第24話 神龍【ユルンSide】
この世界─トールには竜が存在する。
赤竜、黒竜、地竜、王竜等様々な種類が存在する。
どれも冒険者の界隈ではかなりの強敵だ。
だが、そんな強敵の更に上が存在する。
『龍』という上位存在だ。
龍は滅多に見ることが出来ない存在で、主な生息地は迷宮深層域、【龍血山脈】、【北部山地】だ。
しかし、そもそもの話そこに辿り着くまでが難しい。
その為、目撃情報もかなり少ないわけだ。
そんな龍にも当然上下関係がある。
下から、 劣龍、古龍、英龍……
そして、『神龍』
神龍は龍の中でも、ダントツで強い。
ただ、この世に一体しか存在しないという。
ギルドや、冒険者、神聖国家ですらその生息地を掴んでいない。
◇◆◇
「ここでいいのよね?」
「ああ、俺はもう着いて行けねぇが……」
彼─カールが連れてきてくれたのは洞窟の入口だった。
説明は殆ど省かれ、期間と「ただ、この先へ進め」それだけしか言われなかった。
「じゃあ…行ってくるわ」
「くれぐれも…死なないようにな」
最後の忠告をし、彼は去って行くのだった。
「うわ、暗ーー」
洞窟の中はかなり暗く、自分の魔術で明るくするしか無かった。しかもかなり狭くて窮屈だ。
ある程度進んでいくと、目の前から光が見えた。
「光…? 外かしら?!」
外に出られると知った彼女は大急ぎで、光に向かって走り出す。
光は段々と広がっていき、やがて……
「え? これって全部……」
オリハルコン?
そう、光の招待は、『オリハルコンの部屋』だった。
ドーム状の床、壁、天井全てがオリハルコンで出来ており、もしこれを全て売ったら……想像も出来ない。
そんなオリハルコンを見ることに明け暮れていると……
奥の穴から足音が聞こえた。
ドスン…ドスン…ドスン! と。
音はかなり大きい。
ここは半径100m、高さ100m程あるので戦うにはもってこいの場所だ。
穴から出てきたのは───竜
「ッ!!」
竜は一人で相手するにはかなり厳しい。更に見た目からするとかなり上位の竜のようだ。
竜の見た目は、全身が金の鱗で覆われており、全長は約60mと思われる程の巨体だ。
翼は辺りを震撼させるほど大きく、爪はそこら辺の冒険者等為す術なくやられてしまいそうな程鋭利だった。
「一人でいけるかしら?」
そんな問いに答えるモノがいた。
『無理です。貴方なら1秒もかからず殺せます』
「ッ?!?!?!」
喋る竜?! そんなもの聞いたことがない! そもそも魔物って喋るの?!
『混乱しているようですね。ですが、一度殺気を抑えてください。今の私は貴方と戦う気はありませんから』
その声はとても心が安らぐような優しい音色だった。
だからなのか、戦闘形態を無意識にも解いてしまう。
『まずは自己紹介からしましょうか。私は『神龍』であり、名はメリ────……、名はメリギドスと言います』
メリギドスは一度何かを言いかけ、辞めて言葉を続けた。
神龍──おとぎ話でしか聞いた事が無い、伝説の存在だ。
「神龍メリギドス…」
『貴方の名は?』
「私は、ユルン、ユルン・アテラントよ」
『ユルン。良い名前ですね。名前は大事にしてください』
「? ええ」
名前に何か特別な意味でもあるのだろうか? そう勘繰ってしまうほど、彼女は神龍に興味を示していた。
『貴方は何をしにここに来たのですか?』
「! カインの……仲間の力になる為よ!!」
自身のこもった返答に、神龍は嬉しそうな瞳をこちらにむけてくる。
まるで、分かっていたかのように。
『そうですか。では、貴方は私が修行をつけましょう』
「貴方が?」
『ええ、私は貴方に魔術の真骨頂を教えます。ですからくれぐれも、弱音を吐かないでくださいね?』
そんな煽りに彼女は
「当ったり前よ!!」
いつものように自信満々の声を轟かせるのだった。
◇◆◇
『では、まずは『詠唱の短縮』を出来るようにしましょう』
「詠唱の短縮……」
詠唱を短縮する事は様々な者が行っている。
魔術はイメージが強ければ強い程、詠唱を省くことができるのだ。
ユルンが今まで使用していた詠唱は、本や、母から教わったモノ。今からは自ら短い詠唱を作ることを目標とする。
『例えば上位魔術『業の炎』の詠唱は分かりますか?』
「分かるわ!」
『では、見せてください』
「分かったわ!」
次の瞬間、ユルンの雰囲気が変わり、先程のようなふざけた態度とは一転、歴戦の魔術士としての雰囲気になる。
「……炎よ。猛ろ、猛ろ、猛ろ。この地を覆い尽くすほどの業火、燃やして、破壊し、ワタシは赤を望む。この世を焦土に変えろ!! 全てを明く染めて、全てを紅く染めよ! 四大精霊サラマンダー、ワタシに業なる焔を寄越せ! 我が身は炎鬼と化し、赫を招来する!!」
「『業の炎』」
その瞬間、オリハルコンの色を全て赤く染めあげる業火が彼女の目の前に召喚された。
しかし、メリギドスは「フウッ」と息を軽く吹くだけで、それをいとも容易く消し去ってしまった。
次元が違いすぎるッ……
『ふむ、威力はいいですが、やはり詠唱が長い。それだと一人になった時非常に不利です』
褒められはしたが、逆に指摘も受けた。本来なら魔術士は一人で行動する事は無いのだが……上に行くにつれて単独行動も増えるだろう。
確かにこれだと分が悪い。いくら並行処理ができるからと言って、カインや、カールのような身体能力は私には無い。
簡単に放てて且つ、強力な魔術が欲しい──!
『出来れば『業の炎』を一節で撃てるようにして欲しいですね。威力は下げていいので』
「い、一節?!」
一節なんて初級魔術を撃てる位。
そんな威力を作り出すには相当なイメージが必要だ。
『大丈夫、貴方なら出来ますよ』
「なんでそんなに私に肩入れしてくれるの?」
それは唐突な問いだった。ふと思ったのだ。何故自分に力を貸してくれるのか……と。
『……私は、…は、……オーサーを救ってあげて欲しいのです』
「はぁ?!」
オーサー、その単語は彼等にとっての禁句。話題になど殆ど出さなかった。あの悲劇が脳裏をよぎってしまうからだそうだ。
「す、救うって?! てか貴方あいつの事知ってるの?!」
『……私と彼は、かつて共に旅をしていました。共に魔王を滅ぼし、平和に過ごしていました…ですが…』
「待って待って待って!! 何? 貴方とオーサーって知り合いなの?!」
『はい、共に旅をした……その…恋人の様な存在でした』
「ふへぁえぇ?!」
意味の分からない単語を吐き出してしまう程、彼女は混乱していた。
神龍があのオーサーと共に旅を?! てかオーサーって恋愛感情とかあったの?!
思考の海に彼女は囚われ、情報の激流に呑まれそうになっていた。
「あ、そうだ! あいつの力! それを教えてよ!」
『彼の力は───』
その次の瞬間、メリギドスの言葉は止まった。
「ねぇ! 奴の力は?!」
『さあ、修行を続けましょう』
「ッ!!」
彼女は気づいてしまった、神龍は精神を干渉されていると。
でなければあんな急に話を終えたりなどしない。
まて、今干渉されたということは……
(見られてる?!)
『フフフッ、流石にそれ以上は駄目だよ。過度なネタバレは厳禁ってやつだね。少しずつヒントを与えていくのが醍醐味ってもんだよ』
そこは暗く、辺りには大量の魔物がいる場所。魔物はどれも赤竜を凌駕する程の実力だ。
そんな中で無機質な声が響く。
この世の終焉とも言える場所で、彼─オーサーは涼しい顔をして過ごしていた。
とはいっても顔にモザイクがかかってよく見えないが。
「彼って言われちゃったし、男っていうのはバレたからもうこの声で良いよね」
無機質な声が終わる。
それは青年の声だった。
声から聞こえるに大分若々しい。
「ねぇ、ユルンちゃん。君という存在はとても興味深いし、とてもいい駒だ。君のお陰で叙事詩の最後を書けるよ」
とても嬉しそうに笑っている青年。
それは普通の冒険者なら何も気にしない『笑い』。
だが、最上位冒険者ならそれが狂気を帯びた『嗤い』に聞こえる。
「なんかモザイクも嫌だし、これでいいか」
彼はそう言い、仮面を被る。
仮面の絵柄は──道化師。
とても毒々しい見た目だ。
見る者を間違いなく恐怖させる程、気持ち悪い仮面だった。
「さぁ、カイン君次の盤上へようこそ!! いつまでも踊ってくれ!!」
狂著者は嗤う。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




