40. その名はアルフ
「アルフ……おまえ、何で魔界に!?」
「レイド。久しぶりだな、やっと見つけたぞ」
突然魔界を訪れた青年……もといアルフ。何を隠そうこのアルフ、かつてレイドと魔王を倒す為の冒険を共にした、勇者の仲間なのである。
「てめーっ、いきなり人間界から姿消しやがって! すげー探したんだからな!」
再会するなり、レイドに突っかかるアルフ。
「あ、ああ……それにしても、よく俺がここにいるって分かったな?」
「おー。魔界にいるって情報はあったからな。あとはそこら辺歩いてた悪魔に「勇者どこ?」って訪ねたら、親切にここまで案内してくれたんだよ」
アルフがワイシャツの襟元をぐりぐり直しながら自慢げに言う。
「まぁもっとも、ここに着いたのがついさっきだったから腹も減ってたわけなのですが」
「……それでお好み焼きか」
レイドは呆れ顔でアルフを見た。
「じゃあ、魔界に来たのはお前だけか? ロゼは?」
「ロゼなら人間界で留守番だ。代わりに別の人が来てんだけど」
「へえ。誰だよ」
場の雰囲気で尋ねるレイド。
「ハイガーさん」
しかしその人物の名を聞いたとたん、ずっこけるように背後の机に倒れこんだ。
「ゆ、勇者! 大丈夫!?」
ベゼルが心配そうにレイドに声をかける。
「は、ハイガー!? 何でヤツが!?」
だが、どうやらすこぶる無事のようだ。それよりも、ベゼルの声も聞こえないくらい彼は驚いていた。
ハイガーという人物は、レイドが魔界に来る際に交戦した王国親衛隊の隊長だ。
レイドの嫌う王国に対する忠誠心とその堅物さから、レイドにとって一番会いたくない相手であるということは間違いない。
「いやまあ、何でっつーか、国王の命令を受けたハイガーさんに俺がついてきたって感じなワケよ」
アルフの言葉に、レイドはピクリと反応した。
「国王の命令……? つーか、そのハイガーは何処行ったんだ?」
レイドの言葉に、アルフはあっけらかんと答える。
「はぐれた」
「はぁ!? なんでだ、案内してもらったんだろ!?」
「それがさ、「魔物の案内など必要ない! どうせ騙す気だ、私は別の道を行く!」とかなんとか言っててさー、どっか行っちまったんだよ」
我関せず、という風にアルフは口笛を吹く。しかしレイドにとって、それは逆に好都合ではある。
「……まあ取り敢えず、ハイガーがここに居ないだけマシか……」
それとは別に、マイペースなアルフにレイドはため息をついた。
「……なあ、ところで」
アルフはふと話題を変え、レイドの側でちょろちょろしているベゼルを見る。
「この子供は? 妙にお前に懐いてるみたいだけど」
「え? ……僕?」
ベゼルはアルフと視線を合わせ、自分を指差した。
「僕、ベゼルだよ! お兄ちゃんは勇者の友だち?」
ニコリと笑顔を見せるベゼル。
「おー、いい笑顔。俺はまあ友達っていうか……うん、まあそんなもんだ」
アルフも笑ってベゼルの頭を撫でる。そして、ニヤニヤしながらレイドに話を戻した。
「こんな子供に懐かれるなんて、レイドも随分変わったな?」
「……うるせえ」
レイドは照れを隠すように視線を逸らした。
「ねえねえ! 勇者の友だちなんでしょ? 勇者って、はじめから勇者だったの?」
そんなレイドとは正反対に、ベゼルが興味津々にアルフに尋ねる。どうやら、レイドの昔話を聞かせてほしいらしい。アルフは目線を上げながら、それに答えた。
「ん? そうだなぁ……はじめからじゃなくて、コイツは気がついたら勇者になってた、て感じだな」
アルフの話にワクワク顔のベゼル。しかしレイドは当然、それを良しとしなかった。
「おいやめろ、アルフ。そんな話しても意味ないだろ」
「何言ってんだよ。子供が聞きたいって言ってんだから、聞かせてやるもんだろ」
「いや、だけどなあ……」
ごねるレイドに、アルフは残念がる。
「素直じゃなくなっちまったなぁ、レイド。昔のお前はもっと輝いてたってのに」
そう言って剣を上に掲げるポーズをして、言い放つ。
「昔はこうやって、「俺は絶対『勇者』になってやるー!」って言ってたの、懐かしいぜー」
「それ、昔の勇者!? うわぁ、かっこいいー!!」
「やめろっつってんだろうがぁぁぁ!!」
目をキラキラ輝かせるベゼルと、突っ込むレイド。
魔王城はまたひとつ、騒がしくなったようで……。




