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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第一章

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第17話  緋



 そう、俺はずっと、ずーっと復讐心を抱いていた。

 彼女(ユルン)と食事をしたり、一緒に訓練した時も

 ずっとその黒く汚れた魂が光る事は無かった。



 だけど



 今はそんなのどうでもいい



 時刻はもう深夜。そんな中月明かりに斧と白銀の剣が光り輝く。



 今はただ戦い(喧嘩)がしたい!!



「ハァッ!」


「オラァ!」



 あの日、『鋼の心臓』で二人で選んだ斧と剣が、月光を切り裂きながら相手に振り下ろされる。


 ザインの斧はとても重く、力では敵いそうもない。ならば―


「フッ!!」


 カインは『ファトゥム』を斜めに掲げ、斧の重圧を横に逃がす。


『キィィィィィィンッ! 』と鼓膜を突き破るような金属音が街に響き渡った。

衝撃でカインの足元の石畳がクモの巣状に砕け散る。


(重い……!)


 カインの腕は既に悲鳴を上げていた。


 ザインの力は、絶望によって研ぎ澄まされ、さらにオーサーに植え付けられた歪な魔力が、その肉体を限界以上に強化している。


 だが、カインは退かなかった。



 一歩。



 折れそうな足で、逆に踏み込む。


「ッ!!」


「オラァ!」


 ザインの追撃。


 斧を振り回す遠心力を利用し、一回転してからの横凪ぎ。


 カインはそれを『ファトゥム』を縦にし盾として防ぐが、あまりの衝撃に身体が浮き上がる。

空中で無防備になったカインを、ザインの蹴りが襲った。


「ガハッ……!」


 再び民家の瓦礫へと叩きつけられるカイン。


 突き刺さる破片が頬を切り、視界がさらに赤く染まる。


 ザインは止まらない。

 

 肩で荒い息を吐きながらも、すぐに距離を詰め、倒れたカインを見下ろす。


 その顔は――笑っている。


 だが、その瞳からは絶え間なく涙が溢れ、土埃に汚れた頬に筋を作っていた。


「なあ覚えてるかよあの日の事…」


 ザインは斧を構え直しながら、独白のように話し始めた。


「俺はあの時、世界が真っ暗に見えてたんだ。そんな時に、お前が現れて……その…漏らしてた俺に『え、きもぉ』なんて、ふざけたことを抜かしやがった!!」


 斧を振り上げる。

 何故だか分からないが、若干怒りが込められている気がする。何故だろうか。


「『獣の重圧』――!!」


 ザインのスキルが発動する。

 斧から放たれた衝撃波が、カインの周りの瓦礫を完全に粉砕した。


 カインは間一髪で横に転がり、立ち上がる。


 ファトゥムの刀身が、カインの深紅の魔力を吸い上げ、赤みがかる。


 カインは剣を真っ直ぐに構え―


「フッ!」


 カインが地を蹴り、とんでもない速度で走り出す。


「おおおおおおお!!」


「カインッ!!」


 二人の影が交差する。

 斧と剣が、互いの肉体を削り合う。



 一閃。



 カインの『ファトゥム』が、ザインの右腕を掠め、斧の軌道を僅かにずらす。


 その代償として、ザインの拳がカインの顔面にめり込む。

 カインは鼻血を吹き飛ばしながら、構わずザインの懐に潜り込んだ。


「ゴブッ…」


 カインは吐血する…だが




 無理矢理密着する。


 互いの心臓の音が聞こえるほどの距離。


「ッ?!」


 ザインは驚愕し、力が弱まる。

 その瞬間を見逃さず、ファトゥムの柄でザインのみぞおちを強打した。


「グッ……ア……!」


 カインはファトゥムを高く掲げた。

 周囲の瓦礫が、カインの放出する圧倒的な魔力の衝撃波によって蹴散らされる。


「不可能を、可能にする――。ザイン、お前の罪は俺が一緒に背負ってやる。だから、俺と一緒に来い!!」


 カインの叫びが、夜の街を震わせた。

 ザインは、その光に射抜かれたように、立ち尽くした。

 泣きながら、けれどその顔には、一筋の、どうしようもない希望が兆していた。



「……本当にお前は……救いようのねぇ、クズ野郎だ……」


 ザインが斧を手放し、差し出されたカインの手を握ろうとした。


 


 ―だが、それを運命は許さない。




「ガ?! ガァァァ!!」


 ザインが頭を抱えながら絶叫する。


「ザイン?!」


 大丈夫か?と言い、近づこうとしたのだが―


「ザ…イン?」


 彼の目は既に光を失っていた。

 次の瞬間、ザインが衝撃波を放ち、カインは吹き飛ばされた。


「グッ…」


 一瞬カインを見たザインは直ぐに別の方向を向き、近くにいた民間人に近づき斧を振り下ろす―




「馬鹿野郎!!」


 ガン! という重圧を感じる程の音を出し、斧を弾き、首に剣をかけるが――


「で、できない…」


 その瞬間ザインはカインに蹴りを入れ、吹き飛ばす。


「ガッ…」


 吹き飛び、動けないカインを無視し、ザインは民間人にもう一度斧を振りかぶる。


「い、いや…」


 彼女は怯えて足がすくんでいる。


「やめろォー!!!」



 そしてザインは斧を振り下ろし――




「?!」



 近くの住宅に吹き飛ばされていた。



「お前…」


 彼を吹き飛ばしたのは―


「兄貴…」



 カインの兄、『カール・ディペンダー』だった。



「助けに来てくれた―」


 その言葉を言い終える前にカインはカールに思いっきり、ぶん殴られた。


「グハッ!」


 鼻血を出して、カインは床に倒れる。


「お前、ふざけんじゃねぇぞ…?」


 カールの声は怒りで震えていた。


「なんで躊躇ったんだ?」


「こ、殺したく無いからだ! あいつは俺の親友で…だから――」


「…自分の友達でいて欲しいから、またあいつに殺人を犯させるのか…?」


「…! 全部聞いてたのか…?」


 カールはカインの質問を無視し、続ける。言葉は酷く冷たいようで


 優しかった。




「もう、既にあいつは暴走状態だ。解除する方法は黒幕の奴を討つしかねぇが…どこにいるのか分からねぇ…探してる間に間違いなく人を殺す」


「…」


「なぁ、()()として、お前はどうするんだ? 俺が殺ってもいい。苦しむ暇もなく仕留めてやる」




 カインの脳内に走馬灯の様にこれまでの思い出が流れていく。



 初めて出会った時、あいつの目は―とても暗かった。

 何もかもを失った昔の自分を見ているようだった。


 だからこそ、許せなかった。

 自分に甘えている奴を――昔の俺を。


 だから無理矢理ダンジョンに連れ込み、トラウマを克服させた。

 あの時か、あいつの目が太陽の様に輝き出したのは。

 そんな太陽に惹かれて、俺はあいつとパーティになったんだ。


 パーティになって、2人で沢山の冒険をした。

 ダンジョンに潜ったり、クエストをこなしたり、飯を食らったり、そんな楽しい時間だった。


 1人じゃなくなった俺は久しぶりに『楽しい』と感じた。

 仲間も増えて、クランだって作り上げた。


 そんな時間が――楽しかったんだ。



 だが、あの日見るも無惨に仲間達は死んでいった。

 メルダから話を聞いて、仲間ですら信用出来ないと思い、捨てた。









 いや、嘘だ。





 アイツらとの殺し合いだけは避けたかったんだ。

 仲間を切りたくなかった。

 尤も、アイツらはそんな事情なんて知る由もないが。



 自分に仲間を捨てたと言い聞かせた。もっと自分に復讐心を燃やさせる為に。

 


 でも、そのせいでアイツらを傷付けてしまった。

 自分が力を得ようとしたばかりに。







 もう、辞めよう。

 自分に嘘をつくのは。


 そんなのは本当の『カイン・ディペンダー』じゃない。


 父さんにも笑われちまう。



 この復讐は俺だけのものじゃない。

 『七色のテラス』全員のものだ。

 俺一人で背負っていいものじゃ無かったんだ。




 なあ、お前はそれを分かってたんだよな。







 ザイン








「いや、俺がやる」


 その言葉を分かっていたようにカールは下がった。


 ああ、やっぱり俺の兄貴だ。


 俺は立ち上がり、ぶつかった壁から這い出てくるザインを見つめる。



「なぁ、ザイン。言ったろ? 不可能を可能にするって」


 そしてカインは蒼く、真剣な瞳でザインをしっかりと見つめ、走り出す。

 その速度は今までの比では無い。


「ガァ…」


 ザインは体の動きを止め、カインを見つめる。見てわかる。ザインは抵抗しているのだ。操られている体を押さえ込もうと。



 友として―仲間として―クランの団長として―そして―――たった一人の親友として

 自分が救わなければならない。




「俺に任せとけ。死んだらごめんな」


 そう、ふざける。彼等にとってそれが当たり前の日常だからだ。




――いやいや、絶対ミスんなよ?!


 そんな声が聞こえたような気がした。

 それは懐かしいようで、取り戻したい声だった。



 カインのファトゥムが緋く輝き出す。それはとても明るく、優しい赤だった。




「ディペンダー流、『赤』!!」




――ルーケンス・アフェクトゥス



 次の瞬間、カインのファトゥムがザインの右肩から沿って()()を斬る

 離れた場所から見ていたカールは「…殺ったか…」と思っていたが

 

 

 次の瞬間、目を見開くことになる。



 ザインから暴走の色が消え、胸から血を出して倒れた。

 しかし、胸はまだ動いていた。

 そう、心臓を斬った筈なのに彼の心臓は動いていたのだ。


「ハァ、ハァ…」


 カインは肩で息をしており、今にも倒れそうだった。だが、彼の瞳からは喜びが感じられる。


「成功…だ…」


 その言葉を最後に彼は倒れた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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