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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【人間界と魔界編】
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53/122

49. ハイガー再び⑦

この小説を書き始めてちょうど1年経ちました。


少しだけ驚きです。

何をやっても長続きしなかった僕が、こんなに長い間一つのことを続けられるなんて!


これからも頑張ります。

物語は絶対に完結まで持っていきますので、ご心配なく。


それでは本編へどうぞ。








「ダメだよ、勇者! そんなことしないで!」

 ハイガーとレイドの間に割って入るベゼル。

「ベゼル!? 危ねぇぞ、下がれ!」

 レイドも今まさに振り下ろさんとする剣をピタリと止め、ベゼルにそう促す。

「イヤだ!」

 だが、ベゼルは頑として動こうとしない。いつもの泣き虫な彼からは想像もつかない行動だった。

「イヤだ、ってお前……!」

 初めはベゼルを心配するような口調だったレイドだが、ここでイライラしたのか少しだけ怒気を含ませた口調に変わる。

「いいか!? これは真剣勝負なんだ! どっちかが負けを認めるまで終われねぇ! 邪魔するつもりならお前も斬るぞ、だからどきやがれ!!」


「いいよそれで! 絶対にどかない!」


「な……」

 レイドはベゼルの気迫に一瞬気圧される。


「今の勇者、ちょっとおかしいよ! 勇者は、ボロボロになった人をこれ以上いじめたりなんかしない!」

 魔界缶蹴りの時にも少しだけ見せた、この気迫。

「もう勝負はついたじゃないか! それとも、このおじさんが嫌いだから、勇者はいじめるの!?」

 この時ばかりは、誰もがベゼルを『泣き虫』ではなく『大魔王の息子』として見ていたことだろう。


「ベゼル……」


 ベゼルは、レイドが心のどこかで憎しみにとらわれながら闘っている、という事を解っていたようだ。

 勿論明確にではなく、おぼろげながらにではあるが。


 そして、ベゼルの言葉でレイドも思い直した。

 あのまま続けていたら、望まぬ結果になっていただろう、と。


 ベゼルに諭され、ようやく我に返ったようだ。




 だが、これだけでは終わらなかった。


「ベゼル……? アルフたちとの会話で出てきた……魔王の、息子……?」


「わっ!?」


 突然ハイガーがベゼルの頭を掴み、自分の目線と同じ高さまで掴み上げる。


「ベゼル!!」


「そうだ……。確かにこの声は、盗聴器で聞いたものと同じ……。そうか、この子供が魔王の息子か……」




「ベル様!」

 城の入り口でリリ達が一斉に声を上げる。

 だが、下手に動けばベゼルに危害が及んでしまう。彼女達は、そこから動けなかった。




「てめえ、ベゼルを離しやがれ!!」

 声を荒げるレイドとは反対に、ベゼルを掴んだまま冷静に口を開くハイガー。

「形勢逆転……ではないな。私は敗けた。またしても貴様には勝てなかった」

 レイドからベゼルへと、ハイガーはギラリと睨むように視線を変える。

「だが……これで別の使命は多少なりとも果たせそうだ……!」


「はなして、おじさん……」

 ベゼルがハイガーの手から逃れようと、ジタバタともがく。

 その時、ハイガーの手から一筋の血が、ベゼルの頭をつたった。

「おじさん、血が……」

「黙れ、汚らわしい魔王の息子よ。なんのつもりかは知らんが、失策だったな。……最期に言い残す言葉はあるか?」

 冷酷に口を開くハイガー。

 だが、ベゼルはこの状況でもまだ、ハイガーの身を案じていた。

「おじさん、すごいケガだよ! はやく手当てしないと!」

「……何を、言っている? 貴様のような魔物に貸す耳はない」

 そう言って、ハイガーはベゼルの首へと手をかける。

「うっ、……」

 もはや、絶体絶命。レイドにもなす術が無かった。

「やめろ、ハイガー! まだ俺との決着がついてねぇだろ!」

 今のこの状況は、ベゼルを盾にされているようなものだ。

 もし刺し違えでもしたら_____その思いが、レイドの足を止めていた。

 出来るのは、こうして声を上げる事だけ。しかしそれもハイガーには通じない。

「どうやら私の力では、勇者……お前には勝てんようだ。確かに腐っても勇者なだけのことはある」

 何かを悟ったように、ハイガーはそっと目を閉じる。

「ならば私はこの使命を最後とし、魔王の息子を葬って私自身も死のうではないか」


「やめろ……頼む、やめてくれ……!」


「……死ね、魔王の息子よ……!」

 ハイガーが目を開け、手に力を込めたその時だった。

 彼はふと、苦しむベゼルを見て、思ってしまった____。


_____見れば、タークと同い年くらいではないか……_____


「……っ!」

 思わず、力を込めた手が緩む。


『とーちゃんは世界でいっちばん強いんだから!』

 思い出すのは、息子タークの言葉。


「おじ……さん……」


「…………!?」

 ハイガーは目を見開いた。



 重なる。


 タークの面影と。


 目の前のベゼルの姿が。


 何を躊躇う。


_____この子供は、『悪』だ。人間界を襲おうとする許せない存在だ。


 葬るべきなのだ。人間界のために。


 そうだ。


 これで、いい。


 ………………。


 これでいい……のか?


 ……本当にそうなのか?


 この子供を殺して、それでいいのか?_____




『いい景色だよな、ほんとによ』


『魔界はいいところだ』


自分(てめえ)が本当に眺めたい景色くらいは自分(てめえ)で選びやがれ!!』




 なぜだか思い出すのは、レイドの言葉。


 なぜ思い出した?


 ハイガーは見てしまったのだ。


 今、レイドの哀しそうな表情を。

 レイドだけではない。

 城の入り口にいる者たちも、全て。

 ハイガーの行動を『正しくない』と否定するように。


 なんだその目は。


_____なんだ、その目は!


 何故!

 そんな目で私を見る!?

 私は正しい事をしている筈だ!

 人間界が平和に暮らしていけるよう、邪魔な魔物(もの)を排除しようと!

『悪』を討とうと!

 私は!

 私は……!?

 …………


 正義とは、悪とは一体……?_____



「おじさん……」

『とーちゃん……』


 またも、重なる。

 守るべき者と、倒すべき者が。

 まるで同じ場所に在るかのように、ハイガーには重なって聞こえる。



「『ケガの手当て、しないと……』」



_____………っ_____……




「ターク……」


 ハイガーは自分の顔に手を当て、後ずさりをする。

 そして気づけば、憎しみを込めたその手を離し、眠るように気を失って大地へと倒れこむのだった。

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