79. 王都防衛戦②
ついに来ました、主人公覚醒です。主人公無双です。
フォーレン率いる天使兵の軍勢。
その内の1部隊をレイドによって壊滅させられ、フォーレンの心中にほんの少しの危惧の念が宿る。
「……第3部隊。迎え撃つ人間の兵力はどのくらいだ」
「そ、それが……」
第3部隊____調査能力に長けた兵で構成された部隊。
彼らは、自身の目を疑った。
「ひ……1人です! ボサボサ髪の男が1人で、我らに立ち向かっています!」
「1人だと……?」
思いもよらない返答に、フォーレンは眉をひそめる。
「わはははははは!! ……笑わせてくれる!」
大口を開いて笑ったかと思うと、すぐさま顔を強張らせて言い放った。
「第11、14部隊! 身の程を知らぬ人間に、実力の差を見せてやれ!」
「はっ!」
命を受け、軍勢の右翼に構えていた両部隊が一斉に魔法を放つ。
「『光の魔線』!」
「『闇の魔線』!」
寸分の遅れもなく、同時に左右から放たれた2つの光線。光と闇の性質を持つそれらはレイドへと向かう途中で合わさり、1つの巨大なレーザーとなって襲いかかる。
「どうだ、相反する2つの属性の複合魔法! 受けられるものなら受けてみよ!!」
フォーレンは勝ち誇る。
恐らくこの魔法は、1人の人間を消し飛ばすには十分すぎる威力を持っている。レイドを打ち倒すと同時に、王都の一部も消滅させるつもりだろう。
故にレイドは逃げなかった。元から逃げるつもりなどないのだろうが_____彼は左手の人差し指で空をなぞり、ジッパーを開くが如く別次元へと通じる空間を出現させた。
「『シーカー』!」
レイドはその魔法を以て、迫り来る複合魔法を吸収するかのように別次元へと迎え入れた。
「なっ……! 異次元格納魔法だと……!?」
フォーレンは驚愕する。
「バカな……。人間如きがなぜそんな高度な魔法を使える!?」
異次元格納魔法……。それは非常に習得が困難な魔法の1つ。それを人間が使えるなどとは、フォーレンは夢にも思っていなかったようだ。
更に、レイドの迎撃はそれで終わりではなかった。
「よっと、返すぜ! オマケ付きでな!」
複合魔法を全て喰らい尽くした『シーカー』は、レイドの言葉に呼応して、一瞬の閃光を放つ。
そしてその中から勢いよく飛び出して来たのは、先刻の光と闇の複合魔法。『シーカー』は魔法を吸収するだけではあきたらず、反射して天使兵たちへと撃ち返したのだ。
「『風剣』!」
加えてレイドは剣を構え、無数の風の刃を放つ。それらは全て複合魔法と融合し、更に威力を上乗せして天使兵たちへと襲いかかった。
「なに!? 複合魔法の上から、更に別の属性を複合させるだと!?」
脅威的なまでのレイドの実力。全く別の性質を持つ魔法を複合させることは、魔法への深い知識と類い稀なる才能がなければ実現することはできない。或いは血の滲むような努力により限定的に複合魔法を創り出す事は可能だが、一度見ただけの魔法に自分の魔法を複合させるなどという芸当は、紛れもなく天才にしかできないという事に他ならない。
今の一連の攻撃は、レイドの強さを天使兵たちに示すには十分であった。
「ぐあぁぁぁ!!!」
跳ね返された複合魔法は轟音とともに天使兵を飲み込み、大打撃を与える。
「だ、第11、14、ついでに第9部隊も壊滅しました!」
軍の右翼の大半を通りすがるかのように巻き添えにし、複合魔法は遥か彼方へと姿を消した。
「お、おぉのれぇぇ……!!」
「フォ、フォーレン隊長!」
憤慨するフォーレンに、部下の1人が声を上げる。
「なんだ!」
「アイツ、『勇者』です! チラリとしか見えませんでしたが、間違いありません! ツヴァイ様の情報と一致しています!」
「勇者……アイツが……!?」
部下の指差す先_____レイドを見据えながら、フォーレンはそうか、と納得するように一瞬の間をあける。
「……くはははは! そうか、ならば手加減は無用! 全力で叩き潰すのみ!!」
ぐわっと右腕を前に出し、フォーレンは部下へ次の指示を出す構えを取る。
気づけば天使兵の軍勢は、王都のすぐ付近、その上空にまで辿り着いていた。
「みんな! 早く中心街に! 逃げ遅れても知らねーぞ!!」
時同じくして、王都の中心街へと続く通路。
レイドから街の住人たちを避難させるように言われていたアルフは、持ち前の重力魔法で周囲に点在する彼らを誘導していた。
「逃げ遅れても……って、逃げられるか! 妙な魔法で無理やり俺たちをここまで引っ張ってきやがって!!」
「そうよ! それに何よ、あの空に浮かんでる変な奴ら! 一体何が起こってるの!?」
「誰か何とかしろ! 住んでた家もめちゃくちゃにされて、明日からどうやって生きていけばいいんだよぉ!!」
「あーもう、ウルサイなぁ……」
口々に騒めく彼らに、アルフは若干ながら愚痴をこぼす。
そして各所方面から無事中心街に集めきった所で、額の汗を拭って上空を見上げた。
「レイド……。きっちり仕事はこなしたぜ。あとは……久しぶりに見せてくれよな。お前が『勇者』してるところをよ」
「第8部隊、第16部隊! 勇者に特攻し、撹乱させろ!」
「はっ!」
フォーレンが指示を下し、部下が四方八方からレイドへと突撃していく。
「『風剣』! ハイスピード!」
レイドは風を身に纏い、空高く跳躍した。
それはあまりにも速すぎて、天使兵たちが姿を見失う程。
「な……消えっ_____」
「おらあぁぁぁぁ!!」
その死角を縫うように、レイドは目にもとまらぬ速さで天使兵を次々薙ぎ払った。
「ぐわああぁぁぁ!!」
ほんの数秒間で2つの部隊をなす術なく斬り伏せ、レイドは民家の屋根へと着地。その瞬間まで、レイドの姿を捉えられた者は誰1人としていなかった。
「……あ。た、隊長! 第8、16部隊! 全滅です!」
一拍遅れた反応で、兵士の1人が慌てて告げる。
「ぬうぅぅ! 20部隊! 奴の動きを封じるのだ!」
「『水晶牢』!」
20部隊が魔力を合わせ、魔法を発動させる。レイドの行く手を阻む様に水晶の壁が張り巡らされ、その内側へと彼を封じ込めた。
「!? なんだ、閉じ込められた……?」
一見しただけで強硬だと分かる、キラキラ輝く水晶の牢屋。とてもじゃないが、風剣ウィムでは突破できそうにない。
「15部隊! このスキに中心街を狙え!」
間髪入れず、フォーレンは王都の破壊を命じる。
その先には中心街_____アルフが誘導した、王都の住民たちが密集している場所がある。
「!!」
レイドは振り返り、中心街を見やる。しかし可能なのは視線を向けるだけ。その手を差し伸べる事は出来ない。
「くはは! 馬鹿め、そんな目立つ所で避難させたつもりかぁ!? 狙ってくださいと言っているようなものだぞ!!」
フォーレンの笑い声が響く。天使兵の一斉射撃が中心街へと放たれた時____。
「あぁ、そう言ってんだよ!」
レイドは『シーカー』を開き、剣を持ち替え足元に突き刺した。
「『地剣』!!」
持ち替えた剣は_____『地剣インヴォルフ』。斧のようなフォルムのその剣は地響きを鳴らして大地を微かに震わせる。
「『大地の盾』!!」
レイドの叫びとともに中心街の石造りの広場が盛り上がり、そこから飛び出るように出現したのは巨大な『石の腕』。石の腕はガバッと指を広げ、住人たちに降り注ぐ魔法を1つ残らず受け止めた。
「なっ、なにぃぃぃ!?」
呆気に取られるフォーレン。
「密集してりゃ、そんだけ守りやすいだろうが!」
レイドはすかさず剣を引き抜き、邪魔な『水晶牢』に向けて振り返りざまの一撃を浴びせる。
「はぁぁぁぁ!」
一撃、二撃、三撃。徐々にヒビ割れていく水晶の牢屋。
「おらぁぁぁぁ!!」
ついにその牢屋は、四撃目にして粉々に打ち砕かれた。
レイドはそのまま振りかざした剣を振り下ろし、再び大地に叩きつける。
先ほどと同じように出現した巨大な石の腕が、ものすごい勢いで天使兵たちをアッパーする。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「第15部隊、壊滅です……」
半ば恐れを含んだ口調で報告する天使兵。
フォーレンは頭を掻き毟り、受け入れられない現状を目の前に取り乱した。
「ありえん、ありえん! 天界でも随一の拘束魔法を四回つついただけで破壊するなどと!! いや、それよりも何だコイツの魔力の大きさは!?」
「そろそろ終わりにしようぜ、天使ども!」
レイドは剣を肩に背負い、最後の一撃をお見舞いする。
「はぁぁぁぁ!! 『地剣・大轟撃』!!」
大層な技名____実際には、石の腕を剣で破壊し、天使兵たちへ向けてホームランとばかりにぶっ飛ばしただけなのだが、それでもとんでもない威力には変わりない。
「うぎゃぁぁぁあ!!」
「ぬぉぉぉぉ!!」
その攻撃に巻き込まれた天使兵たちの大半は、言わずもがな再起不能。
後方で指示を出すだけのフォーレンは勿論無事だったが、見渡すとそこに残された兵士は残りわずかしかいなかった。
そして、そんな彼の前に余裕の表情でレイドは君臨する。
「よう。あんたがボス?」
「____……っ!!」
人間界VS天界。
天使兵の軍勢、残り50余り。
フォーレンは、苦虫を噛み潰したような顔でレイドを見るのだった。




