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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【三界戦争編】
85/122

80. 王都防衛戦③

ずっと前から考えてたシナリオ。

やっと書ける。

そう思うとワクワクします。



_____15分……いや、10分くらいだろうか。


 たった1人の人間が、1000にも及ぶ天使の大軍をねじ伏せるのに要した時間は。


 残された数10名の天使兵も、その圧倒的な力の前に只々立ち尽くす。


 最早、勝敗は見えていた。その筈だった。

 だがしかし、それでも。

 戦意を失った天使兵の中で、ただ1人。

 彼だけはまだ、この場面で……背に潜ませていた槍を手に取るのだった。


______


「く、くはは……『勇者』か……」

 王都上空、屋根の上。

 天使兵を率いていた隊長フォーレンは、初めて思い知らされていた。

 人間の力を____レイドという勇者の、恐ろしさを。


「成る程、確かに名乗るだけの事はある。どうやら少々侮っていたようだ、人間の力というものを。だが……」


 屋根をひとつ挟んだ前方のレイドに気圧(けお)されていたフォーレンだが、急に冷静さを取り戻す。そして背中に背負っていた金製の槍を取り出し、その刃をギラリと光らせレイドに向けて続けた。


「それもここまでだ。この私が直々に貴様を葬ってやる」

 それを見たレイドは、鼻で軽くフォーレンを笑う。

「後ろで呑気にしてた奴が、やけに自信たっぷりじゃねぇか」


 それは軍隊の後方で胡座をかいていたフォーレンに対する、明確な嘲り____だが、言いながら剣を構えるその姿は、フォーレンと闘うことに少しばかりの高揚を感じているようにも見てとれた。


「ふん。私をそこいらの兵と同じに見ない方がいい」

 先程までとは別人のようなフォーレンの顔つき。レイドはピリ、と威圧感を覚える。

「……まぁ、確かにハッタリじゃなさそうだ」

 フォーレンとて、伊達に天使兵の長を務めているわけではない。レイドはその事を対面して思い知らされていた。

 気合を入れ直すかのように剣を強く握り、立ちはだかる前方の敵に意識を向ける。


 そして刹那、訪れる静寂____。

 天使兵の誰かが2人の闘いの行く末に緊張し、生唾を飲み込んだ。


 その直後、止まっていた時間が動き出すかのように、最初に動いたのはフォーレンだった。


「私の槍技、受けられるものなら受けてみよ!」


 屋根を挟んだ遠方から、フォーレンは槍を振りかざす。


「『槍雨(やりさめ)』!!」


 超高速で天に向けて放たれた無数の突き。それらは飛ぶ斬撃となり、まるで雨のようにレイドに襲いかかる。


「!!」


 凄まじい槍の連撃。レイドはインヴォルフを傘に身を守るが、手数の多さでリードを許してしまう。


「『斬雨(きりさめ)』!!」


 そのほんの一瞬の内にフォーレンはレイドの至近距離まで詰め寄り、横一文字に槍を振る。


「っく……!」

 破壊力のある一撃。槍雨を丁度受け切った所でなんとかインヴォルフでガードするも、レイドはその威力に押し負けてよろける。フォーレンはそのチャンスを逃すことなく、槍をクルクルと回転させて強烈な突きをお見舞いした。


「はぁ!!」


「なぁ、っと……!!」


 凄まじいまでの連続攻撃。レイドはその全てを防いだが、文字通り防戦一方だ。


「くそ、中々やるじゃねぇか……。地剣(インヴォルフ)じゃ、ちょっと分が悪いな」

 そう言ってレイドは『シーカー』を開き、インヴォルフを中にしまいながら剣を取り出す。


 そして取り出したのは……これまで見た事もない剣。フォルム全体が焦げたような黒で覆われ、刀身も刃こぼれが酷く目立つ。世辞が入る余地もなく、見てて痛々しい剣だ。


「……? なんだ、その剣は。そんな錆びた剣で私と張り合うとでも?」


 フォーレンの顔つきが変わる。不思議そうな、何処か納得いかない表情。

 剣に対する感想は、今の一言とその顔で明らかだ。


 しかし、そんなフォーレンに対してレイドは自信たっぷりに言い放った。


「ああ。この剣も、れっきとした伝説の剣だからな」


「ふん……ほざけ! ならば、早々にへし折ってくれるわ!!」


 フォーレンは怒号をぶつけ、レイドに突撃した。




 レイドが錆びた剣を取り出したのと同じ頃。

 中心街で彼の闘いを見届けているのは、アルフとベゼル、それと王都の人々。

 アルフは彼の剣の登場を見て、僅かばかりに心を躍らせた。

「あの剣を出すか……。レイドのやつ、本気で本気みたいだな」

 遠くを観察するように額に右手を添え、すっかり観戦モードのアルフ。

 しかし無理もない。

 あれだけいた天使兵の軍勢が、あっという間にレイドの手によって壊滅させられたのだから。


 そしてベゼルもまた、その一部始終を見ていた証人の1人。食い入るように、レイドの活躍を眺めている。

「…………」

「どうだいベゼルくん。うちのレイドは凄いだろ?」

「うん……」

 この闘いが人間界の存続をかけた闘いだという事をベゼルが理解しているのかは分からない。

 しかし確かな事は、彼の全身が余すことなく感じている。

「カッコいい……。僕も勇者みたいな勇者になりたい……!」

「? なんだ、勇者に憧れてるのか?」

「うん」

 魔王が勇者に憧れる_____そんな事今まで聞いた事もないアルフだったが……どこか、何故か。

 その夢の果てを見たくさせるものがあった。ベゼルの中にある『可能性』が、アルフにそう感じさせたのか_____その理由は定かではないが、アルフは小さく笑い、憧れの先を指差した。


「そうか。そんじゃあ……勇者(あいつ)の闘いをよく見とけよ。『勇者』っつーのがどんなのなのか、その肌でよく感じ取っときな」


 ベゼルは無言で頷く。そして、一瞬たりとも目をそらさなかった。

 憧れのその背中を一心に見つめ、ただただ魅了されるかのように立ち尽くす。


_____この日から少しずつ。

 無意識の内に、彼の中の『憧れ』は、『目標』へと変わっていく。

 それを彼が自覚するのはもう少し先の話____。小さな心に秘められた大きな想いは、ただ目覚めの時を待ちながら、静かに脈を打つのだった。




「ぬぅりゃあ!」

「ぐぁっ!」

 レイドVSフォーレン。

 フォーレンの重い槍の一撃は、レイドの錆びた剣のガード共々に吹き飛ばした。だがダメージはない為、レイドは飛ばされながらも体勢を立て直し鮮やかに着地する。


「ふん、どうした! 防ぐどころか、受け切る事すら出来ぬではないか!」

「へへ……。まぁな」


 フォーレンの苛立ちは増していく。

 攻撃力がある訳でも無ければ、特殊な技が使える訳でもない。

 まるで存在意義の無いその剣を扱いながら、レイドは笑う。まさか、自分は舐められているのでは____そう思えば思うほど、彼は怒りで奮い上がっていった。


「そんなナマクラでこの私に勝つつもりならば、とんだお笑いだな!」

「そんなの……やってみなくちゃわかんないぜ!」

 再び武器を交える2人。

 今度は吹き飛ばされなかったレイドだが、依然として力の差は明白。

 徐々に押されていくが、それでもレイドは錆びた剣を使い続ける。


 それは何故か。


_____決まっている。その先に『何か』があるからだ。


 フォーレンは気付いていなかった。いや、この時点では気付くはずもないだろう。

 その黒く塗りつぶされた剣をレイドが使う意味。そして、今この剣に起こっている『変化』を_____。



「ぬぅーん! ぬるいわぁ!!」

 レイドの剣撃を、フォーレンは力任せに弾く。

「!!」

「『槍雨(やりさめ)』ェ!!」

 至近距離から繰り出される、目にも留まらぬ槍技。

「_____……っ!!」

 レイドはその全てを剣で受けるが、やはり弾き飛ばされてしまう。

 2つ後ろの民家の屋根に、受け身を取る事もなく背中から叩きつけられ、ダメージを負うレイド。


 フォーレンはその後をすぐさま追い、剣を杖代わりに起き上がるレイドに向けて吐き捨てた。

「弱いな。やはり所詮は人間か」


 その言葉から、フォーレンの苛立ちは消えていた。

 天使兵を倒し、主アドネーにさえ届き得るかもしれない勇者の力……それが実際手合わせをしてみて、『買い被り』だったという結論に至ったからだ。


「貴様を倒せば、この世界は消えたも同然。アドネー様の命には逆らえぬからな」

 フォーレンはゆっくりと近づき、立ち上り俯くレイドを見下ろした。


 最早棒立ち状態のレイド……。フォーレンの言葉に顔を上げる事もなく、只々放心するかのように立ち尽くす。


「さらばだ……人間」


 フォーレンは槍の切っ先を、すうっとレイドに向ける。

 外れる事などあり得ない距離だが、それでも相手は『勇者』。

 天使兵の軍勢を打ち倒した事への、せめてもの敬意を込めて、一思いに槍を突き出し_____。

 そして、レイドはそれを剣で弾いた。


 …………。


「_____? は……?」


 フォーレンは思わず、突飛な声を出す。

 今起きた一瞬の出来事を彼はすぐ把握する事が出来なかった。

 そして一拍の間をおいて、彼は理解する。


 防がれたのだ。

 彼の槍は、レイドが軽く振り上げた剣により。


 あり得なかった。

 少しも思わなかった。

 槍が防がれるなんて、弾かれるなんて。


 だが確かに、その無気力な一撃は。

 闘気の乗らない一撃は___。

 フォーレンの力に勝る力で、ものの見事に戦況を一変させてしまったのだ。



「『弱い』か……。まァ、否定はできねぇよ」


 レイドは俯いたまま、ため息混じりに呟く。


「そもそも俺がもっと強けりゃ、もっと早く気付けたかもしんねぇ。『勇者』だなんて持て(はや)されて、いい気になってたんだ」


 前髪をくしゃくしゃと掻き、顔を上げて続ける。


「人間はな、弱ぇんだよ。ちょっと何かありゃすぐ落ち込む生き物だ。そういう生き物なんだ」


「だからこそ、みんなして繋がりを作る。……人間だけじゃねぇ。同じだ、悪魔も、天使兵(おまえら)も」


「俺がここから思い直せ始めたのも……。あいつらがいてくれたからなんだ。だから腐らずにここまで来れた」


 言葉を綴りながら、レイドは剣を構える。

 その剣を見て、フォーレンは目を疑った。


「さっきと色が違う……!? なんだ、その輝きは!?」


 レイドが構えた剣は、先ほどまで錆び付いていた剣だった筈。

 何故かは分からないが、彼の剣は今。

 まさに『伝説の剣』の名に恥じないように。

 錆びた剣を打ち直したかのように紅く、鋭く輝いていた。


「だからよ……! こんな所で……終わらせねぇ! 守るんだ! また平和な世界を取り戻すために!」


 レイドは、その紅く光る剣でフォーレンに立ち向かう。

 先ほどまでフォーレンの攻撃に全く歯が立たなかったその剣は、勇ましく成長しフォーレンを後方へと追いやっていく。

 そして、それだけではなかった。


「な、なんだ!? 剣を交える度……重く、強くなっていく!?」


 剣はまだ、輝きを増す。

 限界など知らぬかのようにより紅く、より強く。最早フォーレンの槍技など、その剣の前には無力と化していた。


「弱くても誰かがいれば強くなれる! 『ぜってー負けねぇ!』って思えば、頑張れるんだ!」


「なんだ……なんなのだ!? その剣は!?」


 太陽のように熱く輝く剣。そこに先ほどの墨のようだった姿は一片たりとも残っていない。



「お前たちの思い通りになって、たまるかぁぁぁあーーっ!!」


 レイドの叫びに呼応するように。

 剣は遂に、フォーレンを打ち倒す。


「が……っは……!!」


 地に叩きつけられ、フォーレンは気絶する。

 丁度太陽の位置がレイドと重なり、逆光となってレイドの身体を覆った。


「負ければ、負けるほど……。この剣の闘志は燃え上がる」

 気を失ったフォーレンに剣を向け、レイドは不敵に笑って決める。


「『炎剣フレアノック』。太陽にも負けない、最高にアツい剣さ」



 人間界VS天界。


 天使兵長フォーレンを下し、かくして勇者率いる人間たちに軍配は上がった。

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