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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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嫉妬とお化けとラブレター(1/4)

 わたしはもう一度顔だけを出し、未来の副騎士団長の様子をうかがう。


 いつの間にか、フェルナンド様の話し相手が変わっていた。今度は、背が低くて太った中年男性だ。


 ……ちょっと待って。あれってアルバンさんじゃない!? 


 わたしの頭の中に、彼にしつこく絡まれた時の嫌な記憶が蘇る。思わずレズリーさんの服の袖を引っ張って、アルバンさんを指差しながら「どうしてあの人がここにいるの?」と尋ねた。


「あの人、清掃員の制服を着てるな」


 レズリーさんが指摘した。


「きっと、清掃部門で働いてる人だよ。このパーティー、騎士団の関係者なら誰でも参加できるから」


 何てことだろう。見つかりたくない人がもう一人増えてしまうなんて……。


 それにしても、アルバンさんはフェルナンド様と一体何を話してるんだろう。この間二人が顔を合わせた時は、かなり険悪なムードになっちゃったっていうのに……。


 とてもじゃないけど、彼らが仲よく会話するところなんて想像できなかった。


 気になったわたしは、見つかるリスクを冒して二人の様子を観察し続ける。思ったとおり、フェルナンド様は渋い顔をしていた。


 一方のアルバンさんはなぜか得意げだ。小鼻を膨らませながら、フェルナンド様に何か紙のようなものを渡している。


 それはフェルナンド様にとって、あまりよくないシロモノだったらしい。夫の眉間のシワがたちまち深くなった。


 あれは一体何なんだろう? 便せんっぽく見えるけど……。


 もっとしっかり確かめたかったけど、あまりジロジロ見ていたらわたしがここにいることがバレてしまう。じれじれしている間に、アルバンさんはどこかに行ってしまった。


 残されたフェルナンド様は唇を噛み、紙をぐしゃっと握りしめてポケットの中に突っ込んだ。首の辺りを手のひらで何度も強くこすっている。


 こんなに動揺したフェルナンド様を見るのは初めてで、なんだかわたしまで不安になってきた。機械音痴だと告白した時だって、フェルナンド様はもっと落ち着いていたのに。


 事情は分からないけど、早くフェルナンド様のところへ行って慰めてあげたいという衝動がわたし中に湧き起こってくる。


 でも、飛び出していくわけにもいかないし……。


 思い悩んでいると、今度は副隊長さんがやって来た。やっぱり彼女もわたしの存在にはまるで気づいておらず、普段どおりの調子でフェルナンド様に話しかける。


 副隊長さんに声をかけられたことで、フェルナンド様は動揺から立ち直ったようだ。彼の表情は、わたしがよく知るいつもの穏やかなものに戻っていた。


 そのことにわたしの胸はズキリと痛む。わたしがフェルナンド様を慰めてあげたかったのに、どうして副隊長さんがその役を奪っちゃうの? フェルナンド様はわたしの旦那様なのに!


 無礼講のパーティーという場の雰囲気に影響されたのか、副隊長さんはいつもより親しみやすそうに見えた。頬が緩んだかと思うと、小さく笑い声まで上げたようだ。


 彼女にはしかめ面が似合うと思っていたけれど、正直な話、笑顔もかなり魅力的だった。わたしのフェルナンド様の前でそんな顔をしないでよ!


 胸の中に苦いものが広がっていく。こんなに近くにいるのに、どうしてわたしはフェルナンド様に話しかけることもできないの? わたしはフェルナンド様の奥さんなのに、こんなのおかしいよ!


 もう見つかってもいいから、大声を上げてやろうか、という誘惑が心の中で頭をもたげた。でも、深呼吸をして衝動的な行動に出ないように必死に耐える。わたしが考えていたのは、例の大人リストのことだった。


『NO.2 落ち着いた振る舞いを心がける』


 しっかりして、キャンディス。旦那様がちょっとほかの女性と話しているだけで嫉妬して暴れるなんて、大人のすることじゃないでしょう? 


 彼女はフェルナンド様にとってはただの部下。でも、わたしは妻だ。どう考えても、副隊長さんはわたしが嫉妬するような相手じゃない。


 だから落ち着きなさい。落ち着きなさい、落ち着きなさい……。


 かなり酔いが回っているらしい集団が、副隊長さんの後ろを通り過ぎる。そのうちの一人の肩が副隊長さんの背中にぶつかり、彼女は前のめりになってよろけた。


 副隊長さんは、とっさに近くにいたフェルナンド様の腕をつかんでバランスを取る。


 その光景を見た途端、わたしの中で何かが弾けた。『NO.2 落ち着いた振る舞いを心がける』のことなど一瞬で忘れ去り、わたしはレズリーさんの懐から飛び出す。


「わたしのフェルナンド様に触らないで!」


 わたしは副隊長さんをフェルナンド様から引き剥がし、彼女の腕をポカポカと拳で叩いた。突然現れた上司の妻に、副隊長さんは呆気に取られて抵抗すらできなくなっている。


「あっち行って! あっち行って!」


 わたしは半狂乱になって叫んだ。目を白黒させながら、副隊長さんは退散していく。けれどわたしの中に勝利の喜びは湧いてこない。ケンカをしたあとの猫のように、フーフーと荒い息を吐きながら、肩を上下させた。


「……キャンディス?」


 おそるおそる、といった調子でフェルナンド様が話しかけてくる。この時になって始めて、わたしは軽はずみな行動に出たことを後悔した。いたたまれない気持ちで、そろりとフェルナンド様に向き直る。


「どうして君がここにいるんだ?」

「……」


 何も答えられなかった。本当のことを話せば、わたしだけではなくてサロメまで会場から追い払われてしまう。そうしたら、サロメはまた運命の相手と知り合う機会を逃してしまうかもしれないんだ。

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