第30話 虹の再来
「フッ!!」
先手を打たないと終わる!! そう思った俺は兄貴が走り出すよりも先に行動する。
「ディペンダー流、『赤』!!」
ディペンダー流の中で最も威力が高いのは奥義を除き、『赤』。
これで倒せるとは思っていないが、せめて防戦にさせたい。
「ルーケンス・アフェクトゥス!!」
ここら一帯に閃緋が輝き出す。前とは違い、攻撃的な赤の光。
これに対して兄貴はどう反応するのか、それを考えていたのだが、彼の次の一手は予想外だった。
「『赤』、交わる閃緋!!」
「ッ?!」
まさかの同じ技による相殺。『青』や『緑』、『橙』で受け流すと思っていた俺は読み間違え──
キィーン!!! とファトゥムが音を鳴らす。一撃が弾かれたのだ。だが、兄貴の右の剣も同じように弾かれた。
しかし彼にはもう一本の剣が存在する。
致命傷を食らわないためにも俺は次の行動に出た。
「あ゛あ゛っ!!」
「?! マジかよ!」
左足の回し蹴り。彼が剣を振り下ろしたその瞬間に足をあげ、右腕に直撃させる。剣は俺に届かず、阻まれたのだった。
兄貴は笑いながら歓喜している。弟の成長が垣間見れて嬉しかったのだろう。
「あっぶねぇ…」
そう言いながら俺はファトゥムを強く握り返す。次は弾かれないくらいの威力を出さないとな…
冷や汗をかきながら必死に思考を回す。
先程の奇跡は『自己境界』のおかげで冷静な思考があったから出来たこと。スキルがなかったらあの時点で終わっていた。
冷静さを失ってはいけない。これは誰もが分かっていてもできない事だ。
だが俺にはそれを実行出来るスキルがある。本当に感謝だな。
俺は兄貴をじっと観察する。だが、観れば観るほど隙が全くない。どの方位からでも大丈夫と言わんばかりの構えだ。
なんだ? 兄貴が最上位冒険者の中で異常なだけなのか? 少なくともあの場にいたルークさん達なんかよりも圧倒的な気がした。いや、オーウェンが強すぎて、ただ噛ませ犬の様に見えたからなのかもしれないが。
強いていえば、ベーラさん、メルダは彼に並ぶような気がする。
「可愛くねぇ弟だ!! 『紫』! 壊毒撃ィ!!!」
兄貴が魔力の奔流が流れる剣を俺に振りかぶる。
兄貴は元々魔力量が少ないため、恐らく『紫』を撃てるのはこれで最後だ。ならば、これを防ぎ切れば、彼の手札を1枚───否、奥義も使えなくなるため、2枚削れるっ!!
「受けてやるよっ!! 『紫』! ヴェネナム・ニヒラム!!」
ファトゥムもまた魔力の渦を巻き、兄貴に襲いかかる。
毒々しい二つの魔力がぶつかり合い、押し勝ったのは────俺!!
魔力量なら俺が勝っているからだ!
攻める!!
「ハァァァッッ!!!」
「グッ…」
俺の剣が、兄貴の左腕を斬り裂き、破壊の毒を流し込む。それだけで、彼の左腕は機能しなくなった。剣は床に落ち、右手で剣を持ちながら左肩を支えている。
今だ!更に攻める!
そう思った俺は駆け出し、剣をぶつけ合う、何度も金属が重なり合う音が鳴り響き、攻防が次々に入れ替わっていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
美しい金属音が幾度も鳴り響き、それを聞き入れた者がいるならば、それを決闘の素晴らしい曲と絶賛することだろう。
そう思ってしまう程魅入る旋律だった。
だが、曲というものにも終わりは存在する。
段々と俺の行動に防御が増えていく。
防御
攻撃
防御
防御
攻撃
防御
防御
防御
防御
攻撃
防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御─────
攻撃させる暇など与えず、兄貴は俺に防戦を強要させる。
更にそれに加え、体力も底を尽きてきた。限界が来たのだ。
くっそ……これで、終わりなのか? そう心の中で弱音を吐いてしまうほど、彼は限界だった。
そして、ファトゥムが弾かれ、兄貴の剣──『魔壊』が俺の眼前に迫る。
諦めた俺はそのまま─────それは許されなかった。
キィーン!! と音を鳴らし、魔壊が弾かれる。俺はもちろんのこと、兄貴は驚愕していた。彼の視線の先を見つめると、そこにはザインの姿があった。リアの魔術、『貴方を支える癒し』は身体能力を引き上げ、更に自己治癒能力も一時的だが、付与される。
ザインはそのおかげで意識を取り戻し、カインが剣で絶たれそうになっていたところを、自分の斧を投げ、絶体絶命のピンチを救ったのであった。
「おら、リアっ!! 今だ!!」
ザインのその声で、リアは目を覚まし、最後の力を振り絞って、詠唱を始める。
「……蒼天の抱擁、万緑の揺り籠、碧の燐光! 汝はその身を捧げ、我に還す。癒せ! 進め! ことごとくを葬り去り、我が道を創れっ!! 『貴方を支える癒し』ッ!!!」
彼女はその詠唱を最後に、また意識を絶った。恐らく魔力枯渇だろう。だが、そのおかげで、俺の身体能力はオーウェンに近しい領域まで至った。
今なら──できるっ!!
ザインに目配せを行い、同時に走り出す。恐らく、ザインは一撃でも食らったら終わり。それは当の本人が一番よくわかっている筈だ。じゃあ何をするのか? そんなの親友の俺なら分かっちまう。
「へっ!! こいよぉぉぉ!!!」
兄貴が咆哮し、挑発をかける。左腕は使えない筈なのにそれでも尚、彼の脅威度は高い。そのため、俺のあの一撃を入れるには隙が必要だ。
それは親友が導いてくれるっ!!
「オラァッ!!」
「?!」
ザインは斧を持たないまま、兄貴に直接殴りかかったのだ。それには流石に兄貴も驚愕してしまい、隙が生まれる。
この隙で決めるっっ!!
彼の剣は、ザインに振り下ろされており、今は───無防備!!
いけるっ!!!
「なめんなよ?!!!」
彼は神速とも呼べる速度で、ザインの意識を一瞬にして絶ち、俺に切っ先を向けようとする。
流石に剣を構えられたらあの攻撃では決定打になり得ないっ……
負け
その二文字が脳裏によぎってしまう。
だが、それを消し去ってくれるユルンがまだ残っていた。
「──、──────!! 『暴食の血刃』!!」
「ッ?!」
きちんと詠唱した特級魔術。短文化では無く長文詠唱を彼女はコソコソと行っていたのだ。
短文詠唱ならば、まだ何とかなったかもしれないが、長文となると彼女の魔力密度が高い為、威力は特級魔術を超える程。
流石にそんな攻撃を無下には出来ず───兄貴は後ろから迫り来る血の刃を、振り返って、斬り刻んでいく。
たったの10本。だが、それでも、溜めの時間と、彼の隙の時間には充分だった。
「マジかよっ?!」
兄貴が叫ぶのも無理はない。ソレは俺が今まで一度しか成功しなかった技。しかも力を借りた状態でだ。
今回も自らの力では無いが、そんなことを言ってはいけない。
あの時誓ったはずだ。仲間の力を借りて復讐を成す。蛮勇は行わない──と。
手本は先程見た。なら出来ない理由なんてない。
俺の魔力が七色に輝き、その名を告げる。
「ディペンダー流、『奥義』!!」
「ポンス・イリディス!!!!!!」
虹が、再来した。
瞬間、虹の光が神山を照らし、周辺にいた魔物は退散した。とんでもない、力を魅せつけられたからだ。
俺は兄貴に怒涛の七連撃を叩き込み、山に吹き飛ばした。
山は蜘蛛の巣状にヒビがはいり、兄貴はそこで───気絶した。
つまり……
「俺たちの……勝利……だ……」
その言葉を最後に俺もまた、気絶するのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




