42. 信頼と疑惑
「まさか、あの子供が魔王だったなんて……」
アルフは一筋の汗を流し、声を震わせた。
「そんな力があるようには見えなかったが……、くそっ、この俺が気づけなかったなんて、ヤツめ! かなりのやり手のようだな……!」
1人勝手に盛り上がるアルフ。しかし、レイドは冷静に言葉を返した。
「いや、それはただ単にベゼルになんの力もないだけだぞ」
レイドがこれまで見てきたベゼルという魔王は、(悪魔でいう)年齢相応に元気にはしゃいだり、イモ虫の魔物にかけっこで負けてしまうような、そんな少年なのだ。間違っても芝居などではありえない。
だが今のアルフにその事実が伝わるはずもなく……、
「レイド、お前は騙されてるんだ、ヤツに! 魔王がなんの力もないだなんて、んな事あるか!」
違う、という風に手を横に振り、アルフはレイドの目を覚まさせようとする。
「まあ、アイツはまだ子供な訳だし……」
アルフの説得に、依然として釈然としないレイド。その反応を見て、遂にアルフは強行手段に出た。
「それなら尚更だ。今のうちに始末しねーとな」
そう言い残し、部屋の外へ出ようとする。しかし、そんなアルフの肩をレイドは掴んで引き止めた。
「……なんだよ」
「…………」
ふいと首を動かし、横目でレイドを睨むアルフ。レイドが何を言いたいのかは、彼の目を見れば明らかだった。
「まさか、魔王を倒すのに反対するのか?」
レイドの目から伝わる固い意志。
アルフは苛立ち、肩の手を振り払ってレイドの方へ向き直る。そして、静かに言い放った。
「レイド……お前、本当に悪魔側に寝返ったのかよ?」
その言葉に込められた『重圧』……。並の者が相対したのならば、尻もちをついている状況だろう。とても先程までおちゃらけていたアルフとは思えない。
だが、レイドは少しも物怖じすることなく、アルフの言葉を切り返した。
「そう思ってくれて構わねぇ。ベゼルや他の城の奴らに手を出すってんなら、たとえお前が相手でも容赦しねーぞ」
「…………」
アルフは暫し沈黙する。
レイドの目から伝わる覚悟。そこから何かを感じ取った時、
「あっそ。んじゃ、やーめた」
あっけなくその態度を一変させた。
「は?」
レイドは思わず拍子抜けた声を漏らす。アルフは後頭部に手を組み、再びレイドに背を向けた。
「よく考えたら、美味いメシもご馳走になったし。悪魔の人たちも思ってたほど悪そうには見えねーしな」
呑気な口調に戻ったかと思うと、続けてボソッと呟いた。
「……昔と同じ瞳で安心したぜ、レイド」
この言葉でレイドは、はっと気がつく。
「お前……まさか、カマかけたのか?」
「さぁなー」
そのままアルフはスタスタと歩き、本棚から適当な本を取って椅子に腰掛ける。その本をパラパラと流し読みしながら、思い出したように新しい話題をふった。
「それよりも、どうすんだ? ハイガーさんがこの城に辿り着いたら、俺のようにはいかないぜ?」
『ハイガー』という言葉を聞いて、レイドは頭が痛くなる。手をおでこに当てて少し俯いた。
「……そうだな。アイツが来たら間違いなく城に被害が及ぶ。その前に食い止めないとな……」
いまだ残る厄介ごと。会いたくない人物に会わねばならないという思いが、レイドの意気を消沈させる。
____いや、それよりももっと深い何か……。彼の目は、いつだったかリリたちが初めてレイドの元を訪れた時のような、濁った目に一瞬変わっていた。
「……まだ人間界の奴ら、蔑んでるのか? 昔はあんなに慕われてたのによ」
レイドの反応を察したのか、アルフが本を読みながら尋ねる。パラパラとページをめくっていたその手は止まっていた。
「昔の話だ。あんな自分勝手な奴らなんて、信用ならねー。……まぁ、お前やロゼ達は別だがな」
レイドは何食わぬ顔でそう返答する。
彼が人間界の話をする機会は早々ない。だが、彼が人間界の話をする時は決まって、人間に対する偏見を語る。そのように思えた。
「そーかい」
そしてそれはアルフも承知の上だ。3年間、アルフはずっとレイドを見てきたのだから。
「……なぁ、レイド」
だが、その日々にも終止符を打つ時が来たのかもしれない。
「俺さ、ずっと考えてたんだ……。お前がさ……」
物語は進む。誰かが真実を求め、突き進む限り。たとえそれが_____
「お前が3年間、人間に蔑まれてたのが_____実は、誰かに『仕組まれた』モンなんじゃねえか、ってさ」
「_____は……?」
_____どんな結末を生み出す事になったとしても。
_______________
時は少し戻り、魔王城の入り口にて。
見覚えのある口髭の男が、何かを握り潰して静かな怒りを露わにしていた。
「魔王が生きている、だと……!? おのれ勇者め……!! やはり貴様は……!!」
次回、さらなる波乱が訪れる……。
ブックマークしてくださった方がなんと、2桁に突入……! ありがとうございます、感激です!
このまま脳内に構想したストーリーを順調に展開していけたら、と思っています。
シリアス要素が少し多くなるかもしれませんが、お付き合い頂けたらこれ程嬉しいことはありません。
是非是非これからのレイドたちの物語をお楽しみください。
今後とも、本小説をよろしくお願いいたします!




