72. 新たなる敵
「ゼットカリバー……何で……? 『シーカー』も開いてないのに……」
レイドは思わず目を疑った。
突如として現れた聖剣、ゼットカリバー。
それはアルフを助けるかの如く、瘴気の男を吹き飛ばした。
「驚いた……レイド、その剣、勝手に動くなんて知らなかったぞ」
ガレキに埋もれながら、アルフは目の前に落ちたゼットカリバーを見やる。
「いや、俺も知らないぞ、こんなの」
レイドはアルフにかけ寄りながら、地面に落ちたその剣を拾い上げた。
「一体、どうなってんだ……?」
鞘に収まったままの、伝説の剣。
瘴気の男に飛んで行った時、威光を放っていたかにも見えていたが……、その光は失われ、見覚えのある剣の姿がそこにあった。
そして、ゼットカリバーにより吹き飛ばされた男が1人。
「ぐうゥ……勇者ァ、テメェ……その剣はまさか……」
ゼットカリバーを見ながら、男は戸惑い立ち上がる。
「……おい、お前……! 身体が……!」
レイドは男の姿を見て驚愕した。何故なら、男の脇腹……ゼットカリバーに当たったその箇所が、まるで風化するように散っていたからだ。
「アァ!? んだこりゃあ、俺の身体が消えて……!?」
男は慌てて脇腹を抑える。しかし、ジワジワと消えていくその現象は治まる事は無い。
「くそっ! 畜生……! 全部その剣のせいだな……!?」
復讐に満ちた声でゼットカリバーを睨みつけ、身体を宙に浮かせる。
「このままじゃヤベェ……! はやく治さねぇと……! さっきから頭ン中に聞こえる『声』……こいつなら……」
意味深な事を呟きながら、空へと上昇していく男。
「勇者ァ! テメェら覚えてやがれ! 次会った時がテメェらの最期だ!!」
そう言ってレイドたちを最後に見下ろし、男はどこか遠くへと飛んで行ってしまった。
「あー、イテテ……。あんにゃろう、とんでもねーパワーしてやがるぜ……」
瘴気の男を退け、一時の静寂が訪れる。
アルフがガレキを払いのけ、やれやれと立ち上がる。
いつの間にか街中に降り注ぐ隕石も止み、すっかり変わってしまった街並みを悲しそうに見下ろした。
「へいき? アルフ」
「ん、まぁ平気でしょう。心配してくれてありがとな、ベゼル君」
ベゼルに向かってやさしく微笑み、視線を街に戻すアルフ。彼が傷を負ったのは、自身の身体よりも、その心なのかもしれない。静かに固める握り拳が、それを物語っていた。
「ゼットカリバー……。おかしいな、確かにシーカーの中にしまってたはずなのに……」
レイドは今一度ゼットカリバーを見る。
確かにあの時放っていた光、まるでアルフを助けるかのように瘴気の男に飛んで行った事……。しかし、現状ではいくら考えても答えは見つからない。
「……何で1人でに動いたかは知らねーが、そいつにも感謝しないとな」
アルフの言葉に頷き、レイドは『シーカー』の中へと剣をしまった。
「アルフ、ウル太郎は?」
ベゼルがおもむろに、アルフに尋ねる。
「あ! いっけね、忘れてた」
瘴気の男に吹き飛ばされたウル太郎の行方をすっかり忘れていたようで、辺りをキョロキョロと見回す。しかし当然というかなんというか、彼の姿が見つかるはずもなく。
「ま、いっか。そのうち出てくんだろ」
5秒もしないうちに、アルフはウル太郎捜索を打ち切ったのだった。
「……それにしても、あの瘴気の男……。一体どこに____」
レイドがそう言って、男の行方を気にかける。
確かにあの男が言っていた事……。それはレイドにとって、衝撃だった。
_____『俺は、お前だ』_____
奴とはいずれ、何処かでまた会う事になる。その時に再び、闘う事になるだろう。
今はその時に備え、力を蓄えなければ_____。そう決意し、上を見上げたその時だった。
「…………? なんだ、あれ……」
はるか遠くに見えるのは、小さな虫のような黒い点々たち。それは次第に近づき、目に見えて姿を大きくする。
「……マジかよ……!!」
レイドは気付いた。それは虫などではない。上空から迫り来るそれは_____。
「人間界に到着! これより、王都『プロスパレス』を殲滅する!」
「いくぞ、皆の者! 我ら天使兵の力を人間どもに見せつけてやるのだ!!」
「オォォォォ!!」
_____『天使兵』。
背中の白い翼を広げ、王都に向かい接近する。
彼らの主は勿論、創造神アドネー。
今、新たなる闘いが始まろうとしていた……。




