52.食われる側の気持ち考えたことある!?
昨日付けた印を追って遺跡の中を歩く。
目指すは昨日見つけたトラップである。
見つけた時は行く必要はないって言ったけど、それが無力化できるなら話は別よ。
他にも同じような罠があった時にちゃんと無力化できるのか確認しておきたいからね。
あ、聖龍が嘘を吐いてるとかそういう事じゃなくてね?
実際にそういう仕組みのトラップはあるんだろう。
でも聖龍はここの罠を見たわけじゃないし、もしかしたら間違ってる可能性もある。
いざという時にぶっつけ本番で試してみてできませんでした、ってなったら死ぬかもしれないのだ。
ついでに、何か外から見て分かるような痕跡があるならそれも調べておきたいってのもある。
だってあの罠外から見ると全く分からないんだもん。
それで即死トラップは凶悪が過ぎる。
ゲームじゃないんだからそれが正解なんだろうけどさー。
やられる側は堪ったもんじゃない。
だからそうならないようにちゃんと確認しないとね。
で、やってきました昨日のトラップ。
なんか新鮮な死体が増えてるように見えるっていうか真新しい血痕があるけど気にしない。
あれ?
こいつ初めて見る顔だな。
血で赤く染まっているものも、遠目には白い毛皮を持つうさぎかなんかに見える。
可愛い。
でもなんか凶悪な顔してる。
なんか、なんて言うんだろ?
明らかにお前肉食だろって言いたくなるような牙をお持ちだ。
やっぱり可愛くない。
さて、うさぎが可愛かろうがそうじゃなかろうがどうでもいいんだよ。
聖龍が言うには表面の床を砕け、だったっけ。
あれだな、闇魔法で表面を削り取る方向で行くか。
どのくらいの範囲から構築が作動するか分からないので、慎重に、まずは横の壁に穴があるギリギリのところを小さく削り取ってみる。
直径20センチくらいの闇魔法の球を作りだし、ゆっくりと床に近付けて押し当ててみる。
やっぱり土の地面よりは固いか。
けど少しずつは削れてきたね。
むしろ遅いくらいの方が丁度いい。
何も調べずに中の構築まで削れたら大変だ。
ぎゃりぎゃりと床の石材を削って、少ししたところで止めて魔法を持ち上げてみる。
そしたら聖龍の言っていた通り、表面の石材のすぐ裏に接するようにもう一段石があった。
あー、この銀色の線が構築かな?
光沢があるし、なんか金属っぽい。。
指を伸ばして触れてみれば、ひんやりとした硬質な感触が返ってくる。
金属だわ。
なんか魔法的なものかと思ったけど、そんなことはなかった。
と、その時。
魔力を吸われる感触。
構築が光を持って、私の魔力が床の下を通って流れていくのを察知した。
あ、しまった!
慌てて飛び退くと、その直後、壁に空いた穴から鈍く光る黒ずんだ槍が飛び出して、ガァン! と物凄い音を立てて反対側の壁に突き刺さった。
壁に突き刺さり静止したそれをよくよく見てみれば、その黒ずみは初めからそういう色をしていたのではなく、何百年もの間、犠牲者の血を吸い続けたものであるのが分かる。
それだけ錆びても壊れないのだから、よほど頑強に作られていたのだろう。
私を捉え損ねた槍は文句を言うように耳障りな金属音を立てながら、出てきた時とは打って変わってゆっくりと壁の穴に引っ込んでいく。
私は激しく鼓動する胸を押さえながら、尻餅をついてそれを見送っていた。
あ、危ね~!
死が満面の笑みでハイタッチ求めてきやがった……!
そりゃあ踏んだら作動するトラップなんだから触ったらダメだな!
なんで触ったんだ私!
もう!
私のバカバカ!
ふう。
次からは気を付けよ。
流石に軽率だった。
興味本位で触って死ぬところだった。
好奇心は猫をも殺すって言うしな。
私龍だけど。
じゃあ、学びも得たところで残りの床をさっさと剥がしちゃおうか。
大体どのくらいの深さに構築があるのも分かったし工夫すればもっと手早くできるかもしれない。
こう……そうだな、せっかく一部は削ったんだしその高さから横に広げてみようか。
さっき掘った穴の丁度いい高さの所で闇魔法を維持。
さっきので大体の塩梅は分かったし次は遠慮する必要もない。
ぐっと魔力を加え、じりじりと削るのではなく一気に消滅させる勢いで魔法を横に伸ばす。
と、同時にまた罠が作動して物凄い音を立てた。
突然の事に思わず飛び上がって驚く。
び、びっくりしたー!
いきなりなに!?
心臓縮み上がったわ!
完全に油断してるときにそれは卑怯じゃない!?
はー、まだ心臓バクバクいってる。
なんでいきなり作動したんだろ……。
さっきよりだいぶ強力にやったから、空気中に漏れた分の魔力に反応したとか?
まあ離れてたから怪我は無いんだけどさあ……。
びっくりするからもう少し大人しめにやろう……。
動揺して散らしてしまった闇魔法をもう一回組み直し、作業を再開する。
さっきよりゆっくりね。
じゃないとまたび飛び上がるハメになるからね。
そうやって床の表面を完全に削り取っていく。
しばらくそうやって慎重に削り取って、ようやく表面の床が削り切れた。
ふー。
取れた取れた。
いやーこうやって改めて見るとやっぱり感慨深いものがあるね。
この、わかる?
汚れを綺麗に落として、そのあとの綺麗になってるところを見てる感覚よ。
ちなみに辺りに散らばってた骨とかうさぎの死体とかは、全部巻き込まれて散り散りになりました。
跡形も残ってねえです。
っと、そんな事よりさっさと調べちゃおう。
中の構築には触れないように気をつけつつ、ギリギリまで近づいて構築の周辺を探る。
外から見て分かる、って言っても、あの感じだと難しいよなあ。
標的から吸い上げるまではどこにも魔力が使われてないから探知で探すのは無理だし、見た目にも完全に覆いかぶさってて他の床との区別も、横の穴が無ければできなかったと思う。
あ、てことはこれは気づかせる罠?
明らかに通れない風にして引き帰らせるみたいな?
そうやって正解の道を塞いで、知ってる人はなんらかの対策をして奥に進めるようにしてるとか。
って話が逸れた。
何となくそんな気がしてきたけど、今はそんな事より見分ける方法だ。
見分ける、見分けるねえ。
……そういえば他の床ってこんな風に二層になってないんだよね。
確認の為にさっき削って出来た段差に翼爪をかけ、罠とは関係ない方の床を闇魔法で砕いて捲ってみる。
土だな。
罠の所みたいに二層になってるんじゃなくて、普通に土が出てきた。
てことは、叩いたらなんか音の響きに違いがあったりしないかな?
よし、思い立ったらとりあえず試してみよう。
剥がした床をまた床の上に重ねて置き、手頃な石で上から叩いてみる。
続いて、何も置いてない方の床も同じように叩いて聞き比べてみる。
……ほうほう。
あ、これ違うわ!
重ねてる方が若干高い!
そうじゃない方は裏で吸われてるのか少し低い音がする!
てことは目が見えない人がするみたいに棒かなんかで叩きながら歩けばわかるんじゃない!?
ふっふっふ、ドラゴンイヤーは地獄耳!
人間なら捉えられない音の高低も捉えられる!
他にもドラゴンアロー(魔法)とかドラゴンウイング(翼)とかドラゴンビーム(ブレス)とかもある。
これはいいわ。
こんな簡単に重ねただけのやつと罠じゃ差があるだろうけど、要は普通の床との違いがあればいいんだ。
コツコツ杖で先の床を叩きつつ、音が鳴ったら警戒する。
これで行こう。
あー全部剥がさないで残して置けばよかったなー。
そしたらもっと確実に試せたのに。
まあやっちまったもんは仕方ない。
さっき思い立った、向こう側が正解の道という仮説を試す為にもこの罠は壊しておこう。
と、その時、ゾクリと嫌な気配を感じる。
しかしそれを確かめる前に背中に何かがぶつかってきて、一拍遅れて左肩に鋭い痛みが走った。
いっー!?
肩に感じる重さに目をやると、そこにさっき罠にかかってたのと同じうさぎが噛みついていた。
やばい!
全く気付かなかった!
勢いに押され、構築側に倒れ込みそうになるのをなんとか堪え、横に倒れ込む。
なん、この、離れろ!
咄嗟に生やした翼腕で、肉を持ってかれるのも構わずうさぎを引き剥がし壁に叩きつけた。
血飛沫を撒き散らしたうさぎを尻目に慌てて飛び起きようとして、しかしまたすぐ次のうさぎに押し倒される。
は!?
まだいるの!?
そのうさぎも同じように始末しようとして、また次の、そしてまた次のうさぎがどんどん飛び掛かってきてそれどころじゃなくった。
あれかな?
傍から見るといっぱいのうさぎにもふもふされて幸せそうな人かな?
まあ当事者的にはそれどころじゃないけどな!
いたたたおい!
噛むな!
こら!
ああもう!
そこまで大きくはないとは言え痛いものは痛いんだよ!
噛みついてるうさぎを闇魔法で削り落とし、とりあえずの自由を確保して立ち上がり辺りを見回す。
数はさっき殺したのがいっぱい、そして生きてるのもいっぱい!
いや多いな!
こんなの至近距離で相手してられるか!
まあ逃げ道も無いんだけどな!
や、後ろの罠壊せばいいのか。
もう見分けはつきそうだし用済みだ。
そして構築を壊そうと魔法を組み立てつつ後ろを振り向いた、その時。
「キシャーーーー!」
隙を見せた私にうさぎが一斉に飛びかかってきた。
わー!?
それうさぎが出していい声じゃねーから!
罠に撃とうとしてた魔法を慌ててうさぎに撃ち出すも、それで落としきれるはずも無く、後続のうさぎがどんどん飛びかかってくる。
まともに相手してられるか!
咄嗟に壁に張り付き、翼で体を覆って守る。
だが、それでも受け流せたのは一部分だけだ。
残りは途中で軌道を変えてあらゆる所に噛みついてくる。
後ろで罠が作動した音と血飛沫の音が聞こえたけど、今はそれどころじゃない。
全身、特に背中側が熱した鉄を当てられたみたいに痛むんだから、悲鳴を噛み殺すのが精一杯だ。
まずい。
早く引き剥がさないと生きたまま食われることになる。
流石にそれは勘弁してほしい。
いっつ!?
待って、なんか今ぶちって聞こえたんだけど!?
慌てて他よりも鋭い痛みを伝えてくる足を見る。
そこには私のふくらはぎを噛み千切り、悠々と咀嚼してるうさぎが居た。
瞬間、頭に血が上る。
他のうさぎの事なんか完全に頭から消え失せた。
代わりにそのうさぎだけに私の全ての殺意を向ける。
こ……っの!
私を食うとかいい度胸してんな!
死んで償え!
魔法準備!
怒りのまま闇魔法に普段の何倍もの魔力加え、狙いを定めて引き絞る。
うさぎが不穏な気配に気づいて顔を上げたけど、もう遅い。
私の魔法の方が早い。
限界まで圧縮したそれをうさぎに向かって放つ。
一瞬で飛んできた魔法に反応することも出来ず、哀れなうさぎは過剰すぎる威力の魔法に貫かれ弾け飛んだ。
いや、比喩とかじゃなくてほんとに当たったと思った瞬間に轢かれたリンゴみたいに弾けたのだ。
かつてうさぎだったものが粘着質な音を立てて降り注ぐ。
これにはさすがの私もびっくり。
そして闇魔法はそれだけに留まらず掘削音を立てながら床を砕き、地面の奥深くまで潜っていった。
これにびっくりしたのは私だけでなくうさぎ達もである。
突然起こった出来事に私から牙を離して、仲間だった肉片を見つめて茫然とした。
あ。
油断したな?
魔法構築。
自分の体を掠めるように魔法を発射する。
茫然としていたうさぎたちはそれに気づかず、体を削られて地面に落ちた。
そしてすっきりした私は壁から離れて、残りのうさぎに向き直る。
うさぎたちの目がなんか悪魔を見るみたいになってるのは気のせいだと思う。
むしろ散々齧られたし食われたし、お前らの方が悪魔的だろって言ってやりたい。
まあ、どうせ死ぬ身、仲間が悲惨な目に遭ったからって動きを止めるべきじゃなかったな。
奴らの後ろに闇魔法で壁を作る。
私の目の前にも格子状に穴を空けた壁を作る。
さあ、覚悟はいいなくそったれうさぎども。
血祭りじゃーー!!




