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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第二章  『神聖国家セーラ』

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第30話  虹の再来



 「フッ!!」


 先手を打たないと終わる!! そう思った俺は兄貴が走り出すよりも先に行動する。

 

 「ディペンダー流、『赤』!!」


 ディペンダー流の中で最も威力が高いのは奥義を除き、『赤』。   

 これで倒せるとは思っていないが、せめて防戦にさせたい。

 


 「ルーケンス・アフェクトゥス!!」



 ここら一帯に閃緋が輝き出す。前とは違い、攻撃的な赤の光。 

 これに対して兄貴はどう反応するのか、それを考えていたのだが、彼の次の一手は予想外だった。


 「『赤』、交わる閃緋!!」


 「ッ?!」


 まさかの同じ技による相殺。『青』や『緑』、『橙』で受け流すと思っていた俺は読み間違え──


 キィーン!!! とファトゥムが音を鳴らす。一撃が弾かれたのだ。だが、兄貴の右の剣も同じように弾かれた。

 しかし彼にはもう一本の剣が存在する。

 致命傷を食らわないためにも俺は次の行動に出た。


 「あ゛あ゛っ!!」


 「?! マジかよ!」


 左足の回し蹴り。彼が剣を振り下ろしたその瞬間に足をあげ、右腕に直撃させる。剣は俺に届かず、阻まれたのだった。

 兄貴は笑いながら歓喜している。弟の成長が垣間見れて嬉しかったのだろう。


 「あっぶねぇ…」


 そう言いながら俺はファトゥムを強く握り返す。次は弾かれないくらいの威力を出さないとな…

 冷や汗をかきながら必死に思考を回す。

 先程の奇跡は『自己境界』のおかげで冷静な思考があったから出来たこと。スキルがなかったらあの時点で終わっていた。

 冷静さを失ってはいけない。これは誰もが分かっていてもできない事だ。


 だが俺にはそれを実行出来るスキルがある。本当に感謝だな。

 

 俺は兄貴をじっと観察する。だが、観れば観るほど隙が全くない。どの方位からでも大丈夫と言わんばかりの構えだ。

 なんだ? 兄貴が最上位冒険者の中で異常なだけなのか? 少なくとも()()()にいたルークさん達なんかよりも圧倒的な気がした。いや、オーウェンが強すぎて、ただ噛ませ犬の様に見えたからなのかもしれないが。

 強いていえば、ベーラさん、メルダは彼に並ぶような気がする。


 「可愛くねぇ弟だ!! 『紫』! 壊毒撃ィ!!!」


 兄貴が魔力の奔流()が流れる剣を俺に振りかぶる。

 兄貴は元々魔力量が少ないため、恐らく『紫』を撃てるのはこれで最後だ。ならば、これを防ぎ切れば、彼の手札を1枚───否、奥義も使えなくなるため、2枚削れるっ!!


 「受けてやるよっ!! 『紫』! ヴェネナム・ニヒラム!!」


 ファトゥムもまた魔力の渦を巻き、兄貴に襲いかかる。

 毒々しい二つの魔力がぶつかり合い、押し勝ったのは────俺!!

 魔力量なら俺が勝っているからだ!


 攻める!!



 「ハァァァッッ!!!」


 「グッ…」


 俺の剣が、兄貴の左腕を斬り裂き、破壊の毒を流し込む。それだけで、彼の左腕は機能しなくなった。剣は床に落ち、右手で剣を持ちながら左肩を支えている。


 今だ!更に攻める!


 そう思った俺は駆け出し、剣をぶつけ合う、何度も金属が重なり合う音が鳴り響き、攻防が次々に入れ替わっていく。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 「お゛お゛お゛お゛お゛!!!」


 美しい金属音が幾度も鳴り響き、それを聞き入れた者がいるならば、それを決闘の素晴らしい曲と絶賛することだろう。

 そう思ってしまう程魅入る旋律だった。

 だが、曲というものにも終わりは存在する。

 段々と俺の行動に防御が増えていく。


 防御


 攻撃


 防御


 防御


 攻撃


 防御


 防御


 防御


 防御


 攻撃


 防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御─────



 攻撃させる暇など与えず、兄貴は俺に防戦を強要させる。

 更にそれに加え、体力も底を尽きてきた。限界が来たのだ。

 くっそ……これで、終わりなのか? そう心の中で弱音を吐いてしまうほど、彼は限界だった。


 そして、ファトゥムが弾かれ、兄貴の剣──『魔壊』が俺の眼前に迫る。

 諦めた俺はそのまま─────それは許されなかった。


 キィーン!! と音を鳴らし、魔壊が弾かれる。俺はもちろんのこと、兄貴は驚愕していた。彼の視線の先を見つめると、そこにはザインの姿があった。リアの魔術、『貴方を支える(カムフォーティング)癒し(・ヒール)』は身体能力を引き上げ、更に()()()()()()も一時的だが、付与される。

 ザインはそのおかげで意識を取り戻し、カインが剣で絶たれそうになっていたところを、自分の斧を投げ、絶体絶命のピンチを救ったのであった。


 「おら、リアっ!! 今だ!!」


 ザインのその声で、リアは目を覚まし、最後の(魔力)を振り絞って、詠唱を始める。


 「……蒼天の抱擁、万緑の揺り籠、碧の燐光! 汝はその身を捧げ、我に還す。癒せ! 進め! ことごとくを葬り去り、我が道を創れっ!! 『貴方を支える(カムフォーティング)癒し(・ヒール)』ッ!!!」


 彼女はその詠唱を最後に、また意識を絶った。恐らく魔力枯渇だろう。だが、そのおかげで、俺の身体能力はオーウェンに近しい領域まで至った。


 今なら──できるっ!!



 ザインに目配せを行い、同時に走り出す。恐らく、ザインは一撃でも食らったら終わり。それは当の本人が一番よくわかっている筈だ。じゃあ何をするのか? そんなの親友の俺なら分かっちまう。


 「へっ!! こいよぉぉぉ!!!」


 兄貴が咆哮し、挑発をかける。左腕は使えない筈なのにそれでも尚、彼の脅威度は高い。そのため、俺の()()()()を入れるには隙が必要だ。

 それは親友(ザイン)が導いてくれるっ!!


 「オラァッ!!」


 「?!」


 ザインは斧を持たないまま、兄貴に直接殴りかかったのだ。それには流石に兄貴も驚愕してしまい、隙が生まれる。

 この隙で決めるっっ!!

 彼の剣は、ザインに振り下ろされており、今は───無防備!!


 いけるっ!!!



 「なめんなよ?!!!」


 彼は神速とも呼べる速度で、ザインの意識を一瞬にして絶ち、俺に切っ先を向けようとする。

 流石に剣を構えられたらあの攻撃では決定打になり得ないっ……


 負け


 その二文字が脳裏によぎってしまう。

 だが、それを消し去ってくれるユルン(魔術士)がまだ残っていた。


 「──、──────!! 『暴食の血刃(メド・ブラッド)』!!」


 「ッ?!」


 ()()()()()()()()()()()()。短文化では無く長文詠唱を彼女はコソコソと行っていたのだ。

 短文詠唱ならば、まだ何とかなったかもしれないが、長文となると彼女の魔力密度が高い為、威力は特級魔術を超える程。


 流石にそんな攻撃を無下には出来ず───兄貴は後ろから迫り来る血の刃を、振り返って、斬り刻んでいく。

 たったの10本。だが、それでも、溜めの時間と、彼の隙の時間には充分だった。


 「マジかよっ?!」


 兄貴が叫ぶのも無理はない。()()は俺が今まで一度しか成功しなかった技。しかも力を借りた状態でだ。

 今回も自らの力では無いが、そんなことを言ってはいけない。

 あの時誓ったはずだ。仲間の力を借りて復讐を成す。蛮勇は行わない──と。

 手本は先程見た。なら出来ない理由なんてない。


 俺の魔力が七色に輝き、その名を告げる。




 「ディペンダー流、『奥義』!!」



 「ポンス・イリディス!!!!!!」





 虹が、再来した。




 瞬間、虹の光が神山を照らし、周辺にいた魔物は退散した。とんでもない、力を魅せつけられたからだ。

 俺は兄貴に怒涛の七連撃を叩き込み、山に吹き飛ばした。

 山は蜘蛛の巣状にヒビがはいり、兄貴はそこで───気絶した。


 つまり……





 「俺たちの……勝利……だ……」



 その言葉を最後に俺もまた、気絶するのであった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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