85. 共闘! 勇者&大魔王
その男は立ち上がる。
推定100メートルはあるであろう高さから雄々しく登場し、両手に持った大剣を地面に突き刺しながら。
一瞬の地響きが宮殿内をかけ巡り、周囲を静寂に包ませる。
その男が突き立てた剣の名は、地剣インヴォルフ。
剣を異次元格納魔法『シーカー』の中に収納し、近くにいたジンをビシッと指差しすのは____勇者レイド。
勇者だ。勇者がやってきたのだ。
勇者、大魔王、創造神。彼等が一堂に会した歴史的瞬間とは、今まさにこの事と言えよう。
「やいやいやい、アドネー!! ようやく会えたな、嬉しいぜ! この俺が来たからには、テメーなんてけちょんけちょんにぶっ飛ばしてやるからな、覚悟しとけ!」
静寂を斬りはらい、レイドは叫ぶ。
しかし彼の眼前と、その指先に構えていたのは____獣の男、ジン。
「…………あぁ?」
ジンは片眉を上げ、そう返す。
「何処を向いとる。そいつは別のやつじゃ」
「え?」
肩を叩かれ、レイドが振り向いた先にいたのは、大魔王サルタン。レイドは思わず突飛な声を上げていた。
確かにレイドはアドネー自身に会った事は無いため、その反応も頷けるが……目の前のいかにもな野生児であるジンが『創造神』などとは、初見の者でも思わないだろう。
「おー、大魔王! やっぱ天界に来てたのか! 思った通り会えると思ったぜ!」
フレンドリーに肩を叩き返すレイド。サルタンは腕を組み、半ば呆れるように鼻息を吐いた。
「主も随分な登場の仕方じゃのう。何ゆえ空から降ってきたのじゃ」
「人間界から勢いよく飛んできてさ、調子に乗って飛びすぎた」
レイドは破壊した天井の一角を指差し、空を仰ぐ。
「だから屋根を破壊した……か。ふははは、滅茶苦茶しよるのう」
サルタンは乾いた笑いを漏らす。そうして一転して真面目な顔つきをし、声のトーンを少し落として『彼ら』へと目線をふった。
「……まぁ、それくらいが丁度良いやも知れぬな。彼奴等を相手にするには」
サルタンの視線の先に、レイドも目を向ける。
白い宮殿……いや、白いというよりは、『色の抜けた』とでも言った方がしっくりくるかもしれない。
その内装から柱に至るまで、全てがその色に統一された、ある種不気味な室内。そこには1つの玉座がポツリと置かれただけで、他には何も無い。
そして、玉座に座る男と、付き添いの男が1人_____。
今度は間違えようが無い。
今、レイドの視線の先にいる者こそが、人間界を滅亡寸前まで陥し入れた張本人……世界を創った最初の生物_____『創造神アドネー』。
「レイド……性懲りも無く、また私の前に現れるとはね」
アドネーは不快そうな口調で、レイドを玉座から見下ろす。
金髪で長髪。顔立ちの整ったアドネーの若々しい姿を見て、レイドは疑問を口にした。
「アイツがアドネーか……? もっと歳とったジーさんかと思ってたけど、どうなってんだ?」
レイドの言う通り、アドネーはサルタンにとって1000年の因縁が続く宿敵だ。端的に言えば1000年……いや、世界を創った神なのだ。その年齢はおよそ想像のつかないものであるはず。
だというのに外見が青年のままであるアドネーに、疑問を浮かべないはずが無い。
「そりゃー、『神』じゃからの。まぁいろいろあるわけじゃ」
鼻をほじるサルタン。何か知っているような口ぶりだが、それを話してくれる雰囲気でも無い。
「そういうもんかねぇ……」
当のレイドも余り興味がなさげな様子。
確かに、大抵のことは『神だから』で納得いくのかもしれない。だって相手は神なのだから。
「ほかにも知らねーやつが2人程いるんだが……アイツら誰だ?」
レイドはアドネーから視線を変え、ツヴァイとジンを一瞥する。
鎧の男と獣の男……。どちらもレイドにとって、初めて見る顔ぶれだ。
「アドネーの仲間じゃ。あっちは会ったことあるじゃろう、主の身体の内から出てきたんじゃからな」
「え……」
サルタンに言われ、ジンを遠目からまじまじと見るレイド。その外見に心当たりは無いのだが、サルタンの言葉から連想される人物は1人しかいなかった。
「な……もしかして『瘴気の男』か!? 全然別人になっちまってるぞ!?」
「元がどうだったかは知らんが、恐らくアドネーがあの者に肉体を与えでもしたのじゃろう。少しだけ手合わせしたが……中々厄介そうじゃぞ」
サルタンは呟くように続ける。
「まァそのお陰で、主も本来の強さを取り戻したようじゃがのう」
「あん?」
レイドから出てきた瘴気の男____今は獣の男に姿を変えたが、その権化はレイドの人間に対する憎悪だ。
それを切り離したレイドは、3年前の純粋な心……すなわち『勇者』としての想いを取り戻した事に他ならない。サルタンはそれを見抜いていたようだ。
「ふはは……。お喋りはこのくらいにしておこう。勇者よ、気を引き締めい。_____来るぞ」
サルタンは拳を構える。それにあわせて、レイドも『シーカー』から剣を取り出した。
「……ああ!」
臨戦態勢のレイドとサルタン。
人間界最強の男と、魔界最強の男。
対するは天界最強の男、アドネーとその配下2名。
アドネーは玉座から動かず、2人に命じた。
「ツヴァイ。ジン。目障りなあの2人を蹴散らせ」
少し荒い口調で、面白くないものを見るように顔をこわばらせるアドネー。
だがツヴァイとジンは忠実に、その命を賜った。
「はい」
「はははぁーーーっ!!」
天界最強の男の配下たちは、レイドたちに迫り来る。
叫びをあげながらサルタンに向かっていったのは、獣の男ジン。
ジンはその鋭い爪を以って、サルタンに振りかざす。
しかしサルタンも負けじと爪を伸ばし、ジンの攻撃の軌道にそれを当て防いだ。
「爪が伸びるのは、主だけじゃあないぞ」
鋭く頑丈な両者の爪が重なり合い、周囲に音を散らす。レイドはそれを見て、かつての闘いを思い出した。
「おぉ、ゾン吉のマネ……!?」
「何処を見ている、レイド」
レイドが2人の闘いに視線を向けていた刹那、彼の上空からツヴァイが剣を突き立てながら現れる。
「っと!」
「お前の相手は俺だ」
レイドは紙一重で攻撃を躱し、後ろへ退避する。
ツヴァイは突き刺さった剣を引き抜き、前方を見据えた。
レイドVSツヴァイ。
サルタンVSジン。
かくして、世界の崩壊をかけた闘いが始まった。
「くそー、鎧なんかつけやがって。何者だテメー! 正体見せやがれ!」
レイドは剣を構え、ツヴァイに言い放つ。
その手に持つのは『風剣ウィム』。機動能力に優れた風属性の剣。未知の相手には、まずその剣で立ち向かうのがレイドにとっての定石だった。
「……やはり、忘れたか。貴様は」
ツヴァイは目を閉じ、腰を落としてそう告げる。
「……は?」
「覚えていないならそれでいい。そのまま……朽ち果てろ」
言葉と共に闘気を発し、ツヴァイはレイドに剣を振った。
「っ!!」
ジャンプして避けるレイド。
何よりもレイドが驚いたのは、その手数だ。
次から次へと高速で剣を振るうツヴァイに対し、反撃の隙が見当たらない。相手が鎧を纏っている事から、その戦闘スタイルは一撃の重さがモノを言うパワータイプかとレイドは推測していたのだが_____とんでもない。
パワーとスピード、そして鎧による防御力まで兼ね備えた、一点の弱点もないオールラウンダーだ。
対して風剣ウィムはスピードこそあれど、一撃の攻撃力は低い。それ故に手数で攻めようというのがレイドの魂胆であったが……完全に誤算だった。
ツヴァイの連撃から一旦大きく離れ、レイドはさらに後退する。
その時背中にドンとぶつかったのは、壁____ではなくサルタン。
「とと。ふはは、苦戦しているようじゃな? 勇者よ」
背中合わせのまま、サルタンはレイドに語りかける。
「う、うるせー。まだまだこれからだっての」
レイドはゴニョゴニョと口を尖らせる。
確かに、相手が重装備してるからといって、『動きが遅い』と決め付けたレイドに非がある。じゃんけんでいうなら、相手がパーを出すと決めつけてチョキを先出ししてしまった……そんなところだろう。
背中合わせのレイドとサルタン。彼らを挟むようにして、ツヴァイとジンがそれぞれの武器を構える。
モタつく彼らに、アドネーは苛立ちを目に募らせた。
「何をしているんだ、お前たち。あまり時間をとらせるな」
だが、その言葉に反応したのは……大魔王サルタン。
「ならば……主も来れば良かろう!!」
ふいと、9時の方向に踏ん反り返るアドネーに向けて、大地に拳を叩きつける。
その衝撃は宮殿全体を地響きで震わせ、地面に深い亀裂_____地割れを引き起こした。
「!!」
「な……」
「マジかよ!! お前ェ、俺もいるんだぞ!!」
地割れは蜘蛛の巣のように、サルタンを中心に四方八方へと広がっていく。
その無差別攻撃をそれぞれ、ツヴァイは見切り、ジンは持ち前の飛行能力で回避し、レイドもまた風剣ウィムにより空中へと逃れた。
一瞬にして宮殿は崩壊_____辺りは変貌し、闘いの場は白い荒野と化した。
「ふはは、これで全員土俵入りじゃのう。アドネー」
サルタンは笑い、腕をグルグル回す。
肝心のアドネーはというと_____亀裂に飲み込まれることなく、自分の中心を包むように結界のような円形のバリアを天界し、それを足場として立っていた。
「…………いいだろう」
一瞬の静寂の後、バリアを半分解き、上半身を覗かせて片手を広げるアドネー。
「そんなに死に急ぎたいのなら、今すぐ壊してあげようじゃあないか……大魔王!」
その言葉からは、かつてない程の気迫が込められていた。




