49. ハイガー再び⑦
この小説を書き始めてちょうど1年経ちました。
少しだけ驚きです。
何をやっても長続きしなかった僕が、こんなに長い間一つのことを続けられるなんて!
これからも頑張ります。
物語は絶対に完結まで持っていきますので、ご心配なく。
それでは本編へどうぞ。
「ダメだよ、勇者! そんなことしないで!」
ハイガーとレイドの間に割って入るベゼル。
「ベゼル!? 危ねぇぞ、下がれ!」
レイドも今まさに振り下ろさんとする剣をピタリと止め、ベゼルにそう促す。
「イヤだ!」
だが、ベゼルは頑として動こうとしない。いつもの泣き虫な彼からは想像もつかない行動だった。
「イヤだ、ってお前……!」
初めはベゼルを心配するような口調だったレイドだが、ここでイライラしたのか少しだけ怒気を含ませた口調に変わる。
「いいか!? これは真剣勝負なんだ! どっちかが負けを認めるまで終われねぇ! 邪魔するつもりならお前も斬るぞ、だからどきやがれ!!」
「いいよそれで! 絶対にどかない!」
「な……」
レイドはベゼルの気迫に一瞬気圧される。
「今の勇者、ちょっとおかしいよ! 勇者は、ボロボロになった人をこれ以上いじめたりなんかしない!」
魔界缶蹴りの時にも少しだけ見せた、この気迫。
「もう勝負はついたじゃないか! それとも、このおじさんが嫌いだから、勇者はいじめるの!?」
この時ばかりは、誰もがベゼルを『泣き虫』ではなく『大魔王の息子』として見ていたことだろう。
「ベゼル……」
ベゼルは、レイドが心のどこかで憎しみにとらわれながら闘っている、という事を解っていたようだ。
勿論明確にではなく、おぼろげながらにではあるが。
そして、ベゼルの言葉でレイドも思い直した。
あのまま続けていたら、望まぬ結果になっていただろう、と。
ベゼルに諭され、ようやく我に返ったようだ。
だが、これだけでは終わらなかった。
「ベゼル……? アルフたちとの会話で出てきた……魔王の、息子……?」
「わっ!?」
突然ハイガーがベゼルの頭を掴み、自分の目線と同じ高さまで掴み上げる。
「ベゼル!!」
「そうだ……。確かにこの声は、盗聴器で聞いたものと同じ……。そうか、この子供が魔王の息子か……」
「ベル様!」
城の入り口でリリ達が一斉に声を上げる。
だが、下手に動けばベゼルに危害が及んでしまう。彼女達は、そこから動けなかった。
「てめえ、ベゼルを離しやがれ!!」
声を荒げるレイドとは反対に、ベゼルを掴んだまま冷静に口を開くハイガー。
「形勢逆転……ではないな。私は敗けた。またしても貴様には勝てなかった」
レイドからベゼルへと、ハイガーはギラリと睨むように視線を変える。
「だが……これで別の使命は多少なりとも果たせそうだ……!」
「はなして、おじさん……」
ベゼルがハイガーの手から逃れようと、ジタバタともがく。
その時、ハイガーの手から一筋の血が、ベゼルの頭をつたった。
「おじさん、血が……」
「黙れ、汚らわしい魔王の息子よ。なんのつもりかは知らんが、失策だったな。……最期に言い残す言葉はあるか?」
冷酷に口を開くハイガー。
だが、ベゼルはこの状況でもまだ、ハイガーの身を案じていた。
「おじさん、すごいケガだよ! はやく手当てしないと!」
「……何を、言っている? 貴様のような魔物に貸す耳はない」
そう言って、ハイガーはベゼルの首へと手をかける。
「うっ、……」
もはや、絶体絶命。レイドにもなす術が無かった。
「やめろ、ハイガー! まだ俺との決着がついてねぇだろ!」
今のこの状況は、ベゼルを盾にされているようなものだ。
もし刺し違えでもしたら_____その思いが、レイドの足を止めていた。
出来るのは、こうして声を上げる事だけ。しかしそれもハイガーには通じない。
「どうやら私の力では、勇者……お前には勝てんようだ。確かに腐っても勇者なだけのことはある」
何かを悟ったように、ハイガーはそっと目を閉じる。
「ならば私はこの使命を最後とし、魔王の息子を葬って私自身も死のうではないか」
「やめろ……頼む、やめてくれ……!」
「……死ね、魔王の息子よ……!」
ハイガーが目を開け、手に力を込めたその時だった。
彼はふと、苦しむベゼルを見て、思ってしまった____。
_____見れば、タークと同い年くらいではないか……_____
「……っ!」
思わず、力を込めた手が緩む。
『とーちゃんは世界でいっちばん強いんだから!』
思い出すのは、息子タークの言葉。
「おじ……さん……」
「…………!?」
ハイガーは目を見開いた。
重なる。
タークの面影と。
目の前のベゼルの姿が。
何を躊躇う。
_____この子供は、『悪』だ。人間界を襲おうとする許せない存在だ。
葬るべきなのだ。人間界のために。
そうだ。
これで、いい。
………………。
これでいい……のか?
……本当にそうなのか?
この子供を殺して、それでいいのか?_____
『いい景色だよな、ほんとによ』
『魔界はいいところだ』
『自分が本当に眺めたい景色くらいは自分で選びやがれ!!』
なぜだか思い出すのは、レイドの言葉。
なぜ思い出した?
ハイガーは見てしまったのだ。
今、レイドの哀しそうな表情を。
レイドだけではない。
城の入り口にいる者たちも、全て。
ハイガーの行動を『正しくない』と否定するように。
なんだその目は。
_____なんだ、その目は!
何故!
そんな目で私を見る!?
私は正しい事をしている筈だ!
人間界が平和に暮らしていけるよう、邪魔な魔物を排除しようと!
『悪』を討とうと!
私は!
私は……!?
…………
正義とは、悪とは一体……?_____
「おじさん……」
『とーちゃん……』
またも、重なる。
守るべき者と、倒すべき者が。
まるで同じ場所に在るかのように、ハイガーには重なって聞こえる。
「『ケガの手当て、しないと……』」
_____………っ_____……
「ターク……」
ハイガーは自分の顔に手を当て、後ずさりをする。
そして気づけば、憎しみを込めたその手を離し、眠るように気を失って大地へと倒れこむのだった。




