第19話 エピローグ
「いでっ…」
幼い少年が頭を抱え悲鳴を上げる。
「まぁーた俺の勝ちかよ…やっぱ二刀流より先に剣を覚えろよ」
そう溜息と共に言葉を零す。彼の身体はとても鍛え上げられており、生半可な実力ではねじ伏せることが出来ないと見るだけでわかる。
しかもまだ子供なのだ。周りの大人達は将来が恐ろしく感じていた。
それに対して、悲鳴を上げた少年は身体は弱々しく、特にこれといった才能は無い。
彼――兄と比較されることがしょっちゅうだ。
「ッ…、兄貴は良いよな?! 才能があるからってもてはやされて…それに対して俺は…」
その先の言葉を言う前に木刀が少年――カインの顔に飛んだ。それも相当な強さで。
「ガッ?!」
カインはその衝撃により吹っ飛ばされ、ズキズキと痛む顔を抑えた。
「馬鹿言うんじゃねぇぞ? 確かに才能がある事には違いねぇ…だがな俺だって努力してこの場に立ってんだ。努力すら足りてねぇ奴に才能がどうとか言われる筋合いはねぇよ」
兄貴―カールはとても怒っていた。過去に類を見ないほど。
言葉を吐き捨てた後、彼は家へと帰って行った。
そんな彼を俺は―嫉妬の目で見つめていた。
「カイン、今のはお前が悪いんだぞ?」
そう、後ろから声を掛けられた。
「父さん…」
父――へリード・ディペンダーは冒険者だった。ランクは忘れちゃったけど、それでもとてつもなく強いということは子供ながらに感じ取れていた。
「だって…俺には才能なんてないじゃないか?! 二刀流はもちろん、一本だって下手くそだ! …なんで俺だけこんなに弱いんだよ…」
「カイン…」
カインの目は闇を見ているような、そんな瞳をしていた。
自分以外は皆才能がある。
兄貴と父さん、■■■だって剣の才能がある。
母さんだって魔術の才能がある。
そんな中、俺だけなのだ。何も無いのは。
剣は才能ナシ、魔術も中級止まり…
ランディ村の皆だって皆強い。これまでにも数々の上位冒険者を輩出してきた。
生きるのが――辛かった。
何よりも、自分の事を憎んでいた。
努力はしている。だが、死ぬ程しているわけでは無い。
それは心のどこかに諦めがあるからだ。
そんな自分に心底嫌気が刺していた。
でも、そんな自分をちゃんと見てくれる者もいた。
父さんと、■ル■だ。
「あのな、カイン。確かにお前に剣や、魔術の才能が無い事は事実かもしれない。でもよく見てみなさい」
そう言いながら、指を指した。
彼女に向けて
「ほら、お前のおかげで笑顔になってる奴もいるんだ。それはお前の『人の良さ』があったからだ」
自分の目にはもう父さんの指と、その先でこちらに向かって走ってくる少女しか見えていなかった。
「だからな、カイン。わざわざ強さなんかに固執する必要は無いんだ。父さんはただお前が幸せに暮らしてくれればそれで十分なんだよ」
「父さん…俺は…」
「カインー! 早く遊ぼー!!」
言葉を発する前にメ■■が俺を呼ぶ。
そんな様子を見て、父さんは笑った。
「ほら、お前の姫さんが来たぞ? 遊んでこいよ」
「…分かったよ」
俺は顔を赤らめ、彼女の元へと向かった。
視界には光輝く彼女と夕陽がいっぱいに映っていた。
◇◆◇
「いやいやなんでこんなとこにいんだよ。通報案件だぞ」
俺の蔑む目線の先には兄貴―カールが床でのたうち回っていた。
「いや、用事があってだな。決して犯罪じゃねぇ!」
自信満々に言っているが、鍵が空いていないからといって窓を割り、中に侵入したのは当たり前に犯罪だ。
昔の兄貴のが良かったな…本当に。
「はぁ…まあいいよ。んで用事ってなんだよ?」
埒が明かないので、とりあえずその用事とやらについて聞いてみる。
「ああ、その事については彼女が話してくれるよ」
そう言った直後、前方の扉がガチャリと開かれる。
その先には美しい『純白』が佇んでいた。
「『白剣姫』…メルダ・ディンス…」
言葉を漏らすザインの目線の先にはメルダがこちらへと歩いてきていた。
その圧倒的プレッシャーに俺と兄貴以外は全員気圧されている――否、一人だけ違う者がいた。
「あんたがメルダね?」
ユルンが彼女に挑発するように声をかけたのだ。
「お、おい、ユルン…」
止めようとしたが、彼女はメルダの眼前へと躍り出た。
「そう。私が『天頂の円卓』クラン所属ランク8、メルダ・ディンス」
「…」
なんだろう、二人からとんでもない覇気が感じられるし、何より目線の交差が滅茶苦茶バチバチしている様な…?
「――は私の物」
「いいえ、私のものよ!!」
よく聞こえなかったが物の取り合いでもしてるのかな?
とりあえず止めないと…
そう思い彼女達を引き離す事にしたのだった。
「それで? 用事って結局なんなんだ?」
「…前言ったこと覚えてる…?」
「ああ、覚えてる。協力しないかって話だろ?」
「うん。今の貴方はどう考えてるのか、それが聞きたかったの」
メルダと兄貴を除き、皆が俺を見つめる。彼女と協力するか否か…と。
まあそんなものもう決まってる。
あの時から…な。
「…俺は…」
一拍置き、告げる。
「メルダと協力しようと思う」
と、真剣な表情でメルダに伝えた。
伝えた…のだが
彼女は頬を赤らめ…
「キャア♡」
と言い、床に倒れた。
鼻血を出しながら
様子を見るに気絶しているようだ。
「「「「…へ?」」」」
何故だか滅茶苦茶腹を抱えて笑っている兄貴を横目に、俺達は彼女をベッドに運び込む。
え? まじでなんで急に倒れたの…?
彼女が目覚めるまで5分とかからなかった。
「ん、んん。ごめんね急に倒れちゃって」
―カインがカッコよすぎるのが悪いんだもん。
その静かな声は誰にも聞こえなかった。
いや、一名きっちりと聞こえている者がいた。
ユルンはメルダをまるでライバルと言わんばかりの瞳で見つめているのだった。
「大丈夫か? 急に倒れたもんでこちとらビビったぜ? 何せ最上位の冒険者が倒れるなんて滅多にないからな」
「本当に大丈夫なの?」
ザインと、リアから心配の声をかけられるが、
「うん。もう大丈夫」
「それで? 俺達はこれからどうしたらいい?」
とりあえずこの先の行動を知っておかなければならないと思い、聞いてみる。
「カ、カインは私達と一緒に北の――」
「いいや、カインは俺に着いてきてもらう」
メルダの言葉を遮り、兄貴が発言した。
「はぁ?!」
「だってあいつは弱すぎるだろ? このまま北の戦線に出ても死ぬだけだ」
二人は言い争っていた。
意味はあまり分からないが、少なくとも俺はどちらでもいいと考えている。
この先の方針もあんま決めてなかったしな。
「分かった。そこまで言うなら勝負しよ。どっちがカインを連れてくか」
「いいぜ。乗った。懐かしいなぁ? 昔もこうやって取り合ったもんだ」
二人から魔力のオーラが溢れ出し、部屋が軋み、ひび割れていく。
その余波だけで二人がどれ程の強者かがよく分かる。
でも
「いやいや、家壊れるから」
そう言い、間に割って入った。
「おい、カインそこをどけ。久々にこいつとやり合いてぇんだよ」
「カイン、ごめんね? これは奪い合いなの。決して譲れない…ね?」
「いやいや、人の家でやるなって」
本当にこいつらなんなんだよ? 急に人様の家で暴れだしやがって…
兄貴は元々相当気性が荒いのは分かってるけど、メルダまでこんな性格だったのか?!
「じゃあ、外でやれってことかよ?」
いやいや、外でやったら騒ぎになるって
「んな事ダメに決まってんだろ? ここはあの手を使おう」
「カイン? あの手って?」
メルダが尋ねてくるがそんなもの決まっている。
「準備はいいか?」
そう聞いてみると
「あたりめぇだ」
「うん。大丈夫」
準備は整ったようだ。
「じゃあ始めるぞ」
さあ始めよう!!
「Ready……Go!」
俺の声と共に開始の狼煙が上がる
「「最初はグー、じゃんけんぽん!!!」」
そう! ジャンケン!!!
昔異世界から来たとされる者達から伝えられた真剣勝負。
ここでは全てが平等となる。
強さなんて関係ない。
ただ、運で決まる。それだけだ。
「「あいこでしょッ!!」」
「「あいこでしょッ!!」」
「「あいこでしょッ!!」」
「「あいこでしょッ!!」」
戦いは長引き、そして56回目…
「「あいこでしょッ!!」」
「っしゃあ! 俺の勝ちだ!!」
「うわぁ~~~ん!」
結果、兄貴が勝利し、メルダは涙と共に床に崩れ落ちたのだった。
「…なんなの? これ」
「さあな? アイツらは強すぎるからまあしょうがないっちゃしょうがないが…」
「カインもなんであんな乗り気なのかしら…」
リア、ザイン、ユルンと続き歴戦の猛者達に呆れる。
まあ少なくとも、戦い合うよりかはマシだ。
そんなこんなで、俺は兄貴に着いていくことになったのだった。
◇◆◇
「じゃあこれでいいんだよな?」
夜明け前、闇夜に密談してる者達がいた。
「うん。今のカインは言っちゃ悪いけど、まだ弱い…。北の戦線で鍛えようと思ったんだけど…」
「そんなとこ、急に連れてったらあいつ死ぬぞ? それに、他の奴らも本当に弱すぎる。カイン以外は即死レベルだ」
でも、とカールは付け加える。
「ユルン…あの女はなんか違ぇ…何か特別の様な気が…」
「あいつはただのカインに近づく女狐。それ以上でも以下でもない」
すげぇ敵対心だな…、と苦笑する。
瞳からハッキリと心情が読み取れる。
「あいつと会えなくなるのが悲しいか?」
「…うん」
とても悲しそうで、寂しそうな目をしていた。
瞳からは今にも涙が溢れ出そうだ。
「大丈夫だよ。あの時よりかは短いんだからな」
「うん。カインをよろしくね?」
「ああ、任しとけ」
そう言い残し、カールは去ろうとする。
が
「…カインをあまり虐めないでね?」
「…善処する…」
「女狐をカインから遠ざけてね?」
「…善処する…」
めんどくせぇ…、心底そう思いながら、その場を後にするのだった。
◇◆◇
日が昇り、カイン達を光が照らす。
街の東門に皆集まっていた。
「じゃあ行ってくる」
メルダに一時の別れの言葉を伝える。
「うん。待ってるね。…何時までも」
「いいえ、このままあんたとカインは会わないわ!」
まぁーた喧嘩が始まろうとしてる。
なんでそんな相性悪いんだ?
とりあえずザインが、ユルンを捕まえ、馬車に投げ込む。
「ほら、さっさと行くぞ?」
「わーってるよ」
兄貴の声に誘われ、俺も馬車に乗り込む。
中には気絶しているユルンと、それを看病しているリアが座っていた。
「なぁザイン。お前あの一瞬で気絶させたのか?」
「ん? あぁ」
ザインの実力はランク3まで戻っているようだが…
俺と同じで一度でも頂きに達したんだ。
そりゃ前よりも強くなるか。
そう納得し、二人で座るのだった。
「じゃあ…行ってくるな」
「うん。奴等に勝てるように…」
兄貴とメルダが何か話しているようだがあまり聞き取れない。
そうこうしているうちに、兄貴も馬車に乗り込み、出発する。
窓から見たメルダはやっぱり懐かしい感じがする。
何故だろう。どこかで出会ったことがあるのだろうか?
「そんで? 結局『神聖国家セーラ』のどこで修行すんだよ?」
ザインが兄貴に問いかける。
確かに詳細はあまり聞いていなかった。
とりあえず、奴等を倒す為には力が必要だ。
その為の修行をつけるために神聖国家に向かう。その事は聞いたのだが…
「…セーラは三分割されている。一つ、人間達が暮らす『都市メリス』、二つ、エルフ達が暮らす森『エデンの園』そして…」
「人間もエルフも近づけない場所、『神山メーリス』…ここで俺は昔、家出をした後過ごしていた」
「は、はぁ?! 神山で生活を?! 神山は最上位冒険者達でも滅多に近づけないほど、強力な魔物がいるのに?!」
リアが驚愕する。
神山――高さ約16000m程ある山。とんでもない魔物がうじゃうじゃと湧いており、稀にその魔物がメリスや、エデンの園に降り立ち、とんでもない被害をもたらすという。
「まぁ、あれは死ぬかと思ったな。大蛇の毒牙に噛まれたり、ドラゴンに食われたり、およそ5000m程ある崖に落ちたり…災難だったなぁ…」
「え? あんた本当に人間…?」
え、まって俺達そんなとこ行くの…?
「「「「ああ、女神セルフィナ…今そちらに向かいます」」」」
「いや、死なせるわけねぇだろ。メルダに顔向けできねぇよ」
―まあ死なない程度には痛めつけるけど。と彼の顔が物語っていることを、全員が分かっていた。
「オーウェン、オーサー…。必ず殺してやるよ」
青年は成長する。
復讐を果たすため、最強を目指して――
「…誰か…殺してくれ…」
嘆きは闇に沈む。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これにて第一章終了です!!
次は第二章へと突入します!
まずはここまで見てくださった皆様に感謝を申し上げます。
これからもカインの成長は続いていきますので、応援よろしくお願いします!!
追記
第二章は少し投稿が遅れる場合があります。
ご了承ください。




