39.恐ろしく早い襲撃、私じゃなきゃ見逃しちゃうね
キリがいいので更新。短め。
私です。
肉食べてます。
おいしー。
人の金で食う焼肉は美味しいってホントだね。
まあ焼肉ってか串焼きだけど、肉を焼いてるんだから焼肉。
「あれ、おかしいな。お肉食べてる記憶しかないぞ?」
ラウムがなんか言ってるけど知らんです。
人は肉を食れば幸せになれるんだよ。
戦争してる人たちは一回顔突合せて焼肉食べた方がいいぞ。
そうすれば世界は平和になる。
「ていうか、無表情だけど美味しそうに食べるよねぇ」
無表情なのに分かるとはこれ如何に?
私の肉愛が溢れ出てるのかな?
「あ、そうだ」
何かを思い出した風のラウムに、串焼きを齧りながら顔を向ける。
「ナタールさんに言われてたんだけど、君はしばらく宿舎から出ないでね」
ホワイ?
いやわかる。
危険だとかなんとかって話でしょ?
それに関しては心配いらないんだけど。
前ラウムとやり合って勝ったしその辺は大丈夫だってのはわかってるはず。
「あ、いや君が強いってのは私達もわかってるんだけどね。ただやっぱり君は一般人で、保護された女の子なの」
ふむ……まあラウム達からすればそうもなるか。
これで私が傭兵とか冒険者みたいな、戦うのを生業としてるような人種だったら話は違ったんだろう。
ただ実際はどうであれ私は記憶喪失で保護された少女という扱いだ。
ただ、それを回避する方法はある。
理屈をこねくり回せば方法なんかいくらでもでっち上げられるものだ。
ただ、恐らくラウムはそれを許さないだろう。
齧っていた串焼きから口を離し、脂を指で拭ってから提案する。
「私が騎士になると言ったら?」
「ナタールさんは許すと思うけど、私が許さない。絶対にやめさせる」
そう言って私を見るラウムの目には力があった。
ほらね。
結局理屈をこねたとしてもそれは理屈であって感情とはまた別の問題。
そして剥き出しの感情に弱いのが私だ。
今まで好意とか善意を向けられた経験が少ないせいで、その手の感情には驚くほど弱い自覚がある。
ラウムがこれほど頑ななのはきっと彼女の過去と私の境遇を重ねた上で、戦うという事の危険性を踏まえて言っているからなのだろう。
つまり私の身を案じて言っているわけで、100%善意。
「そう」
「そうそう。君が戦うなんて言ったらホント引っぱたいてでも止めるからね?」
私の短い返事にラウムは安心したようだ。
優しく微笑んで前を向く。
私が何もしないのを了承したと思っているんだろう。
そんなはずがないのに。
私は強くならなければならない。
たとえ可能性が低くとも、チャンスがあるなら四の五の言わずにそれを試す。
そこに私の安否など関係ない。
確実に死ぬのが分かっていてやるほど馬鹿ではないけど、それでもだ。
だから、ラウムのそれが善意であろうとそこは譲れない。
そこに関しては諦めてもらうことにする。
「さ、じゃあお昼も食べたしさっさと帰ろっか。ナタールさんに怒られるのって効くんだよねー。怒鳴るんじゃなくてネチネチ嫌味ったらしくくるからさ」
とラウムが頭の後ろで手を組んで歩き出す。
その力の抜けた歩き方を見ながら考えていた。
私はケクロプスに勝てるか?
正直今のままだと勝ち目は薄い。
まず剣を持っていた時点でそんな心得のない上一般人程度の身体能力の私では勝てる見込みがない。
かと言って魔法戦に持ち込もうとしても相手も結構魔法は使えそうだし、私の方は何故か魔法が使えないと来た。
ただ、あの感じはどうも引っかかる。
なんかこう、感覚的な話なんだけどイケおじとか岩龍の時みたいに魔法自体が分解されたと言うよりは、どこかで詰まったような感じ。
それならどうにかすれば対処できそうな気はしてるんだよね。
水道管が詰まったイメージでやってみよう。
どうする?
大量の水で押し流す?
いやただでさえ詰まった水が溢れて大惨事なのに更に加えだらもっと酷いことにならない?
管を拡げるとしたら?
まあそうなるとどの?って話なんだけど。
水道管ならまだしも魔力の流れる場所なんて管も何も無いのにどうしろって言うのさ。
そうなると詰まる度にそれを除去しなきゃいけない訳だけど、それができるかどうかは未知数。
けど、未知数なら不可能ではない。
やり方次第でどうにかなるかもしれない。
とりあえずその方向性で行こう。
よし、方針は決まった。
となるとあとはナタール達がケクロプスを見つけるのを待とう。
もちろん私ものほほんと待ってるつもりはないけど、人手が多い分ナタール達に任せた方がいいだろう。
私はその間に別な事をやっていた方がいい。
魔力の探知とか隠し方とか諸々まだ上達の余地はあるしその辺りの練習をしておこう。
もちろん魔法自体の威力向上も。
しばらくやる事はそんな感じかな。
いや待って、何か見落としてない?
なにか大事なこと。
なんかこう、肌がピリつくような違和感が……待て、ピリつく?
天気は変わらず柔らかそうな雲が上空を流れる穏やかな昼下がり。
道行く人たちも午後の仕事に向けて気合を入れ直している。
この時間帯としては別におかしな所はない。
ラウムも変な空気を感じているようではなかった。
これは……魔力?
それに気づいた瞬間、遠くで地を揺らす爆発が起きた。
「なにごと!?」
その揺れの中でもよろけること無く一瞬で身構えたラウムが状況を確認しようとする。
それに対して私は無様によろけて転びかける始末である。
体幹って偉大だなぁ…じゃなくて。
爆発の中心は恐らくナタールの屋敷。
詳しい場所は分からなかったけど爆発の瞬間にいちばん魔力が高まったのはその方向だった。
ならそこ以外に考えられない。
「ナタールの屋敷」
「ケクロプスってやつか……!」
私の短い呟きで状況を察したラウム。
なんで私と接触してからこんなに早く?と思わなくもない。
けど、今のこの状況じゃケクロプスじゃないとしても帝国側の勢力の可能性は高い。
「君は宿舎に戻ってて!騎士連中がモタモタしてるようだったら尻引っぱたいて住民の避難! 君もそれに着いてくこと!いいね!絶対だよ!」
ラウムは私にそう言うなり風のような速さで屋敷の方へと走り去って行った。
それを見送ってから、私は指示された宿舎の方ではなくラウムの後を追って屋敷へ足を向けた。
さて、私も行きますか。
やれるかは分からない。
けどやるしかない。
勝てるかわからない戦いを勝ち抜いて、強くなる。
そうしなければ意思も覚悟も全て泡と消えるのだから。




