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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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幼妻の領地経営(1/2)

 それからしばらくの間、わたしは馬上槍試合での失敗を取り戻し、大人へ一歩近づく機会を「ゴシゴシたんたん(・・・・・・・・)」と狙っていた。


 といっても、実はあの事件にもいい面はあったんだけどね。なんと、翌日の朝刊でわたしが試合にうっかりと乱入してしまったことが取り上げられたのだ。


 その記事のタイトルは『騎士道の誉れ! 選ばれたのは、勝利よりも愛』。


 よく意味が分からなかったからフェルナンド様に教えてもらったんだけど、要するに「フェルナンド様は試合に勝つことよりも奥さんを助けることを選びました。格好いい!」ってニュアンスらしい。


 この記事が新聞に記載されてからというもの、フェルナンド様の行為を賞賛する手紙が騎士団本部にたくさん届くようになったそうだ。


 いわゆるファンレターってやつだろう。さすがフェルナンド様。わたしを含め、皆彼の魅力に夢中ってことだね!


 フェルナンド様の敗北を「面目丸つぶれ」と表現していた副隊長さんも、この記事が載ってからは文句を言わなくなったらしい。


 副隊長さんにも良識はあるだろうし、「奥方様が馬にひき殺されている間に、さっさと勝ちをもぎ取っていればよかったのです」なんていつまでも言い続けるわけにはいかない、って分かったんだろう。


 でも、今回は結果オーライだっただけだ。わたしがフェルナンド様の試合を台無しにしてしまったという事実は変わっていない。だから、何が何でも次こそはいいところを見せて、「名誉返上(・・・・)」しないと!


 そんな中、願ってもない来客がやって来た。フェルナンド様が所有している領地を代理で経営している代官だ。どうやら状況報告と今後の運営方針の相談をしようと思って、我が家を訪問したらしい。


 でも、フェルナンド様はまだお仕事中だ。代官は彼が帰宅するまで待つと言ったけれど、わたしはこの話を聞いた時に、敏腕奥様の腕前を見せるチャンスだと閃いた。


 わたしの大人リストの進み具合は、今こんな感じだ。


『大人になるためのリスト』※期限は三カ月!

 NO.3 上品な趣味を持つ

 NO.6 フェルナンド様を支える

 NO.8 秘密を持つ

 NO.10 周りの人といい関係を築く


 ついでに言うなら、ランジャック博士がくれた時計が指している期日は『爆発まで、あと38日』となっている。


 わたしの作戦は至ってシンプルだ。フェルナンド様に代わって、わたしが領地経営の方針を決めるのである。


 今回の作戦が上手くいけば、『NO.6 フェルナンド様を支える』の項目は達成されるだろう。こういうの、「内助のGO(・・)」っていうんでしょう? わたしも随分と難しい言葉が使えるようになったなあ。感動しちゃう!


 わたしは背筋を伸ばし、いかにも腕が立ちますという感じのキリッとした表情を保つように心がけながら、代官を応接室へ通した。


「では、まず今の状況をこちらの資料を使って説明させていただきます」


 代官がテーブルにたくさんの書類を並べる。途端にわたしは目を回した。よく分からない数字がいっぱいだ。何が何やらさっぱりである。


 しかも、代官の話も小難しくて何一つとして理解できなかった。それでも時折「なるほど」と相づちは打っておいたけど、自分でもどの辺りが「なるほど」なのかまるきり不明だ。


「それで、奥方様はどう思われます?」


 だから、急に代官から話を振られた時にはとても困った。「どう?」って聞かれてもねえ。「意味不明でした」なんて返すわけにもいかないし……。


 軽くパニックになりかけたけど、わたしは大きく気を吐き出して気持ちを静めた。敏腕奥様はどんな時も慌てちゃダメだ。まずは冷静にならないと! 「慌てる何とかはタライ(・・・)が少ない」って言葉もあるしね。


「これは非常に重要な問題です。悠々自適な事態ですね」


 とりあえず、それっぽいことを言って時間を稼ぐ。「悠々自適」って、「すごく大変」みたいな意味だったよね?


 わたしは机の上に並んでいる資料から、どうにか理解できる単語を拾い読みした。今頼れるのは、この意味不明な書類しかない。それから、ピックアップした単語をいい感じにつなぎ合わせていく。


「この『税率』という項目の数字は、月によってまちまちですね」


 わたしはハキハキとした口調を意識して言った。だって、そのほうが頭がよさそうに見えるでしょう?


「これでは分かりにくいと感じる人もいるでしょう。……もちろん、わたしは優秀なので理解できますが。ですが、こういったことは理解力のない相手に合せるべきです。というわけで、この『税率』は毎月百パーセントとしておきましょう」


 代官はわたしがあまりにも立派なことを言ったために、口を開けて固まってしまった。その反応に気をよくして先を続ける。


「工場を新しく建てる件も許可します。ケチケチせずに領地中の森を削って、どんどん作ればいいと思います。でも、砦の修理はしなくてもいいでしょうね。戦争をするわけでもないし」


 わたしはすご腕っぽく、眼鏡をクイッとしてみせた。……まあ、眼鏡はかけてないから、仕草をマネしただけなんだけど。


「お話は以上でしょうか。では、お引き取りを。やり手の妻は何かと忙しいので」


 よし、決まった。わたしは代官の返事を待たず、颯爽と退室する。なんて完璧な敏腕っぷりなんだろう。「内助のGO(・・)」は大成功だ。

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