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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第一章

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第18話  重い風



 混乱が収まった街でただ一人、興奮が溢れ出て爆発している者がいた。


『あぁ…カイン君やっぱり君は素晴らしい…』


 無機質な声のわりに恍惚の色を帯びていた。


『君はまた、一歩進んだんだ。()()になるための一歩を』


 その狂気じみた姿はまるで道化師のようだ。


『さぁ、着々と()()()()()()している。僕も最後の鍵がそろそろ欲しいかな』


 そう言い、鋭い目つきで迷宮(ダンジョン)を見つめていた。 






◇◆◇






 俺がザインを殺してから1週間が経った。

 街は未だに亡くなった人々の弔いを行っている。

 そう、俺も――


「カイン? 大丈夫?」


 声を掛けてきたのはユルン。聞いた話によるととんでもない魔術を放ち、ランク8に致命傷を負わせたらしい。

 聞いた時は本当に耳を疑ったものだ。だって彼女は()()()ランク3なんだから。

 『あの時』というのは今はランクが変わったからだ。

 流石にランク8を長時間足止め+致命傷は功績がでかすぎたらしく、ランク3から5という異例のランクアップをしていた。

 ギルドが言うには本当なら6か7ぐらいに上げてもいいが、流石にそこまでは厳しいそうだ。

 ただでさえこの時期は忙しすぎるだろうしね。

 ちなみにそんな俺もランク7になっていた。ザインを一人で殺ったのが功績だったのだろう。


「ああ、あの時の怪我は殆ど完治したよ」


「…違うよ。カインの心の傷はどうなの? ってこと」


(…そんなの決まってるじゃないか。)

 

 心には今にもはち切れそうなくらい膨張した怒りが溜まっている。

 親友を殺させたあいつ(オーサー)を許すわけがない。


 でも


「…怒ってないって言ったら嘘になるけど…」


「カイン…」


 とても俺を労ってくれるような瞳を向けてくれる。まだ自分の傷だって完璧に癒えているわけじゃないだろうに。


「でも、スッキリはしてる」


「え?」


「今度は…一人じゃないから」


 そう、もう一人では戦わない。

『七色のクラン』全員で戦うんだ。


「そうだろ?」


 俺はもういない彼に目線を向けた。

 その先には墓石が置いてある。



〜勇敢なる七色のクラン副団長『ザイン・カーディフ』ここに眠る~


 と記述されている。

 当然この文を考えたのはカインだ。


「そう、あいつが羞恥心で死にそうになる文だ!」


「カイン…人の心ってある?」 


 なんだろうなんでか分かんないけど金髪のドブカスが頭に浮かんだ気がする。

 そんな事を考えていると懐かしい声が聞こえた。


「本当ですよ…カイン…さん」


「! …リア…」


 そう、元七色のテラスメンバー『リア・シリオン』だった。

 あの事件の日ザインと共に第38階層に避難してその後は会っていなかった。

 いや、俺が会おうとしなかったんだ。


「その…お久しぶりです…」


「あ、あぁ…」


 彼女は前と違い敬語になっていた。そりゃあそうだろう。あんな事件があった後団長が逃げるような真似をしたのだから。

 でも、彼女と出会ったからには必ず言わなければならない事がある。


「その…ごめん!!!」


「…え?」


「皆を置いて…自分だけで全て解決しようとして…結果としてこんな事になった…全部の責任は団長の俺にある」


 彼女は驚いていた。予想してた反応と違ったのだろうか?


「…」


「本当にすまなかった」


「?!え、ちょっと…カイン…さん?!」



 彼女が驚くのも無理はない。なぜならカインはその場で彼女に向けて土下座したのだ。

 地面に頭を血が出るほど擦り付けて。

 端の方で見ていたユルンも驚いていた。


「許してくれ、とは言わない。これは全て俺の責任だか…」


 次の瞬間、頭に拳骨が飛んだ。


「?! 痛っ?!」


「〜〜〜!! そういう所だよ!! 今だって責任を自分だけで取ろうとして、全然分かってないじゃん?!」


「…リア?」


 気づけば彼女に敬語は無くなり、あの時と同じ口調に戻っていた。

 その後はお説教タイム。今までの事全て怒られた。

 ああ、懐かしいな。ザインとなんかやらかした時もこうだった。




「…だから私にも協力させて。今度は全員で戦おうよ」


 既に額の傷は癒えていた。そう彼女はヒーラー。そんな傷なんてちょちょいのちょいなのだ。

 そんな申し出にカインは


「ああ、俺から頼む。皆の仇を一緒に取ろう」


「もう、本当に馬鹿なんだから…」


 そう、リアが肩を落としていると


「本当だぜ! 俺達いっつもこいつのせいで迷惑被ってたんだからな!? だから…頼むぜ」


「ええ、任せてザイ…え?」


 カインとリアが後ろを振り返るが誰もいない。そこにはどっしりと墓石が立っているだけだった。


 その日の風はどこか重いような気がした。まるで獣のような。重く―優しい風だった。






◇◆◇






 その日の帰路カインとユルンと()()は並んで帰っていた。

 ()へと

 歩いてる途中、ふと思い出した事をユルンに伝える。


「なあ、ユルン」


「何?」


 彼女の声は少し怒っているようにも聞こえた。…俺なにかしたか?


「この前、蛮勇は禁止って言ったろ?」


「…?うん、それがどうしたのよ?」


「…一番の蛮勇は俺だったなって事だよ。自分のせいで、周りを傷つけて…」


「はいはい、そんな話終わり! さっさと帰るよ!」


 暗い空気を変えてくれたのはリアだった。


「あ、そうだ。俺ちょっと寄りたい所があるんだがいいか?」


「? うん、別にいいけど…」


 俺の足は真っ直ぐと街の病院へと向かって行った。





 ガラガラと静かな音を音を立てながらドアを開く。

 そこには懐かしい彼女―『ノーラ・テリネス』がベッドに横たわっていた。

 彼女の瞳は――死んでいた。ザインから聞いた通り廃人のようだ。


「ノーラ、」


 カインはその先の言葉を紡ぐ


「本当にすまなかった。だから…、だから、早く治して俺を叱って…俺達にまた指示をくれよ…」


 そう言い残し、部屋を去っていった。


 ノーラが多少反応を見せたことは誰も知らない。


 そして、まさか思うまい。これからずっと先彼女がカインの命を救うとは…




「着いたよ。ユルン…さん」


「ユルンでいいわよ。貴方の事もリアって呼ばせてもらうわね!」


 この帰りの道中で彼女達はかなり仲良くなったみたいだ。いやぁ〜何より何より。


 着いた場所は――元七色のテラスの本拠地、つまり俺とリアの元家だ。

 中はリアが掃除してくれていたのかとても綺麗であった。


「広いわねぇー」


「21人も住んでたからね…」


 昔はこんなに広いとは感じなかった。今はただ、寂しい広さを感じる。


「ん? 灯りが点いてるわよ?」


 と、ユルンが声を上げる。

 確かに奥の部屋――元会議室の灯りが点いていた。

 ここに出入りする者はリア以外いなかった筈だ。


「…武器を用意しとけ」


 そう言うカインも、ファトゥムをしっかりと握り締める。

 恐る恐る扉を開けてみると――



「ぐがァーぐがァー」


 机の上で、鼾を立てて寝ているカールの姿が見えた。

 そんな姿に俺は――



 渾身のパンチを放った。


「?! グェッ!」


 とても汚い声を放ち、床にのたうち回った。その姿を全員が軽蔑した瞳で見つめていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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