21. 仲良くなるために、遭難だってしよう②
魔王城を離れ歩くこと30分。
豊かに生い茂る自然はその規模を次第に拡大させ、やがて大きな森林へとたどり着いた。
「レイドさん、ここが魔界一の森『魔光の森』です。」
「……ふーん、魔界一の森、ねぇ」
リリに言われ、レイドは上を見上げる。森の入り口に立っているにもかかわらず、一際目立って佇む巨大な大木が視界に入ったからだ。それは森の中心より生えていると思われ、ここからではその全体像を拝む事ができない。
「ここに入るのか?」
「はい、何でもベル様がレイドさんに見せたいものがあるそうですよ」
リリは自分と手を繋いでいるベゼルを見る。それに釣られるようにレイドもベゼルに視線を合わせると、ベゼルはコソコソとリリの陰に隠れてしまった。
「…………?」
それに対しレイドは疑問を浮かべるが、特に気にせず森に視線を戻した。
「んじゃ、とにかく中に入ろうぜ。見せたいものっての気になるし」
「そうですね。では行きましょう、皆さん」
リリの一声で、一行は深い森へと歩を進めて行った。
森の中はやはりと言うべきか、一面緑に覆われていた。
魔界特有の気色悪い小さな虫やらムカデやらが木にまとわりついたりしているが、どうやら害はない様子。
多くの木に遮られ日の光があまり差し込まないが、暗すぎるという事もない。レイドは、仲間と共に未開の地を冒険しているあの懐かしい感覚を思い出していた。
「ちょっと道が入り組んでいて狭いですから、気を付けて下さいね」
先頭を歩くのはリリとベゼル。その後ろに一直線になるようにレイド、エリス、ゾン吉、ウル太郎と続く。
「なあ、この森の魔物たちは襲ってこないのか?」
レイドが手を後頭部に組みながら、誰にでもなく話しかける。その問いにエリスが答えた。
「魔界の魔物は人間界とは違って温厚なものばかりよ。襲ってくるのなんて、滅多にいないわね」
「へー……そうなのか。そういえば3年前に魔界に来た時もすんなり魔王城まで来られたしなあ」
そう言いながらも、レイドは何故人間界と魔界とで魔物の性格が違うのか疑問に思う。しかしそれを見通すかのように、リリが口を開いた。
「魔界の魔物が比較的温厚なのは先代魔王様のおかげです。先代魔王様がおよそ千年前に魔界を統治した際に、魔物も人を襲わなくなりました。それまでは魔物も悪魔も、本当に血の気の多い人たちばかりだったんですよ」
リリの言葉で、レイドは少し驚く。
「先代魔王って……俺が倒した魔王だよな? あいつが実質、今の魔界を作り上げたって事なのか?」
あんなにあっさり自分にやられた奴にそんな事が出来ると思えないが……そう思うレイドだが、リリは前を向きながらこくりと頷いた。
「その通りです。先代魔王様……ベル様のお父上様は、誰よりも偉大なお方なんですよ」
レイドが後ろを見ると、エリスたちも併せて頷いている。俄かには信じ難い事だが本当なのだろうと、レイドも釣られて頷いた。
やがて一行は直線の道を抜け、少し広い空間にたどり着く。その先には、二本に別れる通路が伸びていた。
「あー疲れた」
「ふー……」
「ベル様、お茶です」
「わぁ、ありがとう」
開けた空間で少し休憩をするレイドたち。リリはじっと2つの道を交互に見ていた。
「別れ道ですね……」
「どっちの道を行けばいいんだ?」
レイドがリリに聞く。しかしリリは別れ道を見つめ、唇に手を当てて考え事をしたまま一向に答えようとしない。
「……おい、どっちだこれは」
レイドは悪い予感がする。一筋の汗を流した時、その予感は的中した。
「……どっちでしょう?」
リリのその言葉には、当然と言うべきかレイドがずるっと態勢を崩した。
「おい、マジか! 案内役が道忘れてどーすんだよ!」
態勢を整え、リリに突っ込むレイド。さすがにこの事態に陥るなど、彼は考えていなかった様だ。
「どうしたんですか、リリさん」
2人の会話を遠くから聞いていたウル太郎が駆け寄ってくる。レイドは呆れながらも状況を説明した。
「どうやら道を忘れちまったらしいんだ」
「えっ、ほんとですかリリさん! そりゃ大変じゃないですか!」
「困りましたね……どうしましょう」
「道がわかんねー以上は引き返した方がいいんじゃないか?」
レイドが提案する。しかしそれにはリリが反対した。
「それはダメです! ベル様がレイドさんに見せたいものがあると仰っているのに……」
「んじゃ、どーすんだよ」
耳をほじくるレイド。リリは考えた後、ウル太郎に呼びかけた。
「ウル太郎さん、とりあえず皆さんを呼んで来て下さい。全員で決めましょう」
「……で、どうするんだ?」
輪になって集まる一同。この非常事態に、レイド以外の者たちは案外冷静だった。
「とりあえず道を進んで行けば目的の場所までつくんじゃない? 適当に進めばいいのよ」
「でも道が二本ありやすよ。どっちの道を行くんですかい?」
「二手に別れればいいんじゃないか? そうすればどっちかは目的地に着けるぞ」
順にエリス、ゾン吉、ウル太郎が口を開く。
「いや待て、道が分からないんだから引き返した方がいいだろ」
レイドも少し落ち着きを取り戻す。しかしこの後のウル太郎の言葉で、彼は違和感に気づく事になる。
「戻るって……どうやって?」
「あ? そんなの来た道を戻って______」
言葉の途中でレイドは止まり、二本の道を見回した。
よく見るとその道は、いつの間にか二本から三本になっていたのだ。……いや、その言い方は少々おかしい。元から道は三本あったからだ、進む道と戻る道が……。つまり何が言いたいかというと……
「……どの道から来たっけ?」
完全に迷ったのである。何の前触れもなく、それはもう突然に。
しかしそれがわかってからも、悪魔たちは全く動じない。
「おいおい参ったぜ。遭難かよ」
「まあ道が三本に増えただけですし、あんまり変わりやせんよ」
「じゃあ三手に別れれば万事解決って事ね」
依然として呑気な彼らに、レイドは耐え兼ねて突っ込んだ。
「いや、もうちょっと慌てろよお前ら! どーすんだこの状況!」
何故彼らがこんなにも冷静なのか、レイドには分からなかった。遭難イコール命の危機……その危機感が悪魔には無いのだろうか。
「どーするったって……どうしようもねーよ。どーすんだ一体」
ウル太郎が頭の悪そうな発言をする。どうやらここには楽観的な考えを持った者しかいないようだ、とレイドは頭を抱えた。
「こうなってしまった以上、エリスさんの言うとおり三手に別れた方がいいのではないでしょうか」
リリが会話に割って入る。
「6人いる事ですし2人ずつに別れて、それぞれの道を行く。誰かが出口に辿り着けば、助けを呼びに行けるじゃないですか」
リリの提案にその場の全員が頷く。レイドも若干渋りながらも賛成した。
「まあ、確かにその方法が一番かな……」
意見がまとまった所で、グループ分けの話へと進む。
「んじゃ、誰がどの道に行くんだ?」
「それはこれで決めましょう」
そう言ったリリの手に握られたのは、六本の木の棒。先端を隠すように握られており、引いた棒に応じてグループ分けがされる仕組みだろう。
「赤、黄、青の三グループに別れるようになっています。では皆さん、引いて下さい」
リリが手を前に出すと共に、それぞれが棒を引いて行く。
ゾン吉、ウル太郎、エリス、ベゼル、レイドの順に引いて行き、最後に残った棒をリリの物としてグループ分けが決定した。
___赤グループ___
リリ、ゾン吉。
___青グループ___
エリス、ウル太郎。
そして黄グループ___
「お前が黄色か、ガキ」
「うん、勇者。よろしくね」
レイド、ベゼル。
それぞれのグループが決まり、3つの道の前に立つ。
「では皆さん、また後で会いましょう」
「何で私がベル様と一緒じゃないのよ……ブツブツ」
リリのグループ、エリスのグループは別の道を行き、残された正面の道へとレイドたちは歩を進める。
「よーし、じゃあ行くぞ。ガキ」
「う、うん!」
果たして全員は無事に帰ることが出来るのだろうか_____。少しの不安を抱えたまま、物語は次回へ進む。




