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40.ジャラジャラ飾りを付けた龍ってどうよ

 あー肩凝った!

 ようやく龍に戻れた。

 片方しかない腕の代わりに、今や懐かしい翼腕を地面について猫の如く伸びをする。

 ちなみにギリギリ服と呼べそうだったボロ切れは、当然ながら完全にボロ切れになった。

 ペンダントはまあ、壊すのも忍びないから爪に巻き付けてある。


 さて、じゃあ検証の結果はと。

 苦痛に目を見開いたまま事切れたケクロプスに目を向ける。

 その口から血の混じった泡を吹き、それに加え目とか鼻とかありとあらゆる所から血を流していた。

 なるほどそっかー。

 私のブレス吸い込むとこうなるのかー。

 明らかにやばい毒飲んだみたいになってるんだけど。

 結局効果が分からないままだったから試しにやってみたんだけど、これは酷いな。


 さて、今私がこうしている理由。

 まだ他の龍の居場所が分かっていないのにも関わらずこうしているのにはもちろん理由がある。


 多分なんだけど、あの近くにイケおじ居たんだよね。

 それらしき魔力が近付いてくるのを感じた。

 何をしに来たのかは分からないけど、私が襲った直後に私のいる、しかも穏やかじゃない雰囲気の他国まで出張ってくる?

 そんなの間違いなく私目当てでしょ。

 当然今の私じゃまともじゃない戦い方でも勝てるはずも無いし、人のフリしてても顔を見られてるから悪・即・斬される。

 そうなると逃げるしか無くなるんだけど、当然ただ逃げるだけじゃ割に合わない。

 あれだけ痛い思いした訳だし。


 だから龍の居場所とケクロプスの死体を天秤にかけて回収出来そうな方を選んだ。

 まあそれにしたってアイツに勝てるかどうかではあったけど近付かれなければどうとでもできるし、そもそも人の姿で戦う必要なんか微塵もない。

 負ける気はしなかった。


 っとと、そんな事よりさっさと腑分けしちゃおう。

 さてさて、龍のハーフにも龍玉はあるのかなー。

 人の形をしてるし小さいから、爪を突き立てて引き裂けばすぐ終わる。

 柔いしね。

 まあその分より猟奇的な訳ですが。

 こんな凄惨な光景、私のお淑やかな口からはとても言い表せないね!

 誰だ笑ったやつ。


 ふむ。

 結論から言おう。

 龍玉はなかった。

 教科書とかで見た事のある、人間と同じ臓器しかない。

 うーん、そっかぁー。

 無いのかー。

 龍玉を食べて、上手く行けば魔法を封じる技術を取り込めるかと思ったんだけどそんなに甘くなかった。


 ちなみにケクロプスが魔法を封じていた理屈は、理屈自体は割と単純だった。

 それは魔法を使う時に構築する陣の一部をズラして魔法陣の魔力の巡りを悪くする事。

 そうなると魔法陣全体に生き渡ろうとする魔力が、その道を無くすことによって一箇所に留まり、それが限界を超えた時に爆発するという理屈。

 私の水道管が詰まったイメージっていうのはあながち間違いでもなかった訳だ。

 まあ、それよりかは電子基板とかの方が近いんだけど。

 簡単に言うと魔力を通す基板がショートしてたってわけ。


 私が何回も暴発させてたのはその理屈を探る為だ。

 で、理屈が分かればあとはそれを解決するだけ。

 何回も繰り返しているうちに、癖なのかなんなのか陣のズレ方に法則性を見つけたからそれに合わせて陣を構築、ズラされた時に正しく収まるように初めからズラしておいたのだ。

 つまり右にズラされるなら初めから左にズラしておけばいいということ。

 簡単に言ってるけど、そんなの意識してやった事ないから結構手間取ったんだけどね。

 現にケクロプスと一対一でやりあった時はそれなりに接近を許してしまった。

 あれでもし魔法を弾くなり逸らすなりされたら結構キツかったと思う。

 あとよく分からんプライドのせいで怪我をそのままにしておいたのは明らかに失策だった。

 十全の状態だったらどうなったか分からない。


 にしても、こいつ死ぬ前になんか言ってたな。

 なんだろう、私にはあまり意味のわからない言葉だった。

 あれは多分、私に向けた言葉ではなかったんだろう。

 私以外の何かに向けた、呪詛の言葉。

 憎悪と殺意に塗れた、その場にいてその場にいない呪い。

 それにはちょっと感じる物があった。

 もしかして私も、復讐を果たせなかったら……。


 やめやめ。

 私には関係の無い事だ。

 死んだらそれは勝てもしない戦いを挑んだ私が馬鹿だった。

 それだけの事だ。

 そこに憎しみも何もない。


 よし、そういう事だ。

 さて、これからどうしようか。

 ケクロプスからは聞き出せなかったけど、龍の居場所を全く知らない訳ではないんだよね。

 ラウムのおとぎ話で聞いた、聖龍の居場所は分かっているのだ。

 曰く北の山脈のどこか。

 地図が無いからそこがどれくらい広いのかは不明だけど、だとしても当てもなく飛び回るよりはずっといい。

 が、それにも問題がある。

 話を聞く限り恐らく聖龍はとんでもなく強い。

 じゃなかったらたった1頭で他国が戦争を躊躇うはずも無いし、そもそもケクロプスの話だと帝国は龍が複数いないと聖龍には勝てないと判断していたのだ。

 そんな相手に私だけで勝てるか?

 相手を知らないからなんとも言えないけど、私は多分勝てないと思ってる。

 だけど、そうなると困った事に虱潰しに探すしか方法が無くなる。


 むー。

 どうするかなー。

 いや、王国を守護するとか言われてるし、私の目標は目下王国と戦争中の帝国の人間なんだからもしかするのでは?

 敵の敵は味方って言うし行けると思う。

 と考えて、上の空だった意識を前に向けるといつの間にか謎男が目の前にいた。

 相変わらずニコニコと人の良さそうで趣味悪そうな顔で笑ってる。


 お前……ホントお前!

 めちゃくちゃびっくりしたわ!

 反射的に魔法撃ちそうになったぞ!


「君、殺した相手をバラバラにする趣味でもあるの?」


 異常性癖みたいに言うのやめてくんない?

 冷静に聞くと完全に猟奇殺人じゃん。

 私の求めてる物がそういう物なんだから仕方ないでしょ。

 ってか、なんでやってるか知ってるでしょうが。


「まあね。あ、その龍人が付けてるペンダントは回収しときな。色々便利だよ」


 は?

 ペンダント?

 ケクロプスに目を向けてみれば、確かに血に汚れてはいるけど金属質に光る物があった。

 首に掛けられている鎖を翼爪で断ち切ってペンダントを外す。

 なんだこれ。

 形は……なんだろうな。

 双頭のカラスかな?


「とりあえず魔力を流してみて」


 ふむ……なんか知らないけど、爆発するって訳でもないでしょ。

 したとしても死にはしないだろうし。

 そう判断して、爪を当ててペンダントに魔力を通す。

 するとペンダントから浮き上がるように魔法陣が映し出された。

 なんか映画とかで良くあるホログラムみたいな感じだ。

 その魔法陣のうち、下から二割くらいが他よりも明るい。

 どういう事だ?

 説明プリーズ。


「そのバラバラ龍人が魔法を使えないのは知ってるよね?」


 当然知ってる。

 魔法が使えるなら私とか、町での戦いの時に使ってるはずだ。

 あの局面で出し惜しみするはずがないし使えないのは間違いない。

 けど、そうなると不思議な事がある。

 ケクロプスは転移で私の前から消えたし、屋敷を襲われた時は初めに魔力の高まりがあった。

 明らかな矛盾があるのだ。

 魔法が使えないはずなのに明らかに魔法としか思えない事をしている。


 もしかしてこれが原因か?

 魔法が使えない人でも魔法を使えるようにするとか?


「気付いた? それはちょっと出処が特殊な魔法具でね。知ってる?魔法具」


 何となく分かるけど知らん。

 教えてちょーだい。


「じゃあもうこの際だから魔法周辺についてあらかたおさらいしようか。はい、まずは魔力について。流石に分かるよね? 生物なら誰でも体の中に蓄えているもの。魔法を使う時に使うのももちろん、騎士とか冒険者みたいな戦いを生業としてる人なら誰でも使ってるものでもある」


 ほう?

 魔法は分かるけど、騎士とかも?

 つまり、グラムロックみたいな魔法自体は使えない人間でも魔力を使っていると?


「彼らは訓練を積むことによって、体を循環している魔力が少しづつ体に馴染ませていく。その結果、魔力の循環効率が良くなって身体能力が強化されるって訳だ。まあ、彼らもそこまで知ってる訳じゃないけど、体を鍛えれば動くようになることは知っているから訓練を欠かさない。当然個人差があるから伸びとか限界とかは違うけどね。ここまではいい?」


 おっけー。

 つまり、めちゃくちゃ簡単に言うとこの世界の住人は筋トレの効率が凄まじくいいって訳だ。

 ラウムの速度だったり、人間辞めてる跳躍力の秘訣はそういう事か。


「ついでにそれくらいなら魔力は特に消費されない。魔法として外に出すから消費される訳だしね。さて、次は君がよく使う魔法に関してだ。よく聞いといてよ?」


 わーい。

 脚と翼を折って居住まいを正して話を聞く。


「魔法とは自分で組み立てて生み出す現象の事だ。騎士達が無意識に使っている魔力を、明確な意思を持って扱う術。自分で1から作るという特性上術者の技術が足りているならなんでも出来る」


 今なんでもって言った?

 思わず体を起こしかけた。

 もしかして、もしかしての話なんだけど、なんでもって事はだよ?


『死人を生き返らせられる?』


 もしお母さんを生き返らせられるなら、私は復讐をする理由が無くなる。

 私だって平和な日本で生きていたのだ。

 当然争う理由がないのなら争わない。

 お母さんが生き返るのなら、この憎しみも何とか飲み込むことができる。

 けど、現実はそんなに甘くなかった。


「それはできない。君が誰を生き返らせたいのかはあえて聞かないけど、生物は死ぬと魂が霧散する。魂は魔力と似てるんだ。体の中にあるけど、体外に出れば即座に分解される。死んだ直後ならまだしも5分もすれば望みはなくなる」


 そう……か……まあそりゃそうだよね。

 死人の蘇生なんて世界中の誰もが望んでいる。

 家族、友人、恋人、誰だって親しい人には死んで欲しくない。

 けど現実として人は死んでいるのだ。

 そんな上手い話がある訳が無い。


「加えて間違いなく魔力の消費量が桁外れに多い。そんな量の魔力を一度に消費したらまず魔絶は免れないし、そもそも短時間で使える魔力の量には限界があるんだよ。人によるけどそこまで多くもない。むしろ総量に比べたら微々たるものだ」


 そっか……まあいいさ。

 突然降って湧いた希望だっただけだ。

 私のやることは変わらない。

 お母さんが死んだのに関わった奴を全員殺す。

 むしろ余計な考えに惑わされなくなったと考えれば儲けものだ。


「魔力に関してはそんな所かな。で、ここから本題。魔法具についてね」


 はーい。

 何やかんやあって魔法を使えない人でも魔法を使えるようにするものでしょー?

 知ってるー。

 前世の知識だけどな!


「魔法具は魔法を使う時の構築を予め書き写しておいた物の事を指す。だから構築を作れない人でも魔力を流す事さえ出来れば簡単に魔法を使えるようになる。当然、限界を超える魔力が必要な場合は使えないけどね」


 ふむ、大体イメージ通り。

 つまりあのペンダントには転移の構築が書かれているって訳か。

 加えて何かしらの攻撃魔法も?

 じゃなきゃ屋敷を襲った時の爆音の説明がつかない。


「で、それが特殊な理由は魔力を溜められるって事だ。知っての通り魔力は体外では分解される。けどそれは別で、少しづつ溜めておくことで魔力の使用量がかなり多い転移を誰でも扱えるようにしている。あの龍人が転移できたのもそれが理由かな。彼、魔封じに才能全振りした結果他の魔法を使う余裕無くなっちゃってたからね。だいぶ便利だったと思うよ」


 あ、そうなの?


「変に魔封じに固執しないでちゃんと魔法も鍛えてればクラナハでも何とか勝てただろうに、彼も惜しいことしたなあ。結構才能もあったんだけどなー」


 マジで?


「あ、そしたら君は仲間になるって条件で騎士達を見逃してもらう、みたいな方向だったのかな。その方が後々便利そうだね。あと少し面白い」


 やだそれなんてヒロイン?

 私には無理だ。

 もしそうなってたらケクロプス脅す。

 見逃さなければお前を殺すくらいの勢いでやる。

 見逃してもらう側の態度じゃねえなこれ。

 良かったーケクロプスが魔法使えなくて。


「ま、そんな訳なのでそれはどっかに持っといてね。あと似たような、便利そうな魔法具は持ってるが吉。君ゴリ押しばっかりだし、ちょっとは絡め手を覚えなさい」


 えー絡め手使う必要も無いしー、とか言ってられるのは今だけで、イケおじに勝つにはそれだけでは駄目なことくらい分かってる。

 もちろんその辺りも考えてはいるさ。

 通用するかはやってみないと分からないけどね。


「あとこれ、リンゴ。投げるよー受け取ってー」


 ぽーんとリンゴが放り投げられた。

 わーいリンゴー!

 地面に落ちる前に口で受け止め、咀嚼する間もなく飲み込む。

 うん、食った気がしねえ。

 サイズ比が違いすぎる。

 人間の時はあれ一つで割と満足だったけど、今らそうも行かなかった。

 泣きそう。

 しくしく。


「あ、それと聖龍の所は行った方がいいよ。どうせそこしか行く宛ないでしょ? 変なことしなければ温厚な方だから大丈夫大丈夫。それじゃねー」


 そう言って謎男は転移で去っていった。

 おう。

 なんだろう。

 なんか、ちょっと違和感があるな。

 焦ってる?

 逃げるみたいだった?

 なんというか、最後の方の謎男は急いでるみたいだった。

 何かあったのかな。

 あいつが焦るような何かとは?

 うむ、分からん。

 そもそもあいつが何を企んでいるのかが分からないんだから、いくら考えても仕方ないか。


 それよりも謎男は聖龍の所に行けって言ってたな。

 いや、元から行くつもりではあったけどさ。

 あいつがわざわざ推奨するって碌な事にならない気がするんだけど。

 うーん……まあ、あいつがなんて言おうと私の予定は変わらないな。

 もし嘘だったとしても私は結局行ってただろうから、それならあいつが何も言ってないのと変わらない。

 むしろ警戒できて良かったと考えるべきか。

 よし、じゃあ早速向かおう。

 ケクロプスのペンダントは咥えとくか。


 久しぶりに龍の姿で翼を広げ、地面を蹴って飛び上がる。

 やっぱり人の姿で飛ぶよりも楽だ。

 私は鱗を撫でる風に目を細めて、歯に引っ掛けているペンダントに魔力を流した。

 すぐ目の前に構築が浮かぶ。

 これ、転移の構築なんだよね。

 なら解析しない理由が無い。

 空間魔法でやったみたいに魔法陣を真似してみよう。

 上手く行けば転移が使えるようになる。


 まあ、焦る必要はないけどね。

 どうせ北の山脈とか言うくらいだししばらく掛かるだろう。

 ちょっとした息抜きだと思ってのんびりやらせてもらう。

指輪みたいにペンダント付けた黒龍。

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