96. 質より量より
アドネーを吹っ飛ばしたレイドは、『水剣アナライズ』を『シーカー』へとしまい、新たに剣を一本取り出した。それは真っ黒に焦げたフォルムの、あの剣。
「『炎剣』!!」
「ほう。炎剣……闘えば闘うほどに強くなる剣、じゃったかのう? こないだの地剣は使わんのか?」
レイドの取り出した剣を見る傍らでの、サルタンの問いかけ。
「あれは両手用の剣だからな。空飛びながらだと、『風剣』との併用は出来ねぇんだ」
「成る程のう。『伝説の剣』、やはりどれもクセのあるシロモノばかりじゃのう」
「まーな。……てか」
レイドは『シーカー』を閉じ、やや後方のサルタンに目を向けた。
「俺、アンタに『炎剣』見せた事あったっけ? 何で知ってんだ?」
「ふはは。聞いた事があるからのう。儂の古き友人からな」
顎髭を触りながら笑うサルタン。『古き友人』……どうやらその人物の見当について、レイドは思うところがある様子。
「……そーかい」
さして聞き返す事もなく、2人は再び戦闘の構えを取った。彼らの頭上に浮かび上がる数値_____。
レイド、『18500』。
サルタン、『27600』。
水剣→炎剣に装備を変更したことにより、若干ながらレイドの数値が下がる。だがそれも今だけの話。その最大出力は、恐らく水剣を圧倒する。
2人の視線の先にいるのは____天界の大地へと吹き飛ばされたアドネーの姿。
レイドの先の一撃に、やはりというべきかダメージを負った様子もなく、口角を僅かにあげて2人を見上げた。
「来るぞ!」
レイドの言葉を皮切りに、アドネーは掌を前に差し出す。
そして目を閉じると、新たな技を繰り出した。
「『光蝉』」
それは、2人にとってこれ以上ないほどの衝撃の技_____。
アドネーの周囲が淡い光に一瞬包まれたかと思うと、次の瞬間にはアドネーの姿が幾人にも出現していた。
「!!」
「な……! アドネーが増えた!?」
「レイド……さっきの技、中々面白かったよ。これはそのお礼だ」
中心に立つアドネー____恐らく本物が、口を開く。
と言っても本物のアドネー以外、全員が創り物のような生気のない白い瞳をしていることから、本物と見分けるのは簡単なのだが。
「『分身』の技というのを、私なりに再現してみた。どうだい、どれが本物か____見分けがつくかな?」
その口ぶりから分かるのは、これは先程のレイドの水分身による不意をつかれた一撃から発想された、いわばアドネー流の分身の術ということ。だがそのクオリティーは、たった今編み出されたとは思えない程の規格外の代物。実際、生気のない瞳をしていたアドネーの分身たちに次々と色が宿り、最早本物が何処にいるのかなど見当もつかなくなってしまう。
その数はおよそ50〜100。それぞれの頭の上に表示された強さの数値は____『7600』。
そして分身たちは一斉に上を見上げ、空中に身を構えるレイドたちに向かって動き出した。
「〜〜!! 来い、とは言ったが……来すぎだぜ、流石によ!!」
空中を飛んでくるアドネー。
ロックオンしたまま地上を走り回るアドネー。
その場から動かないアドネー……多種多様だ。
だがひとつだけハッキリしていることは、レイドたちの四方八方には敵しかいないということ。
空を駆けるアドネーの分身たちが先陣を切り、2人に向かって拳を振るいまくる。
しかし、いくらアドネーの創り出した自身の分身とはいえ、これだけの数の分身を自らと同じ強さに保てるはずがない。それは、分身たちの頭上に浮き出る『7600』の数値が証明していた。
「ちっ! 一体一体は大した事ねぇが、数が多すぎる!」
剣で一薙ぎ、拳で一突きするだけで分身たちは光の泡となって消えていく。だがいかんせん、質より量と言ったところ。数による精神的な疲れを狙う腹づもりだろうか。
レイドの『炎剣』初期段階でも軽々と打ち倒すことができるところから、一体一体の実力は大したことがないということが肌で感じられるレイド。おのずと剣の威力も上がり、赤く色づいていく。
「ぬぅりゃ!!」
それはサルタンも同じだった。拳の闘気そのものを飛ばし、遠距離から迫り来る分身たちを一蹴していくサルタン。その腕に刻まれたダメージで、拳を振るうたびに痛みが走るはず。それなのに怪我を負う前となんら変わらない威力で放たれる拳の一撃にはレイドも驚いていた。
「でやぁ!!」
『風剣』の斬撃、『炎剣』の斬撃。
「せいあぁ!!」
闘気をのせた拳の乱撃。
数は少しずつ減っていく____。
否、2人は徐々に違和感に包まれる。
____倒しても倒しても、数が減らない____!?
2人が倒した分身の数は、当初の目測の100をゆうに超えている。にもかかわらず、前が開けない、先が見えない。
同時に2人は感づく。何処かに身を潜めるアドネーが、新たに分身を創造しているということに。
見れば、分身たちの頭上の数値は『2000』____。それは明らかに質を落とし、ただレイドたちの体力を消費させるためだけの駒に過ぎないということ。
とにかくこの状況をなんとかしなければ、レイドたちに勝機は訪れない。
「くっそ、捌き切れねぇ____」
レイドが堪らずそう漏らした時だった。
「……!?」
迫り来る分身たちの後方で、立ち止まってレイドたち2人に手をかざす分身たちの姿。
その10人ほどの分身たちは一斉に、機械のように言葉を口ずさんだ。
「『光銃』」
「な……」
そう、それは____。
「『光銃』」
「『光銃』」
「『光銃』」
時空を歪め、そこから無数の熱線を発射する技の名前。
「おいおいおい、嘘だろォォ!?」
レイドの周囲に展開されるのは、幾つもの小さな次元の渦。先程サルタンにダメージを与えたものと同じだ。少しずつ渦が光り出していく。
流石のレイドも、四方八方の敵を倒しながらでは対応しきれない____。
「耳! 塞げェ、勇者!」
だが、突然サルタンがレイドに指示を下す。
「え!?」
いまいちその言葉の意味を理解しきれないレイド。しかし手は脳に反して反射的に、本能的に、言葉の通りに耳を塞いでいた。勿論、剣を器用に持ちながら。
「こざか……」
サルタンは、ぷくっと頬を膨らませてエネルギーを蓄える。そして次の瞬間、口の中の「それ」を外に放出____。
「しいわぁぁぁぁああああ!!!」
撒き散らされたエネルギー____『大音量の声』は、耳を塞ぐレイド以外の周囲の分身たちに轟き____。
「_____っ!!」
「_____っ!!」
「_____っ!!」
その存在を消滅させた。
「すげ……」
空中からの刺客は、今の一撃によって綺麗さっぱり片付いた。
残るは地上に構える無数の分身たち____。サルタンは思わず、ため息を吐いた。
「ぜぇ……ふはは、こりゃキリがないのぉ」
今の音攻撃は一種の魔法によるものなのか、サルタンに少し疲れが見える。そう何度も放てる技ではないということだろう。
しかし、それに反して地上にいるのは、最早数え切れないまでのアドネーの軍勢。空まで襲い掛かってこないのかは分からないが、取り敢えずここからは第2ラウンドの始まりと言ったところか。
「『光砲台』」
地上のアドネーたちは、右手を地につけて砲台を出現させる。どうやら肉弾戦主体だった空中の分身たちとは違い、遠距離による『創造』の攻撃で立ち向かってくるつもりだ。
そうなると、数えきれないほどの創造攻撃で攻められたらハチの巣になる事は確実。一斉射撃をされたりしたら、レイドたちはひとたまりもない。
「大魔王、降りるぞ!」
「ぬ……」
サルタンにそう促し、急いで地上へと降り立つレイド。
「『シーカー』!」
そうして取り出したのは____『吸収剣レーディエイト・アブソーバー』。同時に『風剣』をしまい、敵地のど真ん中でレイドは剣を構えた。
「頼むぞ……『レーディエイト』!!」
『吸収剣』は光を放ち、レイドの意思に呼応する。
「『光弾』」
「『光槍』」
「『天喰』」
分身たちの一斉攻撃____。光の弾丸が、槍が、魔物の口が、数え切れない物量でレイドたちに襲いかかる。
だが、いくらアドネーが『創造』した技であるとはいえ、その源は『魔力』。原理は同じはずだ。
2人に向かってホーミングの如く迫り来るそれらは、やがてまとまり1つの巨大な砲撃となる。レイドはその瞬間に、剣を振った。
「うおおおぉお!!」
前方、後方からのその砲撃を、身体を捻った回転切りで瞬く間に剣の中へ吸収。そうして蓄えられたエネルギーを、前方に向けて思い切り振りかざした。
「だらぁあああ!!」
4倍の威力となった砲撃は、とてつもない轟音とともに分身たちを粉砕する。そして、残るは後方の部隊____。
「『炎剣』、最大出力!!」
レイドは間髪入れずに『炎剣』を『吸収剣』に叩きつける。先程の空中の闘いで、『炎剣」の威力は最大にまで上昇している。
「『限界突破』!!」
マグマのような紅の光を放ち、『吸収剣』は再び振り下ろされる。その瞬間、レイドの頭上に浮かび上がる数値は『48100』を記録した。
「これで……どうだぁぁぁああ!!」
標的は勿論、アドネーの分身たち。
「_____っ!!」
「_____っ!!」
「_____っ!!」
紅蓮の焔に焼き尽くされ、分身たちは消滅した。
レイドとサルタン。
2人により、静寂が訪れる。
先程までうじゃうじゃいたアドネーの分身は、もう何処にもいない。だがそれと共に2人に残されたのは……多大なる疲労感だった。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「はぁ、ぐ……」
息を切らして地上に立つ2人。サルタンの疲労こそまだましな方ではあるものの、肉体的なダメージが大きい。
対してレイドは深刻だ。大技を2連発したところから、剣を杖代わりに大地に突き立て、その場に立つのがやっとという状態なのだから。
サルタンの強さの数値は『26200』。
レイドは『13400』まで落ち込んでいた。
2人にとって何よりも恐ろしいのは、これで終わりではないということ。
「____よく出来ました」
そして、その相手は遥か高みから見下ろすかの様に拍手しながら登場し、涼しい顔で2人の前に現れた。
「まさか、ここまでやるだなんて思っていなかったよ。素直に感心した。君は強いんだね」
創造神アドネー。
その頭上の数値は『30000』。
あれだけの分身を出したにもかかわらず、1として疲労は溜まっていない。
それを目の当たりにした2人には、どれだけ衝撃だったことだろう。
彼にとって、これは一種の『ゲーム』なのだ。
____自分は世界を破壊するために動く。君たちは、それを阻止するために動く。____
「でも……言ったよね。この闘いは私と大魔王の闘いだ。君が入り込んでいいものなんかじゃ____ない」
そして今、その『ゲーム』の中の登場人物に、レイドは入っていない。
アドネーがレイドに向けて手をかざす。その時数値は跳ね上がり____『150000』を表示した。
「っ!!?」
「『隔絶』」
アドネーがそう呟くと、掌から緑色のスライムのような球体が出現し____。
『なっ、ん……だこりゃあ!!』
レイドは抵抗することもできず、その球体の中に閉じ込められた。




