
「ぐえっ!」
その一言と同時に俺の腹が蹴られる。めっちゃ痛ぇ。瞼を開けると、そこには全員が俺を心配している姿があった───否、兄貴以外。どうやらポンス・イリディスを放った後、俺は気絶してしまったらしい。疲れなのか、魔力枯渇なのかはわからないが。
「カイン、大丈夫?」
「大丈夫。体力も魔力も万全だ」
ユルンの問いかけに俺は自分の状態が良いことを伝える。リアとザインもその言葉に安心したような表情をした。とりあえず俺は寝床から起き上がり、近くの椅子に腰をかけた。
「さて、これにて修行は終わり。だが、強くなっただけで実践をしてみねぇと自分の実力なんて分かりゃしねぇ」
いやいや、最終訓練で否が応でも理解させられましたが?! という表情を俺達は兄貴に向け、話を聞き続ける。
「メルダと交わした約束があるんだ。修行が終わったら、『天頂の円卓』と一緒に迷宮に潜らないか? ってな」
「「迷宮……」」
「……」
その言葉を復唱し、不安気な顔をリアとザインは見せた。何せ、皆が無残に殺害された場所。そう簡単に行きたいとは思わない。どうしようかと俺が思考していたが、どうやら杞憂に終わったと直ぐに気付かされた。
「こ・ん・ど・は・ぜっっったいに誰も死なせないんだから!!!」
「その通りだ!!」
彼等は既に恐怖を克服していたのだ。いや、克服はしてないのかもしれないな。俺と同じように心の奥深くに詰め込んでいるだけなのかもしれない。でも、それでいい。オーウェン、オーサーを殺すまでこの恐怖は取っておかないといけない。それが何よりの戒めになるから。
「んじゃ、とりあえず街に降りて馬車探すか」
その一言と共に俺達は下山し、【都市メリス】へと向かうのだった。
◇◆◇
「カイン! これとかどう?!」
「ん? いいなこれ、美味そうだ」
俺とユルンは来た時と同じように二人で街を歩いていた。なぜ馬車に乗り込まないのかというと、馬車はあったのだが、まだ出発しないらしい。およそ5時間後に迷宮区へと向かう馬車が出るそうだ。
それまでの暇な時間を潰すため、ユルンは俺を無理矢理引っ張り、この街の商業区へと連れてきたのだ。
俺たちの目の前にあるのは屋台で、出している商品はパイ。俺は普通のパイにしか見えないが、彼女───パイマスターユルン先生によると、とんでもなく美味しいパイらしい……パイマスターって何だよ…
そんな嘆息をしながら口にパイを頬張ると、確かにこれは美味しいなと思った。ちょっと悔しく感じたが。こんなに美味しいパイは迷宮区では食べたことがなかったのだ。
俺は別にそこまで好き嫌いが無いため、普段の食事も適当に選んでいたが……どうやら今日でこのパイが好きになってしまったらしい。いわゆる一目惚れ──否、一口惚れとでも言うべきか。
そんなくっそどうでもいいことを考えながら俺達はパイを食べ終え、その後もユルンに付き合わされ、彼女が購入した服やアクセサリーを持たされた。つまり荷物持ちというわけだ。……多分抵抗したらまた弓で殴られる気がするので辞めておいた。
ある程度買い物を終えた俺達は予定していた時間が近づいている為、目的地に向かっていた。ちなみに結構時間ギリギリ。恐らく遅刻すると兄貴に殺される。うん、絶対。
「疲れだぁー!」
「自業自得だろ!!」
既に疲労困憊なユルンと走っていると…
「いたっ……」
「あっ、悪い!」
女性とぶつかってしまった。
尻もちをついている彼女に手を差し伸べ、小さい手を握る。
「ごめんな。大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
彼女の瞳はどこまでも透き通る様な銀色で、緑の髪は腰まで伸びていた。髪からチラリと見える耳は長く、彼女がエルフである事を表している。
「その…失礼ですが、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん? 俺の名前? え、もしかして訴えられる?!」
「ち、違います! …その、単純に気になっただけです!!」
王国騎士に訴えられるのかと思ったが違うらしい。冷や汗をかいた俺はそれを拭い、真名を彼女に告げる。
「俺の名前はカイン・ディペンダーだ」
「カイン・デイペンダーさんですね! ありがとうございます!」
「? お、おう? とりあえずぶつかって悪かった」
お礼を述べ、去ろうとした彼女だったが、なぜか立ち止まり、
「カイン・ディペンダー…、カイン、ディペンダー…、カイン?!」
何やら独り言を呟いていたのだが、急に振り返り、こちらへと戻ってきた。
「ほんっっっとうに、貴方が、あのカイン・ディペンダーなんですか?!」
「え、うん…そうだけど、何か?」
「ーーーーー!!!!」
「どうしたの? カイン。揉め事?」
前を進んでいたユルンが戻ってきて、何をしているのかと尋ねた。
自分でもこの状況が分かっておらず、混乱している。
「その…カインさん! ちょっと着いてきて下さい!」
そう言い、カインの手を引っ張り走り出す。
「え? その、ちょ、ちょっとぉー!?」
「カインーーー?!」
そんなユルンの叫び声が段々と遠くなっていったのだった。
◇◆◇
「ここです!」
「えっと…ここは? ていうかなんで俺連れてこられたの?」
彼女が連れてきてくれた場所は森林だった。
周りの木は10mほどあり、本で見たことがある木だった。恐らくここはエルフ達の住処、【エデンの園】だろう。だが、なぜ俺はここに連れてこられたのか? その疑問を彼女にぶつけた。
「そこに洞窟がありますよね? あそこに行きましょう! 私の家なんです!!」
「ん? お、おう?」
言われるがままに俺は彼女が指を指した洞窟へと向かった。
天井はとても低く、横幅も狭い。洞窟というより、洞穴のような気もする。
中には食料や、椅子、机などの家具も揃っていた。秘密基地みたいだな。俺が特に気になったのは、一番奥にある水晶のようなもの。
大きさは……2mくらいあるのか? あれだけででかい家買えるぞ? なぜそんな高価な物を持っているのに売って、家を買わずにここに住んでいるのか、俺には分からなかった。
ちなみになぜか水晶には大きな穴が空いていた。
丁度、彼女くらいの大きさの。
俺達は椅子に机を挟み、面と面で向かい合うように座る。彼女は俺に、ミルク入りのカップを渡してくれたのでありがたく受け取る。とりあえず俺はもう一度あの疑問を口にして、彼女から答えを聞いた。
「とりあえず、まずはごめんなさい。急にこんな所に連れ出してしまって」
「?! いやいや、別に。何か大事な用があるんだろ?」
開口一番、彼女は謝罪をしてくる事に驚いたが、直ぐにフォローを行う。普通の会話ならさっきの場所ですればいいだけの話。わざわざ彼女の家まで連れ込んだからには、理由があるのだろう。例えば他人に聞かれたくない話や、この家にしかない物が必要だったりと。
「では、お話します。なぜ貴方をここに呼んだのか……それは……」
「それは?」
そして彼女は衝撃的な言葉を告げた。
「オーサーの正体についての話です」
「ッ?!?!?!」
俺は驚愕しながらも彼女の話を聞き始めるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




