43. ハイガー再び①
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「……と、つまり、上級の魔法を覚えるにはその下位の魔法に関する知識が要る。だから、魔法は初歩のものから覚えていくのがセオリーってワケさ。」
食堂にて。
レイドに置いてけぼりにされたベゼルは、偶然会ったマーシュに魔法の基礎の続きを教えてもらっていた。
「なるほどー。確かに、魔物と闘って魔法をおぼえるにしても、つよい魔物には魔法をたくさんおぼえていたほうが勝ち目があるもんね」
机を挟んで座る2人。どうやら朝食をここで済ませたようで、机の上に並ぶお皿やコップには、綺麗に完食した跡があった。
「うん。まあ、そういう事だね。」
マーシュが満足気に頷く。すると、
「はいどうぞ。マベンダーのハーブティーです」
リリが食後のドリンクを持ってやって来た。
「あ! り、リリさん! どうもです、イタダキマス!」
突然のサービスに……いや、リリが来たことにマーシュは声を荒げた。
「マーシュくん、ありがとう。昨日はベル様に魔法を教えてあげたそうですね」
どうやらハーブティーは昨日のお礼のようだ。
「いえそんな! 年上として当然の事をしたまでですよ! あはは!」
手をブンブン振り、顔を赤くして答えるマーシュ。
「でも、あんまり凶暴な魔法を教えちゃダメですよ? ベル様はまだ子供なんですから」
リリがずいっと顔を一歩近づけると、マーシュはまるで全速力で1時間走ったかのように心臓の鼓動をはやくさせ、俯いた。
「あ、あ……ああああの、ちか……」
顔は真っ赤で頭は真っ白。新種の動物だろうか。
「? どうかしましたか?」
「いえ、その……お、おおおいしいですね、このハーブティー……」
おぼつかない様子で、ハーブティーを口に運ぶ。
「最近取り入れた新作なんです。いつでも飲みに来てくださいね」
リリは人差し指を立て、そう告げる。マーシュはただただ頷くばかりだった。
「リリー、僕も飲みものほしいー」
そんなマーシュに意図せず、助け舟を出すベゼル。どうやらまだ、他人の恋模様には疎い様子である。
「はい、ベル様にはオレンジジュースを……」
リリは持ってきていたジュースをベゼルの前に掲げる。しかしベゼルは、
「ううん、僕もマーシュとおなじのが飲みたい!」
どうやら別のものをご所望のようだ。
「え? ベル様もハーブティーがいいんですか?」
「うん!」
「あはは、魔王様には紅茶やコーヒーの類はまだはやいんじゃないかなぁ。」
やや平常心を取り戻したマーシュが包み隠さず言うと、ベゼルは少しむくれて答えた。
「そんなことないよ! 『勇者』はなんでも飲めるんだもん!」
おそらく、以前レイドが缶コーヒーを飲んでいたことに憧れを持ってしまったのだろう。今のベゼルにとって、コーヒーや紅茶は『勇者』の飲み物なのである。
「ほらベル様、オレンジジュースの方がおいしいですよ? ほんとにハーブティーでいいんですか?」
「うん! ハーブティーちょうだい!」
こうなっては、一度飲ませるまで止まらない。リリは仕方なく、新しいティーカップにハーブティーを注いだ。
「わぁ……いただきまーす」
カップの中からほわほわ立ち込める湯気を嬉しそうにふーっと吹き、口に含む。
それを口の中で転がすようにしたかと思うと、一転して苦い顔をしながらゴクリと飲み込んだ。
「……へんな味」
舌を出し、眉をひそめるベゼル。
「ほら、だから言ったのに。」
マーシュが机に頬づえをつきながら笑う。リリも口に手を当て、くすくすと笑っていた。
「む〜」
ベゼルが口を尖らせると、その背後から誰かの声が聞こえた。
「ふはは、和やかじゃのう」
いつもの笑い声。大魔王サルタンの登場だ。
「あ、パパだ!」
3メートルの大魔王姿ではなく、人並みの身長、オールバック&ドレッドヘアー姿のサルタン。
椅子からひょいと飛び降り、その右足にしがみ付くベゼルの頭を撫でながら、サルタンはマーシュの方を見やる。
「マーシュ、ベゼルに魔法を教えてやったそうではないか」
サルタンの言葉に、マーシュは謙遜する。
「あ、いえそんなサル様。僕は別に大したことは……」
しかし、サルタンは続けて労いの言葉をかけた。
「これからもベゼルを鍛えてやってくれ、頼りにしておるぞ」
さすがのマーシュも、これには喜びを隠せない様子。
「……へへ、はい、まかせてください。」
鼻を擦りながら、素直に喜んだ。
「サル様、おはようございます。珍しいですね、サル様が食堂へいらっしゃるなんて」
続けてリリの言葉。サルタンが普段どのようにして食事を摂っているのかは、誰も知るところではない。
「ふはは、ちと通りかかってのう。顔を出しに来ただけじゃ」
「ということは、何かご用事が?」
リリが首を傾げる。するとサルタンは、一瞬険しい顔をして、
「うむ。どうやら今日は客人が多いみたいじゃからの」
ベゼルに足から離れるように目配せすると、城の入り口の扉へと歩いて行った。
「……?」
リリは微かな疑問を思い浮かべる。
サルタンが自分の脚を動かすのは、なにか魔界に問題が起こるとき、或いはその前触れなのだ。
そしてその問題は、すぐに訪れることになる。
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魔王城、入り口。
扉の前に立ちその全景を見上げる1人の男、ハイガー。
彼は静かに怒りを闘志として燃やし、剣を構えていた。
「魔王が生きている。そして更に、新たな魔王の存在だと……? ふざけおって……!」
ややこしいようなので説明しておくが、ハイガーの言う『魔王』とは大魔王サルタン、『新たな魔王』というのはベゼルの事である。何処でその情報を得たかは定かではないが、彼は確かに、2人の存在を知っていた。
「やはり勇者は魔界に寝返った事に間違い無いようだ。それどころかアルフまで丸め込まれおって……! こうなれば、この城もろとも破壊して……」
「ふははは、乱暴な客人じゃのう」
ハイガーの言葉を遮り、扉を開けて出てくる1人の男。
「! 誰だ、貴様は……! ただ者ではないな……」
瞬間、神経を研ぎ澄ませるハイガー。
「儂はサルタン。大魔王じゃ」
しかし男____サルタンは、何食わぬ顔でハイガーに返答する。そしてサルタンを大魔王と知ったその時、
「なに!? ならば貴様が……!! おのれ、覚悟しろ!!」
ハイガーは剣に魔力を込め、その刀身に風を纏わせはじめた。
「ふむ……血の気の多い若僧じゃな。さあて、どうしたものか……」
かたやサルタンは冷静に、風になびくドレッドヘアーと共に顎髭に手を触れていた。
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「……! この魔力は……!」
一方その頃、レイドの部屋。
魔力を持つ者は、他人の放つ魔力を感じ取ることが出来る。より優れた者ならば人物を特定する事も可能だ。
「もしかしてハイガーさんか!? やたら速いな、一体どうして……」
アルフは魔力を感じる方向____入り口へと、壁越しに視線を向ける。その拍子にレイドは、アルフの肩に何かが付いているのを発見した。
「なんだこれ、小型の機械……?」
小型の機械……それを聞いた途端何かを察したアルフは、失態を晒したという風に目に手を当てて上を見上げる。
「……なるほどな、やられた。さすがハイガーさん、抜け目ねぇなぁ」
間もなくしてレイドもその機械の正体に気が付く。
「こりゃ……盗聴器と発信器じゃねーか! もしかして、俺たちの会話も筒抜けか!?」
その言葉にアルフは頷き、軽く肩をすくめる。
「そりゃそうだろうよ。ハイガーさんの魔力を近くに感じるのが何よりの証拠だ。そんで魔力を感じるってことは……」
「まさか……魔法で城を破壊でもしようってんじゃねえだろうな……!?」
もはや分かりきった事……。アルフも投げやりに答えた。
「それ以外の目的だといいがな」
「冗談じゃねぇ、んな事させるか!」
レイドは部屋を飛び出した。
「待てよレイド! どこ行くんだ!」
アルフも勢いで分かりきった事を言い出す。
「決まってんだろ、ハイガーを止める! さっきの話はそれからだ!」
レイドは超特急で入り口へと向かって行った。
その姿が見えなくなってから、アルフは頭をクシャクシャと掻く。そして……普段荒げない声を、珍しく荒げるのだった。
「……っあーー! もう! わかったよ、ったく! 待ちやがれ、レイドーー!!」




