41. お調子者は風のように
「な、何事ですか!?」
食堂にて、騒ぎを聞きつけて慌ててやって来たのはリリ。散乱した机を見て、大層お怒りだ。
「レイドさん! あれ程ここでケンカしないでくださいって、言ったじゃないですか!」
どうやら先ほどのレイドの大声と、机に倒れこんでしまった事から、リリはケンカでもしているのかと勘違いしている様子だ。
「ち、ちょっと待ってくれリリ! これはアイツがだなぁ……」
「お! ケンカいいねぇ! 久しぶりにやるか、レイド!」
「お前もそうやって悪ノリすんな!」
「ほら、やっぱりケンカじゃないですかー!」
「ちがーう!」
弁解しようとするレイドを、アルフが余計にややこしくする。ここにもしウル太郎が居ようものなら、朝っぱらから大騒ぎになっていたことだろう。
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「もう、ケンカじゃないなら初めからそう言ってくださいよ……」
「言ったろうが! 割と初めに!」
「はは、すいませんねウチのレイドが」
「テメー、反省してねーだろ……」
しばらくして事態も沈静し、いつもの食堂の風景が訪れる。
そこで改めて、リリはお調子者のアルフに訪ねた。
「あの、貴方は『巨体お好み焼き』の挑戦者の方ですよね……? レイドさんのお知り合いなんですか?」
「おっと、俺としたことが申し遅れました」
アルフは姿勢を正し、ワイシャツの襟をぐりぐり直す。
「アルフ・トワイライトです。レイドとは3年前冒険を共にした、ガキの頃からの旧知の仲です」
アルフはさっと、リリに名刺を手渡した。
「あ、これはご丁寧にどうも……。私はリリと申します。この魔王城のメイドとして、魔王ベル様のお世話役についています」
リリはペコリとお辞儀をする。そしてメイド服のポケットから封筒を取り出し、アルフに差し出した。
「こちらは先程の早食いお好み焼きの賞金になります。どうぞお受け取りください」
「あ、どうも! いやぁ、味付けも絶妙でとても美味しかったです、ありがとうございます」
アルフは封筒を両手で受け取る。その時一瞬、目の色が変わったように見えた気がした。
「ところで、今日はどうして魔界に? 何かご用でしたらお伺いしますが……」
リリが首を傾げ、そう尋ねる。
「ええ、まあちょっとした野暮用で……」
ところがアルフは誤魔化すように目を逸らしそう告げると、
「あ、コイツ借りてきますね。ちょっと話があるんで」
レイドの襟首をつかみ、
「おい、テメーこのやろ、離せ! まだ朝メシが……!!」
否応なしに、そそくさと食堂の外へと連れ出していった。
「……なんだか、風のような方ですねー……」
その去りゆく背中に、リリはポツリと呟いたのだった。
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「なんのつもりだアルフ。俺まだ朝メシ食ってねーんだぞ」
ところ変わってレイドの部屋。
食堂を出た後で、仕方なくレイドはアルフをそこに案内した。
「まあまあ、いーじゃねーか、積もる話もあるだろうしよ」
不機嫌になるレイドに、アルフはおもむろに先程の封筒から賞金5000Dを取り出す。
「しかしラッキーだったぜ、魔界の通貨なんて持ってなかったからなぁ。儲け儲け!」
その1枚のお札をニヤニヤと眺めるアルフ。
「……相変わらず、金に目がないんだなお前は」
レイドは目を細めた。
「何を言うか。俺は物事を効率的に考えてるだけだ」
アルフは口を尖らせる。金を封筒にしまい、言葉を続けた。
「金っていうのはな、正に俺のその考えを具現化したかのような……」
嬉々として語り始めるアルフ。どうやら彼は、顔に似合わず案外貪欲な性格なのかもしれない。
そんなアルフの話を遮り、レイドは強引に本題へ入る。
「はいはいわかったよ、で? 話があんだろ?」
「おー、そうだった。そうだよ、レイド!」
アルフは思い出したかのように、唐突にレイドを指差した。
「な、なんだよ」
「なんだよじゃねーって! すげー驚いたよ、さっきのメイド……リリさん? の話聞いててさ!」
いきなり声を大きくしたかと思うと、辺りをキョロキョロ見回す。すると、今度は確認するように声を小さくした。
「……魔王、生きてんの?」
そう。アルフが_____いや、レイド以外の人間界の者全ては、知る由もなかっただろう。
レイドが倒した魔王が大魔王として復活し、その大魔王の息子が今、魔王になった事など。
「あー、なんて説明すればいいのか……」
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レイドは、その辺りのややこしい事実をかいつまんで、出来るだけ分かりやすくアルフに説明した_____。
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「_____なるほど。俺たちがいるこの城は、魔王が住む魔王城だと」
「そうだ」
「そして魔王は復活して、今や大魔王になったと」
「そーだ」
アルフの確認の言葉に、逐一相づちをうつレイド。
「まあ、そこらへんの事は置いといて……。俺がいっちばん驚いたのはだなぁー……!」
アルフは拳をわなわな震わせ、一拍置いてから続けた。
「……さっきの子供が、今の魔王だってことだよぉぉ!」
「……まぁ、それもそうだよなぁ……」
レイドも小さく、それには同意した。




