53.この時の私は、まさかあんな事になるなんて思ってなかったのである
あーもう全身痛い。
私はあの罠を魔法でぶっ壊し、うさぎどもと争った所からちょっと離れたところで傷を診ていた。
あの後、完全に戦意を失ったうさぎを処理するのにさほど時間はかからなかった。
まあ何が問題だったかって後ろに罠がある事と近すぎたことが問題だったんだし、それが相手の方から離れてくれる状況になったらそりゃ負ける要素が無い。
とはいえ無性に腹が立つ。
何が腹立つって、食われたことが腹立つ。
私にも捕食者のプライドってものがあってね。
だってうさぎごときがだよ?
普通私を見たら一目散に逃げ出すような魔物が、勝ち誇ったように私を食ったんだ。
それだけで万死に値する。
まあもう死んだんだけどね!
とりあえず死んだ奴はいいや。
早く治しちゃお。
にしても、随分やられたな。
もう全身噛まれてないところが無いんじゃないかってくらい傷だらけだ。
特に背中向けてたせいで後ろ側の傷が酷い。
少し集中して、聖龍に教わったことに注意しながら回復魔法で一気に治す。
で、それでもまだ痛むのは噛み千切られた肩と足。
えーと、これは聖龍に治してもらった方がいいかな。
筋肉も多少持ってかれて輪郭が変わってるし、治しきれるか自信がない。
まあやるんだけど。
二度しか見てないけど、聖龍がやってた魔力の流れを意識してみる。
うーん、省略してるって言う部分のせいか上手く発動しないな。
回復魔法の構築と見比べてどこが足りないかとかわからないかな?
なんて思って並べて見たけど、なーんにも分からなかった。
そりゃそうじゃ!
私、完全に感覚で魔法使ってるからね。
言うなれば図面も無しに家建ててる感じ。
そんなんで図面を見比べてあーここが悪いですねーなんて言えるはずがない。
はー。
まあそれは聖龍に聞くなりもしくは勝手に再現するなりしよう。
今はとにかく血が止まればいい。
で、とりあえず応急処置は完了した。
これ立てるかな。
そろそろと慎重に立ち上がって、食われた左足に体重を掛けてみる。
立てることは立てるな。
で、歩きだそうと左足を前に出そうとして、思いっきりコケた。
に、肉塊だ!
これ私の足じゃない!
この足誰のよ!
私のか!
うーん、これは困った。
これじゃ次魔物に襲われたらひとたまりもないな。
さっさと切り上げて外に出た方が良さそう。
壁に手を付いて転ばないようにしつつ立ち上がり、一息ついて慎重に歩き出す。
マジで左足動かんな。
膝は曲がるけど足首とかほんとに動かん。
慎重に慎重に、魔力探知で魔物の位置を探りつつ出口を目指す。
さっきの物音とか血の匂いで魔物が興奮してるのか、この2日間で一番魔物の動きが活発だ。
出会う敵出会う敵全て先手で容赦なく魔法ブッパして始末していく。
あ!
うさぎだ!
お前らは特に許さん!
砕け散れー!
ふう。
なんて、ちょっとした私怨も挟みつつ何回通っても覚えられない道を印を頼りに戻っていく。
その時だった。
遠くに奇妙な魔力を探知した。
あ、ちなみに地下だと何が原因なのか魔力探知の範囲がかなり狭いから、この場合の遠くはそこまで遠くない遠くね。
で、何が奇妙かと言うとその魔力、微妙に人間っぽいのだ。
や、どこが人間っぽいのかって聞かれると困るんだけど。
色というかオーラというか、なんか、うーん、説明しづらいんだけどとにかく人間っぽい。
こんな遺跡に人間なんかいるわけがない。
ていうか入口を見る限りここ最近出入りがあったような痕跡は無かったし、そもそも人間がいるなら聖龍が気付くはず。
なのに人間とはこれ如何に?
奇妙な点その2。
この魔力、やたら強い。
流石に龍程では無いけど、前に戦った蛇と同じかそれ以上のような気がする。
つまり龍の私でも油断すれば負ける、人の姿だとまず勝ち目がないくらいには強い。
人間でそれ程の強さを持つ奴がそうそういるのかってのが疑問である。
だから分からないんだよなー。
これがどっちか片方なら、なんかコソコソする必要のある人間が隠れ住んでるか、あるいは単に強力な魔物がいるかのどっちかって検討もつく。
でもどっちもとなるとちょっと分からない。
しかもこの魔力の動きから知性を感じられないっていうのもある。
あっち行ったりこっち行ったり、突然加速したと思ったら元来た道を戻ったり。
迷子かな?
館内放送鳴らす?
念話届くといいけど。
まぁまだ遠くにいるし今はそんな気にしなくていいでしょ。
とにかくさっさと外に出なければ。
その魔力の事は頭から追い払い、また近くの魔力に集中して出口を目指す。
よっと。
やっと外出れた。
足怪我しててゆっくりだったせいで思ったより時間かかったな。
日の傾き具合からして、大体16時くらいかな?
まあ木に遮られてみえないんだけど。
空気感がそのくらいな気がする。
予定よりもちょっと早く終わっちゃったなー。
日が傾いているとはいえ、まだまだ暗くなるには時間がかかるだろう。
まあこんな怪我でうろちょろしてたら危険極まりないし仕方ないんだけどね。
それに外でもできることはある。
魔法の練習とか。
さて、じゃあさっさと戻ろう。
ついでに何も食べてないし狩りもしていこうかな。
龍の姿に戻って翼腕を地面につく。
当然と言えば当然だけど、肩と足の傷はそのままだった。
そんな都合よくいかないか。
ちょっと飛び立ちづらいけど飛べない訳じゃないしそこまで支障は無い。
体を沈め、伸び上がる勢いも使って空に飛び立つ。
さー、聖龍はどこにいるかなー。




