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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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嫉妬とお化けとラブレター(3/4)

「……」


 フェルナンド様は無言だ。


 わたしの体中から冷や汗が噴き出す。多分、目も泳いでいるだろう。


 真っ暗になるのは怖かったけれど、今だけはロウソクの明かりが消えてほしいと願わずにはいられなかった。暗闇の中なら、挙動不審になっているのにも気づかれないはずだ。


「私と組みたくなかったか?」


 やがて、フェルナンド様が沈黙を破った。思いもかけないことを言われて、わたしは戸惑う。


「君としては、レズリーのような同世代の若者と一緒にいるほうが楽しいんだろうな」


「ええと……?」


 フェルナンド様、いきなり何を言い出すの? 


 確かに今のフェルナンド様は不機嫌で怖くて、近寄りがたいと感じていたけれど……。その言い方じゃ、まるでわたしが前々からフェルナンド様といるのにうんざりしていたみたいじゃん! 


 そんなこと、一度も思ったことないのに。


「フェルナンド様、一体何が言いたいんですか? わたしは……」


 フェルナンド様が大好きですよ、と言いかけた途端に、どこからか物音がした。ギシギシと建物がきしむ。わたしは瞬く間に恐怖で息ができなくなった。


 不意に風が頬を撫でる。その風が、唯一の光源だったロウソクの炎を吹き消した。辺りが一瞬で闇に包まれ、わたしは第三者が聞いたら死体を発見したのかと思うくらいの甲高い悲鳴を上げる。


「きゃあああぁっ!」


 パニックのあまり近くにいた人に抱きついた。心臓の音が耳元で聞こえている。体がカチコチに強ばってしまい、身動きもできなかった。


 でも、怖さというものは長時間は持続しないらしい。少ししたら、わたしは落ち着きを取り戻してきた。


 けれど、冷静になったところでとんでもないことに気づく。わたしが抱きついた人というのは、どう考えてもフェルナンド様だ。というか、彼以外だったら怖すぎる。


 ……いや、フェルナンド様でも充分怖いけど。


 だって、今のフェルナンド様はわたしに怒っているんだよ? それなのにこんなみっともない姿をさらしたら、フェルナンド様の怒りが爆発してしまうかもしれない。


 邪魔だから早く退け、と言われる前に、わたしはフェルナンド様から大急ぎで離れた。けれど、真っ暗で辺りの様子が見えなかったせいで、足を滑らせて転んでしまう。


「キャンディス? どうした?」

「……何でもないです」


 さっきから無様なマネばかりしているのだ。とてもではないが、「ひっくり返っちゃいました。あははは」なんて笑い飛ばす気にはなれなかった。


「何でもないことはないだろう。あんなに大きな音を立てて……」


 シュッと何かがこすれる音がする。フェルナンド様が燭台と一緒に渡された予備のマッチに火をつけたのだ。再びロウソクに灯った明かりが、間抜けな格好で床に這いつくばっているわたしの姿を照らし出した。


「転んだのか……」


 フェルナンド様が燭台を床に置き、わたしの傍にかがみ込む。


「怪我はしていないか?」


 フェルナンド様がわたしの顔にかかった乱れた髪を横に撫でつけてくれる。彼の表情や仕草に現れているのは、純粋な(いたわ)りだった。


 怒られなかったことにほっとして、わたしの口から自然と言葉が出てくる。


「ごめんなさい、フェルナンド様」


 フェルナンド様の深い緑色の瞳に、一瞬だけほのかな嫌悪が覗いた。気力が萎えそうになったけど、わたしは勇気を振り絞って先を続ける。


「勝手に親睦会へ来てしまったこと、本当に申し訳ないと思っています」


 謝るなら今しかないと思った。


 フェルナンド様の中には、まだわたしを心配してくれる気持ちが残っているんだ。


 その優しさに(すが)るのはズルいような気がするけど、謝罪を受け入れてくれる可能性があるうちに、自分のやったことを反省していると伝えたかったのだ。


「親睦会?」


 フェルナンド様は虚を衝かれたような顔になる。まるで、わたしがそんなことを言い出すのは予想外だとでも言いたげな表情だ。


「それは別に謝るようなことではないと思うが……」

「そ、そうなんですか?」


 あっさりと許され、今度はわたしが戸惑ってしまう。


「それなら、どうしてフェルナンド様はご機嫌斜めだったんですか? その……あんなに怖い顔をしているフェルナンド様は初めて見たので、どうすればいいのか分からなくて……」


「……困らせてすまない」


 フェルナンド様は深く後悔しているのが分かる声色で言った。


 けれど、肝心の不機嫌の原因に関しては何も口にしようとしない。そんなに話しにくいことなのかなと思っていると、フェルナンド様がいかにも情けなさそうに言った。


「私は……自分が恥ずかしい。年甲斐もなく嫉妬などして……」

「嫉妬?」


 思いもかけない言葉が出てきて、わたしは小首をかしげた。フェルナンド様が決まり悪そうに目を伏せる。


「前言を撤回しよう。君が親睦会へ来たこと、私は気にしていた。そうまでしてあの二人に会いたかったのか、と……」


「あの二人? 誰のことですか?」


 フェルナンド様、一体何の話をしているんだろう? わたしは会話の着地点が見えずに困惑する。するとフェルナンド様は「誤魔化さなくていい」と言った。


「私はきちんと分かっている。君が気にかけている男は、私一人ではないということを。キャンディスは……レズリーとあの清掃員の男性が好きなんだろう?」


 ロウソクの頼りない明かりに照らされたフェルナンド様の端正な顔が苦痛に歪む。一方のわたしは、ますますわけの分からない気持ちになった。どうしてその二人の名前が出てくるの?


「清掃員の男性ってアルバンさんのことですよね? ええと……好きというのはつまり……」


「恋愛感情を抱いているということだ」


「へ?」


 随分と間抜けな声が出てしまった。わたしがアルバンさんやレズリーさんに恋してる……?

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