94. 大魔王、対峙する。
「アルフ! 大丈夫!?」
ロゼは膝をつくアルフに駆け寄る。
アルフたちの前に現れた鎧の騎士。
その正体は、アルフの実の弟オリハだった。
「オリハ……。何でオリハが……!?」
「やっぱり……。見間違いじゃなかったのね」
どうやら、ロゼも彼の正体に気づいていたようだ。
立ち上がるアルフとともに、2人して思いつめた表情で俯く。
「あの……。先ほどの方は、お二人のお知り合いなのですか?」
リリが2人に遠慮がちに問う。状況が飲み込めない悪魔たちではあるが、未知の土地に足を踏み入れた以上は、聞いておかねばならない事だろう。
ロゼは隠す事なく____隠す必要もないが____リリたちに口を開いた。
「ええ。あの子は……オリハ。3年前に病気で亡くなった筈の、アルフの弟です」
「え_____」
それを聞いたリリは、信じられないといった風に眉を少しひそめる。見間違いではないか_____だがリリがそれを口にする前に、アルフが先に言葉を発した。
「間違いねぇ。間違えるもんか。……オリハ。お前は、生きて……」
拳を地面に添えるように置き、立ち上がるアルフ。
先程、ツヴァイ_____オリハと対峙した際の動揺は収まっているかに思える。だが……。
「でもよ……。襲ってきたって事は、あの悪りー神サマの仲間だって事だよな?」
ウル太郎の言う通りだ。この先を進むのなら、必ずまたオリハはアルフの目の前に立ちはだかる。その時は今度こそ敵として闘うことになるかもしれない。
しかし、アルフの考えは違った。
「…………。先を急ごう。今は、レイドの助太刀にいかねーと」
そうして決意を新たに、アルフは皆の方へ振り返る。
「そうすりゃまた、あいつにも会える筈だ」
アルフは信じていたのだ。死んでいたとされた弟が、何処かで生きているということに。
だからこそ、それがどんな再会であろうと、覚悟はしていたのだろう。それ故に、彼は迷わなかった。迷わずに___当初の目的に目を向け直す事が出来たのだ。
リリたちは何も言わず、アルフの言葉に頷く。そしてミレトスが、遠くそびえる浮遊島に向けて杖を向けた。
「アドネーなら恐らく、あそこじゃろう」
そこは白い空を挟んだ先にある、一際大きな孤島。そこにある半壊した宮殿を、ミレトスは差していた。
「さっきから、あの宮殿からバカげた魔力を感じよるわい。もう闘いは始まっとるのう」
「ミレトス様のワープ魔法で一気に瞬間移動できませんか?」
リリの提案に、ミレトスは杖を左右に振る。
「無茶言わんでくれ。人間界に作っとる超巨大なワープだけで手一杯じゃ」
どうやら人間界の王都『プロスパレス』と天界を繋ぐ、『異界の結晶』間にあるワープ……。天使兵たちを直接王都に近づけさせない為にと仕込んだあのワープは、まだ生きているようだ。
確かに人間界での闘いはひとまず収束はしたものの、また何処で天使兵たちが身を潜めているかわからない。そういった意味でも、あのワープはまだ必要なのだろう。
そしてミレトス曰く、それを保ち続ける為には、新たなワープは作れない。つまりこの場はワープ抜きで宮殿まで行かねばならないという事だ。
それを理解したリリたちは、仕方なしと宮殿を見据えた。
「さて……。では気を取り直して、向かうとするかの。アドネーの元へ」
一向は、レイドのいる先____宮殿へと、再びその足を動かした。
____________
リリたちが宮殿を目指し始めたころ。
宮殿では、この世でいちばん激しい闘いが勃発していた。
「ぬぅぅぅりゃぁあ!!」
サルタンとアドネー。大魔王と創造神。
それぞれその名に恥じない実力を以て、相対する。
サルタンは叫びながら、最大級のパワーとスピードを兼ね備えた拳の乱打をアドネーに繰り出す。だがそれは、アドネーにひとつとして命中しない。
「『光槍』」
一瞬の隙を突き、アドネーの右手から放たれた技____。腕がギュルリと円錐形の鋭利な槍へと変化し、サルタンの顔面に向けて真っ直ぐに牙をむく。
「っ!!」
サルタンは左腕を駆使し、迫り来るそれを左側へと受け流す。槍はサルタンの左頬を僅かに掠め、元の腕へと姿を戻した。
互いに一歩も譲らぬ、生死を賭けた闘い……。頬の擦り傷からツゥ、と血を流すサルタンに対し、アドネーは小さく笑った。
「まったく……。折角『造った』宮殿が滅茶苦茶だよ。君のその破壊衝動は、1000年経っても変わらないみたいだね、大魔王」
「ぬかせ。貴様は『創造神』じゃろうが」
サルタンは話半分で胸の前に拳を合わせ、氷魔法『氷結界』の構えを取った。
「『氷結界』!!」
アドネーの周りに出現する、無数の氷の刃_____。だがアドネーは、その刃が自身を囲みきる前に瞬間移動の如く姿を消して回避し、上空へと飛び上がった。
「ふふ。そうだね」
空中で一回転してサルタンを見下ろした後、アドネーは大地に右手をつけて着地する。
「『光砲台』」
その言葉とともに大地から形成されたのは、3つの『砲台』。アドネーの目の前を覆うほどの大きさを持ったその砲台の銃口が、徐々に光り出していく。
「『光弾』」
そこから一斉に放たれた、『魔力の弾丸』。ガトリング砲の如く連射されていくその標的は、勿論サルタンだ。
「ぬっ!」
だがそれは直進的で、単調な攻撃。威力だけを見れば相当なものだと予想されるが、当たらなければどうという事はない。サルタンは跳躍してヒョイと砲台を飛び越し、アドネーに向けて拳を構えながら降下する。
「おおおお!!」
「ふふ。相変わらずよく吠える」
対してアドネーはそう呟き、砲台に向けて手をかざした。
「『光魔召喚』」
砲台はひとつにまとまって変形し、生物へと変貌していく。やがてそれはひとつの大きな土の魔物となり、サルタンの前に立ちはだかった。
『ガアァァァ!!』
「こざかしい!」
しかしそれはサルタンの前では茶々な小細工に過ぎない。振りかぶった拳を土の魔物へと振り下ろし、一蹴_____。そして、その眼前に映ったのは、憎きアドネーの冷笑。
「!!?」
その意味を理解する前に、サルタンの背後を予期せぬ一撃が襲う。それは『弾丸』……。先程回避した無数の弾丸がサルタンを追尾し、その背に襲いかかったのだ。
「ぐぅっ!」
「『光槍』」
アドネーの追撃。変形した右腕から放たれた槍が、サルタンの脇腹を貫いた。
「!!」
ジワリと感じる、確かな痛み____。だがそれこそ、相手に付け入る『チャンス』にもなり得る。
「っ……ふ、ははは!」
サルタンは『スピア』を両手でがっしり掴んで自分から引き抜き、そのままアドネーを反対側へとぶん投げた。
「____!」
そして自慢の足腰で一瞬のうちに吹っ飛ぶアドネーへと追いつき、渾身の力を込めて拳の一撃をお見舞い。アドネーは地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃に一瞬浮遊島が振動した。
激しい闘いの音は、2人が静止することによって一度停止する。
「……やはり君は、私を楽しませてくれる」
アドネーは大地に寝そべりながら、口元に着いた血を親指で拭った。
「その割には大して効いておらんように見えるがのう」
サルタンが言いながら、背中に「ふん」と力を込める。それにより先程命中した弾丸が次々と排出され、形を失って消滅した。
1000年来の再戦。互いに互いの実力を探りながら、闘いの熱はヒートアップしていく。アドネーはよろりと立ち上がり、服についた埃を払った。
「まぁ、準備体操はこのくらいにしておくとしようか。丁度『彼ら』もやって来た事だしね」
「……貴様の思い通りにはさせんぞ、アドネー」
「やっぱりフィアから聞いたんだ。私の『目的』を」
アドネーの言葉にサルタンは目の色を変える。
彼の『目的』は世界を破壊し、作り変えること。だが今の口ぶりから察するに、まだ何か『お楽しみ』があるようにも思える。
それが何なのか現状では分かり得ないが、しかしサルタンはより一層の覇気を込めてアドネーに言い放った。
「その為に儂がおる。……貴様はここで倒す。儂の命に代えても、じゃ」




