44. ハイガー再び②
太陽が雲の陰に隠れ、辺りは少しだけ暗くなる。
魔王城入り口には、2つの人陰。大魔王サルタンとハイガーだ。
「覚悟はいいな? 大魔王……!」
剣を構え、サルタンと対峙するハイガー。
「いいや。よくない」
しかしサルタンは、渋い顔で首を横に振った。
「……は?」
まさかの返答……さすがのハイガーも素っ頓狂な声を出さざるを得ない。
「まぁ会っていきなり対決、ちゅーのもアレじゃろうが。……そうじゃ、茶でも飲むか?」
サルタンはだるそうに肩をゴキゴキと鳴らしながら、とんでもないタイミングで茶を勧めだした。
「ば、馬鹿にしているのか! 敵に茶を出す阿呆が何処にいる!?」
ハイガーは我に返り、剣の切っ先をその呑気な大魔王に向ける。
だがしかしサルタンは依然として闘う意思を見せず、
「ふはは、ここにおる。どれ、少し待っておれ。いま茶を持って来るからのう……」
後ろ首をボリボリ掻きながら、城の中へと引っ込んで行くのだった。
取り残されたハイガーは、暫く呆然と立ち尽くしていた。
「……な、何だ、アイツは。本当に大魔王か……? いや、もしかしたら此方の油断を誘ってるやもしれん。どちらにせよ、警戒せねば……」
乱されたペースを元に戻そうと、ハイガーは剣の手入れをしようとする。しかしそんな折、早くも次の刺客がやってきた。
「ハイガー!!」
その声に怒気を含みながら出てきたのは、勇者レイド。
「む、貴様……勇者か!? 大魔王はどうした!」
ハイガーは剣の手入れをやめ、剣を構え直す。
「あ? なにわけわかんねー事言ってやがる。取り敢えずテメーには早いとこ、人間界に帰ってもらうぞ……!」
レイドも拳を構えると、一触即発の雰囲気が場に流れ始めた。
「フン、戯言を……。魔王の下僕と化した貴様になど、負ける気がせんわ!!」
「ちっ、相変わらずめんどくせぇヤローだ。上等だぜ、すぐに終わらせてやる!」
直後、雲に隠れていた太陽が顔を出す。レイドはそれと同時にハイガーに突進した。
「くそ、遅かったか……!」
そんな中、アルフが遅れて到着する。
しかしその頃には、2人はもう闘いの最中だった。
「はぁっ!」
「ぬん!」
レイドの鋭い回し蹴り。ハイガーがそれを左腕でガードし、剣を水平に薙ぐ。レイドは手をバネに後ろへ飛んで躱し、一度離れて態勢を立て直した。
その光景を見て、アルフはため息をつく。
「あいつら、どうしてこうケンカっ早いんだよ〜……まったく、ややこしい事態になっちまったなぁ……」
アルフに関しては、レイドにもハイガーにも『敵対』という意識を持っていない。それ故に、どちらか一方に加勢するという事は出来なかった。
「そもそも、んな事したらどっちも怒りそうだしな……。仕方ねぇ、ここは事の成り行きを見守ることにするか」
そう言って、どかっとその場に胡座をかく。しかしその顔は面白くないものを見るように、若干ふてくされていた。
アルフが胡座をかいてからすぐ、今度は別の3人がやってきた。
「レイドさん! この騒ぎはいったい……それに、あの人は……」
「うわっ、け、喧嘩だ。物騒だなぁ……。」
「あ、さっきの……アルフだー」
リリ、マーシュ、ベゼルの3人だ。食堂にいた彼女たちが、騒ぎを聞き駆けつけたのだ。
「アルフ、勇者たち何やってるの?」
ベゼルが尋ねる。
「おー、魔王の子供。いやまぁちょっとな……」
アルフは後頭部を掻きながら、説明しかねた。
恐らくハイガーが城を破壊しに来た、などと返しても混乱を招くだけだろう。それを考慮してのことである。
「えと、アルフさん。アルフさんもあの方とお知り合いなんでしょうか?」
今度はリリがハイガーを指差しながら聞いてきた。
アルフはこれには正直に答え、同時に小さな疑問も感じる。
「ええ、そんなとこっす。リリさん、ハイガーのことご存知で?」
「ええ、つい先日、人間界で……」
それを聞いて、アルフは納得したかの様に呟いた。
「……なるほど。レイドを魔界に連れてったのは、あんたか」
「え?」
「いや、なんでも。それよりも早く避難したほうがいい。ここは危ないっすよ」
誤魔化すように注意を促すアルフ。
「ふははは、その心配はない」
が、ここで特製お茶セットを持って現れたサルタンが会話に割り込んできた。
「サル様……!」
「パパ!」
リリとベゼルが声を上げる。それにアルフは鋭く反応した。
「パパ……ってことは、アンタが……」
「ふはは、如何にも。儂が大魔王サルタンじゃ」
アルフは初めてサルタンを見て、そのファンキーな外見に一瞬たじろぐ。
「儂がおる限り、この城には傷ひとつ付けさせはせんよ」
「……はは、そりゃ頼もしいね」
だがとりあえず話は通じそうだと、ひとまず安心した。
「それに、勇者もいるからね!」
続けてベゼルの言葉。両手を広げて、何も心配ない様子だ。
「レイドが?」
アルフが片眉を上げて聞き返すと、リリとマーシュが便乗するように口にした。
「そうですね。レイドさんなら、きっと何とかしてくれますよ」
「まぁ確かに。イマイチ納得いかないけどね〜。」
「…………」
3人の言葉にアルフは沈黙したかと思うと、やがて安心したかのように笑いはじめた。
「ははっ。なんだ……アイツ、ちゃんとやってんじゃねぇかよ……『勇者』」
3年前からレイドが口にしていた言葉_____。
『勇者になんか、ならなきゃよかった……』
この魔界に来てから、どうやらレイドは何かを取り戻したようだ_____。アルフはふと、そんな事を考えていた。
「まぁそういうことじゃ。どれ皆の者、ここはひとつ茶でも飲みながら見物でもするとするかのう?」
サルタンの一声で、事態はちょっとしたイベントのような感覚になってしまう。
「さんせー!」
それを疑う者は、誰一人としていなかった。
そんな事など露知らず、マジモードで闘うレイドとハイガー。
「どうした勇者。いつまでも素手で私に勝てると思うなよ!」
ハイガーの高速の剣撃。レイドは防戦一方で、それを避けるので精一杯だった。
「はぁっ!!」
一瞬の隙をついて脳天へと振り下ろされるその一撃。レイドは辛うじて白刃取りで受け止める。
「ちっ……ハイガー、テメーこの前より全然強ぇじゃねーか。何しやがった?」
互いの力が拮抗し、2人の周りの大気が揺れる。
「フン、前回の敗因は魔法に頼りすぎたこと。ならば今回は私の風魔法全てを、私自身の速力にプラスしているだけだ」
「なるほど。そりゃ道理で速いわけだ……そんならこっちも使わせてもらうぜ」
レイドが放つ気迫____それと同時に2人は離れ、お互いに距離をとる。
そしてレイドは『シーカー』を開き、中から1本の剣を取り出した。
「いでよ! 『風剣ウィ……』」
が……、
「おらぁー! なに俺抜きで楽しそうなことやってんだぁー!?」
言葉の途中で何者かに後頭部を蹴り飛ばされる。
「ぐっは……!」
不意打ちとはいえ、モロに食らうレイド。
そのまま倒れこみ、地面に顔を埋める。
「貴様は、あの時の……!!」
レイドを蹴飛ばした、その男。ハイガーはその顔に見覚えがあった。
上半身はオオカミ、下半身は人。
一度見たら忘れないその見た目のインパクト_____。
紛れもなくそれは、オオカミ人間ウル太郎だった。
「はっはぁーー!!」
ウル太郎はそのまま空中で一回転し、華麗に着地する。
そして拳を構え、レイドたちに言い放った。
「俺も混ぜやがれぇ!!」




