第12話 心の吐露
街には戦火が燃え広がり、悲鳴、絶叫が絶えなかった。
門番の人に聞いた話によると敵はたったの四名。
しかし、とんでもない強さだという。ギルドが出した推定ランクは、内1人がランク10、それ以外はランク8以上らしい。
奴等を討伐する為にランク8以上の冒険者がいるクラン以外は殆どが迷宮へと避難し、民間人の護衛を行っているという。
かの最強クラン『天頂の円卓』クランが主に指揮をとり迎撃している。
「俺らも行くぞ!ユルン!」
「分かったわ!」
走り出すカインの心には、またあの悲劇を繰り返させないという意思がこもり、ファトゥムは不可思議にも多少の光を帯びていた。
◇◆◇
2人は住宅街の細道を通り、最短で大通りに向かった。情報によると大通りに大剣を持った大男と『天頂の円卓』クランが現在交戦中という。
それ以外の三名は場所を転々としており、情報が無い。
(まさか…あいつなのか…?)
カインの脳裏によぎるのは1人、この世で最も憎む存在が浮かんでいた。
そんな事を考えていると
「カイン!」
ユルンからの警告が飛んだ。
その瞬間カインは横に大きく飛んだ。
『バゴォーン!!』
石タイルの床を破壊し、その下にある地面までも破壊し、半径2mのクレーターが出来ていた。
「ッ、!!」
カインはその瞬間、その攻撃が誰によるものなのか気づいてしまった。
それは自分の親友であり、元同じクランであった大切な存在―――
『自己境界』があるにも関わらず思考が停止してしまった。
その一瞬の思考がカインの隙だった。
『…獣の重圧』
その瞬間カインは住宅街を貫き100m程吹き飛んだ。
その後攻撃を放ったローブの男はカインを追いかけに行った。
「ッ!カイン?!」
驚いたユルンはカインの元へ向かおうとしたのだが――
『絶対零度』
その酷く冷たい無機質な声を発したローブの女に退路を絶たれ、手足までも固定されて身動きが取れなくなってしまった。
(?!特級魔術?いくらなんでも詠唱が早すぎるわ!ていうかそもそも詠唱してたかしら?)
「貴方は何者?」
小声で上級魔術『業火の炎』を発動させ、氷を溶かしながら聞いた。
『…ワタシハ、ヴェル…『ヴェル・アルゴノア』ヨ』
彼女はユルンが魔術を発動している事を気にもせずに答えた。圧倒的下だと見下しているからだ。
『アナタ、ワタシタチノトコロヘコナイ?』
そんな質問を投げかけてきた。
「?!」
ユルンは魔術の詠唱をしているので話せないが、驚愕の色を示していた。
ヴェルはそのまま話を続ける。
『アナタノコトヲ、アルジハモトメテイルノ。ダカラキナサイ?』
質問かと思ったが違った。これは命令なのだ。圧倒的上位存在による命令、弱者に背く権利など無い。
だが、ユルンは折角カインとパーティを組めたのだ。しかもヴェルの様な無機質な女にされるなどたまったものではないと思い答えた。
「んーなつまんない人生送りたくないわよ。私はあの修行が楽しかったし、まだあっちの展開すら進められてないんだから!!だから絶対あいつを振り向かせてみせるのよ!」
そんな答えに全く興味の無さそうなヴェルは
『ソウ、ジャアチカラヅクデイクワヨ?』
その発言と同時に真上から上級魔術『星光線』が三本も降り注いだ。
氷を溶かした彼女は紙一重で回避し、特級魔術の詠唱を始めながらヴェルの攻撃を避けるのであった。
◇◆◇
「ゲッホゲホ…」
吹き飛ばされたカインは数秒意識を失っていた。そもそも100mも飛ばされたのに数秒だけなのがおかしのだが。
「なんでお前がこんなことしてんだよ…」
カインはローブの男の正体を言った。
「ザイン!!」
そう言われた『ザイン』はローブを外し、顔を見せた。
その顔は長年一緒に戦い続けてきた親友の顔だった。
「よぉ、カイン。久々だな」
そんな少し楽しそうな声でザインは喋った。
「んで、なんでこんな事をしてるのかって?そうだな…お前を殺したかったからだよ」
「…は?」
カインの声は怒りと混乱で震えていた。
「は?ってお前…俺を置いて行った奴はどこのどいつだよ?」
「…」
「俺ぁ悲しかった。仲間を失った上にお前まで俺を置いていくなんてな。ノーラだってあの後、鬱になっちまった」
「…」
そうあの事件の後『ノーラ・テリネス』は鬱になり、家にひきこもってしまったのだ。
「だから…俺はお前を恨んでんだよ…責任も取らずに逃げ出したお前をな!!」
ザインの目は怒り一色だった。
何故自分と一緒に悲しんでくれなかったのか、何故自分達の居場所を無くしたのか、そして――
何故、逃げ出すようにして置いていったのか。
「それは…」
そこから先の言葉をカインは発せなかった。彼の精神が何者かに支配されているから信用が無く、一緒に行けないなど信じてくれる筈もないからだ。
「言い訳すらねぇのか…もういいよ、死んでくれ」
その言葉と同時にザインは漆黒の斧を持ち、カインに振りかぶった。
勿論カインは回避した―――のだが
「ぐっ?!」
何故か腹に血が付着していた。自分の血だ。
「驚いたか?こんな技使った事無かったからな」
そしてザインはカインと離れた位置から斧を振りかぶり、斬撃を―飛ばした。
「は?!」
その飛ぶ斬撃をカインは避ける事が出来なかったので、剣で受けたのだが
「ガハッ!」
攻撃を受けたと気づいた瞬間、近くの住宅の壁まで吹き飛ばされていた。
彼の口からは真っ赤な鮮血が流れ、胸には大きな傷口が開いていた。
「おいおい、そんなもんなのか?オーウェンをあんだけ追い詰めたっていう男の力は」
「お前…オーウェンの事を?」
カインは驚いた。この前聞いた時はあの事件は異常事態のミノタウロスのせいだと言っていたからだ。
「んな事はどうでもいいだろ。集中しろよ」
その直後また目の前から黒の斬撃が飛んできたが、何度もやられるカインでは無く――
『ギュイーン!』
『ディペンダー流《青》ソニトゥス・フルクトゥウム』により斬撃を受け流す。それにしてもとんでもない重さだ。前のザインとは比べ物にならない程。
少し驚いたザインを見逃さずにカインは走り出し、ザインに剣を放つが楽々と斧で防がれる。
その瞬間――
「ッ?!」
カインは飛び退いた。何か自分から吸われてる感覚があったからだ。
「ふん、なる程な」
何か分かったかのようにザインは頷く。
「…何をしたんだ」
「お前の感情を覗いただけだよ。いっつも隠してる感情を」
「?!」
それはカインが心に秘めていた心情。ユルンにさえ伝えていなかった心情だ。
「お前、オーウェンをぶち殺す為ならどんな手も厭わないつもりだな?例え自分が堕ちてでも。あんなに深紅の心なんて初めて見たぜ。ずっと隠してるだけで復讐心なんてもんじゃ到底言い表せない心をな」
――そう、飯を奢った際も、指導をしていた際も―そしてユルンにパーティを誘った時もどうやったら奴を殺せるか。それを心の隅でずっと考えていたのだ。
カインはオーウェンを殺す為なら殺人すら厭わないつもりだった。
「そんな心が歪んでる奴があんな純粋な奴とパーティを組むとか笑えてくるぜ。どうせ利用出来るとでも思ってんだろ?」
ザインの発言は煽ってはいるが真実だった。
確かにカインはユルンを利用しようと考えていたのだ。彼女は他の人と違い、敵の精神攻撃が効いていない。こんなに有用な味方があるだろうか、そう思っていた。
メルダでさえもいつか利用しようと考えていたのだ。
「…」
「おいおい、だんまりかよ?そんな屑な奴だったんだなあ!お前は!」
口を聞かないカインにザインは斧を振りかぶるが―
『キィーン!』と斧を弾かれる音が響いた。
ザインは驚いた。今圧倒的にステータスで上回っているのはザインなのだ。
そんなザインの攻撃を難なく弾いたカインの目は深紅の目をしており、光が灯っていなかった。
「…そうか、お前はそれを知ってるのか…ユルンもここには居ないし、いいよな」
カインから深紅の光が漂う
「おうおう、真実を言われたら怒るのか?やっぱお前は屑人間だなぁ?!」
少し驚いていたザインは落ち着きを取り戻し、カインを煽った。
「もういいよ、人の親友の口使って喋んじゃねぇよ」
「何言ってんだよ?俺は俺だぜ?」
けろりとした声でザインは喋る、がカインには分かる。これはザインでは無いと。
「違ぇお前はザインじゃない。ザインの心情を読み取り、操っているだけだ。こちとら長年の付き合いなんだ。舐めんじゃねよ」
そんな突き刺すような視線でザインを見詰める。
「確かに俺はあの日お前らを置いて行った。確かにその事は悪いと思っている。後でどんな罰でも受けようと思った」
「…」
「だがな、それはお前に対して言う言葉じゃねぇ、お前の中にいる『ザイン・カーディフ』への言葉だ」
「…」
カインの言葉にザインは何も喋らない。
「聞くぞ?テメェは誰だよ?どこの屑だ?」
怒りを含んだ声でカインは聞いた。
「…アハッ、アハハハ!やっぱり君は素晴らしいよカイン君!流石僕の見込んだ男だ」
「…テメェは誰だ?」
「フフッ今は『オーサー』とでも呼んでくれたまえ」
「オーサー…ザインを返して貰うぞ?」
カイン殺気だけでランク4以下の者は失神してしまうだろう。それ程までに圧倒的な殺気と圧力だった。
「フフッ…今の君はどこまで出来るかな?」
こうして、カイン対ザインの争いが勃発したのであった。
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