71. VS瘴気の男② -不穏な激突-
「成程……『重力魔法』ねぇ……」
瘴気の男は身軽に戻った自身の身体を確かめながら呟く。先程のアルフの蹴りの重さといい、中々応用の効く魔法なのだと男は推測した。
「ああ。とくと見せてやるよ。俺の魔法_____『重力奏』の力をな」
アルフがそう言いながら両腕を広げる。すると彼の周囲に、大小様々な白い球体が出現した。その数、10個……大きさは直径が2メートル程のものから5センチ程度のものまで、まちまちだ。アルフはその中から一番小さな球体を右の手に取り、握り拳の中に閉じ込める。それが魔法の発動条件なのかは定かではないが、準備完了、とでも言うようにニヤリと笑い、男に視線を向けた。
アルフが自身の魔法を披露した時、民家の屋根の上まで吹き飛ばされたウル太郎は呆然と立ち尽くしていた。
「あいつら……俺の事なんか完璧に無視か!」
半分野生らしくガルルルと唸り歯ぎしりをする。が、空を飛べないということが、闘いにこれ以上参加する権利が無いということを示しているのは明白な事実。
「ちくしょー……覚えてやがれ……」
ウル太郎は捨てゼリフを吐き、大人しく闘いの行く末を見守ることにした。
「何だァ……? この白い球体は……」
男はアルフの出現させた球体を訝しげに睨みつける。重力魔法のカラクリが解らない今、慎重にならざるを得ない男だが……。
「いくぜ……! そらっ!」
しかしそんなことはお構いなしと、アルフは攻撃を仕掛けた。
左手を前にかざし、叫ぶアルフ。それに呼応するかのように、白い球体たちは前方の男に向かって動き出した。
球体たちは男の周囲をヒュンヒュンと飛び交い、挑発する。
何かの攻撃の前兆なのでは____そう感じた男は、イライラもあってか球体の一つを殴りつけた。
「ちっ……目障りなんだよ!」
男の拳は、彼のそれと同じ大きさの球体に命中する。が、まるでワザと当たったかのようにも見えた____それこそが、アルフの狙いだった。
殴りつけられた球体は動きをピタリと止め、形を変えて男へと取り込まれていく。
「!! 身体が……」
そして、それと同時に男に襲いかかるのは、先程と同じ全身が重くなる感覚。
この瞬間、男は確信した。
「そうか……この球一つ一つが、重力を持ってやがるって事か……!!」
「ご名答、身動き取れないだろう? でもな、それで終わりじゃあないぜ?」
アルフは前にかざした手を勢いよく頭上に伸ばす。それに合わせて周囲の球体の内の2つが、男を挟んで大きな三角形を作るように移動する。
「喰らいやがれ! 『三重力奏』!!!」
アルフの号令により、2つの球体が激しく回転する。回転しながら、それらは徐々に帯状へと姿を変え、物凄いスピードで男目掛けて伸びてゆく。
「ぐおおおおおお!!!」
男を襲うのは、激しい重力の波。帯状となったそれが流れ込み、彼の外側と内側にダメージを与える。とてつもない轟音を立てながら、重力により押し潰されそうになる感覚。そのダメージ量は、彼の悲鳴が物語っていた。
その様子を遠目で見ていたウル太郎は、思わずアルフを称賛していた。
「すげぇ……アイツ、中々やるじゃねーか……」
レイド以外の人間を『凄い』と思ったウル太郎。彼もまた、出会いを通して『人間』に対する思いを変えていっていた。
「ガアァアアア!!」
超重力に全身を刻まれながら、男はただただ絶叫する。
だが、少し。
アルフはその姿を見て、疑惑を抱いた。
「……!? なん、だ……!? この感じ……」
おかしい。
大抵の者であれば、この魔法を受けてすぐに気を失う筈。
それほどの威力なのだ。
それなのにこの男は、こんなにも長い間、倒れることなく苦しみ続けている。
……それだけではない。
まるで、この魔法をあえて身に受けることで、その魔法を『知ろう』と、『適用』しようとしているかのような、そんな感覚______。
それは、ただの思い違いではなかった。
「ぐウゥゥウゥうぅ……!! クソがあぁ……っ!!」
徐々に、徐々に。
身動きひとつ取ることができなかった男の腕が震えていく。
それと同時に、重力の帯が歪み、ヒビ割れ始める。
「『三重力奏』が……押し負けていく……!?」
アルフにとって、前代未聞の出来事だった。
だがまぎれもなく今……彼の魔法は、次第に形を保てなくなるほどに押し返されていたのだ。
そして、その時は訪れる。
「俺様をォ……ナメんじゃねーぞぉぉぉああ!!」
身動き出来なかった身体を大の字に広げ、男は言い放つ。
それにより辺りに衝撃が舞い、男は自由を取り戻した。
アルフの重力魔法は、消滅した_____。
「______う、うそだろ……!? こんなことが……」
信じられない光景に、アルフは目を疑う。
しかしその一瞬が、勝負の明暗を分けた。
「ガアァ!!」
「っ!!」
一瞬の隙もなく、男はアルフに突撃し、超スピードの肘打ちを食らわせる。
「ぐぁっ!!」
男の攻撃を頬に受け、その衝撃でアルフはレイドとベゼルのいる屋根の上に激突した。
「アルフ!!」
レイドが叫ぶ。その視線の先に、ガレキに埋もれるアルフの姿を見つけた。
「ちっくしょ……アイツ、あの力は、まるで……」
アルフはポツリと呟く。
大したダメージはなさそうだが、それよりも自身の魔法が打ち砕かれたことに動揺を隠しきれない様子だった。
だが、考えている余裕はなかった。
男は上空から、アルフ目掛けて急降下。その勢いと共に、最後の一撃を浴びせようとしていた。
「!!!」
アルフが気付いた時には、もう遅かった。とてもじゃないが、避けられる距離じゃない______。
「アルフーー!!」
だが、その時だった。
レイドのすぐ左から、細長い『何か』が飛び出し、アルフに迫り来る男の脇腹に直撃_____。
「!? がっは……!!」
完全に油断していた一撃に、男は吹き飛ばされて転がり落ちる。
「な……!?」
レイドは驚愕する。いや、アルフもだ。
何故なら、不意に彼らを助けた『何か』_____。それが、かつてレイドが使っていた伝説の剣、今は『シーカー』にしまってある筈の……『ゼットカリバー』だったのだから。




