51保護者同伴の遺跡探索は緊張感消し飛ぶってー
そして次の日。
起きたら聖龍が「昨日言ってた遺跡に連れてけ」って言ってきました。
なして?
まあ別に構わないんだけどさ。
なんか、ただの興味でって感じでもなかったし。
それなら特に断る理由もない。
大人しく連れて行くことにした。
聖龍が準備してる間に特に準備することのない私は、人の姿でどうやったら人になった状態でも龍と変わらない力を発揮できるかを考えていた。
うーん、明らかに見た目以上の力が出てたもんなあ。
聖龍のあんな細腕で私の突進を止められるはずもないし。
てなると、魔力。
まあ正直これしか考えられないよ。
この世には奇跡も魔法もあるんだから。
……いや奇跡は見たこと無いな。
魔法ならいっぱいある。
むしろ使える。
そういえば前に謎男も魔力の循環がどうたらこうたらって言ってたっけ?
循環、循環ねえ……。
うーん。
なんとなくわかるようなわからないような?
魔力の操作自体はできてるんだから頑張ればできそうではあるんだよね。
あれかな、魔力で体を補強するような感じかな。
こう、イメージ的には内側からコンクリートで塗り固めるような。
ただしコンクリート代わりに魔力を使って、より頑丈に、より強靭に体を強化する。
「ほれ」
なんて考え事をしてたら準備を終えた聖龍が洞穴から出てきた。
手にはなんか紐を持っている。
そういえばなんだっけ?
迷宮に潜るときに持っていく紐あったよね?
アリアドネの紐だかなんだかってやつ。
その手の魔法具ですか?
「結んでやろうか?」
ところがどっこい、そういう話ではなかったみたい。
「髪?」
「うむ。気にしておったじゃろう」
ああ、昨日の。
うーん、髪か……。
なんとなく手を伸ばして髪を触ってみる。
まあ確かにお母さんがやってたっていう髪型は気になりはする。
けど、なんか髪を結ぶとなると拒否感が生まれる。
自分でも説明できない感情だ。
……折角だけど、遠慮しておこうかな。
「いい」
私が断ると、一瞬考えるように間を置いたあと聖龍が頷いた。
「……そうか。まあその方がいいじゃろうな」
提案してきた割に、聖龍はそう言ってあっさりと引き下がった。
あれえ?
いいの?
いや、特にして欲しかったって訳でもないんだけどさ。
なんか、その方がいい、って言ったところが引っかかるんだけど?
「理由があるの?」
「ん?」
「やめた方がいい理由」
なんとなく引っかかりが気になって聞いてみたら、聖龍は低く唸りながら考え始めた。
けど、それはどう話すかじゃなくて、話すべきか話さないべきか悩んでいるような感じだ。
「んー……いや、お主が自分で気づくべきじゃな。気にせずともよい」
その言い方で気にならないわけがないんだよなあ。
「ほれほれ、早く案内せんか」
むう……分かった分かった。
分かったから背中押さないでちゃんと案内するから。
服を脱いで龍に姿を変え、バサバサと翼を動かして体を揺らす。
まあ寝起きだからね。
伸びの一つや二つ入れないと体も動かんよ。
と思ったら、隣で聖龍が微妙な顔をしていた。
おや、どうなされましたか。
お腹でも下しましたか。
「お主はあれか、わしを砂だらけにする趣味でもあるのか」
ないです……。
ごめんなさい……。
申し訳なく思いつつも頭に乗せる気はさらさらないので、左腕を差し出して聖龍にその上に乗ってもらう。
『いい?』
「うむ、いつでもよいぞ」
ちゃんと掴まってるよね?
よし、感触的に問題なさそうだ。
翼腕を地面に着き、なるべく腕と胸を近づけて聖龍を挟み込む。
落ちられたら本気で困るし。
落下ダメージを舐めてはいけないのである。
……落としたら聖龍の翼なりが見れるんじゃ?って思ったのは内緒。
やったら多分撃ち落とされた上でボッコボコにされる。
変なこと考えずちゃんと飛ぼう。
羽ばたいた風圧で上半身を浮かし、
体を動かした反動も生かして飛び上がる。
さーて、昨日の遺跡はっと。
にしても、聖龍は着いてきてなにするつもりなんだ?
聞いてみるか。
『着いてきてどうするの?』
飛びながら念話で聞いてみる。
腕の上で聖龍が見上げて答えた。
「どの年代に建てられたものか見てやろうと思うてな。あまりに古ければ流石に止めようと思ったんじゃ」
ふーん。
『危険?』
「そうじゃ。古ければ古いほど魔物の進化が進むじゃろ? それに崩落の危険も大きくなる。行き止まりになっている場所もあるじゃろうしな」
あー崩落は確かに怖い。
魔物は殺せばいいけど、崩落はそうもいかないもんね。
本気で対策するなら土魔法で補強しながら進むとか?
それやろうとしたらどれだけ魔力使うんだろうなあ……それにそっちに意識を向けてて魔物に奇襲とかされたら目も当てられない。
けど、昨日行った時は割と平気そうな気がしたな。
ところどころ崩れてるところはあれど、歩いてて怖い所とかはなかったと思う。
奥に行ったらどうなってるのかわからんけど。
っと、見えてきた見えてきた。
森の中にぽっかりと空いた空間。
そこに向かって徐々に高度を落とし、着地して聖龍を降ろす。
地面に足を付けた聖龍がぐっと体を伸ばし、体を逸らして文句を言ってきた。
「そこまで挟まぬとも落ちぬわ。心配なのはいいがほどほどにな。普通の人間なら折れておったぞ」
心配……私が聖龍を……?
むしろ落としたら撃ち抜かれるのではという心配しかなかったが……?
なんとなく腑に落ちないものを抱えつつも反論するのもなんか違う気がしたので放置。
「ほれ、中に入るぞ」
はーい。
人になり、光魔法で明かりを浮かべながら中に入って行く聖龍に続く。
私が一人で来たときはまっすぐ先に進んでいったけど、聖龍は左右の壁画に用があるみたいだ。
近付いて顎に手を当て分析し始めた。
私は暇なので別の壁の方で壁画に手を当てて眺めてみる。
何考えてるのかって?
そんな難しいことは考えてません。
バナナ!
まあそうだね、こことは別の遺跡で見つけたような文字がないかなと思ってちょっと探してみた。
結果、なにもありませんでした。
ただ前よりも状態は良くて、中心にいる赤い龍みたいなのとその周りの色々な体色の龍が見て取れた。
その下には平伏してる人間みたいなのもいる。
こういうのモザイク画って言うんだっけか。
荘厳な印象の絵だ。
「ふむ……この手の遺跡としては新しい方じゃな。八百年くらいか。この頃の赤龍信仰の祭壇は迫害から逃れるためにやたら大きく、入り組んでいるものが多い。大暴れしなければまるごと崩壊なんてことはないじゃろうな」
そういえば謎男も同じようなこと言ってたな。
そういう宗教関係の諍いはどんな世界にもあるんだなあ。
「この辺りはそう酷いものでもなかったがな」
「どうして?」
「すぐ近くに龍がいるのに、その龍を信仰する者たちを傷付けるとどうなるか、そう難しい話でもなかろう?」
確かに。
もしなにかしらの取引やってたら酷い目に遭うのは間違いない。
「しかしどれだけ迫害しようがわしは手出しするつもりもなかったがな。わしが守護するのはこの国じゃ。そこにいる民草までは範囲外じゃよ」
「民あっての国って話は?」
国家として承認されるのは領土、人民、主権の三つが揃った時である、って言うのは前世で誰もが習う事。
それに乗っとるなら民のいない国は国じゃない。
普通、国を守るって言うのは即ち民を守ることにも繋がるものだと思うんだけど。
特に深い意味があったわけでもない私の質問に、顔を顰めた。
「知ったことではない。そもそも愚かな時の王が、小僧の意思を軽視しわしの手を振り払ったのが先じゃ。小僧との契約が無ければ皆殺しにしておったわ」
そう言う聖龍はそれまでの老獪さを感じさせる余裕のある表情ではなく、意地を張ってる子供みたいな表情をしていた。
先に手を出したのはお前だから謝りたくない、みたいなそんな感じ。
「怒ってる?」
「今はそうでもない。当時は怒り狂ったものじゃったがな。お前たちの国はいずれ内側から食い破られる、哀れに助けを乞うお前たちの顔が楽しみじゃと言ってやった。あの時から800年、これまでさしたる脅威も無く存続しておるがな」
うわあ……。
なにその予言染みた恨み言……。
それはちょっと当時の人に同情しちゃうな……。
聖龍みたいな立場からそれを言われたら根拠がなくとも信じそうだ。
多分聖龍もそれを分かってる上で言ったんだろうけど、その分余計に悪質というか。
それほど聖龍としては許せないことがあったんだろう。
「じゃがまあ、今となってはそれもわからん。無暗矢鱈と領土を拡げぬ方が良いというわしの忠告に従っておったらこの国は今ほどの国力を蓄えることはできなかったじゃろう。そうなれば飢える民も出ておったのかもしれん。これほどの権威を持つこともなかった」
自嘲的に口の端を上げて聖龍が笑った。
「結果論。貴女のやり方の方が上手く行っていた可能性もある」
聖龍がやろうとしか事は分からないし、そこにどんな思いがあったとか、どんな事情があったのかは知らないけど、そんな気にすることないと思うけどな。
過去を振り返って、あの時こうしていれば違っていたのかもしれないなんて考えるだけ気が滅入る。
あの時お母さんの近くを離れなかったらとか、私だって考えることがあるしね。
で、そういう時は大体もっと上手くやれたとか、なんでこうしなかったんだって後悔とか嫌悪感で気分が悪くなって終わる。
だから考えるだけ無駄だ。
「……そうじゃな。じゃが、分かっておっても過去を考えずにはいられん。一人で長く生きておると日々の刺激など頭の中にしか見出せんからな」
それは私にはわからん。
なにせこちとら生後3年、発見と刺激の毎日である。
その刺激のほとんどが痛みを伴うのは勘弁してほしいところなんだけど。
「しかし最近は考え事が増えた。お主は口数が少ないからな」
ふっと聖龍が軽く笑った。
うるさいわ。
もうそれは性格なんだからほっとけ。
それを変えたいなら私ではない何かになるしかない。
「それが悪いこととは言わん。ただ、何かするときはちゃんと言うんじゃぞ。わしの知らぬところで怪我をされては敵わんからな」
分かってる分かってる。
私1人でなんでもできるなんて思っちゃいない。
大抵の事はごり押しできる自信はあるけど、言ってしまえばごり押ししかできない。
私の予想を超えるような相手とか、そもそもの実力が高い奴が出てきたら普通に負ける。
そのために搦め手を使えるようになりたいんだけど、思いつかないんだよねー。
遺跡探索とかしてる間に思いついたりしないかな。
どうしてもダメだったら聖龍に教わるとか?
色々話してくれるし聞けば教えてくれそう。
「こんなもの、朝っぱらからする話ではなかったな」
聖龍が切り替えるようにそう言った。
そうだそうだ。
朝からこんな話してたら気が滅入るってもんよ。
「それで、お主は今日はここにいるつもりか?」
「うん」
今日だけじゃなくしばらくは毎日通うつもりだ。
さながら受験直前の学生のように。
マンツーマンどころか一対多が平常運転なので、追い込みたい受験生の方々には最適です!
講師の先生も熱くあなたを教育することでしょう!
欠点はもしかしなくても死ぬ可能性があること。
多分その辺の一般人を放り込んだら一時間も生きてられないと思う。
「どれだけ籠っておってもよいが、だからと言ってあまりに長く顔を見せんかったら探しに行くからな。それと長く籠ればそれだけ治療も遅れるという事も忘れるでないぞ」
そのつもりはないから大丈夫。
腕の治療が最優先、ここにいるのだってそれが終わるまでの間だけだ。
「遺跡の中では罠に注意するんじゃぞ。この手の遺跡、特に赤龍信仰の神殿は作動するその瞬間まで魔力を悟らせない仕組みの物が多い」
ん?
うん!?
魔力を悟らせないって言った今?
てことはそれって魔力の隠蔽では!?
私そのヒント探してるんです!
「詳しく教えて」
「仕組み自体は単純じゃぞ? 罠にかかった阿呆から魔力を吸収し、それを元に仕掛けを動かす。たったそれだけじゃ。術者から無理矢理に魔力を徴収する魔道具と言っても違いはないじゃろうな」
ああ、それ私が求めてるものじゃないです……。
求めてるものじゃなかったけど、もしかして昨日見つけた罠もそれだったのかも?
「昨日一つ見つけた」
「ほう?」
「重石を置いても反応しなくて、周りに仕掛けも無かった」
「間違いないじゃろうな。恐らく表層を砕けばその下にもう一段構築が刻まれた層があったはずじゃ。それを砕けば罠は効力を失って安全に通ることができる」
はあ、なるほどなあ。
通りでなにもなかったわけだ。
普通の仕掛けで作動する罠なら、それがどういうものであれ形跡は残る。
落とし穴なら床に切れ込みがあるはずだし、壁がせり出してくるなら動く壁と動かない壁の間に隙間ができる。
でも土魔法を使えば壁の形を変えて戻せば全部無視できるわけだ。
死んでもすぐに魔力が消えるわけじゃないし、戻る時までくらいなら保つだろう。
あと踏んだら反応するタイプだったら私がやったみたいに簡単に無力化できちゃうしね。
それだけ構築を書き写すのにも労力はかかるだろうけど、こんな建物を建てるような奴がそんなこと気にしないだろう。
毎回前みたいに分かりやすくなってるはずがないし、気を引き締めないと。
まあ感知できないのにどうしろって話ではあるんだけど。
「よし、そんなもんじゃな。もう一度言うが、なにかあればすぐに言うんじゃぞ。毒を含んだのにも関わらず丸一日なにも言わんかった光龍がおるからな」
お母さんそんなことやってたんだ!?
いくらなんでもそれは言おうよ!
何考えてるんだよ!
「叱られたくなかったらしい。あれこそ真正の阿呆じゃ」
そりゃあ阿呆だ……。
流石に私でもそこまで何も言わない……てことは無いと思う。
多分。
恐らく。
メイビー。
あれ?
自信なくなってきたな?
「さて、わしはそろそろ行くとするか。あまり無理をせんようにな。休息は取れるときに取っておくこと、それと飲み水の確保はしっかりとな。水魔法は使えるか?」
え、どうだろ。
分かんないけど、闇魔法とかと違って使えるって気はしない。
多分使えないんじゃないかな?
一応首を横に振っておく。
「ならば教えておくか。真似してみよ。できるじゃろ?」
りょうかーい。
聖龍が私がしっかり見えるようにゆっくりと構築を組んで水魔法を使った。
ふん、なるほど?
結構複雑に見えるのは、聖龍が言ってた省略云々のせいなのかな。
まあ真似する分には問題ない。
私がしっかり再現したのを確認して聖龍が魔法を撃ち消した。
「まあ教えておいてなんじゃが、あまり多用せんようにな。魔力を使いすぎていざという時に魔法が使えないどころか倒れてしまうなんてなったらお笑い種じゃ」
うん、それは確かに。
当事者になったら笑えんけどな。
死一直線である。
となると、やっぱり魔法以外に見つけておくのがベターだろう。
血とか魔物が狩れればいくらでも手に入るしいいんじゃね?
……冗談で言ってみたけどそれが一番良さそうな気がしてきた。
だって殺せばいいんでしょ?
わざわざ意識しなくても向こうからウーバーしてくれるんだから最高では?
こちらご注文の血糊ドリンクと生魔物肉になりますーってか。
ハロウィン限定みたいなビジュアルしてんな。
「あ。あまり心配は要らんかもしれんが、空気穴が塞がって空気が薄くなっているところもあるかもしれん。息苦しい気がしたら慎重にな」
……。
…………。
……………。
過保護か!
気になること何もかも並べ立てる気じゃないだろうな!?
そんな心配しなくても自分で判断できるわ!
なんかもう付き合ってたら昼になりそうな気がしたから、頷いてからさっさと中に進んでいく。
私が話を打ち切ったので聖龍も外に出て行ったみたいだ。
よし、やっと特訓ができる。
あ、水魔法は忘れないようにしないと。
イタチくらいならそこまで強くないから、浅い所でなるべく練習しておこう。
さーて、やりますか!
約3年ぶりとなりました。エタらせるつもりはありませんので、もうしばらくお付き合いください。ついでに評価ブクマ感想など貰えるとモチベになり更新が早まります




