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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第二章  『神聖国家セーラ』

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第28話  心を鋼と化せ【カールSide】



 なんかウゼェ。そう思った俺はとりあえず


 一発ぶちかましてやろうとした。


 「開花(ブルーム)、『藍』蒼天斬!!」


 俺は二本の剣を構え、真上に飛び、奴の脳天から叩き切ってやろうと思ったのだが…


 『パキーン!!』


 「あれ?」


 ドゴッ!! と、重量感のある音を立てて俺は床に落ちた。


 え? 剣が折られた? まじで? 

 俺の二本の剣は見るも無惨に砕けていた。


 剣というのは使い方次第では何でも斬る事ができる。カールはオリハルコンですら斬れる程の使い手である筈であり、そもそもこの剣はオリハルコンで出来ているのだ。

 技術+パワーまであるのにこうも呆気なく…


 『急に斬りかかってこないでくださいよ。うっかり手を出したら貴方…死にますよ?』


 「ッ!!!」


 ゾクッ! と身の毛がよだつ程、体が震えていた。

 人間という生物の本能で理解しているのだ。

 こいつは何があっても勝てない。抵抗しようにも意味をなさないと。

 別次元─否、次元なんて単位じゃ測れないかもしれない。それほどの強さを奴は持っていた。


 『まあまあ、とりあえず私の質問に答えてくださいよ』


 「ッ! 誰が!」


 『【答えなさい】』


 「ッ?!?!」


 脳に響き渡るような澄んだ声。だがそれは絶対的な命令であった。弱者(カール・ディペンダー)に拒否権など存在しない。あってはならない。

 そう強く思わせるほどの硬くて重い命令。


 「…、俺は家の伝統的な剣術の名称が嫌で出てきたんだ」


 『なるほど…、それはどんな名前だったんですか?』


 「…ディペンダー流─」


 『ブッ!』


 何の音かと思い、近くを見渡すとそれは物音でも魔物の鳴き声でもなく、ただ単に神龍()が吹いただけだった。


 「ふ、ふふっ…ご、ごめんなさい…ただ、…ふふっ、あまりにもネーミングセンスが無さすぎて!」


 『…! そうだよな! お前もそう思うだろ?!』


 カールは最初こそ警戒はしていたが、奴のこんな姿を見ると少しづつほぐれていった。

 その後はディペンダー流についての愚痴を俺がたくさん話して、奴はそれを聞きながら時に笑って、時に嬉しそうにして…


 そして、時に…



 悲しそうで、寂しそうにもしていた。






◇◆◇






 『どうですか? 私が貴方の修行相手になるというのは。どちらにせよ行くところも無いんでしょう?』


 「まあ、確かに。この山を抜けても【ガナムンド大帝国】があるだけだもんな」


 『…あそこには近づかない方がいいですよ。何やらとても強大な力を感じますから』


 「大丈夫だよ。んなところには行かねぇから」


 ガナムンド大帝国、神聖国家セーラと神山と龍血山脈を挟んだ先───大陸の南西部に位置する。

 奴等は非人道的な実験を日常的に繰り返し、虎視眈々と神聖国家と迷宮国の支配を目論んでいるらしい。


 『では?』


 「…っチッ、わぁーったよ。これからよろしくなえっと…神龍?」


 『メリギドスと呼んでください、カールよろしくお願いしますね』


 「んー、なんか言いづれぇから師匠でいいか?」


 『…! …はい、分かりました』


 なぜだかメリギドスは懐かしそうな瞳を俺に向けた。それはとても悲しそうな瞳でもある。

 今日、この日から俺の修行を始めたのだった。



 「ハアッ!!」


 『遅いですね』


 そう言い、師匠は俺の一振りを大きな爪で固定する。

 その巨体で俺の剣を破壊せず、摘むだけなどどれ程難しいかなど、龍から見れば酷く矮小な人間には何も分からない。

 

 「ッ!! 『橙』! 烈火の凪!!!」


 俺は咄嗟に左手のもう片方の剣で奴の身体を押し、右の剣を爪から引っ張り出す。衝撃で割れるかとも思ったが、そんなことは無く、すんなりと抜けられた。


 舐められている…


 毎日それしか感じなかった。

 奴ならこんな剣触れるだけで破壊できるのにしないのは、俺の修行の為。分かっているのだ。分かっているのだが…とても屈辱的に感じてしまう。


 それは何故か。



 『貴方の父上に私の指導方法が似ているからでは』


 「ッ──!!!」



 そう、奴のやり方はあのクソ親父に似ていたのだ。

 どんな剣も軽くいなし、余裕の笑みを絶やさなかった。

 それがどんなに俺の心を揺さぶっていたか──!!


 『だから、ですよ』 


 「あん?」


 『貴方はまだ精神がとても未熟。だからこそ、私──いえ、私達は貴方に対して挑発を仕掛けます。知性のない魔物との戦いでは挑発などあまりされないでしょうが、知性のある魔物や、人と争い合う時、精神という物は非常に大切です。決して揺さぶられない鋼でないといけないのです』


 「──!! ………、……」


 『カール、『心を鋼と化しなさい』』


 一度その言葉を振り払おうと口を開いた─が、辞めた。

 コレがそうだからだ。奴──奴等が言っていた鋼の心、俺にはそれが全く存在していない、と。

 今の言葉を否定しようと暴言を吐けば、それは俺の精神が甘いからだ。


 本当に強い奴とは相手の話を軽く受け流し、心に不安、焦り、憤怒などを抱かない。


 それが、真の強者。


 それを俺は()()自覚した。


 「じゃあ…俺はなんて事を…」


 『…生物はたくさんの失敗を背負って生きているんです。当然と言えば当然の事。ですが、同じ過ちを繰り返すことは、失敗ではない。ただの恥だ』


 「ッ!!」


 『どうですか? カール。今の心情は』


 そう言い、彼に問いただす。この答え次第で神龍はカールを追い出すか決めかねていた。

 だが、カール(弟子)は予想通り…


 「『風のなすままに』」


 清々しい瞳と声で答えた。


 この言葉は彼の先祖、ディペンダー流の開祖。『ジーク・ディペンダー』その人の言葉だ。


 何事にも動じず、何者にも乗らず、ただ自然に添う。


 そんな意味が込もった言葉。

 親父に、ずっと言われてきた言葉。だが、カールは長年理解できていなかった。


 それがどうだ。


 今の彼は数分前とは別次元に位置していると、神龍は確信した。

 そして彼はもっと高みを目指せる。そうも思った。


 『…昔どこかでそんな言葉を聞いたような気もします』


 「ん?」


 『いえ、何でも。さぁ、続きを始めましょうか』


 「ああ、いくらでも挑んでやるよっ!」


 その後のカールの成長はとんでもなかった。


 最初見た時、神龍には彼はランク3程度に見えた。

 それが、僅か一年で自分が教えた『覇断』を習得し、身体能力も大幅に上昇──否、飛躍していった。




 ……ちなみに何回かは改造した。




 …とにかく! まさに神童。そう呼んでもいいほどだ。


 ある時、彼は神聖国家セーラの都市に向かい、ギルドに登録したが、ものの数ヶ月でランク8──最上位冒険者へと至っていた。


 彼にとって足りなかったピースがハマったことで成長の制限(リミッター)が解除され、どんどんと成長していったのだ。



 そして時が経ち、いつしか彼は私に掠り傷をつけるくらいまで成長していた。



 キィーン!! と、甲高い音がこの空間に響く。


 「うっわ、かった?!」


 『いえ、いい動きでしたよ?』


 そう褒めながら、カールを尻尾で叩き落とす。

 しかし、直撃したはずの彼はけろりとしていた。

 更に自分の右腕にはほんの数cmの傷跡が出来ていた。


 「()()()掠り傷つけるのでギリか〜。こりゃどうしたらいいんだよ」


 『いえいえ、謙遜することは無いですよ。私が掠り傷なんて滅多に無いのですから』


 「…」


 そう、今日は修行の最終日。欲を言えばもっとここにいたかったが、ある日街へと向かった時丁度メルダと出会い情報交換をした。


 そしたら何と、俺の村が滅びていると聞いたのだ。

 それを聞いた俺は無心で駆け出し、たった半日でランディ村へと辿り着いた。


 だが、そこは地獄だった。


 家々はなぎ倒され、ところどころには土に乾いた血が混じっていた。


 俺の家も無惨にも無くなり、ウザったらしい親父、優しい母はどこにもおらず、傍には小さなお墓が立っていた。

 恐らくメルダが作った物だろうか。

 墓には一輪の花が添えてあり、とても悲しそうに花弁を開いていた。


 「くっそ…」


 後悔など遅すぎる。これは自分で選んだ道なのだ。

 それを分かっているからこそ、彼は言葉を零す。



 俺の総髪を揺らす風が、絶望を奏でていた。



 メルダに話を聞くと、弟──カインは今も行方不明であり、捜索中らしい。

 俺も必死に探したが、見当たらなかった。

 その為本格的に彼を探す為に、俺は迷宮区に住むことにしたのだ。


 だから



 「今日で最後だな」


 『何を言うんですか。また会えますよ』


 「数年後かも知れねぇぞ?」


 『数年なんて私達長命種からすれば一瞬みたいなものです』


 そう、優しく告げてくれた。そんな声に涙が出そうになるが、我慢だ。

 鋼の精神を忘れちゃいけない。


 それと、と師匠は付け足し、


 『最後にこれを』


 そう言い、奴は俺に二振りの剣を渡してくれた。

 一本は純白、もう一歩は漆黒の剣で正反対のようで同じような物の気がした。


 「…これは?」


 『剣の名は『魔壊』。魔術の術式を砕き、霧散させる能力を持つ『聖剣』です』


 「聖剣って言うとあれか。『世界三王剣』の一種か」


 『世界三王剣』その名は冒険者なら誰でも知っている言葉である。

 剣には4つの種類が存在するのだ。ただの平凡な剣、『聖剣』、『魔剣』、そして『神剣』。この中だと神剣が一番強いとされている。平凡な剣以外の事を総称して『世界三王剣』と呼ばれる。


 聖剣は魔を払うと言われており、その効果は様々だ。例えば魔壊のような魔術を打ち消す効果、魔物に対してのみ斬れ味、身体能力が上昇する効果などがあるらしい。


 魔剣は聖を討つ剣とされており、魔力が薄い人――つまり、魔人以外に効果がある為魔人専用の剣とも言える。

 だが、【魔国ベネム】に殆どの魔人が住んでおり、魔剣の情報があまりに少ない。そのためどんな効果があるのかはさっぱりだ。


 最後に神剣。大昔に数本あったとされているが…今は情報が全くない。ちなみに歴史書に記されている『オーウェン・ランフェル』の大剣、『天魔』と『獄魔』は神剣だったと言われている。効果は載っていなかったが。


 とりあえず、そんな凄い剣を師匠は俺に授けてくれると言うのだ。


 「ありがとう…ございます。これで俺は更に高みを目指せます」


 『あらあら、貴方が敬語だなんて久々ですね』


 「うっせ」


 そんな他愛も無いやり取り。だが、そのひと時がカールは幸せに感じていた。

 だが、それも今日で終わり。今度は新しい幸せを見つけに行かなければならない。それも、俺だけで。もう頼れる神龍(師匠)はいない。自らの足で先に進まなればいけないのだ。


 「じゃあ、ちょっくら探してくるよ。またな」


 『はい。またいつか』


 「…ああ…」


 声を震わせて、彼はこの空間を去っていった。

 鋼の心を忘れちゃいけない…


 いけないんだ。


 でも、


 今日だけは…許してくれ…師匠。





 残っているのは煌びやかな石達と珍しいなんて言葉じゃ言い表せない程の世界の宝、神龍。



 それなのに、とても寂しい空間だった。



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