第22話 覇断
翌日、まずはリアが連れて行かれた。
どうやら麓から神山の頂上まで安全に行けるルートがあるらしく、魔物が一切来ないらしい。
ちなみに当の本人は、
「え? まずは10往復? え? 標高16000mの山を? え? 休み無しで? え?」
死んだような目をしながら、山に向かって行った。
次にユルンが連れて行かれたのだが…帰ってきた兄貴はやはり不安そうであった。いや、マジでどこいったんだ?
「よぉーし、お前らで最後だな」
「んで? 技ってなんだよ?」
「そりゃあ見てからのお楽しみってやつだよ」
俺の質問をはぐらかし、俺達は小屋を出発した。
神山の麓に着き、そのまま登って行った。
そのまま登って
登って
登って
登って
山を7割程登った所で兄貴は立ち止まった。
「よし。この辺りでいいか」
辺りには崖が多く存在しており、下を見下ろすと白の世界が広がっていた。
ちなみに山の頂上に近づけば近づく程、酸素が薄くなるが、そこはリアが作ってくれたマジックアイテムで安全に過ごせるのだ。このマジックアイテムは空気中の魔力を使って込められている魔術を発動しているため、半永久的に使用出来る。
「んで? 何すんだ? ここ何もねぇけど…」
「まぁ見てろ」
俺の質問を軽く流して兄貴は二本の剣を抜いた。
二つの剣の名は『魔壊』。魔術なら斬るだけで霧散させるというチート能力。
兄貴は剣を持ち、静かに何かを待っているように見える。
何をしているのか聞こうとしたが…辞めた。
自分よりも遥かに強い、圧倒的なプレッシャーを感じたからだ。
『グギャオオーーー!!』
そんな雄叫びと共に兄貴の目の前に赤竜が顕現する。
奴のランクは推定8。町を軽く滅ぼせる程だ。恐らく、あの時のデスナイトよりも圧倒的な格上だ。
そんなバケモノを前にしても兄貴は冷静だ。
そして、剣をクロスさせ、その名を呟く。
「『覇断』」
次の瞬間、赤竜はクロスに斬断され、そのまま死亡した。
バケモノがあんなにもあっけなく殺された事実を目の前に、俺とザインは驚愕していた。
「さて、見たよな? 今の技『覇断』は剣に異力を込めてそのまま敵を斬る技だ。今日からお前らにはこの技を覚えてもらう」
そんな兄貴の言葉に俺達は…興奮していた。
あんな凄い技、誰だって使いたいに決まってる。
兄貴の言葉に対して、俺達は、
「「よろしくお願いします!!」」
その一言を発したのであった。
◇◆◇
「し、死ぬ…」
「もう無理…」
先程とは一転、威勢が無くなって死にかけていた。
『覇断』――それはあまりに高度な技だった。
まず第一に異力を動かすといった事をしないのだ。
カインはザインを治癒する為に無意識に剣に異力を流せていたが、その感覚を忘れてしまっている。
ザインは当然の如く経験が無い。
俺達が出来るのは体から異力を放出することくらいで、剣に伝わせる等できなかった。
それに異力をあまりに使い過ぎると、体力が無くなっていき、最終的には気絶してしまう。その気絶するかしないかギリギリの境目を彼等はさまよっているのであった。
「おいおい、そんなんでへばってちゃ復讐なんて夢のまた夢だぞ?」
兄貴は当たり前の様に剣に異力を纏わせている。自分達より遥か、に異力の使用効率が良いのだ。
集中しろ。
ザインを助けたあの時を思い出せ。
異力の流れを掴んで……
流し込む!!
そうして異力は流れた。流れたのだが、直ぐに霧散してしまう。
「ッ…!!」
「残念。異力を固定出来てねぇよ」
叱咤を受けながらもまた流し始める。
何度だって。
何度だって。
何度だって。
何度だって。
何度だって!!
そして、修行を始めて三年が経過しようとしていた。
髪は伸び、身長もあの日より高くなっていた。
「フゥ……」
集中する。思考だけでなく、身体全体で。思考は幾らでも増やせるのだから。
身体の異力の流れを感じ取る。
心臓部から流れて、そのまま腕へと意識して流し込む。
そして、手に流し込み……剣に伝わせる。
ここまでが第一関門
次だ。
異力の固定。これが非常に難しい。
異力を無理矢理押さえ込もうとすると、膨張して霧散してしまい、逆に優しく包み込むようにしても固定する前に霧散してしまう。
ならばどうするか。
答えは単純。その二つの境界線を見極めるのだ。
だがこれは本当にヤバい。
ほんの少しの境界線のズレだけで終わりだからだ。
だから、思考を増やす。
無理矢理押さえ込もうとする思考と、優しく包み込むようにする思考。二つを作る。
抑え込め!
包み込め!
抑え込め!
包み込め!
抑え込む事三時間。
「ッ!! 出来た!」
俺のファトゥムは不可思議な緑色に輝いていた。
横で見ていた兄貴は始めて目を見開いた。
そして、運がよく、その場に奴が現れた。
『グギャオオーーー!!』
赤竜。三年前だったらビビり散らかしていた相手。
だが、今の俺には
ただのデカブツにしか見えなかった。
「『覇断』──!!」
俺は駆け出し、赤竜を脳天から斬断した。
その瞬間、奴は無惨にも二つに裂け赤黒い血液が辺りを舞い散るのであった。
赤黒い血の舞いはまるで成長を遂げた青年を讃えるようにも見えた。
◇◆◇
「ハッ!」
目が覚めた時、そこは小屋の中だった。中には兄貴、ただ一人が胡座をかいていた。
「よぉ、目が覚めたか」
「ザインは?」
「あいつはまだ修行中だ。お前を見て熱が入っちまったらしい」
俺が寝ていたのは覇断のせいで異力が枯渇してしまい、気絶していたからだそうだ。
今度はそこも気をつけなければならないな。
「…なぁ、兄貴…俺さ…」
「よくやった」
「え?」
別の事について喋ろうとしたのだが、言葉を遮られる。兄貴のありえない言葉によって。
「え? ってなんだよ? 俺は純粋に褒めたんだぜ?」
「いや…、だって、昔は一回も優しくなんてしなかったじゃないか!!」
想起される、過去の日常。木刀でただ殴られ、怒られるだけの毎日。そんな兄貴の顔しか知らなかった。
でも今は違う。純粋に褒めてくれたのだ。あの兄貴が。
「たりめーだろ。あの時のお前に覚悟なんて無かったからな」
「! …」
「だが、今は違う。覚悟を持ってこの修行に取り組んでる。そんなだから褒めたくなっただけだよ。言わせんな!」
そう言い、部屋を出ていこうとしたのだが…引き止める。
「兄貴! 俺さ、昔はあんたの事が嫌いだったんだよ。俺より才能があるくせに、俺なんかよりずっと努力してて…しかも所々で怒るし…それがなんかムカついてたんだ」
「…」
兄貴は立ち止まり、無言で聞いていた。
「でも、あの日…ザインの時に再会して、久々に怒られた。その時に気づいたんだ。あんたは自分の憂さ晴らしに怒っているだけじゃなくて、俺の道筋を示す為に叱ってくれてたんだって…」
「…!」
「ごめん、今までごめんなさい。散々酷い事言ってきて…それなのに、また俺の道を示してくれて…感謝以外の言葉が浮かばない…」
「…ばぁーか。俺はお前の兄貴だ。当たり前の事をしてるだけだよ」
そう言い、部屋を出て行った。
兄貴がいた場所に一雫の涙を零して。
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