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55.この教師、スパルタが過ぎる

 てなわけで早速翌日、聖龍に連れられて川辺に来ていた。

 河原は石だらけで足場が悪いので、ちょっと離れた所で二人とも人の姿で相対する。

 ちなみに服は着せられました。

 なんか、前と違って短めの動きやすいやつだし、靴も脱ぐように言われたので一抹の不安があります。


「先に行っておくが、わしに人の武術など期待するなよ」

「サボった?」

「いや、才がなかった。小僧とやり合ってもいつも転がされておったものじゃ。まあ魔法を交えれば負ける事は滅多になかったがの」


 へー。

 力があるならどうにかできそうな気もするけど、まあ聖龍は小さいしな。

 そういう体格的な問題もあるんだろう。


「ほれ、ではやるか。先ずは魔力の操作じゃがな、わしがお主の魔力を弄るからそれをなぞってみよ」


 聖龍が手を伸ばして、私の肩に指先で触れる。

 そこからチリチリとした熱を感じた。

 と、思った直後私の中の何かを優しく慎重に掴まれたような感覚を覚える。


 あー、これが魔力を弄るってこと?

 なんかむず痒いようなくすぐったいような変な感じがする。

 たとえるなら眉間を指で触られてる、あの感覚に近いと思う。


「自分の魔力の流れに集中し、わしが離してもその流れを保つんじゃぞ」


 そう言うなり、聖龍が私の魔力を先導して動かし始めた。

 私の中を通っていると言うよりかは、皮膚を貫通して魔力の先端を摘んで引っ張ってるような感覚だ。

 それに釣られるように左腕がピクピクと痙攣する。

 が、そんなこと気にしてる余裕はない。

 言われた通りに魔力の流れを意識するので精一杯である。


「この方法は初めのうちは負担が大きい。ほれ、慣れぬ靴は足に合わぬじゃろ? しばらくは腕が軋んだりもするが、まあ我慢じゃな」


 いやそんなこと言われても複雑過ぎてちょっと追いつかないです。

 なんだこれ、蜘蛛の巣みたいに魔力が張り巡らされている。

 筋肉も骨も内側から魔力で支えられてる感じた。

 しかも中心というものが無くて、複雑に絡み合っているもんだからどこが始点なのかもわからない。

 これ全部聖龍が把握して操作してるのだとしたら、それこそ丸1日かけても覚えきれない気がする。


「さて、こんなもんじゃな。離すぞ」

「待って」

「そう難しく考えんでもよい。ある程度魔力を誘導すれば勝手に動く。元々あるものを利用してるだけじゃからな、全てを把握する必要はない」


 そう……なのか?


「大事なのは絶やさぬこと、満遍なく行き渡らせる事じゃ。意識するのはそれだけで良い。かといって多すぎれば腕が破裂するから、まあ慣れじゃな。お主はただ今の魔力の流れを覚えよ」


 なるほど。

 それなら多分できる。

 サラッと怖い事が聞こえた気がするけど。

 てか今更だけど魔力って怖すぎるな。

 扱いミスると自滅しかねないじゃんか。


 っとと、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

 絶やさない、満遍なくだな。

 よし、これだ。


「では離すぞ」


 私の準備が出来たのを見て、聖龍がそっと魔力を手放し、肩に添えていた手も離した。

 私は私でそのままの魔力を維持するのに集中する。

 何とか形にはなってる……と思う。

 聖龍が手を離しても変わらず魔力は流れ続けている。


「よしよし、では殴ってみよ」


 そう言って聖龍がさっきの私みたいに手を上げた。

 え?

 いいの?


「なに、お主よりもわしの方が慣れておる。遠慮する必要はないぞ。それに、殺せたなら儲けものじゃろ?」


 聖龍がパチッとウインクしつつ冗談めかして言った。

 おーけー、わかった。

 両足を斜めに開き、魔力を込めたまま左腕を後ろに引く。

 で、それをそのまま振り抜く!


 私の拳が聖龍の手のひらにぶつかると、バァンと物凄い音がして風が巻き起こった。

 髪がバサバサとなびく。


 いっ……た〜!

 いや違う拳は痛くないんだけど!

 背中が!

 尋常じゃないくらい痛い!

 なんで背中!


 私が腰をいわした年寄りみたいに固まったら、聖龍が堪えきれないみたいに笑い出した。


「……なに?」

「いやな、うむ、まあそりゃそうなるじゃろうな。ほれ、腕は体に繋がっておるじゃろ。ならば当然、強い力で殴れば体にも響く。腕は耐えても何もしていない体は耐えられんじゃろ」


 こっっ……のババア!

 いや口が悪いな!

 このおババア様!

 何も言ってなかったやろがい!

 それを知ってるなら先に言え!


 あががが背中いわしたこれ。

 痛い。

 超痛い。

 左の肩甲骨の辺りを中心に全体的に響いてる。

 なんなら足の付け根もなんか痛い。


「お主の事じゃから一度体験させてやろうと思ってな? 口だけで教えて、いざ実戦となった時に忘れてましたでは救いようがない。それならいっそわしの目が届く所で痛い目に遭う方がよっぽど良い」


 変な体勢のままの私の背中に触れつつ、聖龍が言ってのける。

 うぐぐ、昨日の事があっただけに何も言い返せせない……悔しい!

 あ、待って背中押すな!

 ほんとにビクンビクンしちゃうから!

 いっ!?


「ほう、背骨は折れるかと思っておったが、案外丈夫なものじゃな。 筋肉が切れるくらいで済んでおる。足のはまあほっといても大丈夫じゃろ」


 筋肉が切れてるのをくらいで済ますのか……いやまあ魔法もあるし簡単に治せるんだけどさ。

 治療が終わって聖龍が手を離したので、肩を回して怪我の具合を確かめてみる。

 おお、全然痛くない。

 いや足の方は何もしてくれなかったんだけど。

 こっちは自分で治そう。

 改めて魔法ってのはほんと便利だな。


「ほれ、コツは掴んだじゃろ? 同じようにしてみせろ。ただし、今度はそれを腕だけではなく体全体に、じゃ」


 ちょっと離れたところで聖龍が腕を組んで傍観の姿勢に入った。

 私は私で体の内側に意識を向ける。

 魔力を操作する、っていうのは案外簡単だ。

 そもそも魔法を使う時に無意識にやってることなんだから、一度感覚さえ掴めば苦労はしない。

 体の内側の、なんかよくわからん魔力の中心から隅々まで魔力を引っ張って満たす。

 そういえばこれ、どの程度まで強化できるんだろ?

 やろうと思えばそれこそギャグマンガみたいに地面を割れたりするのかね?


「これ、限界はあるの?」

「あるぞ。やりすぎると爆発する」


 へー……。

 あのー、そういうのもっと早く言ってくれませんかね?

 そういう大事なところ聞くまで言わないの悪い癖だと思うよ、ほんとに。

 そんなに目の前で爆裂四散する私が見たかったのか。

 トラウマになるぞ。


「なに、そう心配せんでも滅多にそんなことは起こらん。それより前に気を失うのがオチじゃろ。じゃが、そうならなかった時、魔力は奔流し内側から体を傷つける。それ如何によってはまあそういうこともあるという話じゃからな」


 ほう。

 確かに危険だけど、その前にちゃんと安全装置が働くということか。

 いや戦闘中に気絶とかそれはそれで死ぬけどね。


「余計なことは気にせんでいいから、ほれ集中じゃ集中」


 おっとと。

 まあやってることはさっきと大して変わらないから難しくはない。

 精々腕一本から体全体に意識を向ける必要ができただけ。


 問題なく魔力を循環させ始めた私に聖龍が歩み寄ってきた、


「ふむ、問題ないようじゃな。始めるとするか」


 え?

 何を?


「しっかりと戦いの中でもそれを維持できるか、が肝要じゃ。同時に魔法を使うのは案外骨じゃぞ?」


 は?

 なんて思った瞬間、綺麗に視界がひっくり返った。

 あれ?

 ドシャっと背中から地面に崩れ落ち、遅れてやってくる脛の鈍痛。


 痛い!?

 蹴られた!?

 慌てて跳ね起きたら目の前で聖龍が手をぶらぶらと振って笑っていた。


「油断してるともう一度転がすぞ。ほれほれ」


 なんて言いながら跳ねるように踏み込んでくる。

 うわわわ、ちょっ、せめてゴング鳴らそうゴング!


「まっ!?」

「くくく、待たん待たん。不意打ちに備えるのもまた練習じゃ」


 遮るように腕を突き出すも、聖龍は私の体ではなく突き出された腕を掴んで引いた。

 抵抗すら無意味な力に引っ張られ、前のめりになった私の体の下に聖龍の足が差し込まれると、そのまま引っ張り上げるようにしながら蹴り上げられた。

 さっきよりも長い浮遊感と、頭の上にある地面。

 それが最高点に達した瞬間、聖龍が手を離した。

 そうなれば当然私は宙に放り投げられるわけで、ぽーんと3mくらいの高さまで跳んでからギリギリのところで体勢を整えてなんとか着地することができた。

 が、勢いまでは殺しきれずに地面を転がる。


 ちょい!

 聖龍!

 あんたにはスポーツマンシップってものがないのか!

 なんか楽しそうに拍手してんじゃない!


「うまいうまい。おひねりはいるか?」

「いい!」


 なんか今の聖龍からは褒美に投げてやろう的ななにかを感じる!

 ガルルルル。

 全力で抗議の意を込めて唸ってやるも、聖龍の方は全く気にしてないみたいだ。

 にやにやと随分楽しそうにしてらっしゃる。

 ものすっごいシバきたい。


「全く運動ができん、という訳でもないようじゃな。ならば多少は見えるようになるじゃろうな。しっかり学びたければ人に頼るしかないが、まあ慣れさせるくらいなら十分じゃ」


 そう言いながら重心を落として構えた聖龍に慌てて私も立ちあがって身構える。


「今日はそうじゃな、早く動く相手に目を慣らすこと、それから慣れてきたならば魔法も同時に使ってみるか。その程度は出来ねば話にならんからの」


 なるほど。

 習うより慣れろ方式ですか。

 いいね。

 その方が私は好きだよ。

 なにより、お前をどつきまわせるからなあ!




 ─────────────────────────




 なんて意気込んだはいいものの、時は夕暮れ、私は現在完全に脱力して地面に倒れ伏しています。

 もー起き上がれない。

 疲れた。

 信じられないくらいバッタバッタと投げ飛ばされた。

 もともと喧嘩なんか全くしたことがない私が何千年も生きてる聖龍に勝てるわけなんかないんだけどさあ。

 それでも魔法を使ってもほとんど何もできなかったのは地味にショックだった。

 距離を離して魔法を撃ちこんでも的確に撃ち落として来るし、たとえ傷つけたとしても一瞬で治る。

 流石回復魔法が得意と豪語するだけはある。

 魔法を使うために体内の魔力の制御が疎かになった一瞬の隙に詰められて投げ飛ばされるし。

 もうね、ここまで来るとホントに次元が違う強さ。

 勝つ方法を考えようにも、なんか無理ゲー感がある。

 そもそもの技術のレベルが足りてないというか。

 や、力自体は確かにだいぶ強くなったんだよ?

 一瞬で放り投げられはしなくなったし、投げられそうになっても一瞬耐えられるようにはなった。

 結局少し耐えられると切り返しに足払われて投げられるのには変わらないんだけど。


 これあれか、判断力の問題なのか。

 そういえば思い返してみると何が何やら分からないうちに投げられるのが多かったような気がする。

 次やる時はその辺の、聖龍の動きをしっかり見るのを意識してみよう。


「今日は治療は止めておくか。負担になるしの。……と言っても、どうせ聞かんじゃろ、お主」

「当然」


 そればっかりはね。

 そもそもここにいるのもそれが目的だしね。

 仕方ないね。


「まあ、へそを曲げられても困るしの。ならば待っておれ。道具を取ってくる」


 はいはーい。

 坂を上って行った聖龍を見送り、芝生の上で力を抜く。

 特に何を考えることもなくボーっと体を休める。

 嘘ついた。

 初めはそんなつもりはなかったけど、いつの間にか一度だけ見たイケおじの動きと昼間の聖龍の動きを重ねてた。

 うん、全然違うわ。

 ちゃんと覚えてるわけじゃないけど、イケおじの方が踏み込みも動きも鋭かった。

 才能がなかったという聖龍にすら翻弄されてる今の私じゃ勝ち目もなにもないだろう。

 どう考えても一刀で首切られて死ぬ未来しか見えない。


 でも、別にそれでいいさ。

 私は人じゃない。

 人の姿で勝つことにこだわる必要なんかないんだ。

 むしろ人の姿の私に負けるような相手じゃ意味がない。

 私が龍として勝つことに意味がある。

 龍の私が、龍として勝つことが。


 そんなこんなで寝そべっつらつら考え事をしてたら、魔力感知に接近してくるなにかの反応があった。

 数は5つ。

 うつ伏せの姿勢からむくりと腕を立てて上半身だけを起こし、森の方を向く。

 これ、さっきからちらちら近くをうろついてたやつだな。

 特にこっちに興味無さそうだったから放置してたけど、もしかして人だった?

 だとしたらどうしよう、皆殺し……って思ったけど聖龍に用事がある村の人の可能性もあるのか。

 そしたらいきなりステーキにするのは流石に心が痛んだりはしないけど、聖龍の視線が痛いのは間違いない。

 一応様子見ということで。


 なんて思ってまた体を倒して森の方を見てたら、木々の間からそれが飛び出してきた。

 なんてことでしょう、狼ではありませんか。

 蛇の死体のところで見たのと同じ種類に見える。

 その狼たちは森から出るなり私の周りを囲んで、まるで狩りをするときのようにして様子を伺っている。

 ふむ、基本のできてるいい子たちですね。

 私ももし複数で狩りをすることになったらまず囲むようにと教えられて……え、もしや私のこと獲物かなにかだと思ってらっしゃる?

 昨日はうさぎ、今日は狼。

 如何に仏の黒龍と呼ばれた私とてこうも立て続けに嘗められては許せぬ。


 という訳で。

 さっさと蹴散らそう。

 魔法展開よーい!

 って思ったけど、折角だし強化した身体能力でどの程度相手できるか試したいな。

 しまいしまい。

 立ち上がって埃を払い、一匹一匹に目をやる。

 唸ってはいるけどすぐに飛び掛かってくるわけではなさそうかな。

 ふと、どこかで聞いた狼の狩りは仲間の犠牲を容認しないみたいな話を思い出した。


 ふうむ……悩みながらじりじりと川の方へと後退りしていく。

 ここの川は浅いけど、体高の低い狼たちにとっては足を取られるあまり踏み入りたくない場所のはず。

 そうすれば少なくとも背面から襲われることはない。

 鼻面に皺を寄せて唸る狼たちが私の狙いに気付いて輪を狭めながら着いて来た。

 そして、背後で鋭い爪が砂利を蹴る音。


 ほいきた狙い通り!

 私が前に気を取られてる間に完全に背後を取ったつもりだったんだろうけど、そんなの魔力を捉えてたら気づかないはずがないんだよ!

 昼間散々やった通りに全身に魔力を込め、振り返りざまに踵で横っ面を蹴りつける。

 虚を突かれた狼は情けない悲鳴を上げて地面に叩き落された。

 おお!

 まさか人の状態でここまで強烈な蹴りができるようになるとは!

 聖龍相手じゃ全然当たらなかったから分からなかったぜ!


 と喜んだのもつかの間、背中に衝撃。

 次いで、鋭い爪で背中を引っかかれる痛みが走った。

 うげ!

 いったい!

 さっき正面にいたやつか!?


 うなじに噛みついて離れようとしない狼に肘を叩き込むが、それでも離れようとしないどころかより一層強く牙を食いこませる。

 こいつ、無駄に根性あるな!

 魔法で弾いて……って魔法は禁止!

 肉弾戦オンリー!


 考えを切り替えて、もう一度さっきより強く肘で腹を突くと、確かに伝わる骨を砕く感触。

 力の弱まった狼の足を掴み、無理矢理引き剥がして横から飛び掛かってきていた別の狼に叩きつける。

 これで3匹!

 次!


 次の狼はこれまでの3匹よりも体が大きい奴だ。

 真正面から首を狙って牙を剥き出しに飛び掛かってきた。

 咄嗟に腕を差し出して牙は防ぐが、その重さと勢いには耐えきれずに地面に引き倒された。


「いっっ……!」


 背中を大きな石にぶつけて息が詰まった。

 肺から空気が押し出される。

 クッソ!

 昼間聖龍にやられたのを思い出せ!

 腕を掴み、下から添えるように蹴り上げて、離さずに叩きつける!

 狙い通りに狼を投げ飛ばすことはできたが、それと同時に前腕の皮膚が裂け血が弾けた。

 けど折れた訳じゃないなら後回し!

 まだ動く!


 最後の狼に襲われる前に後転しながらバネの要領で跳ね起きる。

 そしたら、残り1匹だと思ってた私の前には、狼が3匹、威嚇しながら体を低くしていた。

 増えた……訳じゃないな。

 単純にトドメを刺し切れてなかっただけだろう。

 見れば足元には骨を折られた1匹が苦し気に喘いでいるだけで、今しがた処理した狼も苦し気ではあるものの起き上がろうとしていた。


 動物の頑丈さ舐めてたわ。

 あの程度じゃダメか。

 けどすぐに襲い掛かってこないのはそれなりにダメージが入ってるのか、それとも1匹がやられたことで撤退するかどうか悩んでるのか。

 睨みあったままじりじりとした時間が流れる。

 そして、その時。


「何をしている」


 声のした方を見てみれば、そこには不機嫌そうに狼を睨みつけている聖龍が立っていた。

 あれほど敵意を剥き出しにしていた狼たちも、今は尻尾を下げて森の方へ後ずさっている。


「散れ。わしの群れに手を出すでない」


 聖龍の威厳のある声に狼たちは蜘蛛の子を散らしたようにして去って行った。

 後には服をボロボロにして血を流す私と、浅い息を繰り返す狼が1匹。

 ふう。

 終わりか。

 込めていた魔力の流れを静め、座り込んでパパっと傷を治す。

 今回はそこまで深い傷もないし、聖龍の力を借りるまでもない。


「なぜお主は少し目を離すと傷だらけになるんじゃ」

「知らない。いなくなった途端襲ってきた」


 あれ?

 なんかそれ腹立つな?

 聖龍は怖くても私は怖くないってことか?

 ううむ、魔力は追えるし、今からでも殲滅しに行くか……。

 なんて悩み始めたら、聖龍にこんと頭を小突かれた。


「ほれ、さっさとトドメを刺せ。お主の獲物じゃろう」


 おっと、そうだった。

 少し離れたところで横たわる狼の元へ行き、魔法で頭を狙ってトドメを刺す。

 これは晩ごはんだな。

 丁度いいデリバリーだ。

 ウーバーしてくれたのかな?


「どうして私ばっかり襲われると思う?」

「あれじゃろ、覇気がないんじゃ、お主」


 覇気ぃ?

 あの、腕黒くなったり見えない場所でも感知できるようになるあれ?

 似たようなことできるぞ、私。

 鱗生やせば黒くなるし魔力探知もできるし。


「いや、少し違うか。うーむ、なんと言うべきか、お主は人の姿が似合う、とでも言うか。気に食わんじゃろうがな」


 確かに気に食わん。

 不愉快ではある。

 だけど、それ以上に人の姿が似合う、という言い方にまじまじと聖龍を見てしまった。

 そんなはずはないとは思うけど、私は前世では人だった。

 それが見抜かれたんじゃないかと思ったのだ。


「そう睨むな。わしにも相応しい表現が思いつかなかったんじゃ。人の姿を取っておるのじゃから纏う空気まで人のそれへと変えることができるのは間違いなく利点と言えるじゃろう。わしではどうしても人に化けた龍の域を出ぬからな」


 や、睨んでたわけじゃないんだけど……。

 そりゃ元が人間なんだから、人の姿になってたら人っぽい空気になるのも当然なのかもしれない。

 あんまり意識したことはないけど。

 にしても、聖龍が気づいたわけではないのか。

 まあこれだけことでそんなところまで考えが及んだら流石に怖すぎるな。

 そもそも、もしかしたら目の前の人物は別世界の人間が転生した存在かも、なんて考えながら過ごす奴なんていないだろう。

 いるとしたらどんな妄想家って話。

 なんいにせよ、そこはバレてないみたいで良かった良かった。


 ……ん?

 良かったって、もしバレてたとしたら、私はどうするつもりだったんだ?

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……考えるだけ無駄か。

 うん、やめやめ。

 そんなのバレた時に考えればいいさ。

 それを知ったやつがどんな反応しようが、私は私。

 前世で人間だった私は死んで、今は龍になった私が生きてるんだからなんの関係もない。

 前世の未練はすっぱり切り捨て、それでいいじゃないか。


「あ」

「どうかしたのか?」

「わしの群れって」

「さて、まずは火を起こさねばな」

「ねえ」

「聞こえぬ聞こえぬ」


 そうからかったせいか、その日の治療が荒かった気がするのは、多分気のせいじゃなかったと思う。

 復讐の仕方が卑怯だと思いました。

 痛かったです。

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