薫りがぁ!番頭さん?美味かろう?うんうん。じゃがのぅ。周りも見た方が、良くないかぇ?
しかしのぅ。
ダリルさんは、やるコトが細かい。
ちゅうか、あん炙りへ熊の獣脂を混ぜ込ませちょったでな。
実はカツを揚げた油は冷やして固めてちょるんじゃ。
しかも冷凍しちょる。
こん油自体、揚げる際に対流しちょってな、沈殿層のマル芋湯に接しておった訳じゃ。
その際に、余分な灰汁や雑味がマル芋湯へと。
揚げるカツからは衣を介してじゃが、肉の旨みと肉へ塗布した香味野菜などからの旨みがの。
そん旨みが溶け込んじょる油じゃぞい。
それを溶かし、水晶石から発した霧へと混ぜ込んじょる訳じゃ。
燻製肉は、燻したコトで余分な脂が落ち、水分も抜けておる。
まぁ、水晶石にて肉の水分を、ある程度、抜いたりしちょるでな。
そんな燻製肉へ、水分と脂を補充するように。
すると、肉汁滴る燻製肉ちゅう、訳が分からん代物にのぅ。
燻製肉は燻製液へ漬けて燻しちょる。
故に香辛料なんぞも効いておってな。
コレが酒の摘みとしては、最高なんじゃがなぁ。
これ、酒や飯なしじゃと、ちと辛い。
それが、霧状の水分と脂が浸透するコトで、非常に食べ易くの。
むろん、酒にも飯にも合うぞい。
じゃが、そん侭で食ってもイケる。
うん、こーらぁ、美味い。
番頭さんも受け取り、口へ入れて目を剥く。
ほんで、無言で食べよるわい。
うん、夢中になっちょるな。
最早、周りが全く見えちょらん感じじゃて。
流石にトランス状態までは成っちょらんが、もう、夢中で食べちょるわい。
役人達が羨ましそうに、のぅ。
商隊の面々も、釘付けじゃて。
皆が皆、ヨダレが、のぅ。
ロゼッタさんや、拐われて来ちょる娘さんも、例外ではない。
いやいや、嫁入り前の娘さん方が、して良い表情では無かろうに。
ん?
ロゼッタ嬢にはハゲルさんが居るで、関係ない?
ま、そんハゲルさんも、ガン見しちょるでのぅ。
なにせダリルさんの料理は、そん香りがの。
この腹ん中から飢えを湧き上げさせるような、膨よかで芳醇たる芳香に、視覚異常にのぅ。
跳牆ちゅうスープがあるそうじゃ。
様々な具材を甕に封じ、長時間煮込むコトで作られる、究極たるスープらしい。
こん名の由来にはの。
その香りに引き寄せられ、修行僧が壁を乗り越えて来てしもうた、ちゅう逸話がなぁ。
ハッキリ言う。
燻製肉と腸詰を炙っただけで、そん逸話を超える放薫がのぅ。
こりゃ、下手したら僧侶だけじゃのぅて、死者が棺桶開けて彷徨い出るレベルじゃてな。
そんなんを、一人で食っちよるんじゃぞい。
周りから、血走った目で見られちょるわい。
これ、ヤボぅないかぇ?
襲われにゃ、エえんじゃが。
とは言え、流石に深層狩人のダリルさんの前じゃてな。
そがぁなコトをするヤツは居らん。
さっき、胴体から真っ二つにされた死体が、ソコに有ったんじゃからの。
流石に役人が片付けちょるで、既にないんじゃが。
よう考えたら、死体が有った側で食っちょる訳じゃ。
ようヤルわい。
『いや、それを言うなら、マスターも同じでは?
同じように見ていたのですから』
コッチは映像じゃてな。
現場に居った訳ではないでのぅ。
それよりも、じゃ。
番頭さんが食い終わったようじゃな。
「コレが、アノ不味いと噂である、フォアハンド・レッドグリズリーですか?
今まで食べて来た料理が、何だったのか?っと言うレベルの美味さだったのですがね。
コレ、本当に、フォアハンド・レッドグリズリーの肉なのですか?」
信じられん、ちゅう感じでのぅ。
「加工したからな。
普通に調理して食ったら、食えたモンではあるまい。
特に灰汁抜きが重要だ。
特殊な処理方法ゆえ、誰でも行える技法ではない。
その技法を用いても、この肉には臭みが残る。
故に、燻して匂いをチップ香とブレンドした訳だ。
悪臭も、単独では酷いのだが、他の香りと混ざると昇華される場合もあるのだ。
今回は、その技法を使った訳だな」
狩人としての知識なのじゃろうか?
あの獣臭さを、こがぁな香りへとのぅ。
流石がじゃて!




