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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【三界戦争編】
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90/122

85. 共闘! 勇者&大魔王

 その男は立ち上がる。


 推定100メートルはあるであろう高さから雄々しく登場し、両手に持った大剣を地面に突き刺しながら。


 一瞬の地響きが宮殿内をかけ巡り、周囲を静寂に包ませる。

 その男が突き立てた剣の名は、地剣インヴォルフ。

 剣を異次元格納魔法『シーカー』の中に収納し、近くにいたジンをビシッと指差しすのは____勇者レイド。


 勇者だ。勇者がやってきたのだ。

 勇者、大魔王、創造神。彼等が一堂に会した歴史的瞬間とは、今まさにこの事と言えよう。


「やいやいやい、アドネー!! ようやく会えたな、嬉しいぜ! この俺が来たからには、テメーなんてけちょんけちょんにぶっ飛ばしてやるからな、覚悟しとけ!」


 静寂を斬りはらい、レイドは叫ぶ。

 しかし彼の眼前と、その指先に構えていたのは____獣の男、ジン。


「…………あぁ?」


 ジンは片眉を上げ、そう返す。


「何処を向いとる。そいつは別のやつじゃ」


「え?」


 肩を叩かれ、レイドが振り向いた先にいたのは、大魔王サルタン。レイドは思わず突飛な声を上げていた。


 確かにレイドはアドネー自身に会った事は無いため、その反応も頷けるが……目の前のいかにもな野生児であるジンが『創造神』などとは、初見の者でも思わないだろう。


「おー、大魔王! やっぱ天界に来てたのか! 思った通り会えると思ったぜ!」


 フレンドリーに肩を叩き返すレイド。サルタンは腕を組み、半ば呆れるように鼻息を吐いた。


(ぬし)も随分な登場の仕方じゃのう。何ゆえ空から降ってきたのじゃ」

「人間界から勢いよく飛んできてさ、調子に乗って飛びすぎた」


 レイドは破壊した天井の一角を指差し、空を仰ぐ。


「だから屋根を破壊した……か。ふははは、滅茶苦茶しよるのう」


 サルタンは乾いた笑いを漏らす。そうして一転して真面目な顔つきをし、声のトーンを少し落として『彼ら』へと目線をふった。


「……まぁ、それくらいが丁度良いやも知れぬな。彼奴等(きゃつら)を相手にするには」


 サルタンの視線の先に、レイドも目を向ける。


 白い宮殿……いや、白いというよりは、『色の抜けた』とでも言った方がしっくりくるかもしれない。


 その内装から柱に至るまで、全てがその色に統一された、ある種不気味な室内。そこには1つの玉座がポツリと置かれただけで、他には何も無い。


 そして、玉座に座る男と、付き添いの男が1人_____。


 今度は間違えようが無い。

 今、レイドの視線の先にいる者こそが、人間界を滅亡寸前まで陥し入れた張本人……世界を創った最初の生物_____『創造神アドネー』。



「レイド……性懲りも無く、また私の前に現れるとはね」


 アドネーは不快そうな口調で、レイドを玉座から見下ろす。


 金髪で長髪。顔立ちの整ったアドネーの若々しい姿を見て、レイドは疑問を口にした。


「アイツがアドネーか……? もっと歳とったジーさんかと思ってたけど、どうなってんだ?」


 レイドの言う通り、アドネーはサルタンにとって1000年の因縁が続く宿敵だ。端的に言えば1000年……いや、世界を創った神なのだ。その年齢はおよそ想像のつかないものであるはず。


 だというのに外見が青年のままであるアドネーに、疑問を浮かべないはずが無い。


「そりゃー、『神』じゃからの。まぁいろいろあるわけじゃ」


 鼻をほじるサルタン。何か知っているような口ぶりだが、それを話してくれる雰囲気でも無い。


「そういうもんかねぇ……」


 当のレイドも余り興味がなさげな様子。

 確かに、大抵のことは『神だから』で納得いくのかもしれない。だって相手は神なのだから。


「ほかにも知らねーやつが2人程いるんだが……アイツら誰だ?」


 レイドはアドネーから視線を変え、ツヴァイとジンを一瞥する。


 鎧の男と獣の男……。どちらもレイドにとって、初めて見る顔ぶれだ。


「アドネーの仲間じゃ。あっちは会ったことあるじゃろう、主の身体の内から出てきたんじゃからな」


「え……」


 サルタンに言われ、ジンを遠目からまじまじと見るレイド。その外見に心当たりは無いのだが、サルタンの言葉から連想される人物は1人しかいなかった。


「な……もしかして『瘴気の男』か!? 全然別人になっちまってるぞ!?」


「元がどうだったかは知らんが、恐らくアドネーがあの者に肉体を与えでもしたのじゃろう。少しだけ手合わせしたが……中々厄介そうじゃぞ」


 サルタンは呟くように続ける。


「まァそのお陰で、主も本来の強さを取り戻したようじゃがのう」


「あん?」


 レイドから出てきた瘴気の男____今は獣の男に姿を変えたが、その権化(ごんげ)はレイドの人間に対する憎悪だ。

 それを切り離したレイドは、3年前の純粋な心……すなわち『勇者』としての想いを取り戻した事に他ならない。サルタンはそれを見抜いていたようだ。


「ふはは……。お喋りはこのくらいにしておこう。勇者よ、気を引き締めい。_____来るぞ」


 サルタンは拳を構える。それにあわせて、レイドも『シーカー』から剣を取り出した。


「……ああ!」



 臨戦態勢のレイドとサルタン。

 人間界最強の男と、魔界最強の男。

 対するは天界最強の男、アドネーとその配下2名。


 アドネーは玉座から動かず、2人に命じた。


「ツヴァイ。ジン。目障りなあの2人を蹴散らせ」


 少し荒い口調で、面白くないものを見るように顔をこわばらせるアドネー。

 だがツヴァイとジンは忠実に、その命を賜った。


「はい」


「はははぁーーーっ!!」


 天界最強の男の配下たちは、レイドたちに迫り来る。

 叫びをあげながらサルタンに向かっていったのは、獣の男ジン。

 ジンはその鋭い爪を以って、サルタンに振りかざす。

 しかしサルタンも負けじと爪を伸ばし、ジンの攻撃の軌道にそれを当て防いだ。


「爪が伸びるのは、主だけじゃあないぞ」


 鋭く頑丈な両者の爪が重なり合い、周囲に音を散らす。レイドはそれを見て、かつての闘いを思い出した。


「おぉ、ゾン吉のマネ……!?」

「何処を見ている、レイド」


 レイドが2人の闘いに視線を向けていた刹那、彼の上空からツヴァイが剣を突き立てながら現れる。


「っと!」

「お前の相手は俺だ」


 レイドは紙一重で攻撃を躱し、後ろへ退避する。

 ツヴァイは突き刺さった剣を引き抜き、前方を見据えた。


 レイドVSツヴァイ。

 サルタンVSジン。


 かくして、世界の崩壊をかけた闘いが始まった。


「くそー、鎧なんかつけやがって。何者(なにもん)だテメー! 正体見せやがれ!」


 レイドは剣を構え、ツヴァイに言い放つ。

 その手に持つのは『風剣ウィム』。機動能力に優れた風属性の剣。未知の相手には、まずその剣で立ち向かうのがレイドにとっての定石だった。


「……やはり、忘れたか。貴様は」


 ツヴァイは目を閉じ、腰を落としてそう告げる。


「……は?」


「覚えていないならそれでいい。そのまま……朽ち果てろ」


 言葉と共に闘気を発し、ツヴァイはレイドに剣を振った。


「っ!!」


 ジャンプして避けるレイド。

 何よりもレイドが驚いたのは、その手数だ。


 次から次へと高速で剣を振るうツヴァイに対し、反撃の隙が見当たらない。相手が鎧を纏っている事から、その戦闘スタイルは一撃の重さがモノを言うパワータイプかとレイドは推測していたのだが_____とんでもない。

 パワーとスピード、そして鎧による防御力まで兼ね備えた、一点の弱点もないオールラウンダーだ。


 対して風剣ウィムはスピードこそあれど、一撃の攻撃力は低い。それ故に手数で攻めようというのがレイドの魂胆であったが……完全に誤算だった。


 ツヴァイの連撃から一旦大きく離れ、レイドはさらに後退する。

 その時背中にドンとぶつかったのは、壁____ではなくサルタン。


「とと。ふはは、苦戦しているようじゃな? 勇者よ」


 背中合わせのまま、サルタンはレイドに語りかける。


「う、うるせー。まだまだこれからだっての」


 レイドはゴニョゴニョと口を尖らせる。

 確かに、相手が重装備してるからといって、『動きが遅い』と決め付けたレイドに非がある。じゃんけんでいうなら、相手がパーを出すと決めつけてチョキを先出ししてしまった……そんなところだろう。



 背中合わせのレイドとサルタン。彼らを挟むようにして、ツヴァイとジンがそれぞれの武器を構える。


 モタつく彼らに、アドネーは苛立ちを目に募らせた。


「何をしているんだ、お前たち。あまり時間をとらせるな」


 だが、その言葉に反応したのは……大魔王サルタン。


「ならば……主も()れば良かろう!!」


 ふいと、9時の方向に()()り返るアドネーに向けて、大地に拳を叩きつける。


 その衝撃は宮殿全体を地響きで震わせ、地面に深い亀裂_____地割れを引き起こした。


「!!」


「な……」


「マジかよ!! お前ェ、俺もいるんだぞ!!」


 地割れは蜘蛛の巣のように、サルタンを中心に四方八方へと広がっていく。

 その無差別攻撃をそれぞれ、ツヴァイは見切り、ジンは持ち前の飛行能力で回避し、レイドもまた風剣ウィムにより空中へと逃れた。


 一瞬にして宮殿は崩壊_____辺りは変貌し、闘いの場は白い荒野と化した。


「ふはは、これで全員土俵入りじゃのう。アドネー」


 サルタンは笑い、腕をグルグル回す。

 肝心のアドネーはというと_____亀裂に飲み込まれることなく、自分の中心を包むように結界のような円形のバリアを天界し、それを足場として立っていた。


「…………いいだろう」

 一瞬の静寂の後、バリアを半分解き、上半身を覗かせて片手を広げるアドネー。


「そんなに死に急ぎたいのなら、今すぐ壊してあげようじゃあないか……大魔王!」

 その言葉からは、かつてない程の気迫が込められていた。

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