22. 仲良くなるために、遭難だってしよう③
どうも、目玉焼きは醤油派の作者です。
それだけです。では本編へどうぞ。
霧の森にて。
軽く遭難してしまったレイドたち6人は、2人1組に別れて別々の道を行くのだった。
「おいガキ。お前はこの道が何処へ続くのか知らないのか?」
見知らぬ土地をただ前に向かって歩くのは、レイドとベゼル。
「うん……僕もリリに案内してもらってしかこの森にきたことないから……」
缶蹴りの件で多少和解はしたものの、未だスムーズに会話をするまでには至っていない様子だ。
レイドがベゼルと同じ歩幅で歩いているため、その速度は少々ゆっくりめ。お互いにあまり会話をする事なく歩き続けていた。
そして10分程歩いた頃だろうか。レイドがちらりとベゼルを見ると、息を切らしながらも必死にレイドについて行こうとするその姿が目に入った。
「……疲れたか?」
レイドがベゼルに聞く。休憩を取ろうと提案しようとしたのだが、しかしベゼルは強がりからか、前を見つめながら答えた。
「ううん、大丈夫。全然疲れてないよ」
その言葉にレイドは目を細める。少し考えた後、突然ネコを持つようにベゼルの服の首元を掴み、無理やりその足を止めた。
「うわぁっ」
「嘘つけ、汗だくだぞ」
ベゼルを軽く持ち上げ、レイドも立ち止まる。
「ったく、ガキなんだから無理すんなっての」
その言葉でベゼルはしゅんと顔を伏せた。
「ごめんなさい……」
レイドが小さくため息をつき、何処か休憩できる場所がないか辺りを見渡す。すると前方に小さく、何か違った景色が見えるのが確認できた。
「あれは……湖か?」
レイドの視線に微かに入ったのは、木々に遮られながらも確かに存在する大きな湖。絶好の休憩ポイントだ。
レイドはベゼルを下ろし、湖を指差した。
「おい、あそこまで行ったら休憩するぞ。もう少し歩けるか?」
休憩できる場所があると分かるだけで、少し元気がわいてくる。
「うんっ、はやく行こうっ!」
ベゼルが走りながら湖を目指す姿を見守りながら、レイドはゆっくりと歩いて行った。
「はぁ、疲れたー」
湖に着くや否や、その場に仰向けになって倒れこむベゼル。どうやら相当疲れたみたいだ。
それもそのはず。魔王城からこの『霧の森』まで30分、そこからさらにまた30分近く歩き続けているのだから。
レイドも木々を潜り抜け、少し遅れて湖に到着する。
「……へぇ、この森にこんな所があったんだな……」
その目に一番に入って来たのは勿論湖。一面に広がるそれは透き通る様な青色で、僅かに差し込む陽の光に当てられ、チラチラと輝いている。
道中でさんざん見かけた気色悪い虫たちもこの湖周辺にはおらず、代わりに白い鳥や琥珀色の羽根を持った蝶などが、湖を鮮やかに飾り付けるかの様に優雅にその羽根を休めたり飛んだりしている。
レイドは暫く、湖の美しさに見とれていた。
「うわぁ、水が冷たくておいしいや」
ふとベゼルの声が聞こえる。我に返ったレイドは、その声の方向に視線を向けた。
そこには湖の水を手ですくい上げて口に運んでいるベゼルの姿があった。ベゼルは振り向いて、レイドに手招きをする。
「勇者もはやくおいでよ! ここのお水、すっごくおいしいんだよ!」
その声に導かれるまま、レイドはベゼルのそばまで歩いて行く。そして改めてその湖の透き通る様子をまじまじと見つめた。しゃがんでから手で水をすくい、ゆっくりと口元に持っていく。恐る恐る飲んでみると、その味にレイドは驚いた。
「っ! うま……」
程よく冷え、するりと喉を通り抜けるその雫の集合体は、見た目だけでなく味に濁りもなく、人間界で飲んだどの水よりも『水』そのもの、という味がした。
「……こんなに美味い水、初めて飲んだぞ……」
人間界では味わう事のできなかった感覚。疲れすらも何処かへ吹き飛んでしまったかのようだった。
「ね、おいしいでしょ?」
ベゼルが笑顔でレイドの顔を覗き込む。その直後、彼の小さなお腹が音を上げた。
「あ……」
「何だ、腹減ったのか?」
今までの緊張が溶けたのか、ベゼルはお腹を押さえて照れ笑いをした。
確かに魔王城からここまで歩けば腹も減る。レイドも先程朝食を食べ終えたばかりだが、少しばかり小腹が空いている事に気が付いた。
しかし準備を怠ったのか、2人は何も持っていない。仕方ないという風にレイドは『シーカー』からお菓子でも取り出そうかと、人差し指で空間をなぞろうとした。
「あ、勇者あれ見て。『ヒトムギソウ』だよ」
しかしレイドの行動はベゼルの言葉に中断される。
「ヒトムギソウ? 何だそれ」
レイドはベゼルが指差した方向に目を向けた。
そこには木の根元から円形に生える、小さな葉っぱの集合体があった。ベゼルがそのヒトムギソウの所へ走って行き、レイドも後を追う様にその後ろをついて行く。ベゼルは一足先に到着すると、ヒトムギソウを少し摘み取ってレイドに渡した。
「……これがどうかしたのか?」
渡されるままに受け取るレイド。どう見てもただの葉っぱにしか見えないそれに、レイドは少し首を傾げる。
ベゼルはもう一つヒトムギソウを摘み取って、その両端を持った。
「これね、食べられるんだよ。こうやって……」
そう言いながら、ベゼルはヒトムギソウにパクリとかぶりつく。
「ん〜……おいしー!」
本当に美味しそうに目を瞑りながら上を向いて咀嚼するベゼルを見て、レイドも一口ヒトムギソウを食べた。
そして彼は、初めて味わうその味にまたもや驚く。
「……!! 何だこれ、美味いぞ……! なんつーか素材の味っていうか、シンプルな味……!」
「でしょっ? パパが言ってたんだけど、遠い国にある「おコメ」っていう白い食べ物とおんなじ味なんだって!」
レイドが気に入ってくれた事にベゼルもつい喜んだ。
「ほんとはこのヒトムギソウに色んなものを乗っけて食べるともっとおいしいんだけど、今回はしかたないね」
ベゼルのその言葉に、レイドは過敏に反応した。
「乗っける? 何をだ?」
「うーんとね、目玉焼きを乗せて醤油をかけて食べるのもおいしいし、トンカツを乗せてソースで食べるのもおいしいよ」
「おお……!」
「あとね、僕がいちばん好きなのは、お魚を乗せるんだ! 生のお魚の切り身を乗せて、醤油で食べるの!」
ベゼルが目をキラキラさせて言う。イヤ、よく見るとレイドもだった。
「おおおおぉ……!!」
お互いにヨダレを垂らし、その映像を頭に思い浮かべる。そしてレイドがハッと閃いた。
「さかな……魚? いるじゃねーか、この湖に!」
レイドは後ろに広がる一面の湖を指差した。
「一匹でも釣れば、お前が言ってるヤツにありつける!」
「え……でも、釣りの道具とかもないし無理だよ……」
ベゼルが残念そうに呟く。しかしレイドは更にテンションを高めて湖へと歩を進めた。
「大丈夫だって、俺に任せな」
ベゼルに背を向けたままそう言い放ち、レイドは『シーカー』を開いて一本の剣を取り出した。
「わぁ……!」
その一連の動作に、ベゼルは思わず魅入る。何しろ一瞬にして何もない所から剣を出したのだから、当然と言えば当然の反応である。
レイドが取り出した剣____。全体的に青一色で構成されており、剣の先端になるにつれてその色の濃さが薄くなっている。流動性があり、『剣』と言うよりは、まとまって剣の形を成している『水』と言った方が的確かもしれない。
「『水剣アナライズ』……。これ使うの久しぶりだな」
レイドが剣を構え、ベゼルに忠告する。
「おい、もうちょい離れてろ。あぶねーぞ」
「う、うん」
ベゼルは遠くの木の陰に隠れ、そこからレイドを覗き込むようにして見守る。それを確認してから、レイドはもう一度口を開いた。
「折角だからこの湖のヌシでも釣り上げて、皆で食おうじゃねぇか」
湖の一歩手前で剣を頭上に構え、高らかに叫んだ。
「よっしゃ、いくぞ!」




