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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【人間界と魔界編】
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45. ハイガー再び③

「はっはぁーー! 俺も混ぜやがれー!」

 最高潮のテンションで突風のように現れたウル太郎。入り口から一直線に、そのままレイドの後頭部を蹴り飛ばした。


「う、ウル太郎さん!? いつのまに……!」

「誰すか、あのオオカミ?」

 驚くリリとは対照的に、素っ気なく尋ねるのはアルフ。

「ウル太郎だよ! 顔はこわいけど、すっごく足がはやくて強いんだぁ!」

 その言葉にベゼルは、まるで自分の事のように自慢気にウル太郎を紹介した。


 さらにやって来たのはウル太郎だけではないようで_____。


「やれやれ、何事かと思って来てみたら……ほんとに何事ですかい? みんなして集まって」

「誰よ、あのヒゲオヤジ。新手の強盗かしら?」

 魔界の城の者にとっては見覚えのある2人。

「……こいつらは?」

 例のごとくアルフは尋ねる。

「あら、『こいつ』とは失礼ね。アナタこそ誰よ」

 メガネでボブカットの気高そうな女性は無愛想に答えた。見かねたリリが間に入り、仲介役を務める。

「彼はアルフさんです。レイドさんのお仲間さんで、今日はレイドさんに会いに来たみたいですよ」

『レイドの仲間』というワードでエリスは反応を変え、少し取り乱しはじめた。

「ゆ、勇者の仲間……!? ウソ、そんな奴がどうして魔界に……?」

「まあ、色々とあるみたいで……。あ、アルフさん。こちら、エリスさんとゾン吉さんです。エリスさんは魔界の法と秩序を守る法律家で、ゾン吉さんは……」

 ここでリリはゾン吉に目配せする。ゾン吉がどういう人物か紹介する言葉が見当たらないからだ。

 ……いや。

 本当は、ある。が、それは『見ればわかる』と返されてしまいそうで、その思いを表に出してしまったがための目配せだった。


 ゾン吉はそれを察する。そして彼は自分の『個性』を全面に紹介しようと、とっておきの言葉を用意していたのだった。


「あ、私。ゾンビです」


「……だそうです」


「…………」

 アルフは思った。「見ればわかる」と。


「ゾンビ……向こうにゃオオカミ人間……」

 そんなゾン吉やウル太郎を見て、いよいよもって魔界らしくなった、とも思っていた。


「ま、まぁ、勇者の仲間なら仕方ないわね。よろしく、アルフくん」

 そんな中、咳払いをして態度を変えるエリスに戸惑いながらも、

「お、おう……まぁ、ひとつよろしく……」

 アルフはいつの間にか賑やかになっている周りを見て、少しだけ居心地の良さを感じていた。


 まぁ、そんなことより。深刻な問題がひとつ。


「いいんですかい、サル様? ウル太郎さん、闘いに参加しちゃいますよ」

 ゾン吉が、今にも抜け落ちそうな歯の生えた口をフガフガさせる。

「そうですよ、サル様。このままじゃ案外大変なことになっちゃうかも……。」

 次いでマーシュの言葉。いつもは言葉遣いから生意気さが出る彼だが、意外とこういった争い事は毛嫌いしているようだ。

「ウム、そうじゃのう_____」

 サルタンもウル太郎が出てきた時思っていたのか、2人の言葉を聞いてその腰をどっこいしょと上げた。



 後頭部をウル太郎に蹴飛ばされ、大地に顔を(うず)めるレイド。

 だが、そんなレイドは蚊帳の外で。


「貴様、あの時のオオカミ男……!! 性懲りもなくやってきおって!」

「お! 誰かと思えばあの時のオッサンじゃねーか! おもしろい技名の」

 依然として場違いなテンションでお送りしているウル太郎に、ハイガーは怒りのボルテージを上昇させる。

「黙れ! あの時の屈辱、忘れてはおらんぞ!」

 すると、ハイガーの身体の周りに青い帯のようなものが(いく)つも漂い始めた。それは程よくしなりながらもある程度上昇したのち、見えなくなる。

 それは『魔力』_____。まるで怒りを魔力に変換させるかのように、体内に込めた魔力が目視できるまでに強大になっていたのだ。


「よかろう、今度こそズタボロに引き裂いてくれる! まとめてかかってくるがいい!!」

 今のハイガーは以前人間界で闘った彼とは大違いだろう。その言葉には、それを感じさせる程の気迫と自信がこもっていた。


 だが、それはウル太郎も同じであると見える。あの時、同様にウル太郎も本気を出していなかったのだとしたら……?

「はぁ? 何言ってんだ、俺は勇者に加勢する気はないぜ」

 この強大な魔力を目の当たりにしても、少しも物怖じしていないのがその証明だった。

「……なんだと? どういう……」

 ハイガーの言葉を遮るように、『彼』が目を覚ます。

「うらあぁぁ!! テメー、ウル太郎! 俺を足蹴にするたぁ良い度胸じゃねーか!!」

 埋めた顔を勢いよく持ち上げ、レイドは飛び起きてウル太郎の胸ぐらを掴んだ。

「ぶははは!! こんなおもしろそうな事、俺抜きでやろうとするからだぜー!!」

 対してウル太郎はレイドの土まみれの顔を指差し、涙を流して笑う。

 それを見てレイドは手を離し、ポキポキと指を鳴らし始めた。

「……はっは、上等。覚悟ができてるようで何よりだ」

 その一部始終をハイガーは不可解な目で見ていた。

「なんだ貴様ら、仲間割れか?」

 その言葉を皮切りに、ウル太郎は身構える。

「何言ってやがる、『デスマッチ』さ。最後に立ってた奴の勝ち。簡単だろ?」

 続いてレイドも準備体操をし直し、腕の伸ばしながら言い放つ。

「へっ、どーでもいいがまとめてぶっ潰す。後悔しても知らねーからな」

 臨戦態勢の2人を見て、ハイガーは剣を顔の前に、地面から垂直に構える。

「……よくわからんが邪魔立てする奴は許さん。一網打尽にしてくれる!」


「いいねぇ! そんじゃ早速、試合開始_____」


 こうして、第二ラウンドが始まる____と思った、その時だった。


「これ、ウル太郎。一対一の真剣勝負に水を差すでない」


 いきなりウル太郎の真横に出現したのは、ファンキー大魔王サルタン。


「!!」

「な……」

 ハイガーとレイドは驚愕した。


 今の今まで入り口で茶を飲んでいたはず____

 サルタンの俊足の動きは、ハイガーやレイドですら捉えられていなかった。


「あ……さ、サル様! 今いい所____うわっ!?」

 ごねるウル太郎を肩に担ぎ、残った2人に手を向けて謝る。


「すまんのぉ、邪魔して。構わず勝負を続けてくれい」

 呆気(あっけ)にとられながら、ただただサルタンを見やるレイドたち。

「あーっ! ちょっと、俺にも闘わせてくださいよーー!!」

 肩の上でもがくウル太郎と共に、スタスタ歩いてゆっくり戻っていくのだった。


 その後ろ姿を見ながら、ハイガーは呟く。

「……み、見えなかった……、あやつがいきなり現れるところまで……」


「…………」

 レイドも一筋の汗を頬に流して沈黙する。


 いずれ倒さねばならぬ相手……その相手が思っていたよりも遥かに強大だった、と感じた瞬間だったのかもしれない。


 それは、入り口にいるアルフも感じていた。



「…………」

 顔には出さず、戻ってきたサルタンを目で追うアルフ。

 サルタンはウル太郎を下ろし、アルフから人一人分くらいの近いところに座り直した。


「サル様! なんで邪魔するんスか! もう少しで楽しめそうだったのに!」

 相変わらずウル太郎は騒がしくサルタンに抗議をする。初めて見る顔のアルフなど見えていない様子だ。

「忘れたか、ウル太郎。余程の事がない限り争いごとはご法度じゃと」

 サルタンは意味深な事を言う。

「そりゃ忘れてませんよ! でもケンカの延長って事で____」

「あの者たちと本気でケンカをして、ただですむと思うか?」

 そこでウル太郎は初めて口ごもった。

「う、そ、それは……」

 サルタンの言葉に、だけではない。その()の奥から伝わる、静かな気迫。ウル太郎は何かを感じ取り、それに根負けした。

「……はぁ、わかりましたよ。大人しくしてるッス」

 そして言葉のとおり大人しくなり、ため息まじりに従う。サルタンは笑った。

「ふはは、わかればよろしい。ついでに食堂からなにか食い物を持ってきてくれ」

「へーへー。んじゃ行ってきますよっと」

 耳を掻きながらウル太郎は城へと引っ込んで行く。

 それを見送ったあとで、アルフは先程のサルタンの言葉を蒸し返した。


「なぁ、争いごとはご法度って……どういう事だ? 悪魔ってそういうの好きなんだろ?」

 その言葉に、サルタンは視線を前に向けながら返す。

「千年前まではのう。今は違う」

「? 千年前……? どういう事だ、千年前に何かあったってのか?」


 この質問をしたアルフに非はない。今はまだ、何も知らないのだから。


「…………」

「…………」

 だが、それによりリリやエリスたち場の空気が沈んでしまった事はアルフにも理解できた。


「あ、(わり)ぃ……俺なんかマズイこと……」

「いや、良い。折角じゃから教えてやろう。但し、あの勇者が知っている所までじゃがな」

 サルタンは指を組み、話を始めた_____。



 サルタンが千年前の話を始めた直後、レイドたちはようやく闘いを再開させた。

「……つまらぬ邪魔が入ったが、まあいい。さっさと剣を抜け、勇者」

「……へ? 剣……?」

 レイドが呆けた声を出し、顔を横に向ける。

 そこには出現させたままの『シーカー』から、半分刺さるような形で剣の柄が飛び出ていた。

 それを見て剣を取り出す途中だった事を思い出す。

「あぁ、そういやそうだった。んじゃ気を取り直して……」

 レイドは柄を握り、ゆっくりと剣を引く。


「……フン。この前の妙な剣ではないんだな」

 その抜かれた刀身を見たとき、ハイガーは「食えぬ奴だ」とでも言いたげに息を吐く。

 確かに以前使用した剣____『レーディエイト・アブソーバー』は、放たれた魔法を吸収し、力を増す剣。

 今回のハイガーのように、魔力を己の身体能力向上に使用する者相手では、その能力を十分に発揮できない。それを考慮して、レイドは別の剣を取り出したのだ。


「ああ。『風剣ウィム』、伝説の風の剣さ」


 細く薄く、軽そうな剣。シンプルだが見た事もないような素材を使われており、とても質の良さそうな剣だ。『風剣』というからには、風に関する魔法能力がありそうなわけだが、それは果たして。


「成る程、『伝説』か……おもしろい」

 ハイガーはニヤリと笑う。今度こそ第二ラウンドの始まりだ。続けて彼は叫んだ。


「それでこそ、倒し甲斐があるというもの! 行くぞ、勇者!」


「おう! いつでも来やがれ!」

書きながら思った。


こいつら……なかなか闘わないなぁ、と。(汗)

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