幼妻のとっておきの秘密(1/1)
ミケットの旦那様の尾行は失敗に終わってしまったので、大人リストのNo.8『秘密を持つ』にチェックは入れられなかった。そんなわけで、わたしは代わりの秘密を探さなくてはいけなくなってしまう。
でも、さすがはわたし。もう大人リストを八項目も片づけた成果が現れたのか、無事に素晴らしい秘密を考えつくことができた。
すでにリストにも達成の証を入れておいたし、これで残るは『NO.10 周りの人といい関係を築く』だけだ。
この快挙にすっかり浮かれて、わたしは朝から鼻歌でも歌いたいような気分だった。
夕方になってもこんなテンションだったから、フェルナンド様も気になったらしい。夕食が終わったあと、二人きりの談話室でまったりしていると、不意にフェルナンド様は読んでいた本から目を上げた。
「今日は随分と機嫌がいいんだな」
読書用の眼鏡を少しだけ下にずらして、フェルナンド様が膝の上に乗っているわたしを見る。
ああっ、その仕草、たまらないっ! 知的だけどちょっと色っぽいというか……。とにかく、ときめいてしまう!
「理由を知りたいですか?」
ふふん、とわたしは肩をそびやかした。
「でも、教えませんよ」
「なぜだ?」
「それも教えられません!」
どう? こういうの、駆け引きっていうんでしょう? こんな会話が夫と交わせるようになったなんて、すごく進歩したなあ。
「そうか」
フェルナンド様は少し笑って眼鏡を元の位置に戻すと、読書を再開した。
……あれ、もう終わり? もっと突っ込んで聞いてくるかと思ったんだけど……。
「わたしがご機嫌な理由、知りたくないんですか?」
「そんなことはないが、教えたくないんだろう?」
「それもそうですけど……」
あっさり引き下がられると、それはそれでちょっと物足りないっていうか……。
わたしはフェルナンド様を上目遣いで見る。すると彼は本を閉じて、「それなら聞かせてくれ」と言った。
わたしは喜び勇んで首を横に振る。
「ダメです。内緒ですから!」
「キャンディス……」
フェルナンド様は眼鏡を外し、本を傍らのテーブルに置いた。そして、椅子の肘かけに腕を立てると、そこに頭をもたれかけさせて愉快そうな表情になる。
「夫をからかうなんて、君は悪い子だな」
え……わたし、悪い子なの?
ううっ……秘密は持ちたいけど、悪い子は嫌だ。わたしはミケットの旦那様じゃないんだから、叱られたって喜べないよ!
「……仕方ないですね」
わたしはむっつりと頬を膨らませた。
「わたしの秘密、こっそり教えちゃいますよ。……特別ですからね? お耳、貸してください」
「いい子だな」
フェルナンド様は得意げな表情でこちらに耳を向ける。やったぁ! 褒められた! わたしはニコニコしながら、フェルナンド様の形のいい耳に顔を近づけた。
そして、ひっそりと呟く。
「大好きです」
わたしはそっと身を起こす。ドキドキしながらフェルナンド様の反応を待った。
「……」
フェルナンド様は口元を押さえて、ちょっと肩をプルプルさせていた。笑ってる……のかな?
「それは秘密なのか?」
「はい。公然の秘密です」
難しい言葉! こんな返事ができるなんて、フェルナンド様もきっと感心しただろう。そう思うとますます気分がよくなってきて、わたしは夫の首筋に頬ずりした。
「わたしの秘密を話したんですから、次はフェルナンド様の番ですよ。何か内緒の話を教えてください」
「……分かった」
フェルナンド様は焦らそうともせずに、顔を傾けてわたしの耳に唇を寄せる。吐息が耳たぶにかかって、体の芯がじんと疼いた。
「愛してる」
フェルナンド様が飛び切り優しい声色で囁いた。脳の隅々まで染み入るような、甘くて少しかすれた声だ。体の疼きがいっそう強まり、わたしはフェルナンド様にもたれかかって身もだえした。
「……それは秘密なんですか?」
熱に浮かされたような口調で尋ねる。フェルナンド様は「公然の秘密だな」と言って笑った。
やっぱり秘密って素敵。わたしの頭の中は、もうフェルナンド様でいっぱいだ。今はこの素敵な旦那様のこと以外、何も考えられそうにない。




