82. 賢者ミレトス
「な……ぜ、ゼットカリバーが、喋った……!?」
レイドは驚き、手に持った聖剣を目を丸くして凝視する。
『何を言う! ワシが言葉を発して何が悪い!』
「あだっ!」
聖剣は突然怒り出し、自らの意思でレイドの顔面に体当たり。
『やれやれ。勇者がどんな輩なのか興味を持っておったのじゃが……なんじゃお前は!』
「あだっ!」
鞘に収まったまま、聖剣はもう一度レイドにアタック。そして終いにはレイドの手から離れ、その頭を何遍も叩き出した。
『天使兵如きに手こずりおって! それでも伝説の剣を持つ勇者かぁ!』
「いたたたたた! 何だぁ、コイツは!?」
その光景は、まるでキツツキに突かれている大木のよう。たまらぬ仕打ちに耐え兼ねたレイドは、頭を守るように手で覆って一歩退いた。
聖剣は攻撃をやめ、宙に浮いたまま依然として怒号をぶつける。
『ワシを知らぬか、恥を知れ! 年端も行かぬ若造が!』
それに対して、アルフが腕を組みながら恐る恐る尋ねた。
「ゼットカリバー……だろ?」
『違う! ぬ、いや確かに、今はそうとも言うが……』
聖剣はブンブンと刀身を左右に振り、自慢気に仰け反って言い放った。
『知らぬというなら教えてやろう! ワシの名はミレトス! 『賢者ミレトス』とはワシのことよ!』
「知らねーよ!」
レイドの仕返し。聖剣は、腹をポコリと蹴られて地面に落ちる。
『ごふぁ!?』
「そんな名前、聞いたこともないってーの! 賢者なんて大層な二つ名まで付けやがって____」
レイドはそこで言葉を切り、何かを思い出しすように顎に手を当てて考え出した。
「……ん? ミレトス? 待てよ、どっかで……」
__________
何日か前の話。
それは魔王城のレイドの部屋にて、大魔王サルタンと話をしていた時のこと。
『賢者ミレトス。この名を知っておるか?』
『は? 何だいきなり』
『まァ聞け。今から千年前に、そう呼ばれる者がおった。賢者ミレトスは人間でありながら、莫大な魔力をその内に秘めておった。いわゆる『天才』という奴じゃ』
『そしてその魔力で、7つの剣を創り出した。それこそが_____主の持つ剣なのじゃ』
__________
「…………あ」
レイドは突飛な声を上げる。そして合点がいったように叫びだした。
「あーーーーーっ!! 賢者……ミレトス! 思い出した! 第34話で大魔王が言ってた、伝説の剣を創った張本人じゃねーか!」
突然のメタっぽい発言……。それはまぁ置いておくとして。
剣はムクリと起き上がり、レイドの目の前に刀身を寄せる。
『その通り! ワシが! 第34話でサルタンが言っておった、賢者ミレトスじゃ!』
「なにーー!? ____って、嘘つけェ!」
だがレイドは、そんな聖剣に再び蹴りを入れた。
『げっふぁ!』
地に倒れこむ聖剣を拾い上げ、レイドは言葉を続ける。
「確かミレトスって、1000年前の『人間』だろうが! もうとっくに死んでる筈だろ!」
『ふん。舐めるなよ、賢者を。その気になれば1000年の時を生きるなど容易いこと。まぁ、それなりに準備はいるがの』
聖剣は刀身を振ってホコリを払い、声のトーンを若干落とした。
「はぁ? 準備?」
『ワシが何故この剣の中に意識を宿しているのか。それはいずれ分かることじゃ。それよりもまずは……』
聖剣が深刻そうに何かを告げようとした時だった。
「ベル様!」
中心街の後方から聞こえた、覚えのある女性の声。
そこには、リリ、ロゼ、エリス、アルマの四人が駆け寄ってくる姿があった。
「あ、リリだ!」
元気そうに手を振るベゼル。
「ベル様、よくぞご無事で……。あぁ、本当に良かった……」
リリはそんなベゼルの前でしゃがみ込み、顔に触れてケガがない事を確かめると、心底安堵したように顔を伏せて胸をなでおろした。
「リリ……それにロゼたちも。無事だったんだな」
リリたちの合流により、聖剣との話は一旦途切れる。レイドの言葉に、リリは立ち上がって答えた。
「ええ。遠くから見てましたよ、レイドさんの活躍。本当にお疲れ様でした」
そのままリリは視線をレイドの右手……聖剣へと向ける。
「そして……ミレトス様。お久しぶりです」
『おぉ……お前さん、あの時城にいた娘っ子かい。随分と大きくなったのう』
違和感なく聖剣に話しかけるリリを見て、レイドは驚愕した。
「!! リリ、お前……コイツの事知ってんのか?」
「ええ、よく存じてますよ。この方はサル様の数少ないご友人のお一人……そして、アドネーの脅威を知るお方ですから」
「_____な……」
レイドは頭を整理しきれない様子で後ずさりをする。
聖剣はそんなレイドを見やり、何かを企てた。
『どうやら今ひとつ信じておらんようじゃな。どれ、それならば……』
刀身を輝かせ、威光を放つ聖剣。
それは先程、瘴気の男との闘いで見せたものと全く同じ。
『ほい』
そして聖剣は、その威光を周囲へと拡散させる。
まばゆい光がその場にいた全員を包み、ほんの一瞬視界を奪う。
その視界が晴れた時______。
全員は、一人残らず目を疑った。
何故なら、突如として城の兵たちが_____行方不明になっていた王宮の兵士たち全員が、中心街に姿を現したからだ。
「あ……あれ? 俺たち、どうして……」
兵士たちもまた、キョトンとして静かに驚き、お互いの顔を見合わせる。
「おぉぉ!! お前たち、無事じゃったか!!」
国王が歓喜の声を漏らして兵士たちに駆け寄った。
「国王様……ここは……中心街ですか?」
「いつの間にこんな所へ……確か俺たち、王宮にいたよな?」
「なんだぁ? 一体どうなってるんだ?」
何はともあれ、城の兵士は全員無事。国民の喜びの声は、より一層厚みを増した。
「…………!!」
レイドはその事態に只々驚く。それと同時に、湧き上がってくる。
彼の持つ聖剣に秘められたとんでもない力……。そしてその力の正体が、『賢者ミレトス』であるという事。
『ふぉほほ、どうじゃ? アドネーによって姿を消された王宮の兵士たちはこれで復活じゃ』
聖剣は鼻を高くして、レイドたちを一瞥した。
『少しは信じて見る気になったかの? このワシの存在を』




