迎えは寝て待て(3/3)
買い物が大好きなサロメは、ここに来てからも近くの街でたくさんのアクセサリーや服を買っていたので、荷造りはそれなりに大変だった。
山と積まれた大型のトランクに荷物をすべて詰め込み終わった時には、もう夜になっている。出発するには遅い時間になってしまったので、助手さんもうちに泊ることになった。
急にお客さんが増えてしまったけど、両親は気にしていないようだ。「キャンディスの知り合いなら、いくらでも滞在してください」と大らかに宿泊の許可を出してくれた。
その夜、わたしはサロメと同じ部屋で寝ることにした。どちらが言い出したわけでもなかったけど、なんとなくそういう流れになったのだ。
親友とはいえ同じ寝室を使うなんて、子どもの時のお泊まり会以来である。わたしはちょっぴりドキドキしていた。
「助手さんと一緒に寝なくてよかったの?」
わたしが冗談のつもりで隣に横たわる親友に尋ねると、美容液を浸したパックを顔に貼りつけたサロメに「よしてよ!」と肩を小突かれた。
「彼はただキープしておくだけよ。まだ本命になるとは限らないわ」
「またそんなこと言って……」
「それより、あたくしはキャンディスのほうが心配なんだけど」
サロメは真剣な声で言った。
「あなた、いつまでここにいるつもり? もうひとりぼっちじゃない。……もし、あたくしに残ってほしいっていうなら、帰るのは取りやめにしてもいいけど」
「サロメ……」
なんていい友だちなんだろう! わたしはサロメをぎゅっと抱きしめた。
「確かにサロメがいなくなっちゃったら寂しいよ。一人になったら、フェルナンド様のことを考える時間が増えちゃうと思う」
「だったら、もう王都へ帰れば? あたくしたちの馬車に乗っていけばいいじゃない」
「……ううん、やめておく。二人とも車内でいっぱいキスしたいだろうし、お膝に乗ったりとか、あとは……」
「ちょっと! あたくしはキャンディスやフェルナンドさんとは違うのよ!」
サロメはパック越しにも分かるくらいのしかめ面になった。せっかくの空き時間なんだから、楽しく過ごしたほうがいいと思うけどなあ。
「理由はそれだけじゃないよ」
わたしはプリプリと怒るサロメを取りなそうとして言った。
「ミケットやサロメには、旦那様からの……旦那様候補からのお迎えがきてくれたでしょう?」
サロメに睨まれ、わたしは慌てて訂正する。
「だったら、わたしのところにもフェルナンド様が来てくれるんじゃないかなって思うんだ」
わたしはごろんと寝返りを打って、枕に顔をうずめた。
「わたしはフェルナンド様に将来を諦めてほしくない。でも、それと同じくらいには、早くフェルナンド様のところに戻りたいとも思ってる。だから一番いいのは、わたしを迎えにきたフェルナンド様がこう言ってくれることなんだ」
『副騎士団長に昇進する話は受けることにした。もちろん、騎士も辞めない。だから、また一緒に暮らそう』
「こんな自分に都合のいいことばっかり考えちゃうわたしって……子どもっぽいのかなあ?」
「そんなことないわよ。理想を追い求めるのは大切なことだわ」
わたしの不安な気持ちを吹き飛ばすくらいにきっぱりとサロメは言い切った。それから、少し申し訳なさそうな顔になる。
「ねえ、キャンディス。そんなに無理して大人ぶらなくてもいいと思うわよ」
ドキリとするようなことを言われ、わたしは固まった。サロメは枕に添えた自分の指先をじっと見ている。次にわたしが発した声は、自分でも分かるくらいに動揺していた。
「でも、子どもっぽいままだとフェルナンド様に捨てられちゃうって……」
「あたくしもミケットもね、本当のことを言うとキャンディスが妬ましかったのよ」
サロメが指先から視線を外し、わたしをじっと見た。
「あたくしは色々な男性にフラれ続けてたし、ミケットは旦那様とギクシャクしてた。でも、キャンディスはフェルナンド様にすごく愛されてるでしょう? だから……ちょっとケチをつけたくなったの」
「よく分かんないなあ。サロメには助手さんがいるし、ミケットは旦那様にすごく好かれてるのに」
「当時のあたくしは、まだ彼とは出会ってなかったわよ。それに、ミケットだって旦那様の気持ちを理解しているとは言いがたかったし」
サロメは上目遣いになる。
「思ってもいないことを言って悪かったわ。……許してくれる? あたくしだけじゃなくて、ミケットのことも」
「別に怒ってないよ」
わたしはサロメの謝罪を笑って受け入れた。
「イジワルから出た言葉だとしても、あれは重要な指摘だったよ。フェルナンド様だって、子どもっぽい人よりは、大人の奥さんのほうがいいと思うに決まってるもん」
「そうかしらねえ……」
サロメは不満そうだ。わたしはそんな親友の体に、布団をかけ直してあげる。
「さあ、もう寝よう? 明日は早いんだから。馬車の中で眠くなっちゃったら、助手さんとラブラブする時間が減っちゃうよ」
「だからあたくしは……」
やいのやいのと言い合ううちに、夜は更けていく。
その翌日、少々寝不足気味の目をこすりながら、サロメは助手さんと一緒に王都へ帰っていった。
親友を見送りながら、わたしは昨日の夜、彼女に言われたことを考えている。
無理して大人ぶらなくてもいい、か……。
昨夜はそんなに深刻に受け止めなかったけど、あの言葉はわたしの意識の片隅で見過ごせないほどの存在感を放っていた。でも、どうしてなのかはよく分からない。
疑問に答えを出すことができないまま、サロメを乗せた馬車は小さくなって、やがて見えなくなってしまった。




