第25話 昇華【ユルンSide2】
「猛ろ、業の焔よ!! 『業の炎』!!」
魔術は疎か、魔法陣すら展開されない。
そんな何も成長しない自分に嫌気が指していた。
どこぞの彼と同じように。
『やはり密度は高いですが、魔力操作の粗が多すぎます』
そう指導してくれたのは神龍メリギドス。
自分の駄目な部分を的確に指導してくれる。それもこれも全部オーサーを救うためらしい。いや、私は奴を救いたいとは思わないが、成長できるなら…そう思い、教導を願った。
「ふぅ…」
魔術はイメージが大切だ。そのイメージを強く持つために詠唱を行う。つまり、イメージさえ出来れば本来詠唱なんて要らないのだ。ただ、そのイメージが本当に難しい。
下級魔術なら無詠唱で撃てるようになったが、中級でさえ多少の詠唱が必要だ。
それに比べて神龍は凄い。特級魔術ですら無詠唱で放つ姿はまるで母のようだった。
あれ? そういえば私のお母さんってどんな顔してたっけ…?
ふとそう思ったが、母は自分がまだ幼い頃に亡くなってしまった為顔を思い出せないのだろうと納得する。
母は凄かった気がする。どんな魔術も無詠唱で放ち、数多の魔術を創出していた、ような気がする。
…なんでこんなにも曖昧なのだろうか?
長き時を経て記憶が薄れているのか…? それとも…
『ユルンさん。続きを始めますよ』
その一言で私の思考は途切れ、修行を続けるのだった。
◇◆◇
『『終末の壊炎』』
その一言でオリハルコンは無惨にも砕け散る。
あの最高硬度石がまるで枯葉のように燃えていく。
そのせいで更にこの空間が拡がった。
ちなみに『メド』は『ゴア』の上位互換的な存在だ。
基本的に『ゴア』が付く魔術は上級、『メド』が付く魔術は特級だ。
メドやゴアが付く魔術は様々であるが、自分はメド系は数個しか扱えない。
それを彼女は無詠唱で発動させたのだ。
それはかの最強魔術士『ベーラ・メリキス』と同等、否、上回る出力と言っていいだろう
いや、人間が神龍に対抗できる時点でおかしいのだが。
『流石にこの威力を出せとは言いませんが、これくらいまで出来れば貴方は魔王を倒せるでしょう』
「ッ……」
『貴方はその『復讐心』を炎にしてイメージすればいい。そうすれば簡単な詠唱で上級魔術が放てるでしょう』
「…」
『…一度休憩を挟みます。魔力を回復させてください』
魔王、私が最も忌むべき相手。
私が幼い頃、母と父は魔物軍勢によって死亡した。
私はその時に誓った『魔王を必ず殺す』と。
そういえばこの誓いっていつの事だっけ? 2人を殺されてすぐのこと? それともしばらくしてから? 村の場所ってどこだっけ?
両親は亡くなった。あの『不自然な世界』で。
不自然。そうあれは不自然だった。
あれ、というのもまた違うか。『記憶がおかしい』のだ。
言葉でなんと言い表したらいいのか分からないが、実感があまり無いというか、むしろ…
『さぁ、修行を続けなさい』
神龍の声が脳内に響く。
そうだ、そんな事は一旦置いておいて、彼の力にならないと。
そう思い、修行を開始する。
『ああ、もう回復したんですか、やる気がありますね』
その神龍の言葉に私は違和感を覚えた。
? 貴方が私に修行を続けろと言ったのでは?
そう思ったが、そんな事は後回しにして修行を再開する。
魔力を意識するんだ。自分の身体に流れている力を。
そしてユルンはあの言葉を声に出す。
「『思い起こせ。自らの想像を具現化しろ』。」
その言葉は、とある天才魔術士が告げた言葉らしいが、殆ど記録に残っていない。
その者の名前すら、偉業すら、なんなら男か女かも判明していない。
だが、この『言葉』だけは後世に受け継がれていったのだ。
今の魔術士において最も大切な言葉を。
想像
とても燃える炎?
それだけじゃ曖昧過ぎる。
激しい焔?
それも曖昧。
業のある炎?
曖昧。
激しい炎玉?
曖昧。
曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧曖昧
全ての想像が曖昧なのだ。
今までの彼女は詠唱をただ、唱えているだけ。
イメージはそれだけで十分だった。
だが、今は違う。
イメージをして、詠をを紡ぐのだ。
じゃあ自分にとって最もイメージしやすいモノは?
魔術? 家族? やはり神龍が言っていた『復讐心』?
全て違う。
今彼女の心に鮮明に焼き付いているのは
『カイン・ディペンダー』ただ、その人だ。
私の初めてのちゃんとした仲間。初めての信頼できる相棒。
そして……
私が初めて恋をした人。
私は彼が大切だ。
ずっと傍にいたい。
彼に護られたい。
でもそれだけじゃ、彼の傍にいる資格なんて無い。
だから、
彼を護る焰が欲しい───!!!
想像は完成した。
後は言葉を紡ぐだけ。
「貴方は私を。私は貴方を。護華」
「『終末の壊炎』」
『ッ!?!?!?』
私は眼前に赤の魔法陣と終末の焰を顕現させた。
神龍はその魔術に驚愕していた。自分が教えた上級魔術では無く、特級魔術を放ったことに
自分でも驚いていた。まさか私がここまでの領域に行けるとは思いもしなかった。
とりあえずこれは多分撃ったら神龍みたいに、あんな綺麗にこの部屋を広げられず、ここを崩壊させそうなので魔法陣ごと消失させた。
私の焰は神龍や、ベーラ・メリキスには遥かに劣るが、それでも特級魔術としては完璧に燃え上がっている。
『昇華』そう言っても過言では無い。
彼女は新たな次元に至ったのだ。
散った華は私を祝福しているように見えた。
ちなみに同時刻にザインにも翡翠に祝福されている。
『彼を護りたい』その意思さえあれば私はどんな魔術でも詠唱を短縮できるようになった。
『…イメージというのは恐ろしいモノですね』
彼女を見て、神龍は言葉を零す。
これがアリならなんだってほぼ無詠唱で出来てしまうからだ。
例えば、山を砕く、国を焼く、海を凍らせる、
それさえもイメージがあれば出来てしまうのだ。
『本当に恐ろしい…』
◇◆◇
とある天才の魔女の言葉には続きがあった。
『想像を具現化。確かにこれも大切だ。だがそれ以上に大切なのは』
『何者にも負けない意思。それが魔術士にとって一番大切だと思うよ』
今となっては誰も知りえない言葉。だか、この世界ではそれを自分で自覚した者たちがいる。
彼女──ユルンもその極地に降り立ったのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
一応言っておきますが『とある天才の魔女』さんは『とある天才魔術士』さんと同一人物なのでベーラさんではないです。




