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50.ほうれんそうは大事。れんもそうもしてないけど

 遺跡から聖龍の所に戻り、滞りなく治療を終えて私はまた川に半身を浸してグロッキーになっていた。

 あー、ボーっとする。

 惨憺たる有様だけど、これでも昨日よりはマシなんだよ?

 聖龍にしがみついてガタガタ震えたりしなかったし、全く動けない程怠いって訳でもない。

 あ、治療の方法についてはまだ意識する余裕はなかったです。

 それはこれからに期待ってことで。


「ほれ、そっち詰めよ」


 はえ?

 や、詰めろって。

 周り見てみ?

 大自然よ?

 場所なんかいくらでもあるよ?

 なんでわざわざ私の隣来るのさ?


「ほれほれ、体を起こせ。動いた方が馴染みも早い」


 むう……。

 川底に手を突いて、眩暈を起こさないようにゆっくり体を起こす。

 で、横にズレて腰を下ろそうとしたら、その前に聖龍が体を滑り込ませてきて私の下に座った。


「なに?」

「いいじゃろ。減るものでもなし」


 やーでーすー。

 陰キャを舐めるな。

 スキンシップがすっと取れるほど人に慣れてないんだよ。

 どっちも人じゃないけど。

 そんなわけで逃げようとしたものの、荒療治されたてののろのろとした動きで逃げられるはずもなく、あっさり捕まってしまった。

 私は聖龍の胸に頭を乗せ、私の胸の前で聖龍が手を緩く交差させる形になる。


「こういうのもいいじゃろ」

「よくない」

「ふむ……本来お主はまだ親の翼の内で温もりを感じているような歳じゃから、わしが代わりにと思ったのじゃが……」


 ヴエッ。

 それはさあ……ずるくない?

 私そういうの弱いんだって……。

 そんな分かりやすく落ち込んだような声を出されると、なんもしてないのにこっちが悪いことしたみたいな気持ちになってるくる。

 私が諦めて大人しく体を預けると、聖龍は満足そうに息を吐いて腕に込める力を少し緩めた。


「今日は何をしておったのじゃ?」

「遺跡探索」

「ほう」


 それを聞いた聖龍は楽しそうに体を揺らした。


「となると赤龍信仰の名残か。この辺りはわしを恐れて迫害もさほど過激にならんかったんじゃ。とはいえ、もう信者も残っておらんが」

「赤龍信仰?」

「うむ。龍を神聖視しておったが、主神は赤龍だったのでな。わしはそう呼んでおる」


 へー。

 龍を神聖視ねえ。

 それが今も残ってたら、私もだいぶ動きやすかったんじゃなかろうか。

 お供え物とかもありそうだしニート化待ったなしである。

 問題は復讐の為に飛び回ってるのにどうやって受け取るんだってこと。


「それで、潜るのか?」


 うーん、どうだろうな。

 まあワクワクするのは確かだし、踏破してみたい気持ちはある。

 けどなあ。

 やっぱり問題は時間よ。

 面白そうだからって理由で何週間、もし迷いでもしたら最悪何ヶ月という期間を棒に振るのは流石に頂けない。

 まあ考え方によっては缶詰育成コースってことにもなるだろうけど、それ外でできない?って話よ。


「奥までは行かない。浅い所までにする」

「そうじゃな、それがいいじゃろ。お主は考えが甘いところがあるからの。あの手の古い建物は大抵奇怪な進化を遂げた魔物が棲みついておる。生半可に手を出すとえらい目に遭うことが大半じゃ」


 窘めるようにこつんと額を小突かれた。

 そしてそのまま濡れて額に張り付いた髪が払われ、ゆっくり髪を梳かれる。

 優しい手の動きがちょっと心地よくて思わず目を細めた。

 って言うかこのままのんびりしてたら寝そうだ。


「聖龍は?」

「わしか? お主が獲ってきた蛇を干し肉にしようと思ってな。この時期に作るものでもないが、折角お主が獲ってきたんじゃ。ただ腐らせるのも勿体なかろう」


 ほーん。

 まあ干し肉って保存食だし、いくらあっても困るものでもないしね。

 作れるときに作っておくのがいいかもしれない。

 あの蛇結構な大きさだし相当な量が作れそうだ。

 あ。

 気づいちゃったんだけど、干し肉をツマミにしてお酒飲むの美味しそうじゃない?

 やったことないからあくまで憶測だけど、塩っ辛いものってお酒に合うんでしょ?

 ジャーキーみたいなものだしね?

 飲んでみたい。

 じゅるり。


「……何してるの?」


 なんて酒とツマミに思いを馳せていたら、その間に聖龍が私の髪を弄り始めた。

 何が楽しいのか鼻歌を歌いながら上機嫌に編んでいく。


「昔娘と風呂に入った時に、こうしてやると嬉しそうにしていたのを思い出してな? それ以来膝に乗せるときはこうするのが癖になってしまったんじゃ」

「お母さん?」

「いや、あやつを育てているときに人の姿になったことはない。龍が龍を育てるのに人の姿になる意味がないからの」


 あ、そうなんだ。

 お母さんのことかと思って聞いてみたけど、どうやら別の人の事だったらしい。


「しかしあやつと人の姿で会ったこともあるぞ。もう少し大人びておるが、お主とよく似た顔立ちじゃった。あやつの髪は鱗と同じ陽の光を浴びて金に煌めく銀髪じゃったがな」


 へえー。

 そっか、似てたんだ。

 見てみたかったなー。

 結局お母さんの人の姿を見たことは一度もなかった。

 そもそも人になれるなんて、お母さんと一緒にいる時は考えもしなかったんだけど。


「あとお主より大人びた体つきじゃった」


 おい。

 なんだ?

 その追加情報必要だったか?

 喧嘩か?

 喧嘩なら言い値で買うぞ?

 その場合負けるのは私だけどな?

 ってかお前の方がだいぶ貧相じゃろがロリババア!


「あやつもな……仔が育ったら見せに来いと言っておったんじゃ。それも果たさずさっさと死におってからに……」


 お母さんに連れられて、聖龍に会いに来る。

 それができたら最高だったんだろうな。

 お母さんと聖龍が話してて、私はお母さんの傍でそれを聞いている。

 もしかしたらお母さんが親バカっぽく褒めてくれたりもしたかもしれない。


「ほれ、完成じゃ。紐でもあれば結んでやったんじゃがな」


 そう言って聖龍が最後に弄っていた髪をぐるっと後ろに回した。

 これあれか、ハーフアップってやつだ。

 三つ編みを左右に一本ずつ作って、それで縛る感じのあれ。

 ていうか紐もないのに形が崩れないように二つ作ったの器用過ぎない?

 ようやるわ。


「あやつが人の姿の時によくやっていた髪型じゃ。こうする気はなかったが、手がいつの間にか結っておった」


 聖龍に抑えられてそんなに動かせないけど、頭を少し傾けて川面に写してみる。

 むう……もう日が落ちてるせいか上手く反射しなくてよく見えなかった。

 残念。

 私とお母さんは似てたみたいだし、もしかしたらお母さんが人の時はどんな雰囲気だったか、何となくでも知れたかもしれないのに。

 しばらくそうやって角度を変えてみたり、火魔法で照らしてみたりして足掻いてみたものの、結局何となく輪郭が掴めた、くらいでなにも見えなかった。


 うーん。

 で、どうしよう。

 なんかしんみりしてしまった。

 聖龍も気を遣ってるのか何も言わないし、なんか、こう、居心地が悪い。

 ええい、こういう時は無理やりにでも空気を変えるに限る!

 ぶんぶんと頭を振って髪をほどき、立ち上がって聖龍の手を引く。


「体を壊す」


 聖龍がぽかんとした顔で見上げてくる。

 や、龍でも体壊すって言ってたのはあんたじゃん?

 なかなか立ち上がろうとしないからぐいぐい引く。

 そしたら聖龍がなにか含みのありそうな、けど優しい笑みを浮かべて立ち上がった。


「うむ、そうじゃな。体調を崩してはならん。夜は冷えるからな」


 川から上がった聖龍に前みたいに魔法で水を飛ばしてもらい、持ってきておいた服を着る。

 そして、無言のまま聖龍と並んで洞穴まで歩く。


「さてさて、どうするか。お主が眠いのならこのまま寝てもいいと思うが」


 聖龍がそう聞いてくる。

 でも、もうやることは決めてるんだ。

 その問いには答えすに、一昨日聖龍が酒を取り出した木箱から二本、瓶を取り出して机に置く。


「お母さんの話を聞きたい」


 さっきので気になってしまった。

 今日はちゃんと意識があるし、そもそも聖龍の所に留まる条件にもお母さんのことを教える、っていうのも含まれていたんだ。

 それなら聞けるときに聞いておいた方がいい。


「よし、わかった。ほれ、貸してみい」


 差し出された手に酒瓶を渡し、その間にベッドの端の腰かける。

 聖龍がポンッ、っと小気味いい音を立ててコルクを抜いてそのうちの一本を渡す。


 その夜は、聖龍の静かな語り口でお母さんの話を聞いて更けていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに見かけたら話が進んでて嬉しくなりました。
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