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56.この遺跡作ったやつ絶対性格悪い

 とまあ、それから二週間くらいは特に変化はなかった。

 あえて言えば私の腕が伸びて、遂に肘が形成されたこと。

 肘が形成されたって言い方は我が事ながらだいぶ常識離れ過ぎる。

 でもそう言う他ない。

 だって伸びたんだもん。

 関節なかったのに今あるんだもん。

 ちなみに聖龍曰く思ってたよりだいぶ順調らしい。

 初めは二ヶ月かかる見込みだって言ってたけど、この調子なら一か月と少しくらいで治りそうとのことだった。

 同時に「大人しくしてろよ(意訳)」みたいな小言も貰ったのでまたなんかして怪我してくるとでも思われてるみたいだ。

 これにはさすがの私も憤慨した。

 そんな落ち着きのない子供みたいな扱いは何事だ。

 こちとら今世はまだしも前世を含めれば立派な大人である。

 ならばそれなりの扱いをもってしかるべきなのだ。


 といきり立ったはいいものの、そういえば聖龍と会ってからほぼ毎日怪我してたのを思い出したんですよね。

 うん、なんも言えねえ。

 この二週間も散々怪我しまくってるし。

 や、ほとんどはその場で治してるからバレてはいないんだけどね。

 けど怪我してるのには変わりないので文句言われても仕方がない。

 自重する気はないがね!


 あ、あと昨日靴も貰ってきた。

 前の靴がようやく足に馴染んできた頃だったから新しい靴でどの程度動けるか不安だったけど、これが意外と動きやすい。

 前までの靴はちょっと大きくて踏ん張る度に足が滑ってたからね。

 まだ少し硬くて足首が曲げづらいのはご愛嬌だ。

 そのうち柔らかくなるでしょ。


 で、私は現在遺跡に潜っていた。

 そしてこの遺跡、探り始めてわかったけどちょっとよく分からないレベルで広い。

 今いるのは階段を二つ降りたところなんだけど、それでもまだまだ先がありそうな雰囲気がある。

 何階層あるのこれ。

 ちょっと興味沸いてきちゃったよ。

 時間が許せば一番下まで潜っていたかもしれない。

 まあそんな時間ないんだけどさ。

 ここにいるのもあくまで魔力操作の練習みたいなものだし。

 存分に龍になって暴れられる場所だとそっちに頼ってしまっていけない。

 私は人間の姿のままで戦えるようになりたいんだ。


 さて。

 そういえばこのあたりになると魔法無しだとさすがに苦戦するような相手が増えてきた。

 閉所だからそこまで大きな相手はいないんだけど、小型の熊くらいの大きさの魔物は結構いるのだ。

 一番手強いのだと狐みたいな魔物かな。

 普通の狐との違いといえば、この遺跡の魔物に何故か共通してる額の目みたいな宝石と、首のあたりまで裂けた口である。

 怖い。

 普通に怖い。

 なんでそんなところまで裂けてるの。

 なんの意味があるの。

 あと何が厄介って、牙に毒があるみたいなのが厄介。

 一つ上の階で狩りをしてる場面に遭遇したことがあるんだけど、ぴょこぴょこ壁とかまで足場にしながら一度噛みついては離れるみたいなのを繰り返してて、ちょっとしたら獲物のほうが直立したまま動かなくなった。

 力尽きたなら倒れるだろうし、直立したまま動かなくなるっていうのはちょっと違和感がある。

 だから毒があるって判断したんだけど。


 とにかくここで訓練するならあれの相手もしなきゃいけないわけで、聖龍に魔法で解毒とかできないのか聞いてみたら「毒の種類がわからなきゃ無理」って言われた。

 この種類ってのは神経毒とか出血毒とか、そういう意味らしい。

 それらを理解した上で魔法で適切に対処すればどうにかなるとのこと。

 ちなみに麻痺してたから神経毒っぽいって伝えたら、じゃあ自分で解毒するのは無理だから諦めろって突き放された。

 無常である。


 で、問題。

 ここ、横幅狭い。

 相手すばしっこい。

 噛まれたらアウト。

 じゃあどうするか?

 もう魔法引き撃ちで殲滅よ。

 それしか対処する術がない。

 私って毒に弱いんだなー。

 龍だからか?

 いや別に風操ったり炎操ったりしないしそもそも最近の龍なんですけども。

 近づくだけでダメージって便利そうだとは思うけど、あれ絶対私もダメージ食らうからね。

 やってたまるか。


 まあここ最近はそうやって狐はボコボコにしつつたまにボコボコにされたりしながら訓練に励んでいたわけです。

 そうそう、あと前に感知した奇妙な魔力ね。

 あれも時々魔力探知に引っかかる。

 出会ったら抵抗する間もなく殺されそうだから直接見たことはないんだけど。

 ただあれ、なんか複数いるとは思えない。

 多分一匹。

 同時に二つ以上感知することがないのだ。

 この世界において、魔力っていうのは生物の体を離れると分解されるものである。

 まあ私が持ってる転移のペンダントとか例外はあるけど。

 とにかく、この奇妙な魔力の持ち主は、恒常的に魔力を発している以上生物と仮定して間違いないはずだ。

 それなら当然生殖のために最低でも一組は番を作れなきゃいけない。

 だというのに感知できる限り似たような魔力は一匹しかいない。


 おかしくないか?

 こいつ本当になんだ?

 そもそも、初めて感知したのは一番上の階だ。

 ここまで下る過程で上の階はほとんどしらみつぶしにしたけど、その過程でこいつと同種の魔力を感知したことはない。

 だから初めに感知した魔力とこの階で感知した魔力の持ち主は同じと見ていいはず。

 本当に謎だ。

 あとこの遺跡の魔物、縄張りとかの関係か階層を跨いで移動することがない。

 なのにあれは一番上の階から二つ下のこの階まで移動している。


 ふーむ……もしかしたらこの遺跡のヌシ的なものなのかもしれない。

 この遺跡全体を縄張りにしてるなら見回りのために上の方の階までやってきてもおかしくはないし、他の個体は最下層の巣の近くにいるならこの場に一匹しかいなくても不自然ではない。

 ま、いろいろあれについて推測しても、私があれの相手をすることは多分ないだろうけどね。

 もしいい勝負ができそうなくらい強くなれたらやりあうのもやぶさかではないけど、腕が治るまでにそこまで至れるかははっきり言って微妙なところ。

 よってあれと出合い頭に出会わないように警戒するくらいしかない。


 なんて、すっかり癖になったマーキングを無意識に行いながら分かれ道を曲がった瞬間。

 ぴりっと足の裏に棘が刺さったような感覚。


 まずっ、罠踏み抜いた!

 思わず出そうになる舌打ちを我慢しながら後ろに飛び退くと、一瞬だけ魔力の流れが見えた。

 それは壁に向かうでも天井に向かうでもなく、ただその場に留まり───そして、床が変形した。

 ここ地下だろとか下の階はどうなってるんだとか文句が頭の中を飛び交ったけど、そんなことはお構いなしに床が壁に吸い込まれるようにして消えた。

 そう、消えた。

 突然床が消えたならどうなるか、賢明な人物なら考えるまでもなくわかるだろう。

 つまり、落ちる。

 落ちる!

 そう落ちるんだよ!

 しかもそれが罠だった場合下に何があるかわかったもんじゃない!

 落ちてたまるか!


 自由落下しようとする体をどうにか阻止すべく、翼を広げ壁に爪を立てて勢いを殺す。

 幅がそれほど広くなかったのが幸いしたんだろう。

 少し落ちたところでギャリギャリと嫌な音を立てながら完全に停止することができた。


 ふう……びっくりした。

 角を曲がった瞬間とか、今までになかったから完全に油断してた。

 なんて一息ついてる間に頭上で穴が塞がったけど、特に問題はない。

 魔力に反応して作動するんだから、反対側からでも魔力を流してやればちゃんと開く。

 下にパカって開くタイプだったら離れたところから作動させないといけないからちょっと面倒だけど、どうやら床の形が変わって穴ができるタイプみたいだったからその辺も問題なし。

 もし下まで落ちてたらどうなってたのかなー。

 ちょっと気になったから明かりにしていた火魔法で下の方を確認してみる。

 で、下のそれが火に照らされて浮かび上がった瞬間、肌が粟立った。

 虫だ。

 虫。

 それも私より大きいムカデだの黒光りするあいつだの、とにかくカサカサと蠢いて生理的嫌悪感を煽るようなやつらがひしめき合っていた。


 何を隠そう私、虫とか大嫌いである。

 マジで。

 オデ、ムシ、キライ。

 そいつらが目に入った途端、なんの躊躇いもなく反射的に明かりにしていた火を思いっきり叩きつけていた。

 一瞬の集束の後、眼下で大爆発が巻き起こった。

 その熱風に乗ってギィギィと耳障りな断末魔も聞こえてくる。


 もうやだ……おうちかえる……。

 落とし穴の下に虫用意しようとか思うなよ……槍とかにしておけ槍とか……整備いらずでおすすめだぞ……。

 てか何百年も昔の遺跡なのになんで生きてるんだあいつら……。


 気を抜くと力が抜けそうになる体を叱咤しながらなんとか穴を登り切り、天井の罠に触れて作動させて外に出る。

 そんでしばらくグロッキーである。

 主に虫見た精神的ダメージのせいで。


 いやね、いくら虫が苦手と言っても普通に虫見てもこうはならない。

 その辺歩いてて、急に巨大な虫の群れに出くわしてもゆっくり後退するくらいには冷静な自信はある。

 ただ、今回はあと一歩であの中に叩き込まれそうになったのだ。

 変な想像が頭を過ぎって仕方がない。


 うう……今日はもうやめにしよう……不貞寝したい……。

 そう思って、ズルズルと体を起こした時だ。

 地面に突いた手の下が淡く光った。

 また!?

 しかもここだけかスイッチ!

 局所的すぎる!

 バッと飛び起きて一気に距離を置く。


 ……あれ?

 別に何も起こらないな?

 こけおどし……?

 なわけないよな。

 そんなことする意味ないし……と警戒する私の前で、溶けるように左側の壁が消えた。

 もしかして隠し通路?

 正解引いちゃった?

 とか思ってたら、奥の方からパッと感知しただけでも20を超える数の魔力が近づいているのに気付いた。

 あっ正解じゃないですねこれ。

 どう考えても隙を生じぬ二段構えですね?


 そして、半ば確信めいた予想をしている私の前でそれが飛び出してきた。

 カサカサと何本もある足を蠢かす胴長で無機質なやつとか、新しく出した火魔法の明かりを受けててらてら黒光りするあいつとか。

 そう、さっき焼き尽くしたあいつらと同種のやつら。


 うっそ……だろ……?

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