第29話 最終訓練
「よぉ、お前ら」
ものの数時間で兄貴は小屋へと帰還した。
俺達は自分の成果を魅せあっている最中だった。
「『貴方を支える癒し』!!」
「輝け、一光! 『星光線』!!」
「「すっげぇ!!」」
俺とザインが見たものはとんでもない成果だった。
リアは見たこともない魔術を使って、自らの肉体を強化していた。あれは本当に強化魔術なのだろうか? 強化魔術だけじゃあんなに強くなれない筈…
そしてユルンはもっと凄い。上級魔術と特級魔術の詠唱を極限まで短縮しているのだ。特級魔術に関しては少し威力が弱いが、それでも上級魔術とは比にならないほどの威力だ。
…俺なんて中級魔術でギリギリなのに…
当然俺達も『覇断』を使用して、そこら中の山を斬り落としたりしていた。
「何それ?!」
「はぁっ?! 剣と斧だけであんな威力が…」
リア、ユルン共に非常に驚いてくれた。俺とザインは裏でハイタッチをして喜ぶ。いやぁ、でもまだ兄貴みたいに日常的に使用するのは厳しい。そこまで行けたら普段の戦闘力が更に向上するのだが…経験の差かな…
「よしっ、揃ってるな。じゃあお前らに最終試練を課してやる」
「…なんか嫌な気がするのは気の所為かしら?」
「大丈夫だよ。今回はお前ら四人でやるんだから!」
兄貴の笑顔にイラッとする者が数名──否、全員。
でも皆でできるっていうのはちょっと嬉しい。ザインとは何度か一緒に竜と戦ったが、彼女達とは三年間一度も一緒に戦闘なんてしなかったからな。
なんならちょっと楽しみでもある。
まぁでも、兄貴が四人でやる試練とか言ってる時点で不安なのだが…
「最終試験はシンプルだ」
そして兄貴は試練内容を告げる。
「俺を───倒せ」
「「「「は?」」」」
そんな素っ頓狂な声が山に響いた。
何言ってんだ? この兄貴は。
俺達が? 兄貴を?
「「「「…は?」」」」
考えて、考えて…もう一度素っ頓狂な声が響く。
それほどまでに意味不明な試練だったからだ。
「は? って何だよ。おら、さっさと始めるぞ」
次の瞬間、兄貴の雰囲気が変わり彼が戦闘状態に入ると、全員が否が応でも戦闘状態に入らされる。
((((いやいやいや無理だって!!!))))
全員が同じタイミングで同じ言葉を心に零す。
兄貴──カールはランク8の冒険者だが、実際ランク9でもおかしくないと俺は思う。
多分だけど、実績が足りなすぎて昇格できないんだ。
それほどまでの、戦闘技術、思考、身体能力…どれにおいても他のランク8とは一線を画している。
戦闘技術だけならメルダが追いつくくらいだろうか。
そんな事を考えている暇があったら来いよ
そう言わんかのごとく、兄貴は俺とザインに襲い掛かる
「「ッ?!」」
ギギギッ……と、金属と金属がぶつかり合い、固定される音を鳴らす。ちなみに兄貴は二刀流なので、片方を俺の剣で、もう片方をザインの斧で固定している。
2人がかりでギリギリ?! いや、押されてる?!
その事実に気づいた俺達は兄貴の武器を流し、彼の間合いから離脱する。
二人を取り逃したカールの目の前に現れたのは───業火。
後ろには氷柱の群れ。逃げ場はないかと思われた。だが──
「へっ」
一秒もかからず、霧散されてしまう。
「残念。この剣じゃ危なかったな」
「チートでしょ?!」
そんな声を荒らげるユルンにカールは走り出す。
魔術を発動した直後の魔術士には必ず少しの隙が出来るので、そこを狙ったのだ。
まずいっ!!
そう思い、かけ出すのだが…
「速すぎだろ?!」
全く背中に追いつけない。ていうか引き伸ばされている。
兄貴はグングンと、ユルンの元に近づいていく。
(デスナイトよりも速いっ?!)
デスナイトはランク8程度の速度だったが、それよりも圧倒的に速かった。追いつけない?!
ユルンの目の前に来たカールはそのまま二本の剣を振り下ろすのだが…
「?!」
急に彼の足元が泥化する。あれは泥床だろう。久々に見た気がする。そんなことは置いておいて、この隙を逃す訳にはいかない!
まず最初に動いたのはリアだ。
「『貴方を支える癒し』!!」
その強化魔術をザインへと付与する。
これでザインの身体能力は俺に匹敵する程まで上がった。
俺と、ザインはカールに決定打を与える為、剣に異力を伝わせる。
「いくぞ! ザイン!」
「任しとけっ!!」
そして、不可思議な緑の光が舞い上がる!!
「「『覇断』ッッ!!」」
「チッ!」
負けじとカールも自らの剣で受け止めるが、そこに異力はそこまで流れていなかった。
チャンス!!
「押し切れぇぇぇぇ!!!!」
「ヴォォォォォ!!!!」
俺とザインの咆哮が辺りに響く。
もう少しだっ!
もう少しで押し切れるっ!!!
だが、彼等とカールの壁はまだまだあった。
「ッ!! 開花、『緑』緑乱舞い!!」
「「ぐっ……」」
彼の回転斬りの威力により、俺達は後方20mまで吹き飛ばされる。俺が使う緑じゃあそこまでの威力は出せない…
次元が…違う…
「ちょっと油断しすぎたか? そろそろ本気でいくぜ?」
その瞬間、彼の脅威度がグンと上がった気がする。
そして、彼は構えた。
何よりもソレを知っているカインは警告を上げる。
「ッ?! 全員散開して防御態勢を取れっ!!!!」
しかし、悲しいかな。一足遅かった。
「…開花、奥義ッ!!」
「ポンス・イリディス」
次の瞬間、虹の猛攻が咲き乱れた。
まず最初に狙われたのは──リア。
「ぐっ?!」
魔力障壁など、為す術もなく砕け、背中を斬られる。
それだけで、彼女は倒れた。
あれは恐らく『紫』の効果。身体にとんでもない魔力の奔流を流されたのだ。
次に彼が狙ったのはユルン。
こちらもリアと同じやり方で撃破され、床に倒れる。
「おいおい、マジか──」
ザインが次の言葉を喋る前に、自分の眼前にカールが現れ、剣を振り下ろされる。
ガンッッ!! と、力強い音が鳴る。それは剣一本と、斧がぶつかり合う音だった。
そして、カールの左手の剣が、黄色い閃光を放ち、ザインの右肩を穿った。
「ガッ?!」
右肩を穿たれたザインはその痛みに、斧を手放してしまう。
そんな隙を彼は見逃さない。
緋色が咲き、ザインの胸を斬り裂いた。
「さて、もう最後か」
兄貴は倒れたザインを見下ろして告げた。
まさに圧倒的。あの三人をねじ伏せるまでたった約10秒…
いくらなんでも常識外過ぎる…
これが───最上位冒険者なのかよ…
「カイン、お前にはちょっと痛くするぞ?」
「なんだ、いつも通りじゃねぇかよ!!」
俺はギラギラと光る瞳で兄貴を睨み、不敵な笑みを浮かべた。
まだまだ勝負は終わってない!!
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